ワンナイトラブの相手は彼氏の弟でした

羽月咲羅

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「もし兄貴に捨てられたら、俺が拾ってやるよ」

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 その中にはうさぎやハムスターや小鳥、ヒヨコなどの小動物がいた。
 慣れない小動物特有の臭いがしたけど、全然気にならなかった。
 今まで小動物に触れたことなんてなくて、なんだかドキドキした。


「うわ、くすぐってえ!」

 紗奈が触るより先に、羽琉はもう既にヒヨコがいる中に手を突っ込んでいた。
 群がるようにしてヒヨコが何羽もやってきて、羽琉は楽しそうに声を上げている。

「ほら、紗奈も手入れてみ?」
「う、うん」
「やば! ヒヨコ、めっちゃ可愛い!」

 羽琉はエサまで買って、ちっちゃい子供みたいにはしゃいでいた。
 さっきまで大人びて見えていたのに、その様子が無邪気で可愛くて笑みが漏れた。
 だからこそ紗奈も背伸びをすることもなく、素直に楽しめた。
 そうできるように羽琉がわざと大袈裟にはしゃいで見せていたこと、どこかでわかっていた。

「こうして見てると、なんか欲しくなるなぁ。卵あっためたらヒヨコ生まれっかな?」

 本気で言ってるのか。
 それがわからなくて聞くと、「本気本気」なんて嘘っぽい言葉が返ってきた。

「でもヒヨコはニワトリになるんだよ? そしたら、毎日うるさいよ?」
「うわぁ、それは嫌だなぁ」
「なんでよ。朝の弱い羽琉にはピッタリだと思うけど?」
「やっぱいい。紗奈が毎日起こしてくれるし、他のアラームはいらねえや」

 な、と当たり前のように言ってくる。
 羽琉の言うことは恋人に向ける言葉みたいで、いちいちドキドキしてしまう。
 気にしなければいいのに、なぜか彼に言われるとそうできない。
 琉生がいるのに、いつも羽琉に振り回されてばかり。

「ん? なに?」

 見つめられて、紗奈は目を逸らして「……別に」と言うのに精一杯だった。


「……紗奈って、ハムスターみたい」

 ヒヨココーナーからハムスターコーナーに行き、羽琉は言った。
 ハムスターを触りながらもその言葉の意味がわからなくて、紗奈は首を傾げた。

「ちっちゃくて可愛くて、でも臆病で、そのくせ慣れると甘えてくるとこ」
「………」
「けど、捕まえようとしてもなかなか手の中に来てくんないんだ。ほんと、紗奈みたい」
「…羽琉は猫みたいだよね、気まぐれでなに考えてるかわかんない」

 だから、本気にしちゃいけない。
 今はこんなふうに側にいて優しくしてくれるけど、いつ気が変わるかも知れない。
 ある日突然離れていっても、仕方ないと思ってる。
 なのに、向けてくるものがあまりにも優しくて温かいからつい縋って甘えてしまいたくなる時がある。

「じゃあ、もっと警戒しないとダメだよ? 猫はいつもネズミを狙ってんだから油断すると食われるよ?」

 ふっと向けてくる笑みは意地悪そうで、紗奈はなにも言えなかった。
 そうして小動物と触れ合ってるうちに、あっという間に時間が過ぎた。


 手を洗って触れ合いブースから出ると、ぐう、とお腹が鳴った。
 それに恥ずかしくなるも、羽琉は柔らかく笑っただけだった。

「ってかさ、兄貴に連絡した? 早く帰ってくるかもしんないし」
「……まだだけど」
「しなくていい? ま、わざと心配させるって手もあるけど」
「………」
「俺とデートしてるって知ったら、さすがの兄貴も慌てるかもね」

 そんなことない、と思う。
 琉生は今日も仕事で遅いとか言って、きっと彼女と会うんだ。
 だからこそ余計に、こうやって羽琉と一緒にいることに後ろめたさも罪悪感もほとんど感じない。
 いや、それどころか、当てつけのようにこうしてる気さえする。

 もう、最近の自分が嫌だ。
 言いたいことも言わずに、ただ疑ってる自分がとにかく汚くて醜い。
 そんな自分でもきっと羽琉は受け入れてくれるんだろうな、なんて思ってしまうあたり、なにかが狂ってるのかもしれない。
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