【完結】硬派な殿下は婚約者が気になって仕方がない

らんか

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28.忍び寄る影

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「王妃様、ご存知ですか? 今、王都では、真夏でも冷たいデザートが食べられると大層評判になっている店がありますのよ」
 
 
 王妃主催のお茶会で、ある夫人がそう言った事をきっかけに、他の招待された夫人達も我先にと話し出す。
 
 
「あら! わたくしはすでに何回もあそこの店のデザートを食べましたわ。持ち帰りもありまして、冷菓も冷えたまま持って帰れる工夫もされておりますのよ」
 
 
「あぁ、保冷剤とかいったかしら?
 うちは屋敷内に小さな氷室がありますので、その保冷剤をそこに保存していますのよ。
 いつでも冷たい状態で使用できますので、重宝しておりますわ」
 
 
「確か、ファクソン伯爵家の商会が出した店ですわよね? デザートもそうですが、この暑い中、保冷商品を次々出しているとかで、それはもう凄い賑わいなのだとか。
 他の商会も、真似しようとしたけれど、全然同じように作れないとかで、ファクソン家の独擅場となっているそうですわね」 
 
 
「何でも、あの魔術師団の副団長に任務されたゼノ・ギアス様が監修のもとで作られたそうですわよ? 天才魔術師と言われているあの方は、気難しく、そのような協力には一切応じないと聞いてますのに、どうしてなのかしらね?」 
 
 
 
 そのような話で盛り上がるが、その中で一人、王妃だけは笑っていなかった。
 
 
 
 
 
 
「気に入らないわ……」
 
 
 王妃はお茶会もそこそこに引き上げ、早々に自室に戻ると、悔しそうにそう呟いた。
 
 元々、ファクソン伯爵家は大した実績もなく、小さな領地もそこまで栄えておらず、万年貧乏伯爵家として、貴族間でも権力とは程遠い位置にいた。
 
 だからこそ、あの有能な第二王子の婚約者としてあそこの娘をあてがい、これ以上、第二王子が力が持てないように、足枷のつもりで選んだ娘なのに。
 
 なのに、この前の遠征では、王太子の婚約者であるエリザベスを差し置いて、小賢しいまねで騎士たちを味方につけ、そして今度はあの家自体が力をつけだしている。
 
 そうする事で、未だにイアンを推す勢力が増えている現状に、王妃は腹立たしく思っていた。
 
 
「王太子はダミアンなのよ。
 そしてゆくゆくはダミアンが国王となる。
 それを邪魔するなら、イアン共々あの小娘も潰さないと……」
 
 
 王妃は、自分の手足となって動く影に申し付ける。
 
「ファクソン伯爵家が経営している商会を調べなさい。それと、最近発見されたと報告のあった伯爵家の裏山の自然氷室についても」
 
「御意」 
  
 王妃の命を受けた影が、そう言って姿を消す。
 
 
 
 今まで商才のない貧乏伯爵家が急に商会を立ち上げて、いきなりヒット商品を出すなんて、どう考えてもおかしい。
 
 手元にある、入手した保冷剤を見ながら、王妃は影からの結果を待つ事にした。
 
 
 
 
 
 
「王妃がファクソン商会を調べてる?」
 
 
 オーウェンからの報告にイアンは顔を上げた。
 
 
「はい。どうやら今まで動きのなかった伯爵家が、取り扱いの難しい色んな商品を急に売り出し始めた事に疑問を持ったようです。
 ファクソン家の所有する氷室についても調べているようです」
 
 
「……分かった。引き続き王妃の動きを見ていてくれ」
 
 
「御意」
 
 
 
 私の言葉にオーウェンが頷く。
 
 
 
 やはり王妃が動いたか。
 
 私の婚約者の家が繁栄するのが、余程お気に召さなかったとみえる。
 
 確かに今までのファクソン伯爵家を考えると、今の状態は不自然に思える。
 
 エレノア嬢に保冷剤にスライムゼリーを使っていると聞いた時は、あやうく持っていたグラスを落としてしまいそうだった。
 
 他にも氷室が急に発見された事や、シャーベットといった食べ物を作ったりと、この暑い季節に簡単に提供出来るのも不思議だった。
 
 
「エレノア嬢にちゃんと聞かないと……」
 
 
 エレノア嬢は何か秘密を隠している。
 
 あの人嫌いの偏屈ギアスが、エレノア嬢には凄く心を開いている。
 王都に来てからも、頻繁にエレノア嬢や商会を訪れていると報告が上がっている。
 決して二人きりで会う事はないそうだが、私としてはかなりイラつく案件だった。
 
 
「エレノア嬢は、私が尋ねればちゃんと答えてくれるだろうか……?」
 
 
 イアンは不安な気持ちで、そう呟いていた。

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