【完】瓶底メガネの聖女様

らんか

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 次の日、ルイーゼは学園に着くと、すぐにオリビアを探す。

 (もう! 同じクラスだったら簡単に確かめられるのに!)

 ルイーゼは、そう思いながらオリビアのクラスを目指す。
 
 オリビアは特1クラスで、ルイーゼはBクラス。
 この学園では、学年ごとに、成績や家柄、特技などを基準に、特1、特2、A、B、Cクラスの5つのクラスに分けられており、成績優秀で治癒魔法が使えるオリビアは特1クラス、オリビアは下から2番目の特化すべき点のない平凡なBクラスとなっていた。

 (大体、何故私がBクラスなのよ!
 もし聖女がお義姉様だったとしたら、お義姉様が特1クラスなんて、有り得ないわ!)

 そんな事を考えながら、オリビアのクラスに行こうとするが、途中で行く手を遮られてしまった。

「君、何処へ行こうとしている?」

 学園警備の人に呼び止められ、ルイーゼは不快な表情を隠しもせずに、警備員を睨む。

「何故私が貴方にそれを教えなければならないの?
 私はこの学園の生徒よ!
 学園内の何処へ行こうが、貴方には関係ないでしょ!」

 そう言って、特1クラスに行こうとするが、またしても警備員に遮られた。

「君は新入生か? 知らないのなら教えよう。
 特別クラスの棟は、特別クラスの者でしか入れない決まりになっているんだよ。
 君は確か普通クラスだね?
 だったら、この先は進めないよ」

「何それ! 特別クラスじゃなくて、特1クラスに行きたいだけよ!」

「だから。特1と特2は特別クラスの1と2という意味なんだよ。
 それも知らなかったのかい?」

 警備員にそう言われて、ルイーゼはショックを受ける。
 そして、このやり取りは他の生徒たちにも見られており、周りからクスクスと嘲笑されているのに気付いて、顔が真っ赤になる。

「し、知ってるわよ! 馬鹿にしないで!」

 それだけ言うと、ルイーゼは反対方向に踵を返す。

 (もう! これもみんなお義姉様のせいよ!)

 義姉に責任転嫁しながら、この場から早く立ち去ろうとすると、振り向きざまにいきなり誰かにぶつかってしまった。

「痛い! 誰よもう!」

 ルイーゼは、そう叫びながら尻もちを付いて転んでしまった。
 
「悪かったね、大丈夫かい?」
 
 とその時、優しげな男性の声がして、パッと顔を上げる。

 そこには、入園式の時に一目見て憧れたルーク・スノーメル公爵令息が立っていた。

「ルーク様!?」

 ルイーゼが、いきなり名前呼びしてきた事に、一瞬眉をひそめたルークだったが、すぐに笑顔で対応する。

「すまなかったね。勢いよくぶつかって来られたから、受け止められなかったんだ。立てるかい?」

 そう言って、ルークはルイーゼに手を差し伸べる。

「は、はい!」

 ルイーゼはルークの手をしっかりと取ってから立ち上がる。

「歩けるかな?」

 ルークが、ルイーゼをエスコートするかのように歩みを勧める。
 ルイーゼは、手を引かれるがままに歩き出した。

 (運命……そう! これは運命よ!)

 思い込みの激しいルイーゼは、ルークの手を握ったまま、ルークを見つめてそう感じた。

 ルークは、冷静にルイーゼの立ち姿を見て、頷いた。
 
「怪我はなさそうだね。しっかり立ってるし、足も挫いてはいない。
 良かったよ。では、気をつけてね」

 そう言うと、すぐさま手を離し立ち去ろうとする。
 ルイーゼは、慌ててルークを呼び止めた。

「ルーク様! 待ってください!
 足が痛いのです! 教室までエスコートして下さいませんか?」

 思わずルークに駆け寄ってそう言うルイーゼを、ルークは一瞥した。

「駆け寄れるくらいだから大丈夫だとは思うけど……。
 では、教室ではなく、保健室に案内してもらおう。
 ちょっと君、このご令嬢を保健室まで……」

 ルークはそう言って、ルイーゼをその場にいた警備員に託そうとしたが、
「ルーク様! お願いします!」
 とルイーゼは、ここぞとばかりにルークに、保健室まで一緒に行ってもらおうとしがみつく。

 ルークは、しがみついてきたルイーゼを見下ろしながら、仕方なさそうにため息を吐き、
「いいよ。僕が送ろう」
 と、ルイーゼを保健室まで連れて行くことに同意した。

 (もう、これは運命としか言いようがないわ! この事がきっかけで私とルーク様は恋に落ちるのね!)

 ルイーゼは、そんな事を考えながら、ルークにしがみついたまま歩いていく。
 
 その姿は全然痛がる様子もなく、周りから見てもウキウキしている様子が明らかで、周囲の目は冷ややかであったが、ルイーゼは全く気が付く事もなかった。


 保健室に着き、ルークが保健室に常駐している医師に声をかける。

「すみません、女子生徒が足を痛めたようなので、お連れしました」

「あら、スノーメルさん、ご苦労さま。えーっと、そちらの女子生徒ね?
 あなた、お名前は?」

 女医にそう聞かれ、ルイーゼはルークに聞かせるように、大きく名乗った。

「わたくしは、ルードグラセフ伯爵家の娘、ルイーゼと申しますわ!
 ルーク様、ここまで付いてきて下さり、ありがとうございましたわ!
 何かお礼をしなければなりませんわね?
 そうだわ! わたくしの屋敷にご招待させて頂いてもよろしいかしら?」

 ルイーゼは、女医をそっちのけで、今にも退室しそうなルークを呼び止めた。

 しかしルイーゼが止める間でもなく、ルークは足を止めて、ルイーゼを凝視する。

 (あらやだ。ルーク様ったら、そんな不躾に見つめるなんて!
 やはり、ルーク様も私に一目惚れしてしまったのね!)

 ルイーゼはそう思い、キラキラした目でルークを見つめているが、ルークは冷ややかに目を細め、ルイーゼから距離を置く。

「そうか……君が……」

「ルーク様?」

 ルイーゼがルークに近づこうと一歩前に出るが、ルークは明らかに拒否的な態度を示す。

「君に名前呼びを許した覚えは無い。
 気安く呼ばないでくれ。
 それと、お礼など不要だ。失礼する」

 そう言って足早に去っていくルークの後ろ姿を見て、ルイーゼはビックリした。

「え? 何故……」

 ルイーゼのその質問の言葉が続かないうちに、ルークは立ち去って行った。

 
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