12 / 42
12
しおりを挟む次の日、ルイーゼは学園に着くと、すぐにオリビアを探す。
(もう! 同じクラスだったら簡単に確かめられるのに!)
ルイーゼは、そう思いながらオリビアのクラスを目指す。
オリビアは特1クラスで、ルイーゼはBクラス。
この学園では、学年ごとに、成績や家柄、特技などを基準に、特1、特2、A、B、Cクラスの5つのクラスに分けられており、成績優秀で治癒魔法が使えるオリビアは特1クラス、オリビアは下から2番目の特化すべき点のない平凡なBクラスとなっていた。
(大体、何故私がBクラスなのよ!
もし聖女がお義姉様だったとしたら、お義姉様が特1クラスなんて、有り得ないわ!)
そんな事を考えながら、オリビアのクラスに行こうとするが、途中で行く手を遮られてしまった。
「君、何処へ行こうとしている?」
学園警備の人に呼び止められ、ルイーゼは不快な表情を隠しもせずに、警備員を睨む。
「何故私が貴方にそれを教えなければならないの?
私はこの学園の生徒よ!
学園内の何処へ行こうが、貴方には関係ないでしょ!」
そう言って、特1クラスに行こうとするが、またしても警備員に遮られた。
「君は新入生か? 知らないのなら教えよう。
特別クラスの棟は、特別クラスの者でしか入れない決まりになっているんだよ。
君は確か普通クラスだね?
だったら、この先は進めないよ」
「何それ! 特別クラスじゃなくて、特1クラスに行きたいだけよ!」
「だから。特1と特2は特別クラスの1と2という意味なんだよ。
それも知らなかったのかい?」
警備員にそう言われて、ルイーゼはショックを受ける。
そして、このやり取りは他の生徒たちにも見られており、周りからクスクスと嘲笑されているのに気付いて、顔が真っ赤になる。
「し、知ってるわよ! 馬鹿にしないで!」
それだけ言うと、ルイーゼは反対方向に踵を返す。
(もう! これもみんなお義姉様のせいよ!)
義姉に責任転嫁しながら、この場から早く立ち去ろうとすると、振り向きざまにいきなり誰かにぶつかってしまった。
「痛い! 誰よもう!」
ルイーゼは、そう叫びながら尻もちを付いて転んでしまった。
「悪かったね、大丈夫かい?」
とその時、優しげな男性の声がして、パッと顔を上げる。
そこには、入園式の時に一目見て憧れたルーク・スノーメル公爵令息が立っていた。
「ルーク様!?」
ルイーゼが、いきなり名前呼びしてきた事に、一瞬眉をひそめたルークだったが、すぐに笑顔で対応する。
「すまなかったね。勢いよくぶつかって来られたから、受け止められなかったんだ。立てるかい?」
そう言って、ルークはルイーゼに手を差し伸べる。
「は、はい!」
ルイーゼはルークの手をしっかりと取ってから立ち上がる。
「歩けるかな?」
ルークが、ルイーゼをエスコートするかのように歩みを勧める。
ルイーゼは、手を引かれるがままに歩き出した。
(運命……そう! これは運命よ!)
思い込みの激しいルイーゼは、ルークの手を握ったまま、ルークを見つめてそう感じた。
ルークは、冷静にルイーゼの立ち姿を見て、頷いた。
「怪我はなさそうだね。しっかり立ってるし、足も挫いてはいない。
良かったよ。では、気をつけてね」
そう言うと、すぐさま手を離し立ち去ろうとする。
ルイーゼは、慌ててルークを呼び止めた。
「ルーク様! 待ってください!
足が痛いのです! 教室までエスコートして下さいませんか?」
思わずルークに駆け寄ってそう言うルイーゼを、ルークは一瞥した。
「駆け寄れるくらいだから大丈夫だとは思うけど……。
では、教室ではなく、保健室に案内してもらおう。
ちょっと君、このご令嬢を保健室まで……」
ルークはそう言って、ルイーゼをその場にいた警備員に託そうとしたが、
「ルーク様! お願いします!」
とルイーゼは、ここぞとばかりにルークに、保健室まで一緒に行ってもらおうとしがみつく。
ルークは、しがみついてきたルイーゼを見下ろしながら、仕方なさそうにため息を吐き、
「いいよ。僕が送ろう」
と、ルイーゼを保健室まで連れて行くことに同意した。
(もう、これは運命としか言いようがないわ! この事がきっかけで私とルーク様は恋に落ちるのね!)
ルイーゼは、そんな事を考えながら、ルークにしがみついたまま歩いていく。
その姿は全然痛がる様子もなく、周りから見てもウキウキしている様子が明らかで、周囲の目は冷ややかであったが、ルイーゼは全く気が付く事もなかった。
保健室に着き、ルークが保健室に常駐している医師に声をかける。
「すみません、女子生徒が足を痛めたようなので、お連れしました」
「あら、スノーメルさん、ご苦労さま。えーっと、そちらの女子生徒ね?
あなた、お名前は?」
女医にそう聞かれ、ルイーゼはルークに聞かせるように、大きく名乗った。
「わたくしは、ルードグラセフ伯爵家の娘、ルイーゼと申しますわ!
ルーク様、ここまで付いてきて下さり、ありがとうございましたわ!
何かお礼をしなければなりませんわね?
そうだわ! わたくしの屋敷にご招待させて頂いてもよろしいかしら?」
ルイーゼは、女医をそっちのけで、今にも退室しそうなルークを呼び止めた。
しかしルイーゼが止める間でもなく、ルークは足を止めて、ルイーゼを凝視する。
(あらやだ。ルーク様ったら、そんな不躾に見つめるなんて!
やはり、ルーク様も私に一目惚れしてしまったのね!)
ルイーゼはそう思い、キラキラした目でルークを見つめているが、ルークは冷ややかに目を細め、ルイーゼから距離を置く。
「そうか……君が……」
「ルーク様?」
ルイーゼがルークに近づこうと一歩前に出るが、ルークは明らかに拒否的な態度を示す。
「君に名前呼びを許した覚えは無い。
気安く呼ばないでくれ。
それと、お礼など不要だ。失礼する」
そう言って足早に去っていくルークの後ろ姿を見て、ルイーゼはビックリした。
「え? 何故……」
ルイーゼのその質問の言葉が続かないうちに、ルークは立ち去って行った。
249
あなたにおすすめの小説
結婚式をボイコットした王女
椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。
しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。
※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※
1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。
1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました
春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。
名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。
姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。
――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。
相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。
40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。
(……なぜ私が?)
けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さくら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
私が、良いと言ってくれるので結婚します
あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。
しかし、その事を良く思わないクリスが・・。
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
包帯妻の素顔は。
サイコちゃん
恋愛
顔を包帯でぐるぐる巻きにした妻アデラインは夫ベイジルから離縁を突きつける手紙を受け取る。手柄を立てた夫は戦地で出会った聖女見習いのミアと結婚したいらしく、妻の悪評をでっち上げて離縁を突きつけたのだ。一方、アデラインは離縁を受け入れて、包帯を取って見せた。
死にかけ令嬢の逆転
ぽんぽこ狸
恋愛
難しい顔をしたお医者様に今年も余命一年と宣告され、私はその言葉にも慣れてしまい何も思わずに、彼を見送る。
部屋に戻ってきた侍女には、昨年も、一昨年も余命一年と判断されて死にかけているのにどうしてまだ生きているのかと問われて返す言葉も見つからない。
しかしそれでも、私は必死に生きていて将来を誓っている婚約者のアレクシスもいるし、仕事もしている。
だからこそ生きられるだけ生きなければと気持ちを切り替えた。
けれどもそんな矢先、アレクシスから呼び出され、私の体を理由に婚約破棄を言い渡される。すでに新しい相手は決まっているらしく、それは美しく健康な王女リオノーラだった。
彼女に勝てる要素が一つもない私はそのまま追い出され、実家からも見捨てられ、どうしようもない状況に心が折れかけていると、見覚えのある男性が現れ「私を手助けしたい」と言ったのだった。
こちらの作品は第18回恋愛小説大賞にエントリーさせていただいております。よろしければ投票ボタンをぽちっと押していただけますと、大変うれしいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる