【完】瓶底メガネの聖女様

らんか

文字の大きさ
23 / 42

23

しおりを挟む


「「「オリビア様!」」」

 周りの友人達が私を心配して駆け寄って来てくれる。

「大丈夫ですか!? オリビア様!
 頬から血が……」

 その言葉に私は顔を上げて、頬を確認する。

「「「「 !!!! 」」」」

 私が顔を上げた途端、友人達や周りの人達が絶句する。

 (え? そんなに血だらけなの?
 確かに痛いわね。早く治そう)

 私はすぐに治癒魔法を使って、頬の傷を治す。
 にも関わらず、無言で私を見つめている友人達に、私は不思議に思って首を傾げた。

「「「「 !!!! 」」」」

 周りが絶句したままなので、どうしようかと思った時、ルーク様の声が聞こえた。

「だから無闇に首を傾げないようにって言っただろ?
 特に今は眼鏡をしていないから……。
 ほら見ろ。皆、オリビアの美しさに見惚れて動けなくなっている」

 そう言うなりルーク様は、私を自分の元に引き寄せる。

「え? ルーク様、今は授業中じゃ?」

「凄い音が園庭でしたすぐ後で、王家の影から君の事が報告されたんだ。
 そりゃ、すっ飛んでくるだろ?」

 こんな状況なのに、相変わらず甘い空気を出してくるルーク様に、私は赤面しっぱなしだ。
 しかし、そんな時、周りの悲鳴や助けを求める声が耳に入ってきた。

「あ! そうだ! 他のみんなは無事!?」

 私は慌てて怪我をしている人達の元に駆け寄り、治癒魔法で治していく。
 怪我が治った事で、一時期混乱を期していた園庭は、ようやく落ち着きを取り戻していた。

 私は最後にルイーゼの元に行く。
 ルイーゼは、咄嗟に身を守ったようで、大した傷も負わず、錬金術を施していた時に傷つけたのか、手に少し擦過傷を負った程度であった。

「ルードグラセフ伯爵令嬢。手を見せて下さい。治療致します」

 私は座り込んでいるルイーゼの手を取り、治癒魔法を施す。
 その様子を見ながら、ルイーゼは低い声で私に言った。

「生きていたのね、お義姉様……」

 ルイーゼのその言葉に、私は無言で手を離した。

「手の怪我は治りましたわ。あとは先生方にお任せ致します」

 ルイーゼの錬金術が原因で思わぬ事故に発展し、周りに大勢の怪我人を出したのだ。
 学園側がしっかりと原因を究明し、二度とこのような事が起こらないようにしてもらわなければならない。

 そんな思いで講師達にルイーゼを託して、その場を離れようとした私を、ルイーゼは大声で叫んで呼び止めた。

「貴女、私のお義姉様でしょ!
 しらばっくれないでよ!
 オリビア・モーリスト!
 いえ、オリビア・ルードグラセフ!
 その白銀色の髪と翠碧色の目は、ルードクラセフ家の特徴を表す色だって、お父様から聞いているのよ!
 いつの間に、治癒魔法を発現していたのよ!
 家に居た時は、そんな力なかったじゃない!
 あんなに酷い火傷を負ったのに、貴女あの時は治してなかったでしょ!?
 それとも私達を騙していたのかしら!?
 答えてよ! お義姉様!」

 そう叫ぶルイーゼから私を守るように、ルーク様が私をルーク様の後ろに隠した。

「ルイーゼ・ルードグラセフ伯爵令嬢。話をすり替えるな。
 今、この場で起こした爆発と、それに伴う怪我人を大勢出した原因は君にある。
 まずは周りに謝罪し、どういう経緯でこのような事が起こったのか釈明すべきだろう?
 その責任も取らず、オリビアに絡むなんて、どんな神経をしている?
 国の宝であるオリビアにまで傷を負わせた責任は重いぞ。
 覚悟しておくんだな」

 ルーク様はルイーゼを睨みながらそう言った後、講師陣に向き直る。

「先生方。オリビアは負傷者の治療で沢山の魔力を使い、疲弊しています。なので少し休ませますね。
 後はよろしくお願いします」
 
 そう言って、ルーク様は私をこの場から連れ出した。


 ****

 
「大丈夫だったかい? オリビア」

 心配そうにそう言ったのは、王妃様の兄であり、私の新しい父であるモーリスト侯爵だ。

「ホントに、あそこの家の者が絡むとロクな事にならないわ!
 わたくしの大切な娘を傷つけた罪は、しっかりと償ってもらいます!
 オリビア、心配しないでゆっくり休んでね」

 そう言ってくれたのは、私の新しい母であるモーリスト侯爵夫人である。

「ご心配おかけして申し訳ございません。もうすっかり治っておりますので、お気を遣わないで下さいませ」

 そう言った私の顔をじっくりと見て、義母は感嘆の声を上げた。

「あぁ、やっぱり似ているわね、貴女のお母様である前ルードグラセフ女伯に。
 わたくし、学生時代の友人でしたのよ? 女伯の翠碧色の目をまた見れるなんて、本当に嬉しいわ。
 オリビアったら、家でも眼鏡を外してくれなかったんですもの」

 そうむくれた口調で話す義母に、私は申し訳ない気持ちになった。

「すみません、お義母さま。つい癖で……。でも、もう眼鏡は壊れましたし、これを機に、ありのままの姿で過ごそうと思っておりますの。
 亡き母に面影が似ていると言われて、とても嬉しかったです。ありがとうございます」

 私の言葉に、義母は余計にむくれる。

「あら! オリビアは今やわたくしの娘なんですからね!
 わたくしにも似ているような気がするわ!」

 そんな事を言っている義母を、義父が宥めた。

「お前……無茶なことを。
 さぁ、オリビアは今日は沢山の魔力を使って疲れているんだ。もう休ませてあげなさい。
 ルーク殿も、今日は早めにオリビアを連れて帰ってきてくれて感謝する」

 義父にそう言われて、今まで静かに私達親子の会話を見守っていたルーク様が、会話に加わってきた。

「いえ、とんでもない。
 オリビアを守るのは私の役目ですので」

 その言葉に、義両親が反応する。

「あら? オリビアの許可はおりたの?」

「小僧。まだ許さんぞ」

 二人の返答に私は首を傾げる。

「許可とはなんですか?」

 私の言葉に、ルーク様が過剰に反応してきた。

「あー、あ! オリビア! 早く休まないと! 疲れが溜まったら大変だからね!」

 そう言って、私を部屋まで送ろうとしたルーク様を、義父が引き止める。

「ふざけるなよ小僧。誰がオリビアの部屋に行っていいと許可した?」

「オリビアはわたくしが部屋まで送りますわよ。ルーク様、今日はお疲れ様。
 過剰接近はまだ許してませんからね」

 義両親にこぞって警戒されたルーク様は、肩を竦めて
「ちゃんとオリビアの許可を貰った暁には、正式に認めて下さいね」
 と、義両親にそう言っていた。


 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さくら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

包帯妻の素顔は。

サイコちゃん
恋愛
顔を包帯でぐるぐる巻きにした妻アデラインは夫ベイジルから離縁を突きつける手紙を受け取る。手柄を立てた夫は戦地で出会った聖女見習いのミアと結婚したいらしく、妻の悪評をでっち上げて離縁を突きつけたのだ。一方、アデラインは離縁を受け入れて、包帯を取って見せた。

結婚式をボイコットした王女

椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。 しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。 ※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※ 1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。 1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)

死にかけ令嬢の逆転

ぽんぽこ狸
恋愛
 難しい顔をしたお医者様に今年も余命一年と宣告され、私はその言葉にも慣れてしまい何も思わずに、彼を見送る。  部屋に戻ってきた侍女には、昨年も、一昨年も余命一年と判断されて死にかけているのにどうしてまだ生きているのかと問われて返す言葉も見つからない。  しかしそれでも、私は必死に生きていて将来を誓っている婚約者のアレクシスもいるし、仕事もしている。  だからこそ生きられるだけ生きなければと気持ちを切り替えた。  けれどもそんな矢先、アレクシスから呼び出され、私の体を理由に婚約破棄を言い渡される。すでに新しい相手は決まっているらしく、それは美しく健康な王女リオノーラだった。  彼女に勝てる要素が一つもない私はそのまま追い出され、実家からも見捨てられ、どうしようもない状況に心が折れかけていると、見覚えのある男性が現れ「私を手助けしたい」と言ったのだった。  こちらの作品は第18回恋愛小説大賞にエントリーさせていただいております。よろしければ投票ボタンをぽちっと押していただけますと、大変うれしいです。

【完結】気味が悪いと見放された令嬢ですので ~殿下、無理に愛さなくていいのでお構いなく~

Rohdea
恋愛
───私に嘘は通じない。 だから私は知っている。あなたは私のことなんて本当は愛していないのだと── 公爵家の令嬢という身分と魔力の強さによって、 幼い頃に自国の王子、イライアスの婚約者に選ばれていた公爵令嬢リリーベル。 二人は幼馴染としても仲良く過ごしていた。 しかし、リリーベル十歳の誕生日。 嘘を見抜ける力 “真実の瞳”という能力に目覚めたことで、 リリーベルを取り巻く環境は一変する。 リリーベルの目覚めた真実の瞳の能力は、巷で言われている能力と違っていて少々特殊だった。 そのことから更に気味が悪いと親に見放されたリリーベル。 唯一、味方となってくれたのは八歳年上の兄、トラヴィスだけだった。 そして、婚約者のイライアスとも段々と距離が出来てしまう…… そんな“真実の瞳”で視てしまった彼の心の中は─── ※『可愛い妹に全てを奪われましたので ~あなた達への未練は捨てたのでお構いなく~』 こちらの作品のヒーローの妹が主人公となる話です。 めちゃくちゃチートを発揮しています……

平凡な伯爵令嬢は平凡な結婚がしたいだけ……それすら贅沢なのですか!?

Hibah
恋愛
姉のソフィアは幼い頃から優秀で、両親から溺愛されていた。 一方で私エミリーは健康が取り柄なくらいで、伯爵令嬢なのに贅沢知らず……。 優秀な姉みたいになりたいと思ったこともあったけど、ならなくて正解だった。 姉の本性を知っているのは私だけ……。ある日、姉は王子様に婚約破棄された。 平凡な私は平凡な結婚をしてつつましく暮らしますよ……それすら贅沢なのですか!?

処理中です...