【完】瓶底メガネの聖女様

らんか

文字の大きさ
29 / 42

29

しおりを挟む


「あの商会での事は、些細な事にございます。
 些か血気盛んな若者たちには、大人の対応をお見せしたまで。
 それとは関係なく、私は魔鉱石の販路について、見直しが必要と考えた上で取り引き先を再選考したのです。
 魔鉱石の需要は高まるばかりですが、採れる量は限られておりますゆえ」

 カーターは堂々とそう言った。

 (ここには、大勢の貴族達がいるから、こう言っておけば、限られた魔鉱石を優先的に手に入れる為に、直接私と取り引きをしたがる者が出てくるだろう。
 あとは、その者たちがどれ程の金を積むことが出来るかだな。
 歴代のルードグラセフの者たちは、本当に馬鹿揃いだな。特に、いつも澄ました顔で、私を見下してきたあの女! 
 あいつは宝の持ち腐れだったんだ。
 魔鉱石のような金の成る木を上手く利用せず、安く卸していたんだからな!
 おかげで細々とした生活を送る羽目になっていたんだ!
 伯爵位だから贅沢三昧出来ると思っていたのに、当てが外れたと後悔したわ!
 しかもあの女は、伯爵位をオリビアに継がせようとしていたけど、結局は毛嫌いしていた私が、その地位を手に入れてやった。
 さぞ草葉の陰から、悔しそうに見ているだろうな)

 目の前で、国王陛下始め、王族達に一番近しい場所に立って、こちらを見ている、あの女そっくりに育ったオリビアを見て、カーターはそんな事を思い返していた。


「ほぅ……。再選考とはな。
 そんな権限をルードグラセフ伯爵に持たせた覚えはないがな」

 国王陛下はそう言って、カーターを睨め付ける。

「しかし、随分とここ数年、好き勝手に動いたと見える。
 お前たち親子の格好からして、よほど潤った生活を送っているのだろうな」

 そう言って国王陛下は、カーターの隣りに立っていたナタリーとルイーゼに目を向けた。

「連れのもの達は、とても華美な装いをしておるな?
 これから何処かのパーティにでも参加するのかな?
 王妃よりも多くの装飾品を身に付けておる。
 しかも、どれも高価な宝石の数々だ」

 国王陛下にそう言わしめるには十分な程、ナタリーとルイーゼは着飾って王城に来ていた。

 王城に上がる際には、TPOに合わせた装いというものが貴族の間で暗黙の了解となっている。
 まして、自分より位の高い者より華美になり過ぎないように、気を配るのは貴族として当たり前の嗜みだ。
 その理を弁えず、観光気分で、いつものように豪華に着飾ってやってきたルイーゼ母娘は、ここに集まっている全ての人から失笑されていたが、それにも気付いてなかったらしい。
 国王陛下に言われて、初めて周囲の視線の意味を知ったナタリーが、屈辱に顔を真っ赤にする。
 その様子を見たカーターは、何やら分が悪いと感じ始めていた。

「家の者が陛下のご気分を害した様で、大変失礼致しました。
 この二人はすぐにでもこの場から下がらせますので、どうぞご容赦のほどをお願い致します」

 そう言って、ナタリーとルイーゼを大広間から辞するように言おうとしたカーターを、陛下が止めた。

「何を勝手に辞そうとしているのだ?
 せっかくだから、最後まで居るといいぞ。
 初めての登城にて、頑張って着飾って来たのであろう?
 なぁ、ルードグラセフ伯爵夫人?」

 国王陛下はそう言って、ナタリーを見る。

 と言われ、返答に困るナタリーと、先程から意味が分からず首を傾げているルイーゼの反応は対照的であった。

 (くそっ! さっきから陛下は代理代理と、何が言いたいんだ!
 オリビアが行方不明になった時点で、国には申請を出して、正式に私が伯爵を継いだのだぞ!)

 そう考えながら、ついオリビアを見る。
 オリビアは相変わらず、何も言わずに王族の近しい場所からこちらをジッと見つめていた。

 そのカーターの視線に気付いた陛下が、面白そうにカーターに語りかける。

「どうした? ここにいるオリビア・モーリスト侯爵令嬢が気になるのか?」

 陛下にそう言われ、ハッとしたカーターは、これは好機ではないかと気付く。

 (聖女と呼ばれているあの娘が、私の実の娘だと知ったら、ここに居る者たちは、私たちを馬鹿には出来ないのではないか?
 陛下はご存知なのだろうか?
 もし、知らないのであれば、これはこの雰囲気を一変出来るかも知れないぞ!)

「陛下の御前にて控えさせて頂いておりましたが……。
 実は、オリビア・モーリスト侯爵令嬢は、私が二年間探し続けていた私の愛娘、オリビア・ルードグラセフであった事が、先日判明したのです」

 そのカーターの言葉に、周囲がざわついた。
 カーターは、心の中でほくそ笑むと、とても嬉しそうな笑顔を作り、オリビアに話しかける。

「ずっと探していたんだよ、オリビア。お前に元気で出会えた事が、父は何より嬉しいのだ。
 何故すぐに連絡をくれなかったんだ?
 お前が家を出てから、私は心配で心配で仕方がなかったんだ。
 さぁ、オリビア。もっと近くでこの父に、元気な顔を見せてくれないか?」

 そう言ってカーターは、オリビアの方に1歩足を進める。

 オリビアは、陛下の方に向き直り、
「陛下、わたくしに任せてもらっても?」
 と問うた。

 オリビアの言葉に、陛下がニヤリとしながら頷いた事を確認したオリビアは、改めてカーターに向き直り、ハッキリとした声で言った。

「ストップ! それ以上は近寄らないで下さいませ?
 カーター・ルードグラセフ伯爵

 オリビアの言葉は大きくもないが、それでもハッキリとした言葉にて、大広間中にしっかりと響き渡った。
 それは、強い意志で、ハッキリとした拒絶であり、カーターにとっては、初めて見る娘の姿であった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

“足りない”令嬢だと思われていた私は、彼らの愛が偽物だと知っている。

ぽんぽこ狸
恋愛
 レーナは、婚約者であるアーベルと妹のマイリスから書類にサインを求められていた。  その書類は見る限り婚約解消と罪の自白が目的に見える。  ただの婚約解消ならばまだしも、後者は意味がわからない。覚えもないし、やってもいない。  しかし彼らは「名前すら書けないわけじゃないだろう?」とおちょくってくる。  それを今までは当然のこととして受け入れていたが、レーナはこうして歳を重ねて変わった。  彼らに馬鹿にされていることもちゃんとわかる。しかし、変わったということを示す方法がわからないので、一般貴族に解放されている図書館に向かうことにしたのだった。

【完結】婚約破棄の罰として、冷酷公爵様に引き取られたのですが…溺愛が過ぎます!

22時完結
恋愛
「公爵家に身柄を預ける。それが、きみへの罰だ」 社交界で“悪役令嬢”と噂されていた侯爵令嬢・リディアは、ある日突然、婚約者である王太子から婚約を破棄された。 その場で断罪され、王家の名誉を傷つけた罰として命じられたのは――冷酷で知られる隣国の大公爵、アレクセイ・レオンハルトへの“引き渡し”だった。 周囲は誰もが「破滅だ」と囁いた。 なぜなら、アレクセイ公爵は血も涙もない男として恐れられており、社交界では『氷の獣』とさえ呼ばれていたからだ。 だが、リディアを待ち受けていたのは―― 「今夜は、私の隣で眠るといい。罰とは、そういう意味だよ」 「…え?」 戸惑う彼女に注がれるのは、冷たい瞳とは裏腹の、甘すぎる眼差しと過保護なほどの愛情。 強引で不器用なアレクセイの溺愛は日に日に増していき、ついには「君を誰にも渡したくない」と独占欲全開に!? 婚約破棄されたはずの令嬢が、冷酷公爵に甘やかされて溺愛される―― これは、人生のどん底から始まる、予想外すぎる恋の物語。

「ときめかない」ものなど捨てておしまいなさい

megane-san
ファンタジー
私、クリスティーナは、前世で国税調査官として残業漬けの日々を送っていましたが、どうやら過労でぶっ倒れそのまま今の世界に転生してきたようです。 転生先のグリモード伯爵家は表向きは普通の商会を営んでおりますが裏では何やら諜報や暗部の仕事をしているらしく…。そんな表と裏の家業を手伝いながら、前世で汚部屋生活をしていた私は、今世で断捨離に挑戦することにしたのですが、なんと断捨離中に光魔法が使えることが発覚! 魔力があることを国にバレないようにしながら、魔術師の最高峰である特級魔術師を目指します!

婚約破棄されたのでファンシーショップ始めました。 ― 元婚約者が、お人形さんを側室にしようとして大恥をかきました ―

鷹 綾
恋愛
隣国の王子から「政略的にも個人的にも魅力を感じない」と婚約破棄された、ファンタジア王国第三女王タナー。 泣きも怒りもせず、彼女が考えたのは――「いつか王宮の庇護がなくなっても困らない生き方」だった。 まだ八歳。 それでも先を見据え、タナーは王都の片隅で小さなファンシーショップを開くことを決意する。 並ぶのは、かわいい雑貨。 そして、かわいい魔法の雑貨。 お茶を淹れてくれるクマのぬいぐるみ店員《テイデイ・バトラー》、 冷めないティーカップ、 時間になると小鳥が飛び出すアンティーク時計――。 静かに広がる評判の裏で、 かつての元婚約者は「お人形さんを側室にしようとして」赤っ恥をかくことに。 ざまぁは控えめ、日常はやさしく。 かわいいものに囲まれながら、女王は今日も穏やかにお店を開けています。 --- この文面は ✔ アルファポリス向け文字数 ✔ 女子読者に刺さるワード配置 ✔ ネタバレしすぎない ✔ ほのぼの感キープ を全部満たしています。 次は 👉 タグ案 👉 ランキング用超短縮あらすじ(100字) どちらにしますか?

悪役令嬢ベアトリスの仁義なき恩返し~悪女の役目は終えましたのであとは好きにやらせていただきます~

糸烏 四季乃
恋愛
「ベアトリス・ガルブレイス公爵令嬢との婚約を破棄する!」 「殿下、その言葉、七年お待ちしておりました」 第二皇子の婚約者であるベアトリスは、皇子の本気の恋を邪魔する悪女として日々蔑ろにされている。しかし皇子の護衛であるナイジェルだけは、いつもベアトリスの味方をしてくれていた。 皇子との婚約が解消され自由を手に入れたベアトリスは、いつも救いの手を差し伸べてくれたナイジェルに恩返しを始める! ただ、長年悪女を演じてきたベアトリスの物事の判断基準は、一般の令嬢のそれとかなりズレている為になかなかナイジェルに恩返しを受け入れてもらえない。それでもどうしてもナイジェルに恩返しがしたい。このドッキンコドッキンコと高鳴る胸の鼓動を必死に抑え、ベアトリスは今日もナイジェルへの恩返しの為奮闘する! 規格外で少々常識外れの令嬢と、一途な騎士との溺愛ラブコメディ(!?)

東雲の空を行け ~皇妃候補から外れた公爵令嬢の再生~

くる ひなた
恋愛
「あなたは皇妃となり、国母となるのよ」  幼い頃からそう母に言い聞かされて育ったロートリアス公爵家の令嬢ソフィリアは、自分こそが同い年の皇帝ルドヴィークの妻になるのだと信じて疑わなかった。父は長く皇帝家に仕える忠臣中の忠臣。皇帝の母の覚えもめでたく、彼女は名実ともに皇妃最有力候補だったのだ。  ところがその驕りによって、とある少女に対して暴挙に及んだことを理由に、ソフィリアは皇妃候補から外れることになる。  それから八年。母が敷いた軌道から外れて人生を見つめ直したソフィリアは、豪奢なドレスから質素な文官の制服に着替え、皇妃ではなく補佐官として皇帝ルドヴィークの側にいた。  上司と部下として、友人として、さらには密かな思いを互いに抱き始めた頃、隣国から退っ引きならない事情を抱えた公爵令嬢がやってくる。 「ルドヴィーク様、私と結婚してくださいませ」  彼女が執拗にルドヴィークに求婚し始めたことで、ソフィリアも彼との関係に変化を強いられることになっていく…… 『蔦王』より八年後を舞台に、元悪役令嬢ソフィリアと、皇帝家の三男坊である皇帝ルドヴィークの恋の行方を描きます。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

王太子に愛されないので、隣国王子に拾われました

鍛高譚
恋愛
「王太子妃として、私はただの飾り――それなら、いっそ逃げるわ」 オデット・ド・ブランシュフォール侯爵令嬢は、王太子アルベールの婚約者として育てられた。誰もが羨む立場のはずだったが、彼の心は愛人ミレイユに奪われ、オデットはただの“形式だけの妻”として冷遇される。 「君との結婚はただの義務だ。愛するのはミレイユだけ」 そう嘲笑う王太子と、勝ち誇る愛人。耐え忍ぶことを強いられた日々に、オデットの心は次第に冷え切っていった。だが、ある日――隣国アルヴェールの王子・レオポルドから届いた一通の書簡が、彼女の運命を大きく変える。 「もし君が望むなら、私は君を迎え入れよう」 このまま王太子妃として屈辱に耐え続けるのか。それとも、自らの人生を取り戻すのか。 オデットは決断する。――もう、アルベールの傀儡にはならない。 愛人に嘲笑われた王妃の座などまっぴらごめん! 王宮を飛び出し、隣国で新たな人生を掴み取ったオデットを待っていたのは、誠実な王子の深い愛。 冷遇された令嬢が、理不尽な白い結婚を捨てて“本当の幸せ”を手にする

処理中です...