【完結】運命の宝玉~悪役令嬢にはなりません~

らんか

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誕生~幼少期

1 誕生

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 ここはサンタベルグ王国にあるベルイヤ侯爵邸。
 そこで1人の女児が生まれた。
 
「……女か」
 
 ここの主であるベルイヤ侯爵は、生まれた赤子を見てそう言うと、興味を失ったように自分の執務室に戻った。
 その言葉を聞いた途端に、たった今自分が産んだばかりの赤子に向かって、その母親は憎らしげに睨んだ。
 
「旦那様の希望は男児だったのに! 何故お前は女に生まれたのよ!」
 
 そう言うと、母親であるベルイヤ侯爵夫人も赤子に興味を無くしたように背を向ける。
 
「とっとと、その子を乳母の所に連れてってちょうだい」
 
 侯爵夫人の言葉に、使用人達は気の毒そうに赤子を見て、粛々とその命令に従った。
 
 
 
 
 
 その女児はエマと名付けられた。
 
 そう、エマ。 恵美と1字違い。
 
 これが今世の私の名前だ。
 
 前世の記憶を持って生まれた私は、生まれた時の両親の言葉を聞いていた。
 
 まぁ少しショックだったが、家族の事まで女神様にお願いしてなかったし、私の母は前世の母だけだという気持ちが強いので、逆に割り切れるかなと思った。
 実際、今世の両親は私に興味がなく、滅多に顔を見せないが、今世の家はどうやら貴族の家で使用人が沢山いて裕福だし、私を育ててくれる乳母のアリーも優しい。
 周りの人に恵まれて、衣食住にも不便がないので、私としては文句はなかった。
 そして、なんと言っても健康な身体を手に入れたのだ!
 生まれてから1度も熱を出して寝込むどころか、風邪1つ引いたこともない。
 ちょっと走ったくらいでは息切れもしない。
 危ないから走ってはいけませんと、その都度叱られるが、嬉しすぎて叱られても走ってしまうのだ。
 
 また、食事もとても美味しい。
 乳児の時は乳をよく飲み、離乳食から始まって、普通の食事が出来るようになった頃には嬉しくて涙が出た。
 前世では、ほとんど口から食べられず、点滴で栄養補給をしている状態だった私は、今世では出された物が全て珍しく、残すなんて選択肢は持っていなかった。
 アリーからは、「よくそんなにお食べになられますね……」と、呆れた目で見られたが、そんなの知らない。
 普通に物が食べられる有難みを、心から感じて食べているだけよ。
 
 
 そんな感じで、すこぶる健康で元気にすくすくと育った私は3歳になっていた。
 
 そんなある日、私に弟が出来た事を聞いた。
 
 今世の両親は、弟の誕生をとても喜んで、盛大なパーティを開く事になったようだった。
 パーティは、3ヶ月後。
 その時に弟をお披露目するとの事で、私にも参加するように父が言ってきたのだ。
 
「パーティでは、我が家の恥を晒さないようにちゃんと教育しておくように」
 
 突然私の部屋にやって来たかと思えば、父はアリーにそれだけ伝えて部屋を出ていった。
 
「エマ様の時はそんな事なさらなかったのに! せめてエマ様に直接お声掛けして下さっても良かったのでないですかね!?」
 
 そう言ってアリーや周りで見ていたメイドたちが憤慨している。
 確かに残念な父親だが、何不自由なく暮らせているだけでも感謝しないとね。
 初めから家族とは認識していないから、私自身は何とも思わない。
 だけど周りは違うようで、そんな父や母の態度に私の代わりに怒ってくれる。
 それだけで心が温まる気がして嬉しかった。
 
「アリー」
 
 私は嬉しくなって、アリーに抱きついた。
 アリーも優しく抱きしめ返してくれる。
 その光景を見て、周りにいたメイド達が涙ぐんでいる。
 どうやら、父に見向きもされない幼い私が、悲しくなってアリーに抱きついたと思われたらしい。
 ただ、私は貴方達が私の代わりに怒ってくれた事が嬉しくて抱きついただけなんだけどな。
 
「さぁ、エマ様。これからはお勉強も頑張りましょうね」
 
 
 
 次の日から私の淑女教育が始まった。
 
 
 
 パーティでは沢山の招待客が来ていて、私も淑女教育で身につけた挨拶を幼いなりに頑張って行なっていた。
 
「まぁ可愛らしい」
「素敵なご息女ですね。将来が楽しみだわ」
「お上手にご挨拶出来ましたね」
 
 私が沢山の招待客に褒められていると、気分が良くなったのか、その日より父が私に声を掛ける頻度が少し多くなった。
 母は相変わらずの無関心で、弟ばかりを可愛かっていたが、まぁ、それも周りの人達からはやや冷たい目で見られていたので、溜飲も下がる。
 
 また、弟の誕生日は盛大にパーティを開くのに、長女の誕生日パーティは開かなかったのが貴族間でちょっとした噂になっていたらしく、体裁を気にした侯爵が、私が5歳になった時から私の誕生日にもパーティを開くようになった。
 ……まぁ、盛大さは弟よりかなり下がっているが。
 
 そんな感じで、気付けば私は10歳になっていた。
 
 
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