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王立学園編~前編
28.ヒロイン視点②
しおりを挟む学園の授業終了後は、4人で喫茶室の貴賓室でお茶をするのが入園以来の定番になっている。
そして今も、私やアステル様、レスターやマイクでお茶会をしていた。
本来、アステル様の側近はもう1人、騎士団長の息子のオリバーがいるのだが、放課後は騎士団の訓練に参加している為、いつもオリバーだけ参加していない。
小説ではオリバーも騎士の練習より、ヒロインとのお茶会を優先していたのだが、この世界のオリバーは何故か私に対しても素っ気なかった。
「なぁ、アリア」
アステル様が何か思い詰めた様子で話しかけてくる。
「はい。どうされました?」
「エマ嬢の件だが……。無詠唱でのヒールの発動は本物であった」
「えっ?」
そんなはずはない。
小説では、ヒロインが魔力50になった時に無詠唱が出来たと喜んでいた一節があったのだ。
無詠唱が出来るという事はエマが魔力50以上だということ。
でも、それは有り得ない。
この間の魔力測定ではエマは魔力38だったはず。
という事は、無詠唱の発動条件が変わってる?
「何故本物だと?」
私の質問にアステルが表情固く答える。
「何の準備をすることも無く、目の前で無詠唱でヒールを発動するところを見たんだ」
どういう事?
魔力が50以上でなくても無詠唱出来るの?
発動条件は何なのかしら?
考え込んでいる私に、今度はレスターが話しかけてくる。
「アリア、嫌がらせはまだ続いている?」
「え? え、ええ。この前も教科書がロビー前の噴水の中に捨てられていましたわ」
それを聞いたマイクが私に尋ねる。
「捨てたのはエマ嬢?」
「え? 多分? 他のご令嬢方は、私に良くして下さる人ばかりですから、エマ様以外は思い当たらなくて……」
「捨てるところを見た訳ではないのか……」
私の答えに3人共が何やら考え込んでいる。
「一体どうしたと言うのです?」
私がそう聞くと、アステル様が言いづらそうに話し出す。
「実は、エマ嬢を問い詰めている時に、アストナ先生とグレイ・フィリスに証拠はあるのかと逆に問い詰められたんだ。
確かに証拠もなしに一方的に問い詰めたのは、こちらにも非がある。
だから、アリア。きちんと調べて犯人の証拠を探そう。嫌がらせは他にどんな事があった?」
調べて証拠を見つけるですって?
そんなの見つかるわけないじゃない。
最初の頃は本当に些細な嫌がらせはあったけど、それはアステル様の婚約者の地位を狙う他の令嬢達の仕業だったし、その令嬢達も、徐々に自分達の婚約者が決まってからは全く嫌がらせをしなくなった。
何も無さすぎて、本来の小説の通りに進まないのが不安になって自作自演したのよ。
大袈裟な事件を作り上げると、本格的な調査が入るかもしれないと考えて、物がなくなるとか、靴の中に虫を入れられていたとか、その程度の嫌がらせを作り上げたのに。
その程度の嫌がらせなら調べもしないで、ただ悪役令嬢を責めてくれて、私達の絆が深まると思った。だから悪役令嬢を責めやすいように悪評も流したのだ。
そして本来の小説では、アストナ先生も私の取り巻きの内の1人になるはずだった。
なのに、この世界のアストナ先生は取り巻きどころか、悪役令嬢の味方をするの!?
それに。
グレイ・フィリス。
この人物は小説には登場しない。
ただのモブかと思ってスルーしてたけど、もしかして私の認識は間違っていたのだろうか。
「アリア?」
私が考え込んで返事をしなかったから、マイクが私の顔を覗き込んで名前を呼んでくる。
「あ、あら。ごめんなさい。ちょっとびっくりしてしまって。些細な嫌がらせだから、大袈裟に調査などしなくてもいいのではないかしら?」
「そうは行かないよ。いくら些細な嫌がらせでも、続いていれば精神的な負担になる。それが何年も続いているならそれはもう立派な犯罪だからね」
アステル様が優しく私に微笑みながら、そう諭す。
「さ、最近は嫌がらせも収まってきている方ですのよ。だから大丈夫。みんなにこれ以上迷惑はかけられませんもの」
「え? でもつい最近も教科書を噴水の中に捨てられたんだろう?」
私の言葉に、レスターが疑問を呈す。
「大丈夫! ほら、あの後教科書が無い私にアステル様が一緒に教科書を見せて下さったでしょ?
それが嬉しかったから、全然気にしてないの!」
誤魔化すように言った私の言葉に、アステル様は満更でもない風に笑う。
「仕方ないなぁ。アリア、また困った事がおきたら、遠慮なく相談してくれ。その時は俺たちが徹底的に調べてアリアに嫌がらせをした犯人を見つけ出すからな」
アステル様がそう言って笑ってくれ、レスターやマイクも強く頷く。
私も顔を引き攣らせながらも何とか笑顔で頷いた。
家に着いた私は、これからどうしようかと考える。
このまま、悪役令嬢の事は放置して、アステル様と婚約するほうに力を入れる?
聖女になればアステル様との婚約は確定する。
でも聖女になるには、範囲魔法のホーリーヒールを使えるようになる事が、絶対条件だ。
今の私ではまだ使えない。
小説の中でも、悪役令嬢からの嫌がらせを受けながらも必死で練習し、悪役令嬢の起こしたある事件がきっかけで魔力が増大して、ホーリーヒールを放ってみんなを助ける展開になっていた。
でもこの世界の悪役令嬢はその役目を果たさない。
それはきっと、悪役令嬢が転生者だからだろう。
上手くやらなければ足元をすくわれる。
やはりジャック・アストナを味方に引き入れる? やはり大人の味方がいた方が心強い。
机の引き出しから小袋に入れてある物を取り出す。
女神様からもらった虹色のビー玉。
私の願いを叶えてくれるラッキーアイテムだ。
私はその虹色ビー玉を両手で握り締めながらお願いする。
女神様。
お願い。今度こそ私に幸せな人生を下さい。
ジャック・アストナを私の味方にして欲しいの。
お願い。エマから引き離して私の味方につけて下さい。
暫くビー玉を握り締めてお祈りすると、ビー玉が反応したように感じた。
「あれ? このビー玉、少し大きくなった?」
いや、気のせいか。
でも、私の気持ちは女神様に伝わった気がする。
絶対に今回の人生では、前世のように馬鹿な死に方はしたくない。
上手く立ち回って、希望通りの未来をこの手に掴んでみせるわ!
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