【完結】運命の宝玉~悪役令嬢にはなりません~

らんか

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王立学園編~前編

29.宝玉の力

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 あれから第1王子アステルや、側近のマイク、レスターは私の前に姿を現さない。
 
 いや、同じクラスだから居るには居るが、私へ絡んでくる事がなくなったのだ。
 
 それに私への悪評も最近はなりを潜めている。
 
 
「ようやく平和が戻ってきたわ」
 
 
 私がそう言うと、グレイが呆れたようにこちらを見る。
 
「呑気だな。急にお前への攻撃がなくなったのには何か理由があるんじゃないのか?」
 
「きっと、この前グレイやアストナ先生が言ってくれたから、あの3人も反省したのよ。
 このまま何も関わらず、こっそり想像魔法を駆使して宝玉を回収すれば全て解決じゃない?」
 
 私かにっこり笑いながらそう言うと、グレイは更に呆れた目で私を見る。
 
「お前は単純でいいな。羨ましいよ」
 
 
 ムカッ!
 
 
「何よそれ。何か起こる予感でもあるの?」
 
 
 グレイは少し考えた後、念話を飛ばしてきた。
 
『ラケシス様から連絡がきた。宝玉が少し大きくなったみたいだ。予定より大きくなるのが早いのが気にかかるらしい』
 
 えっ!
 それって、大丈夫なの!?
 今すぐ爆発しないよね!?
 
『まだ爆発の段階ではないが、予定よりだいぶん早く大きくなっている。このままの調子で大きくなると、1年後には爆発するんじゃないかというのがラケシス様の予測だ』
 
 1年後!?
 
 それはちょうど、私が断罪後に処刑される頃と一緒なのでは!?
 
 
『タイムリミットは1年後。それまでに宝玉を回収しなければ、処刑と爆発が同時に起きるな』
 
 
 冗談では済まされない事をグレイは平然と言う。
 
 マジか。
 
「何で急に大きくなったのかしら……」
 
 私の疑問に、グレイは、真剣な表情で話す。
 
「悪意や欲を予想以上にたっぷりと吸い込んだんじゃないのか」
 
 なるほど……
 
 この世界は人間の悪意や欲が渦巻いている。
 いや、この世界に限った事では無い。前世でもそうだった。
 人間は欲深いものだ。誰しも全く悪意を持たずに生きている人間もいないはず。
 
 そんな世界に神界の物が耐えられるわけがない。今まで呑気に構えていたけど、本当はギリギリの状態だったのかな。
 
「ごめんね。真剣に宝玉回収に向けて頑張るわ。グレイ、手伝ってね」
 
 私が真剣な表情でそう言うと、グレイはフッと笑って、私の頭をグシャグシャと撫でた。
 
「そう思い詰めるな。俺の役割でもあるんだ。この世界もお前も救ってやるよ」
 
 
 その様子を見ていた他のクラスメイト達のどよめきが聞こえてきた。
 
 
「ちょ! グレイ! 髪のセットが乱れたじゃない!」
 
 急に頭を撫でられて、恥ずかしくなった私は文句を言いながらその気持ちを誤魔化す。
 
 
 びっくりした。
 グレイってば、人間の姿だと妙に色気のある青年だから、一緒にいると時々落ち着かないのよね。
 
 元はケット・シー。
 元はケット・シー。
 
 忘れるな、私。
 
 火照った頬を誤魔化すように、私はそう自分に言い聞かせていた。
 
 
 
 
 グレイから宝玉の事を聞いた私は、どうやって宝玉を取り返すかをずっと考えていた。
 
 う~ん、どんな想像魔法を作り出せばいいのかな? 宝玉を探し出す探知機みたいな魔道具を作り出す? って、それ、どんなの?
 想像力があると自負していたのに、いざとなると具体的に思い付かない。
 
 う~ん、う~んと、気が付けば、悩みすぎて唸っていたらしい。
 
「エマ・ベルイヤ! 集中出来ないのなら出ていけ!」
 
 あ……。
 今は、聖属性魔法の授業の最中だった……。
 
「申し訳ございません」
 
 私は頭を下げて、アストナ先生に謝る。
 
 いつもなら、ちゃんと謝る生徒にはすぐに許し、授業を再開するのに、この日は違った。
 
 
「エマ・ベルイヤ。無詠唱が出来るからと奢っているのか? 私の授業が退屈なら出ていってくれて構わないぞ!」
 
「いえ! 本当に申し訳ございません!」
 
 アストナ先生のこんなに怒る姿は初めてで、戸惑いながらも必死で謝る。
 
「二度目はないぞ! しっかり集中しろ!」
 
 そう言って、アストナ先生は今度はアリアに話しかける。
 
「アリア・マリーネット。流石だな。この魔力の扱いは難しいんだ。よく練習出来ている」
 
「はい! ありがとうございます!」
 
 アストナ先生のアリアを見つめる目がとても優しく、先程、私に見せた冷たい視線とは雲泥の差だ。
 
 何か違和感を感じながらも、授業を受ける。
 
 
 そして、その違和感はその日から続いた。
 
 授業では必ずアリアを褒め、アリアに対する距離感がやたらと近い。
 
 一方、私に対する態度が今までにない程冷たく、時に蔑むような視線すら感じる。
 
 
 アリアへの対応は他の生徒にも感じるようで、いつの間にか、アストナ先生のアリア贔屓は学園内でも有名になっていた。
 
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