私の婚約者様

ひろのひまり

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 「そしてあのサプリメントを医師団に鑑定して貰った所、禁止薬物のアランが入っていたそうです」

 
 禁止薬物アランとは常習性・依存性が高く危険な薬物として認識されています。
 幻覚に取り憑かれたり、凶暴性が高くなったりするそうです。


 「このサプリメントを使って、この国の内部から崩していこうという隣国の間者や密輸グループは既に捕まっています」


 ザワッと一際大きな騒めきと共に王宮騎士団がジム達を取り囲みました。


 「私っ!! そんなの知らないわよ!! 高位貴族に、王宮にサプリメントを配ればいいって! そしたら高位貴族の妻になれるって、もしかしたら王妃にもって……言われたから!!」
 「だから? 知らないとは言えないだろう。国が少なからず危険に晒されたのだから」

 「オイ! スージーに触るな!」
 「スージーは僕の物だぞ!」
 「スージーは私の事が一番だと言ってくれたのに……」
 「スージー……あの日の語らいは嘘だったのか……? 王妃に……なりたいだけ? そんな……」
 

 ジムとその側近達が怒鳴ったりブツブツと呟いていたりと気味が悪い。


 「チッ、私は……!!」
 「……スザンヌ・マリオエラ子爵令嬢。貴方は学園内に混乱を招いた。そしてそれは王宮にまで及んだ」
 「フレディ! スージーは悪くない! 悪いのは……オレだ。王宮に何も考えずに持ち込んだのはオレだ! スージーは騙されていただけだ!」

 
 ジムがかのご令嬢を庇い自分が悪いと叫びました。

 「罰は受ける! オレはスージーと共に!」
 「ちょ、私はそんな罰なんて受けないわよ!」


 ご令嬢のその一言に全員が一瞬えっ!? と固まりました。


 「──スージー?」
 「なっ何よ! 私はアンタ達に少しだけサプリメントを勧めただけ! それなのに混乱を招いただなんて、勝手な事言わないで!」

 
 あぁ、このご令嬢はダメですね……。


 「──スージー?」
 「そっそれに! 私は! 別に王妃になりたいわけじゃないんだから!」
 「スージー……あの愛を囁き合ったのは……嘘だったのか?」
 「そんなのその場のノリみたいな物よ!!」
 
 
 膝から崩れ落ちたジムが痛々しいです。
 

 「スージー! やっぱり僕と一緒になる為に殿下の事は……」
 
 
 そう声を上げたのは側近の一人。

 
 「お前何を言ってるんだ! スージーはオレと一緒になるんだ! 殿下やお前らにはしつこくされて困ってるって言ってたんだぞ!!」


 側近達がギャーギャーと騒ぎ立てています。


 「お前達もう黙れ!!」
 「──フレディ!! 私!!」

 
 ご令嬢がフレディを見上げてウルウルしていますが、フレディはチラリと見下げるとすぐに視線を逸らしました。


 そして盛大なため息を吐いて話し始めました。


 「──ここに、隣国からの密輸とハイデロ商会に関する文書、ハイデロ商会とマリオエラ子爵との関連の文書があります。そこにはマリオエラ子爵令嬢、貴方の事も記載されています」

 「──っな、何が書いてあると言うのよ! そんなのでっち上げかもしれないじゃない!!」


 「スザンヌ・マリオエラ子爵令嬢。貴方は学園入学からまず担任を身体を使って陥落させサプリメントを勧めた。その後担任を介してジェイムズ殿下の側近の一人に接近、陥落。更に側近達に近づき最終的にジェイムズ殿下に接近、陥落。ジェイムズ殿下はマリオエラ子爵の勧めるハイデロ商会を王宮の高位貴族に紹介していった」


 今回の事件の流れをフレディが説明しています。目が泳いでいる人達がなんて沢山いる事でしょうか。


 「ハイデロ商会の裏にはマリオエラ子爵、そして隣国の者たちが。マリオエラ子爵は密輸が成功し国内にサプリメントを広めた。その功績もあり隣国が自国を占拠した暁には国の中枢を担う席を用意すると言われていた。スザンヌ・マリオエラ貴方はその時に隣国から来る予定の上位貴族もしくは王族の者との婚姻を約束されていますね」

 「──っっ」
 「スージー……」

 
 ジェイムズ殿下と側近達の血の気も抜けきってしまった真っ白い顔が目の下の隈だけがハッキリとしていてとても恐ろしいモノのように見えました。

 
 「そして隣国の兵士達を入国させる為に入国審査官達にも積極的に配っている。全ては秘密裏に行われていた筈だった」

 
 かのご令嬢は既に王宮騎士団に囲まれて項垂れているマリオエラ子爵の方を見て更に顔を青ざめさせました。


 「筈だったんですよね? マリオエラ子爵。唯一隣国からの密輸ルートをたった一度だけ誤ってしまった。メルベルク辺境伯領を通るなんて自首しに行ったような物ですよ」

 
 マリオエラ子爵はバッと顔を上げフレディを睨みました。
 フレディはそれを蔑んだ表情で見つめ返すと話を続けました。


 「国で一番の砦を通るなんて、それだけ時間と余裕が無かったのでしょうが……あの砦には国内一の兵士団がいます。死角なんてないのですから。今回の件は辺境伯領を越えようとしなければここまで早い対応は出来なかったと思います」


 ギャラリーの皆さんが私を見て来ます。
 まぁ、辺境伯令嬢ですからね。ただ、私が今回の件に随分と絡んでいる事を知っているのはフレディとベス、あとは王家の一部以外にはおりません。

 正気でしたら、ジムもピンと来た事でしょうね。


 「マリオエラ子爵、そしてマリオエラ子爵令嬢、貴方達の逮捕状が出ています。しっかりと罪を償ってください」
 
 「イヤ──ッ!! ジム!! 助けて!!」
 

 騎士団の一部がかのご令嬢を囲み両手を拘束し、マリオエラ子爵と共に幽閉される事になりそうです。

 ───そして、ジェイムズ殿下は膝をついたまま唖然とし固まったままでした。


 「ジェイムズ……ジム」
 「──フレディ……オレは……」
 
 
 ふと、ジムの視線がベスへと止まりました。
 救いを求めるようなそんな視線を。


 「──べ…」
 「とんだ茶番劇ですね!! 兄様」


 その間に割って入ったのはこの国の第二王子であるグレナエル・ブルオニア殿下でした。

 
 「貴方のしでかした事、それの尻拭いをエリザベスが全て行ってくれていたのですよ!」

 「──グレン、口を慎め!」
 「兄様、今の貴方にそんな事を私に言う権利はもう……無いのですよ」

 
 どう言う事だという表情でジムは周囲を見渡しました。

 皆の蔑んだ顔を見たジムは膝を突いたまま項垂れました。


 「ジェイムズ殿下……顔を上げて立ち上がって下さい。貴方は曲がりなりにも王族なのですから」
 「ベス……」

 
 「──そこまでだな」



 ホール内に静かに心地良い声が響き渡りました。
 
 

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