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しおりを挟むホールに響き渡った声の主は彼等の父でありこの国の王、セザール王でした。
「──ち、父上……」
「──ジムよ、愚かな事をしでかしてくれたな……」
「オ、私は!! そんなつもりでは!!」
「そんなつもりでなくて、なんなのだ!! 物事の本質を見抜くのも王としての資質だと、常に言ってきたではないか……」
「父上……」
はぁ……と、王は皆の前では珍しく溜息を吐くと、気を取り直し周囲を見渡しました。
「この場にいる皆ももう全てを知ったな?」
騒めきが広がり皆に同時に動揺も広がりました。
「我が国は……オデロン商会、マリオエラ子爵と隣国により危機に晒されていた。それを食い止めたのはここにいるエリザベス、フレデリック、グレナエル……ルイーズ。そして何より辺境伯領の兵士達だ。彼等が居なければこの国は占拠されどうなっていたか分からぬ。感謝する。本当にありがとう」
ザワザワとしながらも王の次の言葉を聞き流さないように騒めきはすぐに治りました。
「ジム……ジェイムズ、お前は勝手にエリザベスとの婚約も破棄すると宣言した。この場の皆が聞いておった。……しかと、その願い受け入れよう」
「──っっ! 父上っっ!! お待ち下さいっ! わ、私は!!」
「兄上は永遠の愛をマリオエラ子爵令嬢と交わされたのでしょう? その口で何を言い出そうと言うのですか?」
「──グレンッ!! お前はっ!!」
「兄様、ベスが貴方の婚約者である理由がもう無いのですよ?」
「ベス!! 聞いてくれっ! 私は」
「ええ、ジェイムズ殿下……。婚約破棄謹んでお受けいたします。ご安心なさって?わたくし悲しくもなんとも無いので」
え? とジムの顔が固まりました。
ジムとベスの婚約は王家側がジムの後ろ盾にどうしても付いて欲しいヴァントウェル侯爵家に無理を言って叶った事でした。
ジムの母親は爵位の低い家の出だったので、ジムを次世代の王に推すにはどうしても高位貴族で尚且つ発言力のある後ろ盾が必要だったのです。
そこでベスが持ち上がったのです。
ヴァントウェル家は始めはお断りしていたそうです。何故なら……第二王子のグレンとベスの方が仲が良く、幼少時にグレンがベスに求婚していたのを知っていたからです。
それでもどうしても、と王と王妃の懇願を受ける形でヴァントウェル家は了承したそうなのです。
親同士も、仲が良かったので力になってあげたいという気持ちが強かったという事もあるのでしょう。
許されざる二人の幼い恋心は見ないように、溢れ出さないようにしっかり蓋をしていた筈です。
なのにそれを外したのは他でも無いジェイムズ第一王子その人だったのですから。
ベスがジムに苦言を呈しても聞いてもらえない、どうしようもなくなったその時にグレンと再び出会ってしまったのです。
それはもう運命でしょう。
その後は王宮でのジムの公務等をグレンとベスが滞り無く進めて行ったのです。
「ジムよ……ジェイムズ・ブルオニアよ。お前は私利私欲の為に我が国を脅威に陥れた。それにより王位継承権の剥奪、王都より追放し北の塔への幽閉とする」
「──!! 父上!!」
「そして、側近達はまず薬を抜く事。話はそれからだ。ただし、爵位は返上もしくは下位に下がると思いなさい」
「──っっは!」
ジムの側近達は震えながらもそう答え、もっと酷い罰にならなかった事に安堵しているようでした。
「そして……グレナエル・ブルオニア第二王子に継承権を与え、立太子とする。そしてエリザベス・ヴァントウェル侯爵令嬢との婚約を結ぶ事をここに宣言する。フレデリック・ルフェーブルをグレナエルの側近筆頭に置く。以上だ」
ザワッと騒めきがピークに達し、ジムを王宮騎士達が拘束するともう何もかもが終わった……といった顔でジムは静かに部屋を出て行きました。
北の塔は貴族の幽閉場所で、寂しく何も無い場所です。そこへ入るが最期、私達が知り得ない辛い日々が始まるのです。
ザワザワと騒めきは収まらずベスとグレンが手を取り合っている姿を皆が見守っている中、私の婚約者様は嬉しそうに私の元へと戻って来ました。
「ルー!! 終わったよ!! ご飯食べよ? アーン!」
この状況下でこう言える私の婚約者様には耳と尻尾が見えるような気がしました。
「──。フレディ、まだ王も皆も居るのよ?」
「でも、もう終わりでしょう? ルー! 帰って膝枕だよ!!」
「──仕方ないわね」
私の婚約者様は最後までブレる事はありませんでした。
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