乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか〜

ひろのひまり

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71.何が出来るか分からなくなりました?

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 「……というわけなの」

 
 実戦訓練が終わって初めての週末、休みなので外出許可を貰ってヘルの所に遊びにきました。

 ヘルにダンジョンでの自分のヘタレエピソードを聞いてもらっています。


 『リリィは…優しいんだね』
 「……うーん、優しい…とは違うんじゃないかなぁ…ただ自分の手を汚したくなかったっていうだけの嫌な奴って事……」

 
 自分のセリフに少なからずキズ付いてボフンと膝に乗せた柔らかいクッションに顔を埋める。

 するとフフッとヘルの笑い声が聞こえてきた。


 『優しいよ?魔物に対して普通の生き物っていう認識でいるって事でしょう?それって珍しい事よ』
 「──え?」

 『……人は魔物魔獣を普通の生き物としては見ていないと思うわよ?完全にただの恐ろしいモノ、排除すべきモノとして認識していると思うわ』

 「でも…魔物だって生きてる……」

 『そこがリリィが人と違う所よね。……例えば魔物を確実に倒す力を持っていたとしたら大抵の人は魔物が居たらすぐに倒すよ』
 
 「何もしていないのに?」
 
 『そう何もしていないのに。リリィは何もしてこなければ放置するでしょう?』
 
 「……うん。多分……」

 『……でもね、この国、この世界の人間は魔物や魔獣に蹂躙されたり酷い目に遭う事も多いの。だからそこに魔物が居れば、その時は何もしていなくても今後何かするかもしれない、誰かを傷つけたりするかもしれない、という気持ちが根底に植わっているのでしょうね。だから敵視するし討伐に向かうのだと思うわ』



 ──この世界の……人間。


 やっぱり前の世界の記憶が私をそういう気持ちにさせないんだろうか。
 なら、それはそれでこの世界で私に出来る事を探してやっていけばいい…そう思って良いのだろうか……。

 ……例えば戦わなくてはいけなくなった時、私は自分では出来ないのだから後方支援をさせてもらえばいい?そういうのってどうなんだろう……。


 『そういう役もあるよ?例えば戦闘はリリィ自身が手を下さなくても兄様達に命じて任せてしまったらいい。リリィは守りを固めたり回復に努めたら良いんじゃないの?』

 「でもさ、それって逃げ?にならない?持ってるモノは他の人よりもきっと……遥かに多いのに……」

 
 そうか、こんなにも悩むのはきっと誰よりも恵まれた能力と仲間がいるから。
 宝の持ち腐れってやつだ。
 こんな自分に相応しくない……そう思われるのが嫌なんだ……最低じゃん。


 『考えすぎだと思うけどね。誰も兄様達をリリィから取り上げたりなんてしないよ?もちろん精霊王も。だって皆、リリィが好きでそばにいるんだから』

 「うーーーっ。ヘルゥッ…ありがどゔ…」

 『フフ、なんで泣くのよ?鼻水垂れてるわよ?』


 ズビズビしていたらスケルトンがハンカチを差し出してくれた。

 「ありがとう…」

 カクカクとスケルトンが頭を揺らして去って行く。
 皆優しいなあ、この優しさにちゃんと返せるようになりたい。
 

 『リリィを泣かすなよ?』
 『なによ。セル兄こそちゃんとリリィを支えてあげなさいよ?』
 

 兄妹喧嘩が始まってしまったわ……止めないと!でも、フフ……ヘルに話したらなんか分かった気がするな。


 ヨシ、本を読もう!勉強しよう!



 ◇◇◇


 
 ヘルのお陰で何となくやれそうな事が見つかりそうだったので、学園に戻って図書館にやってきました。

 扉横のパネルに魔力を流してロックを解除し重厚な扉をギィッと開いて中を覗くと、膨大な数の本が鎮座していました。

 
 「初めて入ったけど…すごい量……」

 
 前にイザベル様が学園の図書館はジャンルがほぼ網羅されていて間違いなく国内ナンバーワンだって言ってたくらいだから、私が出来るかもしれない何かに繋がる物が見つかるかもしれない…。
 
 司書の方々にペコリと頭を下げて館内を見て回る。

 小説や画集、歴史書に専門書……沢山ありすぎてどこをどう見ていいのか分からなくて少し途方に暮れた。


 「うん…?どうしようかな……」
 
 「何かお探しかな?」


 急に声を掛けられたからかビクッとしてしまって、申し訳ない気持ちになりながら後ろを振り返った。

 そこには白髪に立派な髭を蓄えた老人が立っていた。どこかで見た事があるような……?

 
 「あ……ええとですね、戦闘に対しての後方支援に関して調べたくてですね……」

 「成る程、後方支援か……こちらへ」

 
 老人はリリィに後をついて来るように促し先を歩いていく。
 

 「魔法や戦闘についてはこの辺り一帯がそういう関係の本じゃが……後方支援とはどう考えておるのかの?」

 
 え…と、何て言ったらいいのだろう。
 

 「……怪我をしたら回復?それは普通か…怪我をしない?状態異常にならないような…その場をそのモノを…治める?何て言えばいいんでしょうか……」

 「ふむ…まだ纏まっとらん感じかの?」

 「……そうですね……まだ自分が…何が出来るのか…何をするべきなのか…」

 「フォフォフォ…大いに悩んで考えるが良いぞ?それが許されるのは学生の内だけじゃからな」

 「──そうか、まだ悩んでいてもいいんですよね……」

 「フォフォ……悩むのも勉強の内だぞ。あと……そうじゃのぅ」


 お爺さんは長い髭を触りながら何かを考えて、一つの本を出してくれた。


 「この本から何か得るモノがあればいいがの…」

 
 本をお爺さんから受け取り中を見ようとした瞬間に館内の静寂が破られた。


 「学園長!!こんな所に!!早くお戻り下さい!!」

 「──えっっ!?」

 
 学園長と呼ばれたお爺さん……確かに入学式の時に見た人だ……。


 「あっ…と大きな声で失礼致しました。さ、早く行きますよ!」

 「フォフォ…分かっておるよ。リリアーヌ・ベルナー君。君のお父上からも同じような悩みをここで聞いたものだ……フォフォ…大いに悩みたまえよ?では」

 「え!?あ、ありがとうございました!」


 フォフォ…と笑いながら学園長は去って行った。

 そしてまた図書館に静寂が戻る。
 

 手元に残った本の表紙には世界樹の絵が描かれていた。

 
 

 
 
 
 
 

 
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