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6章
雨上がる空見上げて 6章
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ノックもせずに、高山直人とプレートに書かれている部屋に俺は飛び込んだ。十二畳くらいの部屋にベッドに仰向けに寝る高山と、隣に椅子に座る中年の女性がいた。
「あの、どちらさまでしょうか?」
おしとやかな優しい言い方で、その女性は俺に聞く。しかし、内心は相当驚いただろう。いきなり勢いよく見知らぬ男が入ってきたのだから。
「あ、あの・・・はぁはぁ、あの・・・」
俺は話そうとしたが、全速力で走ってきて息が上がりうまく話せない。
「あの・・・俺、高山君とのメール仲間です。」
まだ高まる息を抑えながら俺は言った。
「はぁ・・・メール仲間・・・でも今、見ての通り直とは他の人と話せる状態じゃないんですよ。だから・・・」
女性は困ったような顔をしながら、俺と高山を交互に見る。
「いや、でも俺のせいで高山君が飛び降りたかもしれないんです。だから、高山君とちゃんと話したいんです。」
俺はそういって高山の顔の前に歩いていこうとする。しかし、女性がそれを阻むように立ち上がった。
「ちょっと状況がよく把握できませんが、とにかく今日はお引き取りください。お願いします。」
女性は俺に向かって深々とお辞儀をする。
「いや、でも俺は・・・」
「母さん、誰?」
女性と俺の会話に割り込むように、高山の声が入ってきた。女性は高山のほうに顔を向ける。
「何か、あなたのメール仲間の人だって言うんだけど・・・」
「ああ、本当?うーん、じゃあ悪いんだけど母さんちょっと部屋の外に出てもらってもいいかなあ」
「え?ああ、うん。そう。わかった。」
女性はあまり納得のいかないようで、不安そうな目で高山を見ながら外へと出て行った。
静まり返る室内。俺はゆっくりと高山の顔の前に歩み寄る。
「ああ、君だったんだ・・・何しに来たの?」
高山は別に驚く仕草も見せず、俺の顔をチラリと見て淡々と聞いてきた。
「何しに来たって、だってまさか俺・・・お前が本当に・・・」
「死のうとするとは思わなかった。」
言葉を詰まらせた俺に、高山は俺の思っていることがわかりきっているかのように言葉を付け足す。俺はそれに小さく頷くしかなかった。
「あぁ・・・でもカッコ悪いよね。まさか死に損ねるとはね。」
高山は口もとだけ笑いながら言った。
「そんなこと言うなよ。もし、お前が死んじゃったら俺・・・俺・・・」
「どうするんだよ。泣きながら腹抱えて笑うのか?」
「そんな・・・そんなわけないだろ!」
俺は思わず怒鳴ってしまった。
「何、大きな声出しているの?だってそうじゃないか。君と僕とメル友になったのも、罰ゲームなんだろう?仕方なく、僕とメールしていたんだろう?」
高山の顔から笑顔が消え、今度は唇をギュッと噛み締め小刻みに震わせた。
「あぁ、確かにそうだけど・・・別にそんなことくらいで死のうとするなんて・・」
「ああ、確かにそうだけど、それだけで死ぬのはおかしいかい?」
高山は目を赤く染め、涙を堪えているようだった。
「最初メールが来たとき、絶対悪戯だって確信したよ。でも、今もそうだけどそんな悪戯でもふざけてても僕を助けてくれる、そばにいてくれる人がいるとそれをバカ正直に信じるくらい、僕は孤独で一人ぼっちで寂しかった。」
高山の目から堪えきれなくなった涙が流れ始めた。
「ちょっと前に両親が別居を始めてさ、だから二人とも自分のことで一杯一杯でさ、結局僕は同居している母さんの父さんへの愚痴を聞くばかり。僕のことなんて一つも考えちゃいない。もちろん、学校でいじめられていることも話せなかった。でも、学校のいじめは日に日にエスカレートする。学校にも家にもどこにも僕を気にかけてくれる人はいなくなった。」
俺は俯いたまま、何も話すことができなかった。
「僕は本気で死んでやると思った。もう迷いなどなかった。でも、そんな時に君のメールが届いて、ちょっとふざけ半分でメールをやってみることにした。それで嘘か本音かわからないけど、君の言葉が深く閉ざしていた僕の心に響いた。いや、言葉というよりもちょっと乱暴な言葉だけど本気で僕のことを考えてくれる人がいるってことが、本当に嬉しかったんだ。」
なんだか、こうやって初めて顔と顔とで直接高山と話してみると、俺の勝手に想像していた高山とは全く別人だと感じた。ここまで悩み、ここまで深く物事を考えている奴だとは思ってもみなかった。
「だから罰ゲームだって言われたとき、やっぱりなって思ったんだけど、なんかすごく悲しくなって涙が出てきて・・・泣き終わった頃には吹っ切れて飛び降りることができたよ。なのに・・・ついてないなあ・・
・」
高山は小声で悲しげに笑う。
「ごめんな・・・」
今、俺は高山の本当の気持ちと真正面に向き合って自然とこの言葉が口から出た。
「ごめんじゃ済まされないと思うけど、酷い事してごめん。お前の気持ちなんか考えないで俺・・・俺・・
・」
俺は人の気持ちにここまで鈍感だった自分への苛立ちと、高山に申し訳ない気持ちで涙が溢れてきた。
「な、何を今更・・・今更言われたって・・・チクショウ!!」
高山は叫びながら布団を手で手繰り寄せ、顔を隠して声を出して泣き始めた。
俺もしばらくは、涙が止まらずに腕で目を隠しながら高山と一緒に啜り泣きしていた。
「あの、どちらさまでしょうか?」
おしとやかな優しい言い方で、その女性は俺に聞く。しかし、内心は相当驚いただろう。いきなり勢いよく見知らぬ男が入ってきたのだから。
「あ、あの・・・はぁはぁ、あの・・・」
俺は話そうとしたが、全速力で走ってきて息が上がりうまく話せない。
「あの・・・俺、高山君とのメール仲間です。」
まだ高まる息を抑えながら俺は言った。
「はぁ・・・メール仲間・・・でも今、見ての通り直とは他の人と話せる状態じゃないんですよ。だから・・・」
女性は困ったような顔をしながら、俺と高山を交互に見る。
「いや、でも俺のせいで高山君が飛び降りたかもしれないんです。だから、高山君とちゃんと話したいんです。」
俺はそういって高山の顔の前に歩いていこうとする。しかし、女性がそれを阻むように立ち上がった。
「ちょっと状況がよく把握できませんが、とにかく今日はお引き取りください。お願いします。」
女性は俺に向かって深々とお辞儀をする。
「いや、でも俺は・・・」
「母さん、誰?」
女性と俺の会話に割り込むように、高山の声が入ってきた。女性は高山のほうに顔を向ける。
「何か、あなたのメール仲間の人だって言うんだけど・・・」
「ああ、本当?うーん、じゃあ悪いんだけど母さんちょっと部屋の外に出てもらってもいいかなあ」
「え?ああ、うん。そう。わかった。」
女性はあまり納得のいかないようで、不安そうな目で高山を見ながら外へと出て行った。
静まり返る室内。俺はゆっくりと高山の顔の前に歩み寄る。
「ああ、君だったんだ・・・何しに来たの?」
高山は別に驚く仕草も見せず、俺の顔をチラリと見て淡々と聞いてきた。
「何しに来たって、だってまさか俺・・・お前が本当に・・・」
「死のうとするとは思わなかった。」
言葉を詰まらせた俺に、高山は俺の思っていることがわかりきっているかのように言葉を付け足す。俺はそれに小さく頷くしかなかった。
「あぁ・・・でもカッコ悪いよね。まさか死に損ねるとはね。」
高山は口もとだけ笑いながら言った。
「そんなこと言うなよ。もし、お前が死んじゃったら俺・・・俺・・・」
「どうするんだよ。泣きながら腹抱えて笑うのか?」
「そんな・・・そんなわけないだろ!」
俺は思わず怒鳴ってしまった。
「何、大きな声出しているの?だってそうじゃないか。君と僕とメル友になったのも、罰ゲームなんだろう?仕方なく、僕とメールしていたんだろう?」
高山の顔から笑顔が消え、今度は唇をギュッと噛み締め小刻みに震わせた。
「あぁ、確かにそうだけど・・・別にそんなことくらいで死のうとするなんて・・」
「ああ、確かにそうだけど、それだけで死ぬのはおかしいかい?」
高山は目を赤く染め、涙を堪えているようだった。
「最初メールが来たとき、絶対悪戯だって確信したよ。でも、今もそうだけどそんな悪戯でもふざけてても僕を助けてくれる、そばにいてくれる人がいるとそれをバカ正直に信じるくらい、僕は孤独で一人ぼっちで寂しかった。」
高山の目から堪えきれなくなった涙が流れ始めた。
「ちょっと前に両親が別居を始めてさ、だから二人とも自分のことで一杯一杯でさ、結局僕は同居している母さんの父さんへの愚痴を聞くばかり。僕のことなんて一つも考えちゃいない。もちろん、学校でいじめられていることも話せなかった。でも、学校のいじめは日に日にエスカレートする。学校にも家にもどこにも僕を気にかけてくれる人はいなくなった。」
俺は俯いたまま、何も話すことができなかった。
「僕は本気で死んでやると思った。もう迷いなどなかった。でも、そんな時に君のメールが届いて、ちょっとふざけ半分でメールをやってみることにした。それで嘘か本音かわからないけど、君の言葉が深く閉ざしていた僕の心に響いた。いや、言葉というよりもちょっと乱暴な言葉だけど本気で僕のことを考えてくれる人がいるってことが、本当に嬉しかったんだ。」
なんだか、こうやって初めて顔と顔とで直接高山と話してみると、俺の勝手に想像していた高山とは全く別人だと感じた。ここまで悩み、ここまで深く物事を考えている奴だとは思ってもみなかった。
「だから罰ゲームだって言われたとき、やっぱりなって思ったんだけど、なんかすごく悲しくなって涙が出てきて・・・泣き終わった頃には吹っ切れて飛び降りることができたよ。なのに・・・ついてないなあ・・
・」
高山は小声で悲しげに笑う。
「ごめんな・・・」
今、俺は高山の本当の気持ちと真正面に向き合って自然とこの言葉が口から出た。
「ごめんじゃ済まされないと思うけど、酷い事してごめん。お前の気持ちなんか考えないで俺・・・俺・・
・」
俺は人の気持ちにここまで鈍感だった自分への苛立ちと、高山に申し訳ない気持ちで涙が溢れてきた。
「な、何を今更・・・今更言われたって・・・チクショウ!!」
高山は叫びながら布団を手で手繰り寄せ、顔を隠して声を出して泣き始めた。
俺もしばらくは、涙が止まらずに腕で目を隠しながら高山と一緒に啜り泣きしていた。
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