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3章
人と人との間で思う 3章
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自分がずぶ濡れになっているのもわからず、無我夢中で走り続けるまり子。しばらく走り、まり子は後ろから安田が追いかけてこないのを見ると足を止めた。
(どうして・・・どうして私だけこんな目にあわないといけないの?)
まり子は身体が濡れる寒さと、悲しみで身体は震え、涙があふれ出てきて止まらなくなった。
(もう、嫌だ・・・いっそ死にたい。そうだ、死のう・・・そうだ、死のう・・・)
まり子は涙を手で拭ってヨロヨロと当てもなく歩き始めた。
そしてまり子がもう一度足を止めたのは、茶色いレンガで覆われた古いマンションだった。
まり子は上を見上げる。窓を一回一回数えていくと、このマンションは六階建てのマンションだとわかり、屋上にはフェンスがなさそうだった。
(ここから飛び降りれば、死ねるかも・・・)
まり子はマンションの中に入り、エレベーターに乗って屋上へと上った。
エレベーターのドアが開くと、雨はさらに激しさを増していた。屋上の端までゆっくりと歩き、段に片足を乗せた。下を見下ろすと、眩むような景色が目に入ってきた。
(ここなら死ねる・・・よし。)
まり子は両足を段に乗せ、重心をつま先に乗せた。
(さあ、飛び降りろ。飛び降りれば楽になれる。あんな思いをしなくてすむ。)
まり子は目をつぶった。そして自分が今まで強いられた苦痛を頭の中でフィードバックさせる。
(でも、ここから飛び降りたら痛いだろうなあ・・やっぱり怖いなあ・・・いやいや、大丈夫。痛いのは一瞬だけだし、これから生きるほうがよっぽど苦痛よ。)
まり子は目の前の恐怖に打ち勝つように自分に言い聞かせる。しかし、気持ちは飛び降りたくとも、足が全く動こうとしない。
バシャ、バシャ、ドンドン
その時だった。まり子の乗っている段に誰かが勢いよく乗り、振動が足に伝わった。ハァハァという息を吐く音が聞こえる。
まり子は気になり、息の吐くほうへ顔を向けた。
まり子の左五メートルくらい先に男が立っていた。長髪のこけた頬、針金のように痩せた身体。
(この人も飛び降りようとしているのだろうか?)
まり子の頭をふと過ぎる。しかし、
(いい。人のことはどうでもいい。早く飛び降りなければ。でも・・・)
まり子はなぜか男の存在が気になって仕方がなかった。頭の中がモヤモヤして仕方なかった。
「あのう・・・率直に聞きますが、あなたもここから飛び降りようとしています?」
男はまり子の声が聞こえたのか聞こえなかったのか、無言で直立不動に立っていた。
「あのう!聞こえていますか?あなたも死にたいんでしょ?」
今度は雨の音にも負けない大声で、まり子は男に話しかける。しかし、男は無言のままであった。まり子は諦めずにもう一度呼びかける。
「あのう!あなたは」
「ああ!うるさいなあ!なんなんですか!」
男はやっと反応を示した。しかし、それはあまりいい反応ではなかった。
「ああ、やっとこっちを向いてくれた。あのう、あなたも死のうとしているんでしょ?」
「ええ、そうですけど。見ればわかるでしょ?あなたも変な人ですねえ?」
男は飛び降りるタイミングを逃され、怒り呆れ返った。
「ああやっぱり。どうして死ぬんですか?」
何故こんな質問をしたのだろうかまり子にも全くわからなかった。死ぬということで思考回路が狂っていたのかもしれない。ただ、聞きたい気分だったということだけであった。
「はぁ?あんたなに言っているんだ。普通、今死ぬぞって言う人にそんなこと聞きますか?」
男の言う通りだとまり子自身も思った。しかし、
「別にいいじゃないですか。私たち、何分か後にはこの世にはいないんですから。最後の遺言として言い合いましょうよ。」
(どうして・・・どうして私だけこんな目にあわないといけないの?)
まり子は身体が濡れる寒さと、悲しみで身体は震え、涙があふれ出てきて止まらなくなった。
(もう、嫌だ・・・いっそ死にたい。そうだ、死のう・・・そうだ、死のう・・・)
まり子は涙を手で拭ってヨロヨロと当てもなく歩き始めた。
そしてまり子がもう一度足を止めたのは、茶色いレンガで覆われた古いマンションだった。
まり子は上を見上げる。窓を一回一回数えていくと、このマンションは六階建てのマンションだとわかり、屋上にはフェンスがなさそうだった。
(ここから飛び降りれば、死ねるかも・・・)
まり子はマンションの中に入り、エレベーターに乗って屋上へと上った。
エレベーターのドアが開くと、雨はさらに激しさを増していた。屋上の端までゆっくりと歩き、段に片足を乗せた。下を見下ろすと、眩むような景色が目に入ってきた。
(ここなら死ねる・・・よし。)
まり子は両足を段に乗せ、重心をつま先に乗せた。
(さあ、飛び降りろ。飛び降りれば楽になれる。あんな思いをしなくてすむ。)
まり子は目をつぶった。そして自分が今まで強いられた苦痛を頭の中でフィードバックさせる。
(でも、ここから飛び降りたら痛いだろうなあ・・やっぱり怖いなあ・・・いやいや、大丈夫。痛いのは一瞬だけだし、これから生きるほうがよっぽど苦痛よ。)
まり子は目の前の恐怖に打ち勝つように自分に言い聞かせる。しかし、気持ちは飛び降りたくとも、足が全く動こうとしない。
バシャ、バシャ、ドンドン
その時だった。まり子の乗っている段に誰かが勢いよく乗り、振動が足に伝わった。ハァハァという息を吐く音が聞こえる。
まり子は気になり、息の吐くほうへ顔を向けた。
まり子の左五メートルくらい先に男が立っていた。長髪のこけた頬、針金のように痩せた身体。
(この人も飛び降りようとしているのだろうか?)
まり子の頭をふと過ぎる。しかし、
(いい。人のことはどうでもいい。早く飛び降りなければ。でも・・・)
まり子はなぜか男の存在が気になって仕方がなかった。頭の中がモヤモヤして仕方なかった。
「あのう・・・率直に聞きますが、あなたもここから飛び降りようとしています?」
男はまり子の声が聞こえたのか聞こえなかったのか、無言で直立不動に立っていた。
「あのう!聞こえていますか?あなたも死にたいんでしょ?」
今度は雨の音にも負けない大声で、まり子は男に話しかける。しかし、男は無言のままであった。まり子は諦めずにもう一度呼びかける。
「あのう!あなたは」
「ああ!うるさいなあ!なんなんですか!」
男はやっと反応を示した。しかし、それはあまりいい反応ではなかった。
「ああ、やっとこっちを向いてくれた。あのう、あなたも死のうとしているんでしょ?」
「ええ、そうですけど。見ればわかるでしょ?あなたも変な人ですねえ?」
男は飛び降りるタイミングを逃され、怒り呆れ返った。
「ああやっぱり。どうして死ぬんですか?」
何故こんな質問をしたのだろうかまり子にも全くわからなかった。死ぬということで思考回路が狂っていたのかもしれない。ただ、聞きたい気分だったということだけであった。
「はぁ?あんたなに言っているんだ。普通、今死ぬぞって言う人にそんなこと聞きますか?」
男の言う通りだとまり子自身も思った。しかし、
「別にいいじゃないですか。私たち、何分か後にはこの世にはいないんですから。最後の遺言として言い合いましょうよ。」
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