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8章
人と人との間で思う 8章
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亨が目を覚ましたとき、白い壁が目に映った。そして、自分がベッドで仰向けで寝ていることを自覚した。
亨は辺りを見渡す。すると、周りにも自分と同じようにベッドで横になる人物が何人もいることに気がつき、ここは病院だとわかった。
「ああ・・・亨!亨!」
声のする方へ顔を向けると、隣に涙を目にためて立っているまり子がいた。
「よかった。お、お腹刺されたってどうしようかって私・・・」
まり子は声を詰まらせた。
「ああ、僕も今気が付いたばっかりだから、何がなんだか・・・イタ!」
亨は声を出すと腹部に激痛が走り、顔を歪ませた。
「い、痛むの?そ・・・それはそうだよね。刺されたんだから。わ・・・私どうしよう。私のせいでこんな大怪我をさせちゃって。」
まり子はたまらずボロボロと涙を流し始めた。
「え?まり子のせい?どうして?って言うか、僕の身に何が起こったの?」
亨はまり子が泣いている理由もわからなければ、自分がどうしてこんな状態になっていることさえもわかっていなかった。
「あ、あのね・・・あの、ああ!私どうしよう」
まり子は両手で顔を抑えてしゃがみこんでしまった。
「ねえ、まり子、泣いてちゃわからないよ。説明してよ。」
まり子はしばらく泣き終えなかったが、時間が経ち落ち着いてくると亨に全てを話してくれた。
「出会ったときに、私が靴屋で働いていたって言ったの覚えている?そこで私、殺されそうになったって話。亨を刺したのはその私を殺そうとした安田って男よ。あいつ、私達が一緒に暮らし始めてからずっと私たちのことを監視していて、亨が一人になるタイミングを見計らって亨を殺そうとしていたの。それで一人でタバコを買いに言った亨を・・・
もし警察が巡回にあそこを通らなかったら、亨は・・・私、あの時警察に通報すればよかったんだわ。私首絞められて殺されそうになりましたって・・・でも、あの時私、動転していて・・・」
「そうか、大丈夫だよ。まり子のせいじゃない。」
また溢れ出してきた涙を袖で拭きながら、まり子は首を横に何度も振る。
「でも、僕達もう一緒に暮らすのはやめよう。」
まり子はサッと亨の顔を見た。
「まあ、僕はこの事がある前から少し考えていたんだけどさ、確かにまり子といると僕を普通の人間として扱ってくれるよ。でも、こんなことやっていても何もならないってこの頃思ってきた。というより、くだらない気がしてきた。どうして僕がまり子の力まで借りて人と仲良くしなきゃいけないの?そこまでして人に良く見せる意味ってあるのかなあ?
僕、まり子と一緒にいたり話を聞いたりして人ってつくづく自分勝手だって思った。自分が好きじゃない奴だったら、何とかして近寄らせないように傷つける言葉を平気で言ったり、遠慮なく突き放す。自分が好きで好きでたまらない奴だったら、甘い言葉を投げかけたり優しく振舞おうとする。僕達さ、人と人との間で振り回されすぎていたんだよ。もっと、自由に自分のために生きてもいいんじゃないかなあ?僕もまり子も。だから、僕はまり子と別れて自分自身の生き方を見つけたい。」
亨が言い終えると、まり子が「フフフ」と可愛く笑った。
「何だ、私も丁度そんなこと思っていたの、この頃。だから聞いたでしょ?私達の関係って何なのかって。あれを聞いたのは本当は、私もわからなくなっていたのよ。私達がどうして一緒に暮らしているのか。
自分のため?いや、違う。私は亨のことは好きだけど、愛してはいない。じゃあ、何って考えたらさあ、人の目を気にしている弱い自分が、あなたって言うお守りを欲しがっていただけだったんだって気づいた。私も亨と同じ。怖がらないで生きたい。自分勝手に行きたい。」
亨が珍しく、歯を見せて声を出さずに笑った。
「でも、私達が分かれることであなたに怪我を負わせてしまったことの償いにはならないわ。私、何でもする。何でも言って。」
亨は真顔に戻り、少し上を向いて黙り込み、そして、「じゃあ、さあ・・・」
「ん?」
「タバコ、買ってきてよ。」
「え?そんなことでいいの?もっとほら、賠償金とか・・・」
「そんなことって酷いなあ・・・僕は楽しみにしていたんだよ。一服するの。」
亨はまり子に向かって、また歯を出して笑った。「わかった。メーカーはどこがいいの?それと、私にも一本吸わせてね。」
亨は辺りを見渡す。すると、周りにも自分と同じようにベッドで横になる人物が何人もいることに気がつき、ここは病院だとわかった。
「ああ・・・亨!亨!」
声のする方へ顔を向けると、隣に涙を目にためて立っているまり子がいた。
「よかった。お、お腹刺されたってどうしようかって私・・・」
まり子は声を詰まらせた。
「ああ、僕も今気が付いたばっかりだから、何がなんだか・・・イタ!」
亨は声を出すと腹部に激痛が走り、顔を歪ませた。
「い、痛むの?そ・・・それはそうだよね。刺されたんだから。わ・・・私どうしよう。私のせいでこんな大怪我をさせちゃって。」
まり子はたまらずボロボロと涙を流し始めた。
「え?まり子のせい?どうして?って言うか、僕の身に何が起こったの?」
亨はまり子が泣いている理由もわからなければ、自分がどうしてこんな状態になっていることさえもわかっていなかった。
「あ、あのね・・・あの、ああ!私どうしよう」
まり子は両手で顔を抑えてしゃがみこんでしまった。
「ねえ、まり子、泣いてちゃわからないよ。説明してよ。」
まり子はしばらく泣き終えなかったが、時間が経ち落ち着いてくると亨に全てを話してくれた。
「出会ったときに、私が靴屋で働いていたって言ったの覚えている?そこで私、殺されそうになったって話。亨を刺したのはその私を殺そうとした安田って男よ。あいつ、私達が一緒に暮らし始めてからずっと私たちのことを監視していて、亨が一人になるタイミングを見計らって亨を殺そうとしていたの。それで一人でタバコを買いに言った亨を・・・
もし警察が巡回にあそこを通らなかったら、亨は・・・私、あの時警察に通報すればよかったんだわ。私首絞められて殺されそうになりましたって・・・でも、あの時私、動転していて・・・」
「そうか、大丈夫だよ。まり子のせいじゃない。」
また溢れ出してきた涙を袖で拭きながら、まり子は首を横に何度も振る。
「でも、僕達もう一緒に暮らすのはやめよう。」
まり子はサッと亨の顔を見た。
「まあ、僕はこの事がある前から少し考えていたんだけどさ、確かにまり子といると僕を普通の人間として扱ってくれるよ。でも、こんなことやっていても何もならないってこの頃思ってきた。というより、くだらない気がしてきた。どうして僕がまり子の力まで借りて人と仲良くしなきゃいけないの?そこまでして人に良く見せる意味ってあるのかなあ?
僕、まり子と一緒にいたり話を聞いたりして人ってつくづく自分勝手だって思った。自分が好きじゃない奴だったら、何とかして近寄らせないように傷つける言葉を平気で言ったり、遠慮なく突き放す。自分が好きで好きでたまらない奴だったら、甘い言葉を投げかけたり優しく振舞おうとする。僕達さ、人と人との間で振り回されすぎていたんだよ。もっと、自由に自分のために生きてもいいんじゃないかなあ?僕もまり子も。だから、僕はまり子と別れて自分自身の生き方を見つけたい。」
亨が言い終えると、まり子が「フフフ」と可愛く笑った。
「何だ、私も丁度そんなこと思っていたの、この頃。だから聞いたでしょ?私達の関係って何なのかって。あれを聞いたのは本当は、私もわからなくなっていたのよ。私達がどうして一緒に暮らしているのか。
自分のため?いや、違う。私は亨のことは好きだけど、愛してはいない。じゃあ、何って考えたらさあ、人の目を気にしている弱い自分が、あなたって言うお守りを欲しがっていただけだったんだって気づいた。私も亨と同じ。怖がらないで生きたい。自分勝手に行きたい。」
亨が珍しく、歯を見せて声を出さずに笑った。
「でも、私達が分かれることであなたに怪我を負わせてしまったことの償いにはならないわ。私、何でもする。何でも言って。」
亨は真顔に戻り、少し上を向いて黙り込み、そして、「じゃあ、さあ・・・」
「ん?」
「タバコ、買ってきてよ。」
「え?そんなことでいいの?もっとほら、賠償金とか・・・」
「そんなことって酷いなあ・・・僕は楽しみにしていたんだよ。一服するの。」
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