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逃れられないDom
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「『海』って、こんな臭いのか?」
「潮の香りだよ」
ウェリスが聞くと、僭王は答えた。
山と森しかない国に生まれ育ったウェリスは、『海』という言葉しか知らなかった。
視界の全てが、波立つ臭い水に満ちていた。足元は、さらさらと、一歩ごとにブーツが沈み込むような、細かい砂地だ。
歩いて行く僭王の隣を、ウェリスも歩く。――全く何も恐れてはいないという証明に。
「あったかくなって来たけど、やっぱ、まだ海風は、冷たいな~」
言いながら僭王は、ウェリスの手から上着を取って、肩に着せかけた。手からマントも取って、着けようとするのを、ウェリスは押し返し、僭王の肩に着せかけた。
マントも上着も、カニを食べている時に、すぐ目の前に、湯気を噴き上げる鍋が並んでいたこともあって、暑くて脱いでしまった。
「ありがとう」
上着を着ていないシャツだけの僭王は、マントをかき寄せた。
ウェリスには、頬を撫でる冷たい海風は、食事の後のあたたまった体に心地よいくらいだった。
砂浜を僭王は、海に向かって歩いて行く。
「夏は、めちゃくちゃ人が集まって、海に浸かってるんだぜ、温泉みたく。」
「『海』も、入ると、体にいいのか?」
「俺らが、夏に川遊びするようなもんだな。涼むため。実際、人だらけで、全然、涼しくないけど。」
波打ち際までは行かず、僭王は立ち止まる。ウェリスも立ち止まる。僭王は琥珀色の髪をかきあげて、苦笑した。
「海、見たら、もっと驚くと思ったのにな。感想は、『臭い』かよ…」
ウェリスは、両腕を大きく広げて見せた。
「大きい。広い。水がいっぱいある。」
「全然、感動してない…」
僭王はあきれて、笑った。海を見渡す。
「俺、旅してて、新しい物、びっくりする物を見ると、いつも、ウェリスに見せたいなって、思ってたよ。海も、初めて見た時、ウェリスに見せたいなあって、思った」
ウェリスは大きく広げた両腕を、下ろした。
「ほんとに、ドニなのか?」
見上げるウェリスの透き通る水晶のような瞳を、僭王は見返して、黒い瞳を逸らした。
僭王の手が、ウェリスの細い手首を掴む。瞬間、ふわっと体が浮かび上がるような感覚がした。
しまった!!
ウェリスが後悔した瞬間には、全てが遅かった。
僭王は空間移動魔術で、ウェリスと城の塔へと戻っていた。
ウェリスは紅い唇を震わせる。瞳に力を込める。結局、幽閉されていた城の塔に引き戻されてしまった絶望に泣き出したくなかった、僭王の前で。
「ウェリス、」
僭王は何かを言いかけて、大きく口を開け、黒曜石のような黒い瞳を大きく見開いた。
「やっばい!忘れるとこだった!船の荷下ろし!ちょっと待ってて。人手の手配して来るから!!ほんと待ってて!!」
言って僭王は、空間移動魔術で消えた。肩に掛けていた青いマントだけが残って、床に落ちた。
ウェリスは、石を敷き詰めた床に座り込んだ。魔力を集中する。
ここから逃げ出そうとしたことは、僭王に知れているのだ。魔術を使うことに、ためらいはない。
国の城の広間には、ウェリスの家の紋章を刻んだ鉱石が埋め込まれている。あの鉱石を目標にして、空間移動魔術で飛ぶ。
帰る。帰るんだ。私の国へ。
幽閉された城の塔の石の床の上、ウェリスは息を吐いた。
今、空間移動魔術で飛べば、心だけが、ここに残って、胸に、ぽっかりと穴が開いてしまいそうな気がした――
「潮の香りだよ」
ウェリスが聞くと、僭王は答えた。
山と森しかない国に生まれ育ったウェリスは、『海』という言葉しか知らなかった。
視界の全てが、波立つ臭い水に満ちていた。足元は、さらさらと、一歩ごとにブーツが沈み込むような、細かい砂地だ。
歩いて行く僭王の隣を、ウェリスも歩く。――全く何も恐れてはいないという証明に。
「あったかくなって来たけど、やっぱ、まだ海風は、冷たいな~」
言いながら僭王は、ウェリスの手から上着を取って、肩に着せかけた。手からマントも取って、着けようとするのを、ウェリスは押し返し、僭王の肩に着せかけた。
マントも上着も、カニを食べている時に、すぐ目の前に、湯気を噴き上げる鍋が並んでいたこともあって、暑くて脱いでしまった。
「ありがとう」
上着を着ていないシャツだけの僭王は、マントをかき寄せた。
ウェリスには、頬を撫でる冷たい海風は、食事の後のあたたまった体に心地よいくらいだった。
砂浜を僭王は、海に向かって歩いて行く。
「夏は、めちゃくちゃ人が集まって、海に浸かってるんだぜ、温泉みたく。」
「『海』も、入ると、体にいいのか?」
「俺らが、夏に川遊びするようなもんだな。涼むため。実際、人だらけで、全然、涼しくないけど。」
波打ち際までは行かず、僭王は立ち止まる。ウェリスも立ち止まる。僭王は琥珀色の髪をかきあげて、苦笑した。
「海、見たら、もっと驚くと思ったのにな。感想は、『臭い』かよ…」
ウェリスは、両腕を大きく広げて見せた。
「大きい。広い。水がいっぱいある。」
「全然、感動してない…」
僭王はあきれて、笑った。海を見渡す。
「俺、旅してて、新しい物、びっくりする物を見ると、いつも、ウェリスに見せたいなって、思ってたよ。海も、初めて見た時、ウェリスに見せたいなあって、思った」
ウェリスは大きく広げた両腕を、下ろした。
「ほんとに、ドニなのか?」
見上げるウェリスの透き通る水晶のような瞳を、僭王は見返して、黒い瞳を逸らした。
僭王の手が、ウェリスの細い手首を掴む。瞬間、ふわっと体が浮かび上がるような感覚がした。
しまった!!
ウェリスが後悔した瞬間には、全てが遅かった。
僭王は空間移動魔術で、ウェリスと城の塔へと戻っていた。
ウェリスは紅い唇を震わせる。瞳に力を込める。結局、幽閉されていた城の塔に引き戻されてしまった絶望に泣き出したくなかった、僭王の前で。
「ウェリス、」
僭王は何かを言いかけて、大きく口を開け、黒曜石のような黒い瞳を大きく見開いた。
「やっばい!忘れるとこだった!船の荷下ろし!ちょっと待ってて。人手の手配して来るから!!ほんと待ってて!!」
言って僭王は、空間移動魔術で消えた。肩に掛けていた青いマントだけが残って、床に落ちた。
ウェリスは、石を敷き詰めた床に座り込んだ。魔力を集中する。
ここから逃げ出そうとしたことは、僭王に知れているのだ。魔術を使うことに、ためらいはない。
国の城の広間には、ウェリスの家の紋章を刻んだ鉱石が埋め込まれている。あの鉱石を目標にして、空間移動魔術で飛ぶ。
帰る。帰るんだ。私の国へ。
幽閉された城の塔の石の床の上、ウェリスは息を吐いた。
今、空間移動魔術で飛べば、心だけが、ここに残って、胸に、ぽっかりと穴が開いてしまいそうな気がした――
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