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暗殺者
王の帰還
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カレンダ王国に征服された17ヵ国の元・国王たちの、王都での拘束は、1年半にも及んだ。建国王の即位式を、最前列で見せられるという屈辱を最後に与えられて、元・国王たちは解放された。
かつての我が国に戻りたがらず、あるいは、戻れず、王都に残った元・国王も少なくはなかった。
建国王への謀反の罰で、クウィム王国の元・国王セイフに命じられた邸での蟄居だけは、許されることなく、続いている。召使いたちは、誰一人、逃げ出すこともなく仕えている。
コヨミ王国の元・国王ウェリスは、商人のレミファの馬車に同乗させてもらって、かつての我が国、今の5区へ帰った。
ウェリスが帰ってしまってから、ドニは毎朝、宰相の私室――ビズーイの部屋で、朝食を食べていた。
王城に、調理場を創り、料理人たちを雇ったので、警護の魔術師たちや兵たちの部屋も創り、住まわせて、食事を出すことができるようになった。
仲間たちが、にぎやかに食事をしている食堂の方に、ドニは行こうとせず、ビズーイと向かい合って、食事を、ただ口に入れて、噛みつぶし、飲み込んでいる。
元々、ビズーイは無口で、黙々と食べる方だったが、向かい合っているドニが、いつもは食べるより、しゃべるのに忙しいのに、黙々と食べているのは、非常に耐えがたかった。
ついに、ビズーイは言ってしまった。
「ウェリスを帰さなきゃよかったじゃないか」
「何だよ?いきなり。」
ドニに聞き返されて、ビズーイは口角を、ますます下げた。
ウェリスがいなくなればいいと思ってた俺に、こんなこと、言わせるんじゃねえよ!!
心の中で罵りながら、ビズーイは言った。
「ウェリスが帰ってから、毎日、砂、食ってるような顔で、メシ、食いやがって。こっちのメシまで、不味くなるだろ」
「さびしいんだもん…」
「さびしいなら、ウェリスに『帰るな』って、命令すればよかっただろ」
言ってしまって、ビズーイは後悔した。
ドニは、首を横に振った、とても悲しい顔をして。
「ご」
「キレイな花が咲いていました」
ビズーイが「ごめん」と謝る前に、ドニが、いきなり言い出した。
ビズーイの口角が、少し上がった。
――ドニも、ウェリスを「花」に、たとえるんだな…
「花を、ブチッと摘んで、お家に持って帰って、キレイな花瓶に飾って、キレイだなー、かわいいなーって、愛でても、どんなに大切にしてても、いつかは、枯れちゃうだろ?」
「………………」
ドニの問いに、ビズーイは答えられなかった。
「けど、そこに咲いてるまんまにしとけば、やっぱり、いつかは枯れちゃうけど、また季節が巡れば、そこにキレイな花が咲くだろ?」
「………………」
ドニの問いに、やっぱりビズーイは答えられなかった。
「どこでも生きてける俺とは、ちがって、ウェリスは、コヨミ王国でしか生きてけない気は、してた。あいつが、王様だから。ってこととは、関係なく。」
ドニは、小さなため息をついた。
「もし、あの日、俺といっしょに、コヨミ王国を出て行けたとしても、俺は、ずぅーっと旅を続けたし、あいつは、いつかコヨミ王国に帰るって選択をしたんじゃないかって思うんだよ」
ドニが微笑む。
「ウェリスには、故郷で、キレイに、元気に、咲いていて欲しい」
澄んだ空気。そびえる山々。豊かな森。清らかな川。
「コヨミ王国」から「5区」と呼び名が変わろうと、何にも変わることのない故郷。
ドニが微笑みかけているのは、目の前の自分ではなく、ウェリスだということは、ビズーイには痛いほど、わかった。
最初からドニは、カレンダ王国にウェリスを留める気なんかなかったんだ。
なのに、俺は――
ビズーイは、ウェリスを陥れようとしていたことは、ドニに、どうしても話せなかった。
ウェリスは、ドニに告げ口をすることもできたのに、しなかった。
ドニとビズーイの関係を壊すことより、自分がいなくなることを選んだ。
いきなりドニが、にこっと笑顔になって、ビズーイの後悔は中途半端に終わらされた。
「会いたかったら、いつだって会いに行け痛ッ!!」
ビズーイは立ち上がり、テーブルに身を乗り出し、向かいに座るドニの腕を掴んだ。
ドニの腕を掴んだビズーイの右手の人差し指には、円陣を刻んだ鉱石が嵌め込まれた銀の指輪があった。
「ドニが、空間移動魔術で、こっちに飛んで来そうになったら止めて」
そう言ってウェリスが、ビズーイに贈ってくれた指輪だった。
ウェリスは王城の礎石である鉱石を、ちょっと割って、解除魔術の円陣を刻み、魔力を込めた。
「他の魔術も解除できるから、護身にも使えるよ」
「どうして俺なんかに…」
差し出されたウェリスの手のひらの上の指輪を、ビズーイは受け取ることができなかった。
「ドニが、ちょこちょこ、いなくなったら、ビズーイだって困るよね?」
「それはそうだけど…そういうことじゃなくて…」
「お願いだから、ドニを止めて!」
ウェリスに必死にお願いされて、ビズーイは指輪を受け取らされてしまった。
ビズーイに腕を掴まれたドニは、空間移動魔術を発動することができず、いじける。
「俺の首輪、受け取ってくんなかったのに、ビズーイに指輪を贈るって、どーゆーことだよぉう…」
ドニは、ウェリスが帰る前に、まるでレースを編んだような銀細工の首輪を贈って、求婚したのだが、
「牛みたいでヤダ」
と、受け取ってもらえなかったのだった。
コヨミ王国では、装身具を日常的に着けることがなく、首輪を着けているのは牛だけだった。
「俺の部屋のどっかに、ウェリスが鉱石、隠して行ったらしくて、空間移動魔術だけ発動できねえんだよぉぉぉぉぉ」
「さっさとメシ食って、今日は、船主組合と会談だ」
「はいはいはいはいはいはいはい」
雑な返事をするドニの腕を、ビズーイは離した。
忙しくない時に、月に一度くらいは、見逃さなきゃな。と、ビズーイは思う。
初代宰相ビズーイの指輪は今も、カレンダ王国の宰相の徴として、代々、受け継がれている。――建国王が恋人に会いに行くのを阻止するために創られたことだけは、言い伝えられなかった。
かつての我が国に戻りたがらず、あるいは、戻れず、王都に残った元・国王も少なくはなかった。
建国王への謀反の罰で、クウィム王国の元・国王セイフに命じられた邸での蟄居だけは、許されることなく、続いている。召使いたちは、誰一人、逃げ出すこともなく仕えている。
コヨミ王国の元・国王ウェリスは、商人のレミファの馬車に同乗させてもらって、かつての我が国、今の5区へ帰った。
ウェリスが帰ってしまってから、ドニは毎朝、宰相の私室――ビズーイの部屋で、朝食を食べていた。
王城に、調理場を創り、料理人たちを雇ったので、警護の魔術師たちや兵たちの部屋も創り、住まわせて、食事を出すことができるようになった。
仲間たちが、にぎやかに食事をしている食堂の方に、ドニは行こうとせず、ビズーイと向かい合って、食事を、ただ口に入れて、噛みつぶし、飲み込んでいる。
元々、ビズーイは無口で、黙々と食べる方だったが、向かい合っているドニが、いつもは食べるより、しゃべるのに忙しいのに、黙々と食べているのは、非常に耐えがたかった。
ついに、ビズーイは言ってしまった。
「ウェリスを帰さなきゃよかったじゃないか」
「何だよ?いきなり。」
ドニに聞き返されて、ビズーイは口角を、ますます下げた。
ウェリスがいなくなればいいと思ってた俺に、こんなこと、言わせるんじゃねえよ!!
心の中で罵りながら、ビズーイは言った。
「ウェリスが帰ってから、毎日、砂、食ってるような顔で、メシ、食いやがって。こっちのメシまで、不味くなるだろ」
「さびしいんだもん…」
「さびしいなら、ウェリスに『帰るな』って、命令すればよかっただろ」
言ってしまって、ビズーイは後悔した。
ドニは、首を横に振った、とても悲しい顔をして。
「ご」
「キレイな花が咲いていました」
ビズーイが「ごめん」と謝る前に、ドニが、いきなり言い出した。
ビズーイの口角が、少し上がった。
――ドニも、ウェリスを「花」に、たとえるんだな…
「花を、ブチッと摘んで、お家に持って帰って、キレイな花瓶に飾って、キレイだなー、かわいいなーって、愛でても、どんなに大切にしてても、いつかは、枯れちゃうだろ?」
「………………」
ドニの問いに、ビズーイは答えられなかった。
「けど、そこに咲いてるまんまにしとけば、やっぱり、いつかは枯れちゃうけど、また季節が巡れば、そこにキレイな花が咲くだろ?」
「………………」
ドニの問いに、やっぱりビズーイは答えられなかった。
「どこでも生きてける俺とは、ちがって、ウェリスは、コヨミ王国でしか生きてけない気は、してた。あいつが、王様だから。ってこととは、関係なく。」
ドニは、小さなため息をついた。
「もし、あの日、俺といっしょに、コヨミ王国を出て行けたとしても、俺は、ずぅーっと旅を続けたし、あいつは、いつかコヨミ王国に帰るって選択をしたんじゃないかって思うんだよ」
ドニが微笑む。
「ウェリスには、故郷で、キレイに、元気に、咲いていて欲しい」
澄んだ空気。そびえる山々。豊かな森。清らかな川。
「コヨミ王国」から「5区」と呼び名が変わろうと、何にも変わることのない故郷。
ドニが微笑みかけているのは、目の前の自分ではなく、ウェリスだということは、ビズーイには痛いほど、わかった。
最初からドニは、カレンダ王国にウェリスを留める気なんかなかったんだ。
なのに、俺は――
ビズーイは、ウェリスを陥れようとしていたことは、ドニに、どうしても話せなかった。
ウェリスは、ドニに告げ口をすることもできたのに、しなかった。
ドニとビズーイの関係を壊すことより、自分がいなくなることを選んだ。
いきなりドニが、にこっと笑顔になって、ビズーイの後悔は中途半端に終わらされた。
「会いたかったら、いつだって会いに行け痛ッ!!」
ビズーイは立ち上がり、テーブルに身を乗り出し、向かいに座るドニの腕を掴んだ。
ドニの腕を掴んだビズーイの右手の人差し指には、円陣を刻んだ鉱石が嵌め込まれた銀の指輪があった。
「ドニが、空間移動魔術で、こっちに飛んで来そうになったら止めて」
そう言ってウェリスが、ビズーイに贈ってくれた指輪だった。
ウェリスは王城の礎石である鉱石を、ちょっと割って、解除魔術の円陣を刻み、魔力を込めた。
「他の魔術も解除できるから、護身にも使えるよ」
「どうして俺なんかに…」
差し出されたウェリスの手のひらの上の指輪を、ビズーイは受け取ることができなかった。
「ドニが、ちょこちょこ、いなくなったら、ビズーイだって困るよね?」
「それはそうだけど…そういうことじゃなくて…」
「お願いだから、ドニを止めて!」
ウェリスに必死にお願いされて、ビズーイは指輪を受け取らされてしまった。
ビズーイに腕を掴まれたドニは、空間移動魔術を発動することができず、いじける。
「俺の首輪、受け取ってくんなかったのに、ビズーイに指輪を贈るって、どーゆーことだよぉう…」
ドニは、ウェリスが帰る前に、まるでレースを編んだような銀細工の首輪を贈って、求婚したのだが、
「牛みたいでヤダ」
と、受け取ってもらえなかったのだった。
コヨミ王国では、装身具を日常的に着けることがなく、首輪を着けているのは牛だけだった。
「俺の部屋のどっかに、ウェリスが鉱石、隠して行ったらしくて、空間移動魔術だけ発動できねえんだよぉぉぉぉぉ」
「さっさとメシ食って、今日は、船主組合と会談だ」
「はいはいはいはいはいはいはい」
雑な返事をするドニの腕を、ビズーイは離した。
忙しくない時に、月に一度くらいは、見逃さなきゃな。と、ビズーイは思う。
初代宰相ビズーイの指輪は今も、カレンダ王国の宰相の徴として、代々、受け継がれている。――建国王が恋人に会いに行くのを阻止するために創られたことだけは、言い伝えられなかった。
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