亡国の王、幼なじみDomと癒され再会ラブ

切羽未依

文字の大きさ
34 / 34
暗殺者

王の帰還

しおりを挟む
 カレンダ王国に征服された17ヵ国の元・国王たちの、王都での拘束は、1年半にも及んだ。建国王の即位式を、最前列で見せられるという屈辱を最後に与えられて、元・国王たちは解放された。
 かつての我が国に戻りたがらず、あるいは、戻れず、王都に残った元・国王も少なくはなかった。
 建国王への謀反の罰で、クウィム王国の元・国王セイフに命じられたやしきでの蟄居ちっきょだけは、許されることなく、続いている。召使いたちは、誰一人、逃げ出すこともなくつかえている。


 コヨミ王国の元・国王ウェリスは、商人のレミファの馬車に同乗させてもらって、かつての我が国、今の5区へ帰った。


 ウェリスが帰ってしまってから、ドニは毎朝、宰相の私室――ビズーイの部屋で、朝食を食べていた。
 王城に、調理場を創り、料理人たちを雇ったので、警護の魔術師たちや兵たちの部屋も創り、住まわせて、食事を出すことができるようになった。
 仲間たちが、にぎやかに食事をしている食堂の方に、ドニは行こうとせず、ビズーイと向かい合って、食事を、ただ口に入れて、噛みつぶし、飲み込んでいる。

 元々、ビズーイは無口で、黙々と食べる方だったが、向かい合っているドニが、いつもは食べるより、しゃべるのに忙しいのに、黙々と食べているのは、非常に耐えがたかった。

 ついに、ビズーイは言ってしまった。
「ウェリスを帰さなきゃよかったじゃないか」
「何だよ?いきなり。」
 ドニに聞き返されて、ビズーイは口角を、ますます下げた。


 ウェリスがいなくなればいいと思ってた俺に、こんなこと、言わせるんじゃねえよ!!


 心の中で罵りながら、ビズーイは言った。
「ウェリスが帰ってから、毎日まいんち、砂、食ってるような顔で、メシ、食いやがって。こっちのメシまで、不味まずくなるだろ」
「さびしいんだもん…」
「さびしいなら、ウェリスに『帰るな』って、命令すればよかっただろ」
 言ってしまって、ビズーイは後悔した。

 ドニは、首を横に振った、とても悲しい顔をして。

「ご」
「キレイな花が咲いていました」
 ビズーイが「ごめん」と謝る前に、ドニが、いきなり言い出した。


 ビズーイの口角が、少し上がった。
――ドニも、ウェリスを「花」に、たとえるんだな…


「花を、ブチッとんで、お家に持って帰って、キレイな花瓶に飾って、キレイだなー、かわいいなーって、でても、どんなに大切にしてても、いつかは、枯れちゃうだろ?」
「………………」
 ドニの問いに、ビズーイは答えられなかった。

「けど、そこに咲いてるまんまにしとけば、やっぱり、いつかは枯れちゃうけど、また季節がめぐれば、そこにキレイな花が咲くだろ?」
「………………」
 ドニの問いに、やっぱりビズーイは答えられなかった。


「どこでも生きてける俺とは、ちがって、ウェリスは、コヨミ王国でしか生きてけない気は、してた。あいつが、王様だから。ってこととは、関係なく。」
 ドニは、小さなため息をついた。
「もし、あの日、俺といっしょに、コヨミ王国を出て行けたとしても、俺は、ずぅーっと旅を続けたし、あいつは、いつかコヨミ王国に帰るって選択をしたんじゃないかって思うんだよ」

 ドニが微笑む。
「ウェリスには、故郷で、キレイに、元気に、咲いていて欲しい」


 澄んだ空気。そびえる山々。豊かな森。清らかな川。
 「コヨミ王国」から「5区」と呼び名が変わろうと、何にも変わることのない故郷。


 ドニが微笑みかけているのは、目の前の自分ではなく、ウェリスだということは、ビズーイには痛いほど、わかった。



 最初からドニは、カレンダ王国にウェリスをとどめる気なんかなかったんだ。
 なのに、俺は――


 ビズーイは、ウェリスをおとしいれようとしていたことは、ドニに、どうしても話せなかった。
 ウェリスは、ドニに告げ口をすることもできたのに、しなかった。
 ドニとビズーイの関係を壊すことより、自分がいなくなることを選んだ。


 いきなりドニが、にこっと笑顔になって、ビズーイの後悔は中途半端に終わらされた。
「会いたかったら、いつだって会いに行けッ!!」
 ビズーイは立ち上がり、テーブルに身を乗り出し、向かいに座るドニの腕を掴んだ。


 ドニの腕を掴んだビズーイの右手の人差し指には、円陣えんじんを刻んだ鉱石がめ込まれた銀の指輪があった。


「ドニが、空間移動魔術で、こっちに飛んで来そうになったら止めて」
 そう言ってウェリスが、ビズーイに贈ってくれた指輪だった。

 ウェリスは王城の礎石である鉱石を、ちょっと割って、解除魔術の円陣を刻み、魔力を込めた。

「他の魔術も解除できるから、護身にも使えるよ」
「どうして俺なんかに…」
 差し出されたウェリスの手のひらの上の指輪を、ビズーイは受け取ることができなかった。

「ドニが、ちょこちょこ、いなくなったら、ビズーイだって困るよね?」
「それはそうだけど…そういうことじゃなくて…」
「お願いだから、ドニを止めて!」
 ウェリスに必死にお願いされて、ビズーイは指輪を受け取らされてしまった。


 ビズーイに腕を掴まれたドニは、空間移動魔術を発動することができず、いじける。
「俺の首輪、受け取ってくんなかったのに、ビズーイに指輪を贈るって、どーゆーことだよぉう…」


 ドニは、ウェリスが帰る前に、まるでレースを編んだような銀細工の首輪を贈って、求婚したクレームしたのだが、
「牛みたいでヤダ」
 と、受け取ってもらえなかったのだった。
 コヨミ王国では、装身具そうしんぐを日常的に着けることがなく、首輪を着けているのは牛だけだった。


「俺の部屋のどっかに、ウェリスが鉱石、隠して行ったらしくて、空間移動魔術発動できねえんだよぉぉぉぉぉ」
「さっさとメシ食って、今日は、船主ふなぬし組合と会談だ」
「はいはいはいはいはいはいはい」
 ザツな返事をするドニの腕を、ビズーイは離した。


 忙しくない時に、月に一度くらいは、見逃さなきゃな。と、ビズーイは思う。



 初代宰相ビズーイの指輪は今も、カレンダ王国の宰相のしるしとして、代々、受け継がれている。――建国王が恋人に会いに行くのを阻止するために創られたことだけは、言い伝えられなかった。


しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
ある日ハイランクDomの榊千鶴に告白してきたのは、Subを怖がらせているという噂のあの子でー。 更新がずいぶん遅れてしまいました。全話加筆修正いたしましたので、また読んでいただけると嬉しいです。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】名前のない皇后 −記憶を失ったSubオメガはもう一度愛を知る−

社菘
BL
息子を産んで3年。 瀕死の状態で見つかったエリアスは、それ以前の記憶をすっかり失っていた。 自分の名前も覚えていなかったが唯一所持品のハンカチに刺繍されていた名前を名乗り、森の中にひっそりと存在する地図上から消された村で医師として働く人間と竜の混血種。 ある日、診療所に運ばれてきた重病人との出会いがエリアスの止まっていた時を動かすことになる。 「――お前が俺の元から逃げたからだ、エリアス!」 「本当に、本当になにも覚えていないんだっ!」 「ととさま、かかさまをいじめちゃメッ!」 破滅を歩む純白竜の皇帝《Domアルファ》× 記憶がない混血竜《Subオメガ》 「俺の皇后……」 ――前の俺?それとも、今の俺? 俺は一体、何者なのだろうか? ※オメガバース、ドムサブユニバース特殊設定あり(かなり好き勝手に詳細設定をしています) ※本作では第二性→オメガバース、第三性(稀)→ドムサブユニバース、二つをまとめてSubオメガ、などの総称にしています ※作中のセリフで「〈〉」この中のセリフはコマンドになります。読みやすいよう、コマンドは英語表記ではなく、本作では言葉として表記しています ※性的な描写がある話数に*をつけています ✧毎日7時40分+17時40分に更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話

日向汐
BL
「好きです」 「…手離せよ」 「いやだ、」 じっと見つめてくる眼力に気圧される。 ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26) 閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、 一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨ 短期でサクッと読める完結作です♡ ぜひぜひ ゆるりとお楽しみください☻* ・───────────・ 🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧 ❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21 ・───────────・ 応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪) なにとぞ、よしなに♡ ・───────────・

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

処理中です...