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・
別にできなきゃできないでいい──
晶さんはプロじゃない
“やるからには仕事だよ?”
晶さんには確かにそう釘を刺したけど──
「はあ…っ…なんかすごい順調!」
撮影を済ませた舞花がやりきった表情で戻ってきた。
「お疲れ」
取り合えずそう返す。舞花の撮影が終わったところで晶さん達が次にスタンバイしていた。
屋外の白いチャペル。回りは青々とした芝生──
ここはまだ日本だ。
撮れるところはホテルの式場で撮り貯めして、貴重なショットを海外で撮影する。
オープン式の教会にまるでエーゲ海のような背景。白いイブニングスーツのマリオはぴったり嵌まったように様になる。
そんなマリオは長いドレスの裾を摘まんでそろそろと歩く晶さんにそっと手を差し伸べていた。
「──…っ…」
デザイン自体が大人びているドレスはそのシルエットも凄く綺麗。
それを着こなしてしまった長身の晶さんも凄くキレイ
そして……
その晶さんに向けたマリオの笑みに無性に胸を掻き立てられた──
スタンバイしただけでこの胸のムカつきよう…
もう無理じゃんっ…
正直見てられない。
キレイな晶さんにときめいて
その傍に寄り添うマリオに胸が妬ける。
何が腹が立つって……
二人長身で並んだその姿は例え後ろ姿でもとても絵になった……。
・
不思議だ──
今までコンプレックスなんて感じたこともなかった。
それなのに……晶さんと並んでバランスのとれたマリオのそのスタイル。それはあの蒸し暑い夏の日に、花火が散った高層デパートの屋上で目にしてしまったあの男を思い出させる──
晶さんと手を繋いで夜空を見上げていた元、恋人。
別れて晶さんがボロボロになった初めての男──
高槻とマリオは背丈もそっくりだった。
「あー…すごい嫌なこと思い出した……」
ボソッと呟く俺を隣の椅子に腰掛けた舞花が振り向く。
男ってほんとちっちゃい。
自分がこんなに過ぎたことを気に掛ける奴だって気付いたこともショックであり、何気にあの時の晶さんの裏切りが深く根付いていることを思い知らされる。
俺は前の二人から目を逸らした。
「可愛いドレスだねそれ…」
「ほんと? 似合う?」
晶さん達を気に掛けないように舞花に顔を向けて話し掛ける。
「似合うよ」
俺の作り笑いに舞花はホントに嬉しそうに笑って見せた──
「………」
頬を綻ばせた舞花を何気に見つめる。素直な笑顔は確かに可愛い。。。
晶さんもこんな笑みをたまには見せてくれればいいのに……
俺に好かれようとして必死な笑みを──
クールで意地悪なとら猫は今だ尻尾で俺をたはき返す。
そんな図が浮かんで尚更切ない溜め息が俺の口から漏れていた……
・
「じゃあ指輪をはめてベールをめくる流れで撮っていくから──」
「……だって。聞いてた?」
カメラマンの声がした後に、マリオが邪魔するように覗き込んで視界を塞いでいた。
「き、聞いてた…っ…」
気持ち焦って答えたことを笑って誤魔化した。
正直、聞いて居なかったと伝えるべきか?
言わなくてもバレてるみたいなんだけど……
そう思いながらカメラを向き直り、またもやちらりと目だけを後ろに向ける。
「……っ…」
なんだか妙に接近し過ぎだって思うのはあたしの思い違いなんだろうか──
後方で休む夏希ちゃんと舞花が仲良く話し込む姿がやたらと目につく。。。
チラチラと目線だけを動かすそんな上の空なあたしの顔を、マリオがいきなりグイッと指先で仰向けた。
「目の前の夫となる僕に集中して欲しいな──」
「…っ…す、…すみませんっ」
高い鼻先が付くほどの距離でそう叱られた。
少し厳しい表情を見せたマリオに気持ちが引き締まる。
仕事だっ仕事!──
そう自分に言い聞かせて口を結ぶあたしを今度はマリオが笑った。
「幸せな花嫁の役だから……その追い込んだ表情はないと思う」
「……っ…」
そりゃそうだ。
ただ服を着て撮せば良いって訳じゃない──
今までみたいに脚だけを撮すとか、後ろ姿だけ撮ってはい終わり。ってわけでは済まないから……
そう思いながらも固まった表情を崩せないあたしを見てマリオがカメラマンに待ったを掛けていた。
・
「少し時間貰うから、その間にリラックスして」
「ふぁい…っ…」
真正面から覗き込むマリオに両頬を手で挟まれて、リラックスどころか不細工な顔で返事を返す。
マリオはそんなあたしをジッと見つめると急に吹き出していた。
「悪いね…っ…」
「いえ……どうぞ心置きなく楽しんでください…」
ククッと笑いながらマリオは自分の目尻に滲む涙を軽く拭う。
ほんとに悪いと思ってるんだかの追及は止めたほうが無難かもしれない。。。
日没は刻々と迫ってくる──
現場には冷たい風が吹き、春を前にして冷え込みが一番強くなる時期でもある。
ドレスから露になった肩を思わず庇うとマリオの大きな手がそれを守る様にそっと重ねられていた。
「ありがと…」
見上げて短く伝えると不意に風で靡いたベールが顔に張り付く。マリオはそれを後ろに捲り上げていた。
「この眺めは北海道の撮影の時と似ているな」
マリオは懐かしむように口にして遠くを眺めた。
確かに似ていなくはない。なだらかな斜面、芝生の丘から覗く夕陽。空は赤く染まり始めている。
寒い外で食べたカップラーメンは結構美味しかった。
そう思い出したあたしの腰に、不意にマリオの腕が回されていた……。
かと思ったら急に高く抱き上げられる。驚いたあたしをマリオは小さな子供あやすようにくるくると振り回し始めていた。
・
振り落とされそうな勢いに目が見開く。
「ちょっ…危なっ…怖いから止めてっ…」
そう口にしながら何故か笑っていた。人って恐怖を感じるとつい笑うものなんだろうか?
焦るあたしをマリオは楽しむようにしてその行為を止める気配はない。
「やだっ…もうほんとに危ないからっ…」
「あと三回回ったら降ろしてやるから」
「三回!? なんで三回!?」
尋ねたあたしにマリオは“さあ?”と首を捻って笑って返した。
怯えながら必死に怒るあたしを笑い、マリオはゆっくりと下に降ろす。
約束通り、三回だ。地だに足を着けて思いきりホッとした息を漏らすあたしをマリオは覗き込んでニッコリ笑った。
「緊張はほぐれた?」
「………」
言われてみると確かにそうだ。大きく声を出して騒いだお陰かピンと張った緊張の糸がいつの間にやら緩んでいる。
子供騙しみたいな策だったわりに速効で効果はあったみたい…。。。
「気を使って頂き有難うございます……」
「いやいや…一応、プロで先輩だからね」
余裕の笑みを見せるマリオになんとなく…“してやられた感”が沸いた。
別にできなきゃできないでいい──
晶さんはプロじゃない
“やるからには仕事だよ?”
晶さんには確かにそう釘を刺したけど──
「はあ…っ…なんかすごい順調!」
撮影を済ませた舞花がやりきった表情で戻ってきた。
「お疲れ」
取り合えずそう返す。舞花の撮影が終わったところで晶さん達が次にスタンバイしていた。
屋外の白いチャペル。回りは青々とした芝生──
ここはまだ日本だ。
撮れるところはホテルの式場で撮り貯めして、貴重なショットを海外で撮影する。
オープン式の教会にまるでエーゲ海のような背景。白いイブニングスーツのマリオはぴったり嵌まったように様になる。
そんなマリオは長いドレスの裾を摘まんでそろそろと歩く晶さんにそっと手を差し伸べていた。
「──…っ…」
デザイン自体が大人びているドレスはそのシルエットも凄く綺麗。
それを着こなしてしまった長身の晶さんも凄くキレイ
そして……
その晶さんに向けたマリオの笑みに無性に胸を掻き立てられた──
スタンバイしただけでこの胸のムカつきよう…
もう無理じゃんっ…
正直見てられない。
キレイな晶さんにときめいて
その傍に寄り添うマリオに胸が妬ける。
何が腹が立つって……
二人長身で並んだその姿は例え後ろ姿でもとても絵になった……。
・
不思議だ──
今までコンプレックスなんて感じたこともなかった。
それなのに……晶さんと並んでバランスのとれたマリオのそのスタイル。それはあの蒸し暑い夏の日に、花火が散った高層デパートの屋上で目にしてしまったあの男を思い出させる──
晶さんと手を繋いで夜空を見上げていた元、恋人。
別れて晶さんがボロボロになった初めての男──
高槻とマリオは背丈もそっくりだった。
「あー…すごい嫌なこと思い出した……」
ボソッと呟く俺を隣の椅子に腰掛けた舞花が振り向く。
男ってほんとちっちゃい。
自分がこんなに過ぎたことを気に掛ける奴だって気付いたこともショックであり、何気にあの時の晶さんの裏切りが深く根付いていることを思い知らされる。
俺は前の二人から目を逸らした。
「可愛いドレスだねそれ…」
「ほんと? 似合う?」
晶さん達を気に掛けないように舞花に顔を向けて話し掛ける。
「似合うよ」
俺の作り笑いに舞花はホントに嬉しそうに笑って見せた──
「………」
頬を綻ばせた舞花を何気に見つめる。素直な笑顔は確かに可愛い。。。
晶さんもこんな笑みをたまには見せてくれればいいのに……
俺に好かれようとして必死な笑みを──
クールで意地悪なとら猫は今だ尻尾で俺をたはき返す。
そんな図が浮かんで尚更切ない溜め息が俺の口から漏れていた……
・
「じゃあ指輪をはめてベールをめくる流れで撮っていくから──」
「……だって。聞いてた?」
カメラマンの声がした後に、マリオが邪魔するように覗き込んで視界を塞いでいた。
「き、聞いてた…っ…」
気持ち焦って答えたことを笑って誤魔化した。
正直、聞いて居なかったと伝えるべきか?
言わなくてもバレてるみたいなんだけど……
そう思いながらカメラを向き直り、またもやちらりと目だけを後ろに向ける。
「……っ…」
なんだか妙に接近し過ぎだって思うのはあたしの思い違いなんだろうか──
後方で休む夏希ちゃんと舞花が仲良く話し込む姿がやたらと目につく。。。
チラチラと目線だけを動かすそんな上の空なあたしの顔を、マリオがいきなりグイッと指先で仰向けた。
「目の前の夫となる僕に集中して欲しいな──」
「…っ…す、…すみませんっ」
高い鼻先が付くほどの距離でそう叱られた。
少し厳しい表情を見せたマリオに気持ちが引き締まる。
仕事だっ仕事!──
そう自分に言い聞かせて口を結ぶあたしを今度はマリオが笑った。
「幸せな花嫁の役だから……その追い込んだ表情はないと思う」
「……っ…」
そりゃそうだ。
ただ服を着て撮せば良いって訳じゃない──
今までみたいに脚だけを撮すとか、後ろ姿だけ撮ってはい終わり。ってわけでは済まないから……
そう思いながらも固まった表情を崩せないあたしを見てマリオがカメラマンに待ったを掛けていた。
・
「少し時間貰うから、その間にリラックスして」
「ふぁい…っ…」
真正面から覗き込むマリオに両頬を手で挟まれて、リラックスどころか不細工な顔で返事を返す。
マリオはそんなあたしをジッと見つめると急に吹き出していた。
「悪いね…っ…」
「いえ……どうぞ心置きなく楽しんでください…」
ククッと笑いながらマリオは自分の目尻に滲む涙を軽く拭う。
ほんとに悪いと思ってるんだかの追及は止めたほうが無難かもしれない。。。
日没は刻々と迫ってくる──
現場には冷たい風が吹き、春を前にして冷え込みが一番強くなる時期でもある。
ドレスから露になった肩を思わず庇うとマリオの大きな手がそれを守る様にそっと重ねられていた。
「ありがと…」
見上げて短く伝えると不意に風で靡いたベールが顔に張り付く。マリオはそれを後ろに捲り上げていた。
「この眺めは北海道の撮影の時と似ているな」
マリオは懐かしむように口にして遠くを眺めた。
確かに似ていなくはない。なだらかな斜面、芝生の丘から覗く夕陽。空は赤く染まり始めている。
寒い外で食べたカップラーメンは結構美味しかった。
そう思い出したあたしの腰に、不意にマリオの腕が回されていた……。
かと思ったら急に高く抱き上げられる。驚いたあたしをマリオは小さな子供あやすようにくるくると振り回し始めていた。
・
振り落とされそうな勢いに目が見開く。
「ちょっ…危なっ…怖いから止めてっ…」
そう口にしながら何故か笑っていた。人って恐怖を感じるとつい笑うものなんだろうか?
焦るあたしをマリオは楽しむようにしてその行為を止める気配はない。
「やだっ…もうほんとに危ないからっ…」
「あと三回回ったら降ろしてやるから」
「三回!? なんで三回!?」
尋ねたあたしにマリオは“さあ?”と首を捻って笑って返した。
怯えながら必死に怒るあたしを笑い、マリオはゆっくりと下に降ろす。
約束通り、三回だ。地だに足を着けて思いきりホッとした息を漏らすあたしをマリオは覗き込んでニッコリ笑った。
「緊張はほぐれた?」
「………」
言われてみると確かにそうだ。大きく声を出して騒いだお陰かピンと張った緊張の糸がいつの間にやら緩んでいる。
子供騙しみたいな策だったわりに速効で効果はあったみたい…。。。
「気を使って頂き有難うございます……」
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