ラブプレイ~Hな二人の純愛ライフ~

中村 心響

文字の大きさ
373 / 403

3

しおりを挟む

“いつものやつ”って常連ぶったわりには、まだ好みが定着していないようだ。

「なるほど……やっぱまだ一週間ちょいのぺーぺーじゃん…」

「なんだと!? 一週間ちょいでも三年に一度でも客は客だ!…ねえマスター、バイトの口が悪いですよー!」

「ははは、俺もそう思う」

マスターが炒め物の音に負けじと大声で答えた。

やって来た元彼を客として一切扱わない。そんなあたしを高槻は何気に楽しんでいるようだ。

「てか毎日ってなに?」

カウンターに身をのり出してずずいと詰め寄る。

「もうこっちに住み始めたんだよ!…てか、オシボリと水を早く出せ」

完全に客として接客しないあたしに高槻は催促してくる。
高槻はやっと出されたオシボリで手を拭くと、ふと、あたしを見上げた。

「鍵は?」

「は?」

「鍵! 俺の鍵!この間渡しただろ?」

「ああこれ?」

渡したっていうか、意図的に置いていったやつだ。
あたしはそれを店の引き出しから取り出して高槻に見せた。

「なんでそこから出すんだ……」

「だって“店の客の、忘れ物”だから」

「………」

言葉を強調するあたしに高槻は白い視線を向ける。
高槻ははあ、と強いため息を吐いてオシボリをカウンターに静かに置いた。


「大事な物なんだからちゃんと持ってろよ……」

「……」

不意に真面目な顔になる。

高槻はボソッと呟くとあたしの背後に向かって笑顔を作る。

「おまち!」

マスターが大皿を持って顔を出していた。
彩り豊かな野菜炒め。独り暮らしを始めた男には嬉しい一品だと思う。

でもこれはうちのメニューにはない料理。

「やり、デカイ芯入ってる」

キャベツの大きな芯を見つけ、高槻は喜ぶ。

そう。これは切れ端の食材を使った、うちの賄いメニュー。

皿が大き過ぎて定食用のトレイにはご飯茶碗が乗りきらなかったらしい。
マスターはよそったご飯と味噌汁を後から高槻の前に差し出した。

懐石料理の様に時間差で出てくる物に高槻は勢いよく手を出していく。

相変わらず男らしい食いっぷりだと思う。

「ニラも入ってるけどいいだろ」

「大丈夫、構わない構わない。誰とキスするわけでもないし」

野菜炒めにがっつき始めた高槻がマスターにそう返す。

「キスしたきゃ同じもん食わせりゃいいだけだし。ほら食え!」

「なんであたしがっ…」

箸に掴んだ野菜炒めを突きだしてきた高槻をマスターも笑っていた。



徐々に混んできた店でお客の注文を承けて回る。調理で忙しくなったマスターは厨房に引きこもり、食事を済ませた高槻は珈琲を飲み干すと直ぐに腰を上げた。

「じゃ、ご馳走さん!また来ます」

マスターにも聞こえる声で、高槻はそう挨拶する。

レジを済ませたママは御丁寧にも高槻を玄関まで送る。

「ありがとう御座いました」

テーブルを拭く手を止めて他人行儀にお礼を言うあたしを、高槻は帰りがけにちらりと振り向いた。

すごく何か言いたそう。
そんな表情を見ないふりしてあたしは仕事に集中した。

高槻は諦めて店を出る。

その後ろ姿が大きな窓ガラス越しに見え、高槻は店の前に停めていた車に乗って立ち去った。

「あら? やだ忘れ物?」

カウンターに戻ったママがそう口にした。
あたしが店で預かっていた高槻のマンションの合鍵だ。

「必要なら直ぐに取りに戻るだろうから預かってればいいと思う……」

「それもそうね」

あたしの言葉にママは頷く。そして高槻の合鍵はまた、元の忘れ物専用の引き出しに仕舞われた。。。

高槻が帰った後も和らぎは平常通り、安定した忙しさだった。

「じゃあ、お先に失礼します」

閉店を迎え、生ゴミを手にして大きなバッグを肩に掛けてマスターに挨拶する。
その姿にマスターはふと動きを止めていた。



マスターの視線が肩にしたバッグに突き刺さる。

それを遮るようにあたしは裏口のドアを閉めていた…。

生ゴミをダストボックスに容れて自転車に乗る。

そしてあたしは久し振りに通る道を暫く走った。

辺りはすっかりと暗くなっている。
静かな住宅街を左折すると、後ろを横切った車が不自然にバックしていた。

怪しい動きに加え明る過ぎるヘッドライトが不気味さを煽る。
自転車を止めて振り返ると車は直ぐ近くに来て停車した。

「………さっそく破局か?」

「………うるさい」

間近で運転席から顔を覗かせた高槻の視線が、自転車のカゴに向けられる。

叔父の建兄のマンションに向かうあたしの姿は、どうみても夏希ちゃんとの間に何かがあったと証明しているようなものだ。

何も否定しないあたしを運転席から見上げ、高槻は呟いた。

「図星だな……」

「なんの真似? ストーカー?」

あたしの言葉に高槻は肩を竦めた。

「小さなカゴに大きなバッグ乗せて走る家なき子を見捨てられぬ神の真似」

車から降りながら高槻は長い皮肉を坦々と口にしてトランクを開ける。

「あ、ちょっと何するの?」

自転車のカゴからバッグを取り上げると高槻はそれをトランクに放り込んでいた。

慌てて自転車から降りると今度はその自転車を軽く担ぎ上げる。



「ちょっ…」

「危ないからどいてろ」

まとわりつくあたしを邪険にして高槻は自転車をトランクに積み込んだ。

「何するのっ」

「見かねた神が家なき子を送ってやるんだよっ」

「何それっ? てかべつに家なき子じゃないからっ…」

反論したあたしを高槻は振り返る。

「どうせ行き先は叔父さんの所だろ?」

「………」

「結局は居候だろ?」

「……っ…」

高槻の返しにあたしはうぐっと言葉が詰まっていた。

「でも家はあるから別に家なき子じゃないしっ…」

「はいはい、わかったから」

自転車がかさ張り閉まり切らないトランクを軽く閉じながら、高槻はあしらうように返事をする。

「とにかく乗れ。送るから」

「…っ……ちょ、…」

二の腕をしっかり掴むと高槻は引き摺るようにあたしを助手席に押し込んだ。

相変わらず強引だ。
これじゃ誘拐と変わらない。

「シートベルトしろよ?」

当然のように言われて無言でシートベルトを回した。

これでもう誘拐ではなく同意の上ってやつになるのだろうか。

高槻は大人しく助手席に収まったあたしを確認すると、くすりと笑ってハンドルに手を掛けた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...