ラブプレイ~Hな二人の純愛ライフ~

中村 心響

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薄暗い車内。
民家が立ち並ぶ小路は小さな外灯に照されている。

その灯りが反射して、高槻の表情を半分だけ見えにくくしていた。

軽く笑った高槻の表情は、昔隣にいたあの頃よりもとても大人びて見える。

そう言えば久し振りに隣に並んだ気がする……。

動き出した車の中、意外にも高槻はあまり喋らない。
そのせいか、あたしは色んなことを考えて物思いに耽っていた。

聞きたいことがあるなら聞けばいいのに……。

言いたくないけど話したい。

そんな矛盾が心の奥に生まれてくる。

でもコイツには言っちゃだめだ。

なんて思ってしまう。

それみたことか。なんて言われたら癪だ。

多恵ちゃんにも……夏希ちゃんとのことは愚痴れない。

こんな時……

相談できる人が何処にも居ない……。


知らず知らずの内にまたため息が零れた。

「着いたぞ」

マンションの下で車を停めて高槻は自転車をトランクから下ろした。

荷物を代わりに肩に担いで高槻は相変わらず黙ったまま、部屋の前まで着いてくる。

また強引に上がり込む気だろうか……。

開けた瞬間にどうやってドアを閉めようか……。

高槻を閉め出す為の策をあれこれ練りながらドアを開けると高槻はバッグを差し出していた。

「じゃあな。戸締まりしっかりして休めよ」

「……え…」

あっさり背を向けた高槻に拍子抜けした声が出る。



高槻は振り返った。

「ここに戻ってきたってことは何かあったんだろ?今夜はゆっくり考えたいだろうから邪魔はしねえよ……」

「………」

「じゃな」

背中を向けたまま、高槻は軽く手を振った。

しつこく聞いてくれば嫌気も指すものを、こうもあっさり立ち去られたのではまさに“暖簾に腕押し”ってやつだ。

高槻の居なくなった通路を見つめ、身構えていた肩から力が抜ける。あたしはその場に少し佇んだ。

“ゆっくり考えろ”

ゆっくり……ってことはもちろん夏希ちゃんとの今後のこと──

そうだ……ゆっくり考えよう。

その為にも今は夏希ちゃんと距離を置きたい。

距離を置けば……

どうすればいいのか。

自分がどうしたいのか──。

わかるはずだから。


今はなるべく顔を逢わせたくないって思ってしまう夏希ちゃんに──…

たまらなく逢いたくなる気持ちが湧くまでは距離を置いて考えたい……。

あたしの携帯電話は相変わらずチカチカ点滅している。

開いて画面を確認すれば、沢山の受信と着信が記録されていた。

いっこうに返事を返さないあたしに夏希ちゃんは大いに焦っているかも知れない。

でもそれは単なるあたしの妄想と願望で、もしかしたら……

ほんの数日で夏希ちゃんは諦めて他に目移りしちゃうかも……

心底から夏希ちゃんを信じられなくなったお陰でどうしてもこんな想像をしてしまう。

溜め息は止めどなくあたしの口から零れ続ける。

憂鬱だ。

とても憂うつ……。

これもそれも全部夏希ちゃんが悪いんだ……。



あたしは久し振りに足を踏み入れたマンションのリビングのソファに身を投げて静かに瞳を閉じていた……。



────


「はあ……晶さん……マジですか…」

撮りを済ませ、戻ったホテルの部屋で溜め息と共にそんな言葉が小さく零れた。

虚脱感ありありで仰向けにベッドに倒れ、天井を暫し見つめる。

開いたままの携帯電話を握り締め、俺は途方に暮れた……。

ヤバい──…なんて嘆く気力ももう残っていない。

電話を掛けてもメールを打っても全てスルーされまくる。

そう。スルーだ……。

明らかに晶さんは俺からの連絡を“無視している”


今はもう、ただひたすら祈るしかない。

“どうか帰ったらいつもの晶さんで居てくれますように──”

どうか……


どうか……

部屋に居てくれますように……



本当なら今すぐに仕事を切り上げてマンションに戻りたいけど。

悲しいかな、俺は根っからのプロ。

子役から培った責任感はそう簡単には変えられない。

ただ……

もし晶さんが俺の部屋を出て行ったとしても、また連れて戻ればいい。

なんて、そんな悠長な余裕も微かに胸の端にはあった……。

何度離れても
いくらでも迎えに行けばいい。。。

そう。

俺はストーカーだから。

晶さんだけしか愛せないストーカーだから……。



プライベートに戻った俺はストーカーの役を演じきればいい。


そうやって切羽詰まる自分の感情をコントロールする。

今は、一時的に離れた恋人同士がハッピーエンドを迎える前の、紆余曲折のシーンだ。

そう自分に思い込ませながら俺は今の不安を誤魔化した。

ブライダル撮影の仕事はあの一日で一通りこなした。
後に残るは晶さんとマリオの海外での豪華な撮影のみだ。

もう……俺の出番はない……。


「……っ…“出番ない”ってめちゃ嫌な言葉っ…」

その言葉を掻き消すようにうつ伏せに転がり枕に顔を押し付けた。

纏まった休みが取れたら晶さんとのんびり旅行。その計画に当て嵌めたかのようにタイミングよく承けたこの撮影の仕事だったのに……。


あろうことか、それで晶さんを怒らせることになろうとは思いもしなかった。。。

「はあ……」

深く重い溜め息が静かに零れる。

「明日になれば元通り……明日になれば元通り……になる……」

ポツポツと小さく口から漏れる。
まるでまじないでも唱えるように俺はベッドでその言葉を繰り返した……。







「カット!……はい、お疲れ様!」

帰宅ラッシュが始まる前の交差点。信号の前でメガホン片手に監督が叫ぶ。
スタッフは撮影に協力してくれた通行人に頭を下げてその場を通していた。


翌日の撮りも順調に進んでいる。

このままスムーズに巻いていけたら予定よりも早く帰れそうな気がする。

そう思いながら休憩に入ると置いていた鞄のポケットの中で光が点滅していた。

「来た…っ」

思わず口に出た。

慌てて鞄を開く俺を、周りにいたスタッフが気に掛けた様子で見守ってる。

「晶さんっ!?」

「………」

電話を手にして急いで話し掛けたら無言で返ってくる。

「も、もしもし!? ちょ、晶さん?何か言ってっ…」

口元を手で隠し、声を潜めると俺はその場から席を外した。

「電話……なに…」

「は?……」

途切れ途切れの声が聞こえてくる。晶さんの言った意味がわからずに俺は疑問符で返していた。

「だから電話……と、メール……なに」

「………」

「何か用があったんでしょ?」

「……用って…っ」

俺はとても戸惑った。

何かが引っ掛かる言い方だ。

用があったかどうかなんてメールの内容を見ればわかるわけで……。
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