ラブプレイ~Hな二人の純愛ライフ~

中村 心響

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人生の選択。

よくよく思い直したらそれを真剣に考えた結果、高槻はあたしを選んだってことになるわけで……。

あの時はただ、あたしをフッてあっさり新しい彼女を作った薄情な男。そんな憎い感情しか残って居なかったから……。

「……っ…」

ああ、ダメだ……

自分の気持ちに自信がない


夏希ちゃんのバカッ…


あのだだ漏れの愛情表現だけがあたしに自信を持たせてくれていた筈なのに

その夏希ちゃんが今度はあたしに不安を与える

迷いの森の奥深くにまるで閉じ込められたみたいだ。
考えすぎて頭が痛い。


「着いたぞ……」

自然とこめかみに手を当てて考え込むあたしの肩に、車を停めた高槻は軽く手を置いた。

「……今日はこのまま帰るからちゃんと話をしろよ……何かあったら直ぐに電話しろ」

「……?」

妙な口振りに顔を上げた。助手席のあたしを見ずに高槻はフロントガラスの前を見据えている。

そんな高槻の視線を追うと、その先にはマンションの入り口で真っ直ぐにこちらを見て思いきり目を見張る夏希ちゃんが立っていた──。



「自転車下ろすから」

一言口にした高槻は、手早くシートベルトを外して車の外に出る。

強張った表情で夏希ちゃんが真っ直ぐにこっちを見ている。
マンションの壁に寄り掛かっていた身体をゆっくりと起こしながら、夏希ちゃんは助手席に乗ったままのあたしを見開いた大きな瞳で見つめたままだった。

後ろのトランクで騒々しい音がしている。

自転車を抱えながら高槻は背後から声を掛ける。

「駐輪場そこだろ? テキトーに置いてくるからな」

「えっ、あ…うん」

まるで夏希ちゃんの存在なんて無視だ。そこには誰も居ないように、高槻は普通に話し掛けてくる。

我に返ったあたしはやっと高槻の車から降りていた。

車のエンジン音。
少し離れたところでは高槻が自転車を停めているのであろう音がしている。

静かな住宅街でけっこう賑やかな騒音だ。

にもかかわらず──

夏希ちゃんを前にして、ゴクリと息を飲んだあたしの喉の濁音のほうがかなり大きく思えていた。


“ちゃんと話をしろよ”

そうだ。

話をしなきゃ──

車内で高槻から掛けられた発破に小さく手のひらを握り締める。

目を見開いていた夏希ちゃんの表情が少しずつ平静に戻っていく……

背後で車のドアを開ける音と同時に高槻の声がした。


「何時でもいいから電話くれ」

「……え、…」

振り返り、戸惑いながらも不意に頷いてしまった。

目を合わせた高槻の視線があたしの後ろに注がれる。
夏希ちゃんを牽制するかのような眼差しを向けて高槻は車に乗り込んだ。

帰りの挨拶代わりにワンクラクションが短く鳴る。

走り去る高槻の車を目で追うと、夏希ちゃんと視線が交差した。

無表情なのに瞳だけには鋭い光が見える。

たぶん怒るんだ。

思いきり妬きもちやいて、なんで!?どうして!ってあたしを責めるんだ。

そんなあたしの思いとは裏腹に、夏希ちゃんは皮肉な笑みを目尻に浮かべていた。

「なんだ……電話で言ってた“話”ってこれのこと」

「──……!…」

ズボンの両ポケットに手を入れて、夏希ちゃんはゆっくりと近付いてくる。

「違っ…」

「話す前に“見られちゃった”ってやつ?」

「………」

間近に来た夏希ちゃんの冷たく蔑むような視線に言葉が出なかった。
固まったあたしに向けて、夏希ちゃんは、はあーっと呆れた溜め息を目の前で強く吐く。

そして、くくっと口を歪めてさも可笑しそうに笑うと急に真顔になっていた。



夏希ちゃんは肩を内に丸めるように、はあーっと大きな溜め息を吐いた。

ゆっくりな動きを見せながら、夏希ちゃんは背を伸ばして周りに視線を向ける。
思いきりあたしを凝視した次は、まるで視線が合うことを避けるように、夏希ちゃんは横を向いた。

「けっこう急ぎで帰ってきたつもりだったんだ……」

「………」

そう、ぽつりと口にする。

「部屋に……」

「………」

「速攻で帰ったら居なかったから……」

「………」

「荷物もなかったし……」

「………」

「何となく“ああやっぱり”って……」

一言話す度に夏希ちゃんは呼吸をゆっくり繰り返す。

どうしようもない苛立ち。それを必死に抑えてるのかも知れない。

ポケットに入れたままの夏希ちゃんの手が、中でゴソゴソとしきりに動いてる。

足元に何もない地面を蹴る仕草を見せながら、言葉を止めた夏希ちゃんは急にあたしの方を向いた。

「ここに戻ってるだろうって思ってたから直ぐに向かったわけだ……出て行ったって連れて戻れば済むことだって思ってさ……」

「………」

「もし嫌がっても強引に連れて帰れば済むって……鍵開けて紐で縛ってでも連れて帰れば済む……てさ」

「………」

「………でも可笑しいよね?何が可笑しいと思う?」

夏希ちゃんは強気な表情でそう口にする。
そして、ふっと急に笑った。



「意気込んで来たわりに俺、ここのスペア鍵忘れてんの」

「………」

「思わず自分ですげー笑っちゃったよ」

言いながら夏希ちゃんの表情が少しずつまた……

険しくなっていく。

役者のせいか、静かな夜によく声が通りすぎる。あたしは大きくなっていく夏希ちゃんの声に焦りながら、夏希ちゃんの腕を掴んだ。

「わかったから部屋で話そ……」

「何がわかったわけ?」

「──…っ…」

夏希ちゃんはあたしが掴んだ腕を払った。

「晶さんがわかったのは俺の何?」

「夏…っ…」

「連れて帰ればいいなんて余裕ぶっこくわりに、実は鍵忘れるくらいテンパってたって……」

「………」

「そこわかってた!?…っ…」

吐き出した夏希ちゃんの言葉の語尾が強く震えた。


保っていた平静が、少しずつ壊れていく──

怒りを露にした表情。鋭い視線が真っ直ぐあたしに向けられている。

「いいよもう……」

「──……」

そう呟いたのは夏希ちゃんの声だった。

その言葉にちょっと驚いて夏希ちゃんを見つめると、さっきの怒った表情が消えている。

無表情になった夏希ちゃんはあたしを眺めるとまるで滑稽な物でも見たように鼻で笑った。

「もう……いいよ…」

「………」

「もう疲れた」

「………」

「なだめて機嫌とって必死に尽くして……っ…それでも結局こうなるなら…っ…もういい……」

「………」


諦めた言葉を口にして、夏希ちゃんはあたしを真っ直ぐに見つめる。

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