390 / 403
2
しおりを挟む「はい。すっかり元気になり過ぎたので役を降ろされやしないかちょっと焦ってるところです」
逃亡犯が健康的過ぎるのはイタダケナイ。。。
俺の苦笑いに記者達も合わせて笑っていた。
「胃潰瘍との診断だったそうですが…役作り以外に何か理由でもあったのではと噂になっておりますが……」
お、きたな……
さりげなく話題を振ってきたその記者の首に下がる証明書を見れば、あの“事務所との軋轢”なんてネタを挙げた出版社だ。
「そうですね…」
俺は小さな声で伏し目がちに視線を落とした。
「……今までずっと、それこそオムツも取れない頃からお世話になった社長ですから……」
俺は語尾を震わせながらキッと上を見上げる。
「たとえどんなにコキ使われようとこの先も耐え抜くつもりで頑張ります!」
「こら!何を言うんだ!?打ち合わせと違うぞ!」
後ろに控えていた社長の慌てた声に会場から笑いが沸いていた。
あまりふざけてもいられない。
日頃から何かと晶さんをダシにして俺に有無を言わせてくれない社長への仕返しはこのくらいにして、俺は軽く肩を竦める。
改めてまた深くおじきをすると、感謝の言葉を伝えてちゃっかり番組の宣伝もさせてもらった。
・
「そろそろ時間になります」
楠木さんが会見終了の合図を伝える。
会場の出入口に促されて背を向けると、その背中に大きな声で問い掛けられた。
「藤沢さん!新しい恋人との噂はほんとうでしょうか!?同じ事務所だとの話も聞かれますが舞花さんとは破局ですかっ!」
一番聞きたかったであろう内容を、早口で言い切った記者に俺は足を止めた。
楠木さんは何も言わせまいと俺の肩を押す。
再び足を前に出すと、俺はそれと同時に振り返った。
「近いうちに報告します。それまで待っていてください文秋さん」
「──……」
社名を名指しされたその記者は眼を見開いて俺を見ていた。
口端で笑みを返すとその記者も何かを悟ったように頷いている。
晶さんと俺の関係に勘づいた特権。
その記者も俺の計画に巻き込んでやるつもり。
一人の記者と芸能人の意味深なやり取りを、他の記者達は小さなメモに急いで書き残す。
その会場を後にして、俺は歩きながら社長と楠木さんに小突かれていた。
「もう会見なんて開かんぞ!こっちはヒヤヒヤしっぱなしだっ」
「いいじゃん。これで一先ずは落ち着くだろうし」
「アホか!あんな意味深にネタを提供しやがって!またマスコミがマンション前に張り付くぞ!」
車に乗ると、社長はカリカリしながらそう怒鳴る。
そしてシートに背中を預け大きなため息を吐いた。
・
助手席に座った社長はバックミラーを弄り、後部座席に居た俺を映し込む。
目があった途端に社長はニヤリとした。
「まあ……晶が明日から居ない事がせめてもの救いだな」
「──……」
社長の言葉にびっくりし過ぎて声が出なかった……。
居ない?
なんで?
また髭の陰謀か!?
「なんでだよ!俺、今日帰るんじゃんっ…なんでっ…」
泣きそうな声で必死に抗議した。金の亡者は意地悪な笑みを浮かべたままだ。
ハンドルを握っていた楠木さんはそんな俺を笑って肩を揺らしていた。
「……っ…どこまで性悪なんだよクソジジイっ…」
「何を言う、全てお前が企んだ計画のためだ」
「どこがだよ!」
「色々準備を考えたら時間的に間に合わないから早めに向こうに発つことにしたんだよ!撮影陣とも話た結果だ!」
「………」
何もかも俺のせいにすんじゃねえ。社長はそう締め括って煙草に火を点けていた。
「え…発つ、って…マリオとのブライダルの撮影のやつ?あれって一週間後じゃなかった?」
「ああ、マリオとの撮影が一週間後。その前にお前の計画に必要なシーンをいくつか撮っておかないとな」
窓を開けると社長は煙を外に吐いて、な!。と後ろを軽く振り返った。
そして言う。
「劇的な思い出にしたいんだろ? やってやろうじゃないか。あいつが一生忘れられなくなるって言うようなやつを…」
「──……」
社長はそう言って、めちゃ似合わない爽やかな笑顔を向けていた……。
・
「お前の計画だなんて言われたらそりゃなんも言えないけどさっ……」
ブツブツと不満は駄々漏れだ。
帰りの車の中で、俺はずっと頬を膨らませる。
そんな俺を自宅マンションまで送り届けると社長は車のドア越しにニヤリとした。
「まあ、今日はゆっくり過ごせ!じゃあな」
「………」
近所に聞こえるっつーの!
大きな声で一言残して去った車を見送りながら、俺は呟く。
ゆっくり過ごせと?
そんなゆっくりも出来ないじゃん!明日から海外行っちゃうのにっ…
募る不満を抱えながら部屋のドアを開けた。
「──……あ、おかえり」
明るい部屋と暖かい空気。そしていい匂いと一緒に晶さんの声が聞こえる。
振り向いた晶さんは鍋を持っていた。
「え……何っ!?料理作って待っててくれたの!?てか……バイトは……?」
急いで靴を脱いで晶さんの傍まで行くと聞きたいことを一気に口にした。
「明日の準備もあるから今日はランチタイムだけ手伝って上がらせてもらった」
「……そ、うなんだ……で……料理作ってくれたわけだ……俺のために……」
ここ大事。“俺のために”この強調は俺なりにしっかりしておきたかったわけで。。。
・
テーブルには、なかなか豪華なオカズの数々が並んでいる。
ロールキャベツに照り焼きチキン。コロッケに唐揚げ……
「……すごい量だね…嬉しいけど……」
そう。これを愛情の量だと考えれば嬉しいに越したことはない。
以前、朝食に作ってくれた目玉焼きとウインナーとは雲泥の差がある。
でも呟いた俺に晶さんは何故か申し訳なさそうな顔を見せていた。
「……え…もしかしてお惣菜…とか…」
恐々尋ねたら晶さんは首を横に二回振る。
「……ちゃんとした手作りだよ」
「……そ…うだよね…」
「マスターのね」
「………」
ちょっとドキドキしながら晶さんの言葉に返したら、そんな返事が上乗せされた。
俺は晶さんを白い目で見る。
「……作ろうと思ったんだよ昨日はっ」
「“昨日”ね。いいよべつに……何も文句はないよ……」
言いながら思いきり肩を落としてテーブルに着く。
「いいじゃん!プロが作った料理なんだからっ!」
「だから何も言ってないじゃん……」
「口で言ってないけど背中で思いきり言ってるじゃんっ!」
「………」
「ほらあ!」
料理を見つめ、顔を上げた俺を指差して晶さんはそう叫んだ。
だって帰った瞬間、愛情を感じたのに……
俺の周りをピンクのお花がめちゃ飛んだのに……
今、なんだかすっごい侘しいんですけどっ…なんて思ったり。。。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる