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しおりを挟む「ふ、藤沢さん…撮影始まるよ…っ…」
「……っ…」
虎太郎はプロだ。小さくてもれっきとしたプロの役者だ。
普段は見せたことのない俺の変わりように微かに怯えながらも今から仕事だとそう告げてくる。
虎太郎のその言葉に怒れる自分を抑えると、ADが慌てて俺をスタジオに押し込んだ。
背中を押されながらも俺は晶さんを振り返る。
一言言いたいんだけどあまりの怒りでその言葉がでて来ずに、俺はただ、晶さんを睨むと背を向けた。
「藤沢さん……」
パイプ椅子に腰掛けて、撮影準備を待たされる俺を虎太郎が心配そうに覗き込む。
怒りはやっぱりさっきから治まらないままだ。
あれだけお願いしても信じられない行動に出る恋人にやりきれない溜め息だけが強く吐かれる。
「虎太郎…」
「……はい?…」
「俺の顔、両手で叩いて……」
「………」
「おもいっきし、これでもかって力で…」
「………それで撮影にシュウチュウできますか」
真面目に聞き返す小さな虎太郎に頷いて見せる。
虎太郎もそんな俺と同じように頷いた。
微かに気合いを入れた表情で、虎太郎の小さなもみじのような手が俺の頬を両側からピシャリと弾く。
「──…っ…」
「あ、しっぱい」
「…っ!?……」
「あ、今のは無しで」
「………!」
「よしっ!! カンペキっ」
「───っ…」
虎太郎はプロだ。そんな彼の辞書に妥協と言う言葉は見当たらない──
よって…
一度だけ気合いを入れてもらうはずが何故か計三回の両ビンタを食らう羽目になり、
俺は赤い頬で歯みがき粉の撮影に挑んでいた……。
・
「なんだ? 何か物申しでもあるか?」
「……あるよ。あるに決まってんじゃん!」
晶さんを責めてもしょうがない──
この目の前の髭が一枚噛んでいるのは百も承知。
俺は仕事を終えて事務所に戻るなり、社長のデスクに不作法にもケツを乗せて腕を組んだ。
「今日、Tテレのスタジオで晶さんとマリオを見かけたけど?」
「──!…」
突然の切り出しに社長は確かに目を見開いて見せた。
その一瞬の動揺を隠すように社長は上着のポケットをおもむろに探りだす。
「だったらなんだ?」
開き直ったなこの髭っ…
髭は直ぐに真顔を取り繕うと取り出した煙草に火をつけていた。
「なんで晶さんを業界に引き込むわけっ…」
「仕事がくるんだから仕方ないな」
「──…っ…」
「お前も一々そんなことで目くじら立ててる場合じゃないだろう?」
平然と答えながらも髭は切り出すように口にした。
「場合じゃないって何が?」
「マリオに仕事を持っていかれるぞ」
「………」
髭は不吉なことを口にする。
「は、…持っていかれるって何が? マリオと俺じゃ、元々路線も違うし…」
何を急に言い出すかと思えば──
マリオと俺では元々持ってるイメージが異なる。よって仕事が被るなんてあり得ない。
「以前まではな……」
「………」
高を括る俺に社長は一服、煙を吐くと意味深な目を向けた。
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