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第四章 伝説編

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腕の中のアルの感触を確かめながらルイスは声を掛けた。

アルの唇からは苦し気な吐息が漏れる。

「隊、長…さ…」

「どうした!?
怪我でもしたか!?」

うっすらと見える視界の中でアルがゆっくりと首を横に振る様が確認できた。

滑り落ちたような感覚はあった…
だがどこも怪我をした訳ではない。

上を見上げると薄暗いなりにも、外の景色が微かに覗いて見える…

そして、降り頻る雨の音も…


暗闇に慣れてくると、ルイスは自分達が階段の側に居ることに気づいた。

落ちてきたと思われる場所からループ状に沿った階段を眺めルイスはホッと溜め息を漏らすと腕の中のアルを見つめ、アルから離れた。


「待って!まだよく見えないの!」


―――!…


身体を放そうとしたルイスに一瞬すがりつく。
光をまともに目にしたせいか、まだ視界が歪んでいるようだ…

瞼を瞬かせ眉を寄せながらアルはルイスの胸の中で手を泳がせた。

様子を探りながら掴んだルイスの手にアルは時折、キュッと力を込める…

ルイスはアルのその仕草に一瞬目を見開いた。
ドクンと胸が弾む。

暗くて助かった…

そんな理不尽なことを思ってしまう。



アルに掴まれた腕が熱い…

自分の身体に身を寄せるアルに胸が疼く―――



ルイスは苦し気に顔を歪めた…



顔を仰ぐとしがみ着くアルの腰に回っていた手が拳を握る。

抱き寄せてしまいそうな自分の本能を抑えつけ、ルイスは理性でその感情を無理矢理縛り付けていた。


静か過ぎる二人きりの空間。


アルに聞き取られないように、ルイスはそっと深い呼吸を繰り返す…


「……ありがとう…

ちょっと見えるようになった…」


―――…!?

「あ…

ああ、そうか…それはよかった…」

ふと、身を離したアルに身体が切なく反応する。周りを確かめて歩くアルの姿を目で追いながら、ルイスはアルがさっきまでずっと掴んでいた自分の腕にそっと触れていた。


ほのかに疼きを増す胸の痛み…

思わず息苦しさに眉を潜める。


「クソ…」

小さな呟きが漏れた。



ロイっ…無理だ…



アルを見つめる瞳が熱で潤む…

ルイスは悔しげに瞼を伏せた。

「隊長さん?…
大丈夫? どっか痛い!?」


苦しい顔をするルイスにアルは気づく。心配そうに肩を支えると、アルはルイスの顔を覗き込んだ。



「…大丈夫だ…

何でもない……」


ルイスはアルにフッと笑みを向けた。

気遣うように手を伸ばすアルが堪らなく愛しく想えてしまう…

俺はちゃんと笑えているだろうか…

そんな不安が沸き上がる。


「…隊長さん……」

大丈夫なのかな? ほんとに………



アルは平気な振りをして前を歩くルイスの後ろ姿を見守るように付いて行った…




だってさっき向けた笑みは今にも泣き出しそうだったから…


アルはルイスがどこか怪我をしたんじゃないかと気が気じゃなかった……


暗闇に慣れてきた視界が少しずつ色々なものを映し出す…

滑り落ちた場所から歩みを進めると所々に光る何かが咲いている。


「光りゴケの一種だな…

あの大樹の下にこんな地下道の入り口があったとはな……」

奥に進むに連れ、光りゴケは量を増しランプなんて必要ないほどの灯かりをアル達に提供していた。

「天然のランプか…
オイル切れの心配がないってのは画期的だ」


ルイスは土の壁を撫でながら感心している。そして、な!…とアルを振り返った。


「………どうした?」


うっすらと涙を浮かべたアルにルイスは驚きを隠せず足を止めた。



「心配でっ…」

「何が…?」

「何がって…隊長さんがっ」

アルはルイスの問いに声を強める

「隊長さんが無理してるんじゃないかってっ…」


―――!?

ルイスはアルの叫んだ言葉に目を見張った。

「無…理…って何を……」


見抜かれたのか!?


ひた隠しにした自分の気持ちを―――


ルイスは涙をボロボロとこぼし始めたアルに動揺していた。


「な…何を言って…」

胸が詰るっ

真っ直ぐに見つめてくるアルの顔をまともに見れずルイスはアルから目を反らした。


「何でお前が泣く…」

何もアルが泣くことはっ…


「だって、あたしっ…

守るなんて言って…っ…何もできなっ…」


「………は?」


アルのそのセリフにルイスは口を開けた。


なんだそれ…


「隊長さ…ん、だって無理してるってわかるもん…

怪我しててもあたしじゃ…頼りない…からっ……ひっく…何も言ってくれなっ…」


「…そ、んなことか!?…」


なんだ―――

そんなことかよ……


「そんなことってだによ!!」


呆れ口調のルイスにアルは叫んだ




グシグシと、次から次に溢れる涙を拭いアルは鼻を詰まらせ必死にルイスに訴える。

ルイスはそんなアルを見て破顔した額に手を当てた。

正直、ホッとした…

アルに気持ちを悟られたのかと大いに焦った自分に笑いが込み上げそうになる。

「ふっ…

ぶっ…くくっ……」


「―――?!

ひどい!!…なんで笑うの!?」

込み上げた笑いはやっぱり止められなかった…


「ふっ…悪い…

くくっ…違う…アルの事を笑ったんじゃない…ぷっ」


「―――?!…っ…」


笑いを耐えながらルイスは苦しそうにアルに弁明していた。目尻に滲む涙を拭いながらルイスは安心したついでに戸惑いもどこかに吹き飛んでしまったようだ。

尚も収まらぬ笑い声を漏らすルイスにアルは真っ赤になっていた。


…こんなに心配してるのに!!


アルのそんな気持ちが伝わったのか、ルイスは砕けた笑顔を少しずつ優しい笑みに変えていく…

ルイスはアルに近づき真っ赤な膨れっ面の両頬に手を添えた。

「―――…?!」


「アル…さんきゅ…」

細めた瞳に目を奪われる。トクンと静かに脈を打つ心臓にアルはくっと息を飲んだ。

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