【完結】傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される

中山紡希

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第五章

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 あの日から三日が経った。アイリーンの腕の傷はかさぶたになり、痛みもなくなった。エドガーは連日忙しそうにしていた。
朝食だけは一緒にとるものの口数は少なく、どこかよそよそしい印象を受ける。食事を終えるとすぐに執務室へこもってしまうエドガーをアイリーンは心から心配していた。
 この日の午後、アイリーンが窓際の長椅子に座り刺繍をしていたときだった。
 コンコンッと部屋の扉がノックされ、慌てた様子のシーナが部屋へ飛び込んできた。

「あ、アイリーン様! 大変です! 今、クルムド子爵家の方がいらっしゃいました!」

 一瞬、なにを言われているのか理解できなかった。

(クルムド子爵家……まさか、継母とソニアが……?)

 アイリーンはハッとして椅子から立ち上がった。
二人が理由もなくサンドリッチ領まではるばるアイリーンに会いにやってくるわけもない。だとすれば、なにかの思惑を抱えているに違いない。嫌な胸騒ぎがして、いてもたってもいられない。

「今、ルシアン様が対応にあたってくれています。応接間の方へお越しくださいませ」

 アイリーンはシーナとともに応接間へ向けて歩き出した。
広々とした応接間のソファには、継母とソニアが、その向かい側にはエドガーが座っていた。

「お義姉様!」

 ソニアはアイリーンに気付き、にっこりと可愛らしい笑みを浮かべて胸の前でヒラヒラと両手を振って見せた。

「アイリーン、久しぶりね」

 継母は胸の前で腕を組んで、見下したような視線をアイリーンに向けた。

「奥様、ソニア、お久しぶりです。今日はなんのご用ですか?」

 アイリーンはエドガーの隣に腰かけて、早急に切り出した。

「まったく。顔を見に来てやったのに、そんな言い方をするなんて。相変わらず可愛げのない子ね」

 すると、黙っていたエドガーが割り込むように言った。

「それで、今日いらした理由はなんですか?」

 エドガーの口調は冷ややかだった。二人を歓迎していないことがピリピリとした空気から伝わってくる。

「ええ、実はある噂を耳にしましたの。もちろん、辺境伯様にも関わることですわ」
「もったいぶる言い方ははやめてくれ。不快だ」
「ふふっ、そこまで言われるんでしたらこちらとしても黙っていませんよ。辺境伯様、あなたにはエマ様という妹がおりますよね?」

 継母の言葉にアイリーンは隣に座るエドガーに目を向けた。彼に妹がいるというのは初耳だった。

「エドガー様、それは本当ですか?」 
「……ああ。俺にエマという妹がいるのは本当だ。だが、エマは十二歳で病死した」

 エドガーは素直に認めた。今まで、エドガーの口から妹の話が出たことはない。ふと執務室の机にあった写真立てが目に浮かぶ。太陽のような笑みを浮かべていたあの少女がエドガーの妹のエマなのかもしれない。

「やっぱり! お義姉様は辺境伯様にエマ様のことを知らされていなかったのねっ!」

 何故かソニアは喜びを抑えきれないというように、声を弾ませる。

「辺境伯様、どうしてアイリーンに妹のエマ様のことを話さなかったのです?」

 真っ赤な口紅をひいた唇の端を持ち上げて、継母は勝ち誇ったような醜悪な笑みを浮かべた。

「やめください! どうしてこのような話をなさるのですか!?」

 エドガーが妹の話をしなかった理由はなににせよ、亡くなった妹を話題に出して揚げ足を取ろうとするなど無礼の極みだ。亡くなった彼の妹への冒涜でもある。

「アイリーン! あなたは黙ってなさい! これはあなたに関係する話でもあるのよ」
「なぜわたしに関係するのですか? わたしはエマ様とは面識がありません」

 アイリーンの言葉に継母とソニアは目を見合わせて口元を醜く歪ませた。さらに「ぶっ!」と吹き出して甲高い笑い声をあげた。

「あははははは! それが、あ、る、の、よ~」

 相手を煽るような口調の継母をアイリーンは心底軽蔑した。いくらアイリーンが嫌いだからと言ってエドガーの前でこのようなふるまいをすべきでない。あまりにも浅はかな継母に言葉を失う。
 隣に座るソニアは勝ち誇った笑みをアイリーンに向けていた。その瞳がシャンデリアの光を浴びて、ほの暗く邪悪な色に光った。
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