39 / 100
第三章 近付く距離
7
しおりを挟む全てが完璧だとは思っていたけど、家事能力まで高いなんて信じられない。
こういう人を巷ではスパダリと呼ぶんだろうか。
奈々子が今の彼の姿を見たら、大騒ぎだろう。
「――どうした?そんな見られたら照れるよ。俺がいなくて、寂しい?」
「べ、別に見てませんから!勘違いですよ!」
「ははっ、分かりやすいね」
とびっきりの笑顔を浮かべる彼から、慌てて視線を反らす。
ダメだ。彼といると、調子を狂わされてしまう。
出会いは最悪だったけど、あのときの彼の言動は本当に悪気がなかったのかもしれないと思わされる。
いまだに彼がどういう人間なのか掴み切れない。
いや、むしろ知れば知るほど彼が分からなくなる。
頭の中がゴチャゴチャになり、私は再びパソコン画面に向き合う。
こういうときは仕事をするに限る。
奈々子の言う通り、私は相当なる社畜らしい。
しばらくすると、テーブルの上にホットコーヒーが置かれた。
「ありがとうございます」
首と肩が凝り固まっている。お礼を言って、一度作業を中断して大きく伸びをする。
「休みの日もこうやって仕事漬け?」
砂糖とミルクをたっぷり入れて、マドラーでグルグルとかき混ぜる私に彼が尋ねた。
「まあ、忙しい時はこんな感じですね」
「そっか。でも今日はもう終わりにしよう。無理するのは体に良くない」
……な、なんですと?
こめかみを引きつらせながら、彼に目を向ける。
彼はテーブルに肘をつき、手のひらの上に頬を乗せて伏し目がちに私を眺めていた。
「無理をするな……?こうなっている理由はなんでしょう?JJTのコンペ、時間が足りないって私言いましたよね?それを強行したのは誰でしょう?」
皮肉たっぷりに質問攻めする。
「俺だけど」
悪びれる様子の一切ない彼に盛大な溜息を吐く。
自分が受け持っている仕事だけで精いっぱいだというのに、JJTの仕事までやれば作業量が多くなる。
彼だってそれを分かっているはずなのに……。
「今からやろうとしてるのは、JJTの企画書づくり?」
「そうです。伍代さんがチームに入ってくれるのはありがたいですが、結局チームリーダーの私が動かなくちゃならないので」
上司から仕事を押し付けられることは今までにも数えきれないほどあった。
入社二年目になり一通りの仕事を覚えた後は酷かった。
『お前ももう一人前だ。白鳥ならできるよ。俺も協力するからさ』
まだ経験の浅かった私はその言葉を本気にして、上司の期待に応えようとして死に物狂いで仕事をこなした。
でも、それは口先だけの言葉だった。
自分の力だけではどうすることもできなくなり上司に協力を依頼すると、『それはお前の仕事だろ』と冷たくあしらわれて、『期待して損した』と苦々し気に吐き捨てられた。
『協力する』『サポートする』そんな言葉は当てにならないのだということを、このとき私は思い知った。
結局、その案件を獲得して上司に報告すると『よくやった。ここからは俺が引き継ぐ』と手柄を奪われた。
そういうことが何度も続きて、精神的にも肉体的にもボロボロになった。
そんな私とは対照的にその上司は実績を買われて他社に引き抜かれ、栄転した。
上司の仕事を引き受けた結果がこれか。
私が新規開拓したクライアントのほとんどは横取りされ、営業成績は最下位近くまで落ち込んだ。
押し付けられる雑用、途方もない量の企画書、女だからという理由だけで駆り出される接待。
『私、何やってんだろ……』
ある日、張り詰めていた糸がプツリと切れた。
7
あなたにおすすめの小説
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・
希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!?
『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』
小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。
ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。
しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。
彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!?
過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。
*導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。
<表紙イラスト>
男女:わかめサロンパス様
背景:アート宇都宮様
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる