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第六章 芽生えた感情
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怒涛のような日々が続き、ゴールデンウィークが開けた。
コンペまで残すところあと三日に迫ったこの日、私たちのチームは最終調整を行っていた。
毎日のようにミーティングルームに集まって打ち合わせを行ううちに、チームとしてのまとまりも生まれてきた。
特に、黒川さんは心を入れ替えて自分ができることを一生懸命やろうと努力している。
この日も全員が集まり、本番同様にプレゼンの練習を行った。
「形にはなってきましたね。ただ、これが伝堂など他の企業の案と並べられたときに勝てるかですね」
伍代さんの言葉に全員が頷く。
「あのっ……」
話の途中で手を挙げたのは、斎藤さんだった。
ここ最近では、斎藤さんも積極的に意見出しをしてくれている。
「今、見ていて思ったことなんですが、プレゼンの際にはもう少し丁寧に説明をしたほうがいいと思います」
「なるほど。どの部分がわかりずらかったですか?」
彼は斎藤さんの元へ歩み寄り、すり合わせを行う。
そんな二人のやり取りをメモに取る黒川さんと冬野くん。
絶対に勝ってみせると、私は再度決意を固めたのだった。
いよいよコンペ当日の朝。
私たちチームメンバーは会社のロビーに集まり、二台に分かれてタクシーに乗り込んだ。
「大丈夫ですか?相当お疲れのように見えますが」
「大丈夫だよ。あと数時間で終わるしね。それまでは、絶対に倒れられない」
私の隣に座る伍代さんの顔には明らかな疲れが見て取れた。
本人から話を聞いたわけではないものの、この一か月伍代さんは私たち以上の業務をこなしてきた。
各種チームとの打ち合わせや調整だけでなく、JJTに何度も足を運んで情報を集めてくれた。
「そのあとは倒れてもいいみたいな言い方ですね」
「俺がもし倒れたら、看病してくれる?」
軽口を叩く伍代さんを横目に小さく溜息を吐く。
「私じゃない女性にやってもらえばいいじゃないですか」
こないだ電話をかけてきた『幸子ちゃん』にと、心の中でぽつりと呟く。
あれから、私と彼は上司と部下という関係を保てている。
これでいいんだと、私は自分に言い聞かせた。
「いないよ、そんな子。それに、俺は実咲に看病してほしい」
伍代さんが言い終わると、タクシーはJJTの本社前に到着した。
「よし、行こう。絶対に俺たちが勝つよ」
決意を込めた彼の言葉に、私は大きく頷いた。
JJTの会議室の前で待機していると、先にプレゼンを行った伝堂のスタッフ数人が笑みを浮かべて出てきた。
さすが業界一位。その顔には確かな手ごたえが感じられる。
「あたし、こういうプレゼン初めてで……。ハァ……緊張する……」
黒川さんは掌に『人』という漢字を書き込んでは飲み込み、その隣では斎藤さんがガチガチになりながら胸に手を当てて深い呼吸を繰り返す。
そんな中、伍代さんと冬野くんのふたりは冷静にプレゼンの最終打ち合わせを行っている。
そして、ついに私たちの名前が呼ばれ会議室に通された。
コの字に並んだテーブルにJJTの人間が座り、室内は独特な雰囲気が漂っていた。
「本日は競合コンペに参加させていただき、ありがとうございます」
場慣れしている伍代さんの挨拶のあと、JJTのジュージューバーグが一般消費者からどのような目でられているのかの簡易調査の結果を分かりやすく説明する。
そして、ついにCMの核となる部分に話が及んだ。
「今回、私たちは若い層に人気があり、インフルエンサーと呼ばれる人をCMに起用する案を考えました」
伍代さんの「インフルエンサー」の言葉に、数人の人間が首を傾げた。
斎藤さんが以前分かりずらいと指摘したのもこの部分だった。
若い世代はなんとなく知っている言葉でも、年齢層が上がると知らない人も多い。
予定通り黒川さんがプレゼンボートの前に立ち、説明を始める。
「インフルエンサーとは世間に影響を与える人のことを指します。かつては、芸能人やモデル、スポーツ選手などテレビで活躍する人たちを指すことがでしたが、今は違います」
黒川さんは丁寧に説明を続ける。
「トップインフルエンサーと呼ばれる人たちのフォロワーは100万に越えています。ミドルインフルエンサーは10万人です。今回、CMに起用する予定のインフルエンサーは50万人ほどのフォロワーがいます」
冬野くんが作ったプレゼンボードをJJTの人間が興味深げに見つめる。
CMの細部の作り込みはクリエイティブの人間が行う。けれど、クリエイティブの人間は他にも案件を抱えて忙しい。その為、プレゼンボードはすべて営業部が作ることなった。
それを担当してくれたのが冬野くんだ。
かつてクリエイティブで得た知識や技術を総動員して、冬野くんはプレゼンボードを作ってくれた。
その完成度の高さに、伍代さんも賞賛していた。
「今回、若者の心を掴んでいるインフルエンサーのミルキー苺さんを御社の広告塔として起用したいと考えております」
ミルキー苺ちゃんと繋がりがあるという黒川さんの妹を通してCMオファーの要請をかけると、二つ返事で引き受けてくれた。
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