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最終章 誓い合った愛
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しおりを挟む高層階ホテルの中にある高級フレンチレストランに私はいた。
「実咲、誕生日おめでとう」
笑みを浮かべる智哉さんとワイングラスで乾杯する。
「ありがとうございます」
ここへ来る前に駅前のブティックに寄り、体にフィットするデザインの真っ赤なロングドレスをプレゼントしてもらった。
その後、ブティックを出て有名な美容院へ行くとVIP専用室に通されて、ヘアメイクまでしてもらった。
普段とは違いプロの手によって見違えるほど美しくなった私を見て、智哉さんは「綺麗だ」と感嘆の声を漏らした。
都心の美しい夜景を眺めながら優雅にワインを嗜む非日常の空間で心が躍る。
牛肉のフィレは口の中で溶けてしまうほどに柔らかくて美味だ。
こんな贅沢な誕生日は生まれて初めてだ。
事前にこのお店で食事をすると知らされていた私は情報通の奈々子に話した。
すると、奈々子は目を見開いて驚いていた。奈々子の話では、どうやらミシュランガイドにも載っているほどの有名店で予約はいつもビッシリ埋まっているらしい。
どうやって予約をしたのか訝しがる私に奈々子は「そこは御曹司の力でしょ」と確信を持ったように言った。
確かに彼は御曹司だ。いつか父親の会社を継ぐのか尋ねると彼は「分からない」とあっけらかんと答える。
どちらにしても、智哉さんならどの会社に身を置いても安泰だろう。
彼ほど仕事のできる人間を私は見たことがないんだから。
「やっぱり実咲は赤が似合うね」
智哉さんが私に熱い視線を投げかける。
「智哉さんのスーツもカッコいいですよ」
会社で着ていたのはネイビーのスーツだったけど、今はダークグレーのお洒落なスーツに身を包んでいる。
体にフィットしたオーダーメイドスーツは見るからに仕立てが良く、高価なのが手に取るようにわかる。
海外製の時計は誰しもが知る超一流ブランドのものだ。
「カッコいいって実咲に言われるの初めてだ。なんか嬉しいね」
目を細めて微笑む智哉さんにつられて私も微笑む。
「そういえば、これ、幸子から。渡してくれって頼まれてたんだ」
「えっ、幸子ちゃんからですか?」
綺麗にラッピングされた箱を開けると、中には私が愛用しているブランドのコスメグッズが詰め込まれていた。
「えっ、嬉しい!これ新作だったんですけど、売り切れてて買えなかったんです!」
あれから幸子ちゃんとは良い関係を築いている。
智哉さんに言えないことも、幸子ちゃんには話せるし、可愛い妹ができたみたいで本当に嬉しい。
食事を終えると、私は智哉さんに腰を抱かれたままエレベーターに乗り込んだ。
最上階のボタンを押すと、エレベーターはゆっくりと上昇していく。
これから先なにが起こるのか分からないほど初心ではない。
彼に抱かれることを予想して、新品の下着も買ったし体のケアも完璧に仕上げた。
「なんか緊張してる?」
ふいに聞かれて私はフルフルと首を振る。
「全然!いつもと同じですよ」
「そっか。その強がりをいつまで保っていられるか楽しみだよ」
もちろん、そんな私を智哉さんはすべてお見通しだ。
彼と付き合ってから、私は彼の手のひらの上で見事に転がされている。
智哉さんは私よりも一枚も二枚も上手なのだ。だけど、それが私には妙に心地よかった。
虚勢をはってもそれをすぐに暴かれて、素の姿にされる。
そんな私を見て彼は「可愛い」と愛でてくれる。
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