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第五章 初めての感情~久我北斗side~

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俺の人生は、生まれた瞬間から定められていた。
久我組を継ぎ、組を支える。それを使命に生きてきた。
二十五を過ぎてから度々縁談話が持ち上がるようになっても、これといった女性とは出会えなかった。

勧められた女性たちと食事にいったことはある。
淡々と食事を摂り、相手との会話もそこそこに席を立つ。
興味のない相手にあれこれ質問するのは億劫だったし、時間を搾取されているようで苛ついた。
顔には出さなくともそれは雰囲気として相手に伝わり、うまくいくことはなかった。

『ヤクザは嫌いか?』と尋ねると、女たちは『大好きです』と甲高い声を上げて媚びを売る。
理由を尋ねるとカッコいいからだとか金持ちだからだとかとってつけたような理由を並び立てる。
彼女たちが求めているのは、俺自身ではない。
久我組若頭の久我北斗であり、その妻の座なのだ。

けれど、萌音は違った。ヤクザが嫌いか問うともちろんだと答えたうえで『例えその人がヤクザであったとしても、人間的に良い人か悪い人かどうかは、私の目で見て決めます』とハッキリ言ってのけた。
あんな女に出会ったのは初めてだった。

「その萌音さんというお方は堅気の人間ですか?」
「ああ。隣町の呉服屋の娘だ。彼女の継母が竹政組の幹部と良い仲らしい」
「なんですって?」

神城の顔から笑顔が消え失せる。

「継母が竹政組の幹部の女?」
「そうだ」
「若、知っているかと思いますが竹政は危険です。あそこの組は仁義もクソもない。暴力的で堅気にだって容赦なく手を出すような連中です。もしも若と萌音さんの関係を知ったら、あっちはそこを叩いてくるに違いありません」

竹政組の狙いはあの呉服店だ。大通りに面したあの土地は価値が上がり、売り捌けばそれなりの金額になる。俺と萌音の関係を知った竹政組がそれをネタに久我組に揺さぶりをかけてくる可能性は十分考えられる。

「それは分かってる」
「だったら、彼女からは手を引くべきです。無駄な血が流れることになる」

神城の言葉は正しい。
竹政組は力で他の組をねじ伏せ、吸収して構成員を増やしている。さらに、腕っぷしの強い街の半グレを金で釣り、仲間に引き入れているという。

「……その顔……、どうしても諦められないようですね?」

俺が黙っていると、神城は全てを見透かしたように溜息を吐く。

「俺たち久我組が関わらなくとも、いずれ萌音に危険が及ぶ。見て見ぬふりをして彼女を放っておくことはできない」
「それなら、彼女に呉服店を捨ててもらうしか道はないでしょう。継母に呉服店を譲って彼女と竹政組の関係を断つしかない」

俺はタバコをくわえて火をつけ、肺いっぱいに吸い込み一気に吐き出した。
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