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第五章 初めての感情~久我北斗side~
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しおりを挟む「それはできない。彼女は父の残した呉服店に思い入れがある。それを奪ったりしたくない」
「若!全部を手に入れることはできません。なにかを得るためには、なにかを捨てる必要がある。頭の良いあなたなら分るでしょう?」
神城は俺を必死に説得する
「ああ。だが残念ながら、俺はもう竹政組の人間に手を出した。じきに戦争になる」
「本気ですか!?そんなことをしたら――」
「俺はなにがあっても彼女を諦めない」
「若!」
神城が声を荒げる。
「神城、お前だっていつかはこうなることを予想していたんじゃないのか?竹政組にこれ以上好き勝手させておくわけにはいかない。時期が早まっただけだ」
フーッとタバコを吐き出す。
「それと、これだけは言っておく。俺は萌音を得るために、なにかを捨てることも諦めることもしない。欲しいものは、全て手に入れる」
「ハァ……。お手上げです。若は昔から一度決めたことは絶対に譲らない頑固な人だ。私が何を言ってもムダですね」
パワーウインドーをわずかに開けると、車内の煙がふわふわと風に揺られて逃げていく。
「それと、もうひとつお前にとって大事なことを教えてやる」
俺は神城の耳元であることを囁いた。
「……――それは本当ですか?そんな……。どうしてもっと早く教えてくれなかったんですか!?」
神城の目の色が変わる。
「お前には言うなと、口止めされていてな。どうだ?お前も俄然やる気になっただろ?」
「やっぱりあなたは悪魔だ。最初から私を巻き込む気だったんですね」
「お前は頼りになる俺の右腕だろう。頼りにしてるぞ」
「まったく。あなたって人は……」
やれやれと深く長い溜息を吐くと、神城はハンドルをきつく握り締め、乱暴にアクセルを踏み込んだ。
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