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第十章 永遠の幸せ

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店を閉めた後、私は悩んだ末に呼び出された公園へ向かった。
古びたブランコと滑り台しかない寂れた小さな公園に入り、辺りを伺う。
公園灯に照らされたベンチに黒い人影が見えた。
私はふぅと息を吐きだしてベンチへ歩み寄る。

「――尚」

声を掛けると、ベンチに座って俯いていた男が顔を上げた。

「萌音、来てくれたんだね」

そこにいたのは尚だった。無精ひげを生やし目の下は窪んでいる。
一目で疲れているのが見て取れた。
私は彼の傍まで歩み寄り、隣に腰を下ろした。

「……今までどこにいたの?」

重苦しい雰囲気を打ち破るように尋ねる。
一度、どうしても気になって尚が住んでいたマンションに北斗さんと一緒に訪れた。
けれど、家に人がいる気配も帰っている形跡もなかった。

「俺さ、萌音には言ってなかったけどブローカー以外にも悪い仕事をしてたんだ。だから、色々な人に追われてて家にも帰れなくて。マンガ喫茶とかカラオケを転々としているうちにようやく気付いた。俺には友達も頼れる人も誰もいなかったんだって」

覇気のない口調で尚は続ける。

「こんなことになって、ようやく思い知らされたよ。俺はずっと萌音に依存してたんだって」
「尚……」
「俺ね、母さんが再婚して萌音っていうお姉ちゃんができて子供ながらにすごく嬉しかったんだ。母さんは昔から子供より男ってタイプの人間だったから、萌音のお父さんと結婚してようやく落ち着いて俺を愛してくれるって信じてた。だけど、人間としての本質は変わってなかった」

尚が言いたいことはよくわかる。彼女が一番大切なのは、自分とお金だ。
血の繋がった尚のことを利用することすら厭わない冷酷な人間なのだ。

「だけど、萌音は違った。俺のそばにいて、ちゃんと向きあってくれた」

尚がこちらに顔を向けた。

「俺は萌音が本当に好きだったんだ。萌音のことを一番分かっているのは俺だし、愛してるのも俺だって驕ってた。だから、萌音に弟として扱われるたび叫び出してしまいそうだった」
「……ごめんね。私……尚の気持ちに全く気付かなかった」

今まで無自覚に尚の心を傷付けていたと思うと、申し訳なさでいっぱいになる。

「萌音が謝る必要はないよ。悪いのは全部俺だし。黒岩に脅されていたとはいえ、自分に言い訳をして萌音から大切な店を奪おうとしてた」
「尚……」
「俺、もう母さんとは縁を切る。これから先の人生まで母さんに搾取され続けるのは嫌だから」

すると、尚は小さく息を吐くとスッと立ち上がり「おーい!!久我さーん!!」と声を上げた。


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