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第十章 永遠の幸せ

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秋穂ちゃんのつまみ細工教室は大盛況のうちに幕を閉じた。

「なんとか終わった……」
「秋穂ちゃん、お疲れ様」

お客様を見送って店に戻ると、緊張の糸のプツリと切れた秋穂ちゃんが安堵の溜息をついた。

「教室、大盛況だったね」
「はい!喜んでもらえて本当に嬉しかったです」

にこにこと笑う秋穂ちゃんにつられて微笑む。
すると、秋穂ちゃんの視線が私のお腹に向けられた。

「お腹、ずいぶん大きくなりましたね。お兄ちゃん、口には出さないけど赤ちゃんが産まれるのすっごく楽しみにしてるみたいです。ちょっと小耳に挟んだんですけど、妊婦検診にもついてくるって本当ですか?」
「うん。忙しいと思うしひとりで行けるって言ってるんだけど、一緒について来てくれるの。生まれる前から良いパパっぷりを発揮してくれてるよ」

お腹を摩りながら微笑む。

「お兄ちゃん、萌音さんと出会ってから、いい意味で別人になりました」
「そうなの?」
「はい。お兄ちゃんは私と違って久我組の看板を背負って立つって言う役割がありました。久我組の長男として生まれてきた瞬間から、将来が定められていたんです。だから、何事にも興味も関心も持たず生きていました。でも、萌音さんのお陰で今は生き生きしています」

秋穂ちゃんの言葉が胸に温かく染み渡る。

「これからもお兄ちゃんをよろしくお願いします」
「ううん、こちらこそよろしくね。秋穂ちゃんみたいに可愛い妹ができて本当に嬉しい」
「そんな!私、ずっと前からお兄ちゃんと萌音さんが付き合ってくれたらいいなって思ってたんです。前に『極道の男の人ってどうなのかな?』って聞かれたとき、私すごい反対したの覚えてますか?」
「もちろん」

秋穂ちゃんはあのとき『ありえないです!どこの組の人間ですか?極道の男とお付き合いするなんて!萌音さんにその男は絶対に合いません!』と珍しく感情的になっていた。

「実は私、萌音さんにお兄ちゃんを紹介しようって思ってたんです。まさかあのとき、ふたりに繋がりがあるなんて知らなかったので、萌音さんが他の組の人間と仲良くなられたら困ると思って反対しちゃいました」
「ああ、それで」

彼女が明らかな拒否反応を見せた理由がようやくはっきりした。

「私もお兄ちゃんに続いて結婚できたらいいなぁ……」

秋穂ちゃんがポツリと漏らす。

「神城さんと?」

私が尋ねると、彼女は大きな目を見開いて頬を赤らめた。

「ど、ど、どうしてそれを!?」
「見てれば分かるよ。ずっと前から好きなんだよね?」
「は、はい。でも、神城は私のことを女として見てくれません。ずっと子ども扱いされてます」
「そんなことないと思うけど……」

あのとき、神城さんは黒岩に向かってこう言った。

『あなたのせいで、ここ最近生きた心地がしなかったんですよ。どうしてくれるんです?』

それって、うちの店で働く秋穂ちゃんになにかあったらと心配していたからこその発言だ。

それに、『アイツらは昔から互いに好き合っているのに気が付かない大馬鹿だ』って北斗さんも言っていた。
おそらくふたりは昔からの両片思いということだろう。

「私は秋穂ちゃんを応援してるよ。協力できることがあったらいつでも言ってね」
「ありがとうございます……!」

私はふたりが結ばれることを願いながら、にこりと笑顔を浮かべた。
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