10 / 276
【箱庭探訪編】第1章「星の輝く箱庭」
10話 真夜中の殺人鬼
しおりを挟む
「ふふ、驚いたでしょう? まさか、って思ったでしょう? アタシ、今のアナタの顔がとっても好きだわ」
振り返ったアンナちゃんの瞳には、一筋の光すら映り込んでいなかった。
真夜中の殺人鬼────夜になると現れ、夜に街を出歩く人を無差別に襲い無惨に解体する。
そんな恐ろしい存在が、既に私の前に現れていたということなの?
「そんな……嘘だよ。昼間はちゃんと────」
「さあ、口封じの時間といきましょう」
アンナちゃんの言葉が終わってすぐに、ティルの方が動き出した。
人間だったものを殴っていたバールを大きく振りかざしてきて────
「っ、話聞いてよ!!」
自分の剣を召喚し防ぐ。他の三人も異変に気づいていたのか、既に各々の武器を構えていた。
「ユキア!」
「────!」
魔銃による光線が襲いかかり、向こうは一度間合いをはかる。頬を掠ったらしく血が流れていた。
ティルは不機嫌そうにこちらを睨みつけるが、アンナちゃんは微笑みを崩さない。
「なるほど、一筋縄ではいきそうにないわね。街を壊さず済ませるのは難しそう」
「ティル! アンナちゃん! どうしてこんなことを!?」
「騒ぎが起きたら面倒だし、早めにかたをつけてしまいましょう」
こっちの話なんて耳に入れてくれない。その瞬間、辺りを包む空気が変わった。
アンナちゃんが数歩下がったところで、ティルが目を閉じ顔を俯かせる。私とシオンが前に出て、メアとソルは後衛に回る。
風もないのに、ティルの髪がゆらゆらと揺れている。赤く鋭い瞳が際立ち、光を薄く放っていた。
「────〈アクセラレートモード・起動〉」
一瞬赤いスパークを放ったと思ったら、ティルの姿が眼前から消えた。
どこに行ったのか探る前に、尋常じゃない殺気が背後に回った。
「うあぁっ!?」
咄嗟に剣でバールを防ぐも身体を吹き飛ばされた。不意打ちを回避できず、路地の奥へとへ投げ出される。
「っ、お前!! ユキアに近づくなッ!!」
「うるせぇ」
血相を変えたメアがティルに向かって駆け出そうとしたが、バールで身体を打たれ壁に叩きつけられる。
「なんだこいつ、急に素早くなりやがった!?」
「魔法の類だよきっと! ならばこれで……〈ヴェントゥス・チェインバインド〉!」
魔導書を開いたソルが、伸ばした片手から魔力の鎖を放つ。
しかし、並外れた速度で駆け回る彼には届かない。届いたとしても間一髪のところで回避される。
鎖が行きつく先は、彼の残像だった────そんなパターンばかりが続く。
「……どうなってるんだ。魔法とはいえ、人体でこんなスピードを出せるわけ……」
「魔法じゃないわ。異能力よ」
「うっ!?」
アンナちゃんの言葉とほぼ同時に、ティルの振りかざすバールがソルの後頭部に直撃する。成す術もなく昏倒したところで、シオンが斧を構えティルを睨みつけた。
「こんの野郎っ!! 〈トニトルス・チェイサースフィア〉!!」
雷電をまとう魔弾が生み出される。赤黒いスパークを放ったままのティルめがけて、魔弾を斧で打ち込んだ。
奴は回避行動をとり、シオンにバールをぶつけようとしたが────
「ぐぅっ!?」
追尾機能つきの魔弾を避け切ることはできず、ティルはその場に膝をつく。彼の周りで散っていた赤いスパークも消滅する。
壁に手をつきつつ、剣を拾い上げ立ち上がった。メアとソルは気絶してしまっている。
私とシオンで、この状況を打破できるだろうか……。
「あら。追い詰められちゃったわねぇ」
路地裏の闇に佇むアンナちゃんと私。表の道からアンナちゃんを追い詰めるように立つシオン。
通路の幅を考えれば、私とシオンで挟み撃ちにすれば逃がすことはないはずだ。
「アナタたち、変わってるわ。今まで殺してきた人間たちとは明らかに違う」
「どうしてこんなことを!? 誰かを殺す感覚がわからないって言ったのは、アンナちゃんの方じゃない……!!」
こちらは至って真剣だった。しかし、相手の方は微笑みを崩さない。
私を見つめる大きな赤い瞳が、ほんの少しだけ細められる。
「……かわいそうに。まだアタシのことを『あの子』だと勘違いしているのね」
言葉を返す前に、アンナちゃんの小さな手が動く。その手は白い眼帯へと伸ばされていた。
眼帯に覆われ閉じられていた目が見えようとしたその時────
「サクお姉ちゃん、やめて!!」
アンナちゃん自身のもう片方の手が、眼帯を外そうとする手首を掴む。
信じられないことに、今の制止の声も彼女自身のものだった。
「ア、アンナちゃん? 起きてたのね……」
「異能力使うのだけはやめてって、わたし言ったよね!? 約束破らないで!!」
「大丈夫よ、まだ使ってないから」
「そういう問題じゃない!」
アンナちゃんが話すときと、もう一人別の誰かが話すときでは、顔に現れる感情が異なっている。
まるで、一つの身体に二人の人間の魂が入っているようだ。
異様な光景に固まっていると、彼女越しにシオンが斧を構え直すのが見えた。
「ちょっとシオン、やめなさいよ!」
「なんでだよ!? やるなら今のうちだろうが!」
「様子がおかしいの!」
シオンは首を傾げているが、彼女へ危害を加えようとすることだけはやめた。ただ、納得のいかない表情でアンナちゃんを見ている。
「マジで何が起きてやがんだよ……ってわぁ!?」
「っ、サク姉! 何してんだよ、早く全員ぶっ殺せよ!」
シオンめがけてバールを振り下ろしたティルが叫ぶ。どうやら、アンナちゃんの中にいる別の存在に向けたものらしい。
もしかして、ティルの中にも同じように別の誰かが……?
「ひっ、はぁ!? さ、殺人鬼だああぁぁ!!」
シオンとティルがいる石畳の道から、叫び声が聞こえてきた。大通りの方で、知らない男がどこかへ走り去っていくのが見えた。
「っ……仕方ないわね。ヴァーサー、ずらかるわよ!」
いつの間にか、アンナちゃんの混乱は収まっていた。ティルが頷き、気絶したままのメアとソルを両脇に抱えてアンナちゃんの近くに駆け寄る。
「おい! ソルたちをどうするつもりだ!?」
「おとなしくなさい。あらぬ疑いはかけられたくないでしょう?」
ティルからバールを取り上げシオンに向けた彼女の顔から、微笑みは既に消え去っていた。
……さっきの男は、恐らく民衆の一人だろう。この路地裏には死体が放置されたままだ。この場にいつまでも留まっていてはいけない。
二人を人質に取られた以上、従うしかないだろう。
振り返ったアンナちゃんの瞳には、一筋の光すら映り込んでいなかった。
真夜中の殺人鬼────夜になると現れ、夜に街を出歩く人を無差別に襲い無惨に解体する。
そんな恐ろしい存在が、既に私の前に現れていたということなの?
「そんな……嘘だよ。昼間はちゃんと────」
「さあ、口封じの時間といきましょう」
アンナちゃんの言葉が終わってすぐに、ティルの方が動き出した。
人間だったものを殴っていたバールを大きく振りかざしてきて────
「っ、話聞いてよ!!」
自分の剣を召喚し防ぐ。他の三人も異変に気づいていたのか、既に各々の武器を構えていた。
「ユキア!」
「────!」
魔銃による光線が襲いかかり、向こうは一度間合いをはかる。頬を掠ったらしく血が流れていた。
ティルは不機嫌そうにこちらを睨みつけるが、アンナちゃんは微笑みを崩さない。
「なるほど、一筋縄ではいきそうにないわね。街を壊さず済ませるのは難しそう」
「ティル! アンナちゃん! どうしてこんなことを!?」
「騒ぎが起きたら面倒だし、早めにかたをつけてしまいましょう」
こっちの話なんて耳に入れてくれない。その瞬間、辺りを包む空気が変わった。
アンナちゃんが数歩下がったところで、ティルが目を閉じ顔を俯かせる。私とシオンが前に出て、メアとソルは後衛に回る。
風もないのに、ティルの髪がゆらゆらと揺れている。赤く鋭い瞳が際立ち、光を薄く放っていた。
「────〈アクセラレートモード・起動〉」
一瞬赤いスパークを放ったと思ったら、ティルの姿が眼前から消えた。
どこに行ったのか探る前に、尋常じゃない殺気が背後に回った。
「うあぁっ!?」
咄嗟に剣でバールを防ぐも身体を吹き飛ばされた。不意打ちを回避できず、路地の奥へとへ投げ出される。
「っ、お前!! ユキアに近づくなッ!!」
「うるせぇ」
血相を変えたメアがティルに向かって駆け出そうとしたが、バールで身体を打たれ壁に叩きつけられる。
「なんだこいつ、急に素早くなりやがった!?」
「魔法の類だよきっと! ならばこれで……〈ヴェントゥス・チェインバインド〉!」
魔導書を開いたソルが、伸ばした片手から魔力の鎖を放つ。
しかし、並外れた速度で駆け回る彼には届かない。届いたとしても間一髪のところで回避される。
鎖が行きつく先は、彼の残像だった────そんなパターンばかりが続く。
「……どうなってるんだ。魔法とはいえ、人体でこんなスピードを出せるわけ……」
「魔法じゃないわ。異能力よ」
「うっ!?」
アンナちゃんの言葉とほぼ同時に、ティルの振りかざすバールがソルの後頭部に直撃する。成す術もなく昏倒したところで、シオンが斧を構えティルを睨みつけた。
「こんの野郎っ!! 〈トニトルス・チェイサースフィア〉!!」
雷電をまとう魔弾が生み出される。赤黒いスパークを放ったままのティルめがけて、魔弾を斧で打ち込んだ。
奴は回避行動をとり、シオンにバールをぶつけようとしたが────
「ぐぅっ!?」
追尾機能つきの魔弾を避け切ることはできず、ティルはその場に膝をつく。彼の周りで散っていた赤いスパークも消滅する。
壁に手をつきつつ、剣を拾い上げ立ち上がった。メアとソルは気絶してしまっている。
私とシオンで、この状況を打破できるだろうか……。
「あら。追い詰められちゃったわねぇ」
路地裏の闇に佇むアンナちゃんと私。表の道からアンナちゃんを追い詰めるように立つシオン。
通路の幅を考えれば、私とシオンで挟み撃ちにすれば逃がすことはないはずだ。
「アナタたち、変わってるわ。今まで殺してきた人間たちとは明らかに違う」
「どうしてこんなことを!? 誰かを殺す感覚がわからないって言ったのは、アンナちゃんの方じゃない……!!」
こちらは至って真剣だった。しかし、相手の方は微笑みを崩さない。
私を見つめる大きな赤い瞳が、ほんの少しだけ細められる。
「……かわいそうに。まだアタシのことを『あの子』だと勘違いしているのね」
言葉を返す前に、アンナちゃんの小さな手が動く。その手は白い眼帯へと伸ばされていた。
眼帯に覆われ閉じられていた目が見えようとしたその時────
「サクお姉ちゃん、やめて!!」
アンナちゃん自身のもう片方の手が、眼帯を外そうとする手首を掴む。
信じられないことに、今の制止の声も彼女自身のものだった。
「ア、アンナちゃん? 起きてたのね……」
「異能力使うのだけはやめてって、わたし言ったよね!? 約束破らないで!!」
「大丈夫よ、まだ使ってないから」
「そういう問題じゃない!」
アンナちゃんが話すときと、もう一人別の誰かが話すときでは、顔に現れる感情が異なっている。
まるで、一つの身体に二人の人間の魂が入っているようだ。
異様な光景に固まっていると、彼女越しにシオンが斧を構え直すのが見えた。
「ちょっとシオン、やめなさいよ!」
「なんでだよ!? やるなら今のうちだろうが!」
「様子がおかしいの!」
シオンは首を傾げているが、彼女へ危害を加えようとすることだけはやめた。ただ、納得のいかない表情でアンナちゃんを見ている。
「マジで何が起きてやがんだよ……ってわぁ!?」
「っ、サク姉! 何してんだよ、早く全員ぶっ殺せよ!」
シオンめがけてバールを振り下ろしたティルが叫ぶ。どうやら、アンナちゃんの中にいる別の存在に向けたものらしい。
もしかして、ティルの中にも同じように別の誰かが……?
「ひっ、はぁ!? さ、殺人鬼だああぁぁ!!」
シオンとティルがいる石畳の道から、叫び声が聞こえてきた。大通りの方で、知らない男がどこかへ走り去っていくのが見えた。
「っ……仕方ないわね。ヴァーサー、ずらかるわよ!」
いつの間にか、アンナちゃんの混乱は収まっていた。ティルが頷き、気絶したままのメアとソルを両脇に抱えてアンナちゃんの近くに駆け寄る。
「おい! ソルたちをどうするつもりだ!?」
「おとなしくなさい。あらぬ疑いはかけられたくないでしょう?」
ティルからバールを取り上げシオンに向けた彼女の顔から、微笑みは既に消え去っていた。
……さっきの男は、恐らく民衆の一人だろう。この路地裏には死体が放置されたままだ。この場にいつまでも留まっていてはいけない。
二人を人質に取られた以上、従うしかないだろう。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
愚者による愚行と愚策の結果……《完結》
アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。
それが転落の始まり……ではなかった。
本当の愚者は誰だったのか。
誰を相手にしていたのか。
後悔は……してもし足りない。
全13話
☆他社でも公開します
勝手にダンジョンを創られ魔法のある生活が始まりました
久遠 れんり
ファンタジー
別の世界からの侵略を機に地球にばらまかれた魔素、元々なかった魔素の影響を受け徐々に人間は進化をする。
魔法が使えるようになった人類。
侵略者の想像を超え人類は魔改造されていく。
カクヨム公開中。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる