ディバイン・レガシィー -箱庭の観測者-

月詠来夏

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第3章「海と大地の箱庭」

44話 情報交換

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「────うんめえぇぇぇ!! 今まで食った肉の中で間違いなく最高だぜえぇぇ!!」
「シオンうるさい。嬉しいのはわかるけど静かに食べて」

 重苦しい空気は、料理が運ばれてくるのと同時にどこかへ消えてしまった。
 シオンが口にするステーキからは、スパイスの香ばしい匂いが漂ってきている。パンケーキは食後とのこと。
 ソルは海草サラダを、メアはオムライスを黙々と食べていた。せっかくなので、私もパスタを楽しむことにした。
 その横で、アスタは浮かない顔でレモンティーを飲んでいた。

「んー。ボクも何か食べ物頼めばよかったな」
「なんで頼まなかったのよ」
「ユキからもらえばいいかなーって」
「は? バカじゃないの?」

 人から料理を分けてもらう前提かい。しかも、もうとっくの昔に口つけてるんですけど!?
 微妙にメアがアスタを睨んでいる。いや、どちらかというとジト目に近い……?

「あとでシオンからパンケーキもらいなさいよ。まだ誰も食べてないし」
「あっ、そうしよ!」
「は……? おいユキア、今なんか不穏なこと言わなかったか? なあ?」
「うるさいわね、少しは自重しなさい。太るよ?」
「はー!? なんだよいきなり!?」
「シオンの運動量なら問題ないだろう……」

 なんだかんだ言って、久しぶりに喧嘩をふっかけた気がする。
 よく考えたら、確かにシオンはよく動くから太りづらそう。といっても、私から見たら明らかに食べ過ぎである。



 みんな、それぞれの料理を食べ終わった。私たちは各々の飲み物をゆっくりと飲みつつ、シオンの食後のパンケーキが運ばれるのを待っていた。
 しばらくすると、パンケーキがやってきた。シオンがフォークとナイフを手に待ち構え、切って食べようとしたとき────

「待ってました! いただきまーす☆」
「あっテメェ!?」

 アスタが備え付けのフォークでパンケーキを一欠片食べた。
 あまりにもものすごい速度だったため、シオンが反応する前に食べられてしまった。

「ん~! 甘くて美味しいね~!」
「テメェ……! パンケーキ食った分だけでもいいから情報吐けよ!?」
「いや、そもそもこれボクのお金だよ?」
「それだよそれ! テメェ、どうやって金を稼ぎやがった!?」

 それは私も気になっていた。
 アスタは一度息をついて、改めて口を開く。

「ボクね、友達がいるの。その友達からもらったお金を、他の箱庭で売ったりしたの」
「……金貨や銀貨そのものを、ってこと?」
「そうそう。通貨自体は高価な金属でできてるから、どの箱庭でも売れば結構な金額になるみたい」

 その発想はなかった……。
 もしかして、私たちの持っているキャッセリアでのお金を売ったら、人間の箱庭の施設も使えたのでは?
 ソルとメアは「なるほど……」と納得したようだ。実は二人とも、キャッセリアのお金を売ることも選択肢に入れていたらしい。ただ、帰ったときのことを考えると踏み切れなかったらしい。

「まあ、お金のことはボクに任せてよ。まだ余ってるし」
「てか、お前友達いたんなら、そいつどうしたんだよ。一緒に連れてきてるわけじゃねぇだろ?」

 アスタの微笑みが、一瞬だけ固まった。みんなして黙り込み、店内の雑音が漂うだけの時間ができてしまった。
 シオンは私たちを見回して、ようやくやらかしたことに気づいたようだ。

「……もしかして、聞いちゃまずいことだったか?」
「ううん、まずくはないよ。ちゃんと生きてるし、別れだって告げてきた」

 一度崩れかけた笑みが再び戻った。
 きっと大切な人なのだろうと思った。寂しそうに見えたが、本人は悲しいという言葉一つ言わなかった。
  
「あと、ボクにはもう一つ目的があってね」
「おう、何だ? 言ってみろ」

 どうしていつの間にシオンが仕切ってるの?
 まあ、この際気にしないでおいた方がいいか……。

「生き別れた妹がいるんだ。この際だから、自分から会いに行こうと思って」
「妹か……手がかりはあるのか?」
「ないことはないよ。でも、まずはクレーをどうにかしないとね。妹のことはその後でいいよ」
「ほーかほーか。ま、おれたひもひにたくねぇひなー」
「食べながら話さないでよ……」

 シオンの奴、まだパンケーキを食べている。食べ終わったら、クレーたちの手がかりを探しに行こう。
 穏やかな時間の中でも、不安は消えない。窓の外の海は、日の光に照らされ輝き続けていた。



 喫茶店を出て、観光地「カナル」を歩く。
 みんなで手分けして情報収集を試みるものの、怪しい影や魔物、少女などの情報は全然集まらない。
 数時間ごとに、最初にいた噴水のある公園に集まって、情報を共有する。しかし、みんな似たような結果であった。

「困ったね……怪しい者の情報なんて、一切見つからない。そもそも魔物の目撃情報すらないよ」
「マジかよ!? 嘘だろ……こんな序盤で行き詰ることあるか?」
「シュノーとレノも居場所がわからない。恐らくクレーに連れられているとは思うが……」

 ここまで何も進展が得られないのは、思えば初めてのことかもしれない。
 どうやら、この周辺では魔物がほとんど見られないようだ。というのも、この街自体が観光地ということもあってか、魔物や凶暴な怪物などが見つかってもすぐに人間たちによって排除されるからだとか。
 今まで、異能力、魔法に特化した箱庭を見てきたが、今回はまた少し違うらしい。
 ちなみにアスタも色々なところで情報を集めてきたようだが、同じく有力な手がかりは見られなかったようだ。

「どうする? これ以上探しても進展はなさそうだよ」
「やだ、探す。諦めきれない!」

 やっぱりシュノーとレノが心配で仕方がないのだ。

「ユキア……そうだな、私もまだ探す余力はある」
「だな。おーいチビガキ、お前もまだ探すよな? お?」

 シオンがなぜか挑発気味に尋ねる。しかし、アスタはどこか遠い場所を見ていた。

「そうだね……うん、ボク、ちょっと遠出してくる」
「え?」
「夜には帰ってくる。お金渡しておくから、適当に売って宿でも探しておいて!」

 そう言って、アスタは私に銀貨と金貨の入った袋を渡すと、公園から出てどこかへ走り去っていってしまった。
 今まで私たちについてくる気満々だったのに、どうして急に……?

「はあ……自分勝手な奴だな、まったく」
「とりあえず、今度はみんなで歩いてみようぜ。気づかなかったところとかあるかもしれねーだろ」
「それもそうだね。じゃ、行こうか」

 四人で海の都を歩くことになったものの、私はずっとアスタが気がかりであった。
 手に抱えた袋が、ずっしりと重たく感じられた。
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