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第3章「海と大地の箱庭」
48話 逃亡、隠された狡猾
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真夜中であるがゆえに空の光はなく、明かりもない。眠る時間帯にもかかわらず、レノは目を覚ます。
自分は、武骨な岩肌の上に寝転がされていた。下には何も敷かれておらず、身体に優しいとは言えない。
「レノ、大丈夫?」
「……シュノー……?」
岩の上で眠っていたレノに声をかけたのは、大好きな姉であった。シュノーは、優しい顔でレノの頭を撫でていた。
しかし、レノはわかっていた。自分よりも彼女の方が苦しんでいる。腹部から染み渡る鈍痛の方が、明らかに苦痛だということを。
「だ、大丈夫なのか? あいつに刺されて、痛くないのか?」
「回復魔法はかけたから、止血できてる。レノも、怪我はないみたいでよかった」
暑いわけでもないのに、シュノーは汗を大量にかいている。痛みが激しすぎるあまり、呼吸が乱れているのだった。
時折、二人の身体には小さな岩の欠片が落ちてくる。量も時もまばらだが、それが二人の不安をさらに煽った。
「……ここはどこなのだ?」
「シュノーにもわからない。多分、前回とは別の箱庭。街が近くにある様子もない」
「じ、じゃあどうするのだ!?」
「落ち着いて、レノ」
焦るあまり起き上がったレノの肩が優しく掴まれる。似た顔の瞳を、まっすぐと見つめる。
姉の眼差しはどこまでも強く思えた。そのうち、レノも焦りを抑えられるようになる。
「今、クレーはここにはいない。逃げよう」
「逃げるって……どこに……?」
「きっとユキアたちも、シュノーたちと同じ箱庭に来てる。みんなと合流しよう。力を合わせれば、きっと……」
シュノーは、ユキアたちと一緒に永久庭園の魔物を倒した。シュノー一人では倒すのが難しかった存在だった。
だから彼女は、自分を信じてくれた神たちのことを信じようとしている。レノも、なんとなくそれを理解できた。
「────オレに対抗できる、ってかぁ?」
「っ! もう戻ってきたか……」
突然聞こえてきた声に、身体をびくりを震わせる二人。
闇の中で、僅かに影が見えた。闇に溶け込めるくらい黒いローブに、僅かに発光する赤いラインの黒鎌。今、二人が最も恐れている相手が現れたのだ。
「オマエ、オレから逃げられるって思ってんのかよ。笑えるぜ」
「黙れ。これ以上好きにはさせない」
左側の腰に差した刀の柄を握り、抜刀する。薄い水色かかった刀剣は僅かに発光し、冷気を漂わせる。
固有魔法を唱えずとも、洞窟は少しずつ寒さに覆われる。それは刀自体の性質ゆえだった。
「何を企んでいる? ただ殺戮を目的にしているようには見えない。それにしては回りくどい手を使ってる」
「…………」
二人の間に沈黙が漂う。クレーは答えを返さず、シュノーも薄れることのない威圧感に息を殺していた。
もちろん、レノにもクレーの目的など知る由もなかった。ただ、シュノーやユキアたちと一緒に、元の場所へ帰りたかった。レノの中には、そんな純然たる想いしか存在しない。
沈黙の末、男が鎌を握り直すのが見えた。
「……はぁ、めんどくせ。いっそここで────」
「『グレイシア・リージョン』!」
「うっ!?」
固有魔法を発動させたことにより、洞窟が凄まじい冷気で満たされる。一瞬うろたえたのは男だけではなく、レノも同じだった。
「レノは逃げて。ユキアたちのところに行って」
「えっ!?」
寒さに身を震わせるレノは、姉の言葉に耳を疑った。男の方を向いている彼女の顔は、わからなかった。
「ここじゃ、二人まとめて殺される。ユキアたちにこのことを伝えて」
「で、でもシュノーは……」
「ここで終わるのは嫌。わかってよ、レノ」
突き放すように、冷たい口調。納得できなかったのが正直なところだった。
それでも、レノは何も言わずに唇を結ぶ。一緒に逃げると約束したのに────
「逃がさねぇよ!!」
「うるさい! 〈スティーリア・ガードサークル〉!!」
氷の魔力で張られた防壁は、黒い刃を受け止める。そこからまもなく、刀を構え突撃するシュノー。
レノは拳を握り、覚悟を決める。ここで立ち止まっていては、それこそシュノーを悲しませるだけなのだ。
一歩踏み出してしまえば、そこからは身体が勝手に動いた。
「っ、待てぇ!?」
「行かせない!」
クレーの鎌を刀で受け止め、レノに攻撃が向くのを阻止する。レノはただ、洞窟の出口を目指して走った。
その先で、無事にユキアたちに状況を伝えることしか考えていなかった。
自分は、武骨な岩肌の上に寝転がされていた。下には何も敷かれておらず、身体に優しいとは言えない。
「レノ、大丈夫?」
「……シュノー……?」
岩の上で眠っていたレノに声をかけたのは、大好きな姉であった。シュノーは、優しい顔でレノの頭を撫でていた。
しかし、レノはわかっていた。自分よりも彼女の方が苦しんでいる。腹部から染み渡る鈍痛の方が、明らかに苦痛だということを。
「だ、大丈夫なのか? あいつに刺されて、痛くないのか?」
「回復魔法はかけたから、止血できてる。レノも、怪我はないみたいでよかった」
暑いわけでもないのに、シュノーは汗を大量にかいている。痛みが激しすぎるあまり、呼吸が乱れているのだった。
時折、二人の身体には小さな岩の欠片が落ちてくる。量も時もまばらだが、それが二人の不安をさらに煽った。
「……ここはどこなのだ?」
「シュノーにもわからない。多分、前回とは別の箱庭。街が近くにある様子もない」
「じ、じゃあどうするのだ!?」
「落ち着いて、レノ」
焦るあまり起き上がったレノの肩が優しく掴まれる。似た顔の瞳を、まっすぐと見つめる。
姉の眼差しはどこまでも強く思えた。そのうち、レノも焦りを抑えられるようになる。
「今、クレーはここにはいない。逃げよう」
「逃げるって……どこに……?」
「きっとユキアたちも、シュノーたちと同じ箱庭に来てる。みんなと合流しよう。力を合わせれば、きっと……」
シュノーは、ユキアたちと一緒に永久庭園の魔物を倒した。シュノー一人では倒すのが難しかった存在だった。
だから彼女は、自分を信じてくれた神たちのことを信じようとしている。レノも、なんとなくそれを理解できた。
「────オレに対抗できる、ってかぁ?」
「っ! もう戻ってきたか……」
突然聞こえてきた声に、身体をびくりを震わせる二人。
闇の中で、僅かに影が見えた。闇に溶け込めるくらい黒いローブに、僅かに発光する赤いラインの黒鎌。今、二人が最も恐れている相手が現れたのだ。
「オマエ、オレから逃げられるって思ってんのかよ。笑えるぜ」
「黙れ。これ以上好きにはさせない」
左側の腰に差した刀の柄を握り、抜刀する。薄い水色かかった刀剣は僅かに発光し、冷気を漂わせる。
固有魔法を唱えずとも、洞窟は少しずつ寒さに覆われる。それは刀自体の性質ゆえだった。
「何を企んでいる? ただ殺戮を目的にしているようには見えない。それにしては回りくどい手を使ってる」
「…………」
二人の間に沈黙が漂う。クレーは答えを返さず、シュノーも薄れることのない威圧感に息を殺していた。
もちろん、レノにもクレーの目的など知る由もなかった。ただ、シュノーやユキアたちと一緒に、元の場所へ帰りたかった。レノの中には、そんな純然たる想いしか存在しない。
沈黙の末、男が鎌を握り直すのが見えた。
「……はぁ、めんどくせ。いっそここで────」
「『グレイシア・リージョン』!」
「うっ!?」
固有魔法を発動させたことにより、洞窟が凄まじい冷気で満たされる。一瞬うろたえたのは男だけではなく、レノも同じだった。
「レノは逃げて。ユキアたちのところに行って」
「えっ!?」
寒さに身を震わせるレノは、姉の言葉に耳を疑った。男の方を向いている彼女の顔は、わからなかった。
「ここじゃ、二人まとめて殺される。ユキアたちにこのことを伝えて」
「で、でもシュノーは……」
「ここで終わるのは嫌。わかってよ、レノ」
突き放すように、冷たい口調。納得できなかったのが正直なところだった。
それでも、レノは何も言わずに唇を結ぶ。一緒に逃げると約束したのに────
「逃がさねぇよ!!」
「うるさい! 〈スティーリア・ガードサークル〉!!」
氷の魔力で張られた防壁は、黒い刃を受け止める。そこからまもなく、刀を構え突撃するシュノー。
レノは拳を握り、覚悟を決める。ここで立ち止まっていては、それこそシュノーを悲しませるだけなのだ。
一歩踏み出してしまえば、そこからは身体が勝手に動いた。
「っ、待てぇ!?」
「行かせない!」
クレーの鎌を刀で受け止め、レノに攻撃が向くのを阻止する。レノはただ、洞窟の出口を目指して走った。
その先で、無事にユキアたちに状況を伝えることしか考えていなかった。
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