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第3章「海と大地の箱庭」
49話 箱庭に墜ちる
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遠方から、何かが爆発したような音が聞こえてきた。森の中で倒れ伏していたセルジュは、その音で目を覚ます。
「あれ……ここは、どこでしょう……?」
知らない匂いだ。今まで一度も訪れたことのない場所であるがゆえだった。
身体を起こした目先に広がっていたのは、木々と木々に囲まれた夜空だった。キャッセリアで見る星空とは少し違うと、セルジュはぼんやり考える。
(人間の箱庭……のようですね。あの仮面の男の仕業に間違いないです)
セルジュは、犯人と思われし男によって、宮殿の中庭のゲートを通った。犯人の姿は近くにはない。
「……あれ? クリム先輩?」
先程まで自らが背中を預けていた者の姿が見えず、辺りを見渡す。しかし目に入るのは森と地面ばかりだ。自分が一人であるということに気づいたのは、その直後であった。
まどろみがすっと消え去り、今度は恐怖が押し寄せてくる。
「先輩……独りは嫌ですよ……」
夜風の冷たさも相まって、セルジュの身体は徐々に冷え切っていく。寒さに耐えきれないと感じ、その場にうずくまって膝を抱え込む。
頼れる者が隣にいないこの状況で、正常な判断ができているとは思えなかった。そんな中で、突然の葉音がセルジュの耳に入る。
「ひっ!? だ、誰なのです!?」
辺りを見回したところで、目線の先で何かが動いたのを見つける。
息を潜めて様子を見ると、人影は小さな少女だった。どうやら急いでいるようで、荒い息が遠くからでも聞こえてくる。
その息遣いには聞き覚えがあった。浮かび上がった謎を確かめるべく、陰から闇の向こうを覗き込む。
「助けて……誰か……!!」
森の中を一心不乱に走る人影の声は幼かった。いても立ってもいられず、セルジュは身を乗り出した。
近づくと、人影の正体が露わになった。ピンクの髪に紫の瞳を持つ少女だ。腰に刀を差しているが、衣服が少し汚れている。
「セル……なのか……?」
「レノ!? やっぱり、レノじゃないですか……!」
セルジュは少女──レノに駆け寄り、強く抱きしめた。小刻みに震えていた身体が、少しずつ落ち着いていくのを感じる。
「セル……! 怖かったのだぁ……!!」
「心配しましたよ、レノ! 生きててよかったのです……」
知り合いに巡り合えたことによる安心感からか、大きな目から涙をこぼし始める。セルジュもまた、肩を震わせていた。
「そういえば、シュノーはどうしたのですか?」
「それが大変なのだ!! セル、シュノーを助けてほしいのだ!! このままじゃまずいのだ!!」
「と、とりあえず落ち着くのです! 何があったのですか!?」
レノの取り乱し具合は尋常じゃなかった。姉が隣にいないという事態からして、よほどのことがあったと見受けられる。
しばらく待っていると、レノの息が落ち着いてくる。
「……シュノーは、あの真っ黒男からレノを逃がしてくれたのだ……」
やがて、彼女は語り出した。一体、姉妹に何があったのかを。
「────それで、ずっと逃げてきたら、ここまで来て……セルを見つけたのだ」
「そうだったんですね……」
一通りの状況を聞いたセルジュであったが、予想以上に厄介なことになっていることを悟る。
他にも、レノから色々な情報を聞き出した。シュノーとレノの他にいる生存者は、ユキアを始めとした四人の一般神。今はどこにいるのかはわからないが、この箱庭に来ていることは確かである。
「早くユキたちに会わなきゃいけないのだ。だから早く行かないと……!」
「待つのです。どこにいるかわからないのでしょう? 例の男もいますし、闇雲に探すのは危険です」
一番は犯人──クレーが問題なのだ。
レノがここまで逃げてこられたのは、シュノーがクレーを食い止めたおかげだ。しかし、レノの話を聞いた限り、彼女は負傷していると見られる。実力者なのは確かだろうが、その状態でいつまでも食い止めておけるとは思えなかった。
「クリム先輩もいれば安心だったんですけどね……」
「クーもいたのか?」
「……? ああ、レノは先輩のことをそう呼ぶんですね」
レノは、常人のように名前を正確に覚えることができない。しかし、キャッセリアを治める者の一人であるクリムのことは認識しているようだった。
こんな森の中では安全に休める場所も探せない。早いところ移動した方がいいと、二人は考えていた。
「もたもたしてる暇はないのだ、セル! 早く行くのだ!」
「わわ、待ってください、レノぉー!」
気が気でないのか、走り出したレノを追いかける。状況はよくないが、一人で震えていたときよりは、ずっと安心できていた。山の頂点に近い空が、だんだんと白み始めていた。
遠方から、何かが爆発したような音が聞こえてきた。森の中で倒れ伏していたセルジュは、その音で目を覚ます。
「あれ……ここは、どこでしょう……?」
知らない匂いだ。今まで一度も訪れたことのない場所であるがゆえだった。
身体を起こした目先に広がっていたのは、木々と木々に囲まれた夜空だった。キャッセリアで見る星空とは少し違うと、セルジュはぼんやり考える。
(人間の箱庭……のようですね。あの仮面の男の仕業に間違いないです)
セルジュは、犯人と思われし男によって、宮殿の中庭のゲートを通った。犯人の姿は近くにはない。
「……あれ? クリム先輩?」
先程まで自らが背中を預けていた者の姿が見えず、辺りを見渡す。しかし目に入るのは森と地面ばかりだ。自分が一人であるということに気づいたのは、その直後であった。
まどろみがすっと消え去り、今度は恐怖が押し寄せてくる。
「先輩……独りは嫌ですよ……」
夜風の冷たさも相まって、セルジュの身体は徐々に冷え切っていく。寒さに耐えきれないと感じ、その場にうずくまって膝を抱え込む。
頼れる者が隣にいないこの状況で、正常な判断ができているとは思えなかった。そんな中で、突然の葉音がセルジュの耳に入る。
「ひっ!? だ、誰なのです!?」
辺りを見回したところで、目線の先で何かが動いたのを見つける。
息を潜めて様子を見ると、人影は小さな少女だった。どうやら急いでいるようで、荒い息が遠くからでも聞こえてくる。
その息遣いには聞き覚えがあった。浮かび上がった謎を確かめるべく、陰から闇の向こうを覗き込む。
「助けて……誰か……!!」
森の中を一心不乱に走る人影の声は幼かった。いても立ってもいられず、セルジュは身を乗り出した。
近づくと、人影の正体が露わになった。ピンクの髪に紫の瞳を持つ少女だ。腰に刀を差しているが、衣服が少し汚れている。
「セル……なのか……?」
「レノ!? やっぱり、レノじゃないですか……!」
セルジュは少女──レノに駆け寄り、強く抱きしめた。小刻みに震えていた身体が、少しずつ落ち着いていくのを感じる。
「セル……! 怖かったのだぁ……!!」
「心配しましたよ、レノ! 生きててよかったのです……」
知り合いに巡り合えたことによる安心感からか、大きな目から涙をこぼし始める。セルジュもまた、肩を震わせていた。
「そういえば、シュノーはどうしたのですか?」
「それが大変なのだ!! セル、シュノーを助けてほしいのだ!! このままじゃまずいのだ!!」
「と、とりあえず落ち着くのです! 何があったのですか!?」
レノの取り乱し具合は尋常じゃなかった。姉が隣にいないという事態からして、よほどのことがあったと見受けられる。
しばらく待っていると、レノの息が落ち着いてくる。
「……シュノーは、あの真っ黒男からレノを逃がしてくれたのだ……」
やがて、彼女は語り出した。一体、姉妹に何があったのかを。
「────それで、ずっと逃げてきたら、ここまで来て……セルを見つけたのだ」
「そうだったんですね……」
一通りの状況を聞いたセルジュであったが、予想以上に厄介なことになっていることを悟る。
他にも、レノから色々な情報を聞き出した。シュノーとレノの他にいる生存者は、ユキアを始めとした四人の一般神。今はどこにいるのかはわからないが、この箱庭に来ていることは確かである。
「早くユキたちに会わなきゃいけないのだ。だから早く行かないと……!」
「待つのです。どこにいるかわからないのでしょう? 例の男もいますし、闇雲に探すのは危険です」
一番は犯人──クレーが問題なのだ。
レノがここまで逃げてこられたのは、シュノーがクレーを食い止めたおかげだ。しかし、レノの話を聞いた限り、彼女は負傷していると見られる。実力者なのは確かだろうが、その状態でいつまでも食い止めておけるとは思えなかった。
「クリム先輩もいれば安心だったんですけどね……」
「クーもいたのか?」
「……? ああ、レノは先輩のことをそう呼ぶんですね」
レノは、常人のように名前を正確に覚えることができない。しかし、キャッセリアを治める者の一人であるクリムのことは認識しているようだった。
こんな森の中では安全に休める場所も探せない。早いところ移動した方がいいと、二人は考えていた。
「もたもたしてる暇はないのだ、セル! 早く行くのだ!」
「わわ、待ってください、レノぉー!」
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