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【神間陰謀編】第4章「懐かしき故郷と黒い影」
78話 親友
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アスタは早々に白の宮殿から去っていて、あまりにも行動が早すぎた。私も同じように宮殿から出て、どこへ行ったのかを探す。
だが……意外にもすぐに見つかった。
彼は、繁華街の大通りの端にある建物の路地裏でうずくまっていた。身体を小刻みに震わせており、声がかけづらい。
「…………ユキ」
私の存在に気づいたのか、慌てて顔を上げて立ち上がった。すぐにごしごしと目を擦り、笑顔を向けてきた。
「ちょっと、大丈夫?」
「うん……平気」
若干声がおかしくなっている。強がっているようにしか見えなくて、痛々しかった。
って、今はそれよりもあの態度は何だったのかが問題か。
「いくら人違いとはいえ、あれは失礼すぎるでしょ。アイリス怒ってたわよ」
「だって、気に食わなかったんだもん」
頬を膨らませながら言い放つ。本当に子供みたいで、呆れた理由だった。
ほんの数分しか言葉を交わしていないというのに、あれだけで彼女の何を知ったというのだろう。
「友達に似てる人でもいた?」
「まあ、そんなところ。あまりにも似てたから」
アイリスに似ている友達って、どんな人なんだ……あいつみたいなロリババアじゃないよね? いや、容姿が似てるって意味か? どっちにしろあまり想像がつかない。
「ユキは、アイリスと仲良いの?」
「別に仲良くないよ。どっちかというと悪い」
上手な言い方を見つけられず、言葉を濁らせてしまう。アスタは不安そうに私を見上げていた。
「アイリスが定めた掟って、知ってる?」
「知らないよ」
ここには初めて来たようだし、無理もないと思った。
神はあくまで「箱庭の観測者」であり、箱庭の中にある他の生命の世界に干渉してはいけない────現代の神なら誰もが知っている掟を伝えると、表情が渋いものになった。
「……まるで、かつての世界とは真逆だね」
古代がどのような世界だったのかは少ししか知らないが、少なくとも今のように閉ざされた場所ではなかったと思う。現代をこのような世界にしてしまった要因の一つであるアイリスが、私は嫌いだった。
この掟が神隠し事件の解決を難航させた足枷ともなったわけだが、アイリスは特に気にしている様子もなかった。これも、アスタの気に障った原因なのだろうか。
「そういえば、エンゲルはあんたのことを『観測者』って呼んでたよね。あれと何か関係が会ったりするの?」
「あ……えっとね────」
言葉の途中で、宮殿とは反対方向を向いて黙ってしまった。肝心なところでやめないでほしいと思いつつ、アスタと同じ方を向いてみる。
それからすぐに、誰かがアスタを強く突き放し、もう片方の手で頬を激しく引っぱたいた。
「────今更、どの面を下げてユキアの前に現れた?」
聞き慣れた声が冷え切り、身震いする。気づけば、メアのマゼンタの瞳が、戸惑う私たちを鋭く睨みつけていた。
「メア? どこに行ってたの?」
頬をさするアスタを睨みつけるメアに、恐る恐る問いかけた。最近はあまり一緒にいる時間が少なかったし、行動をほとんど把握できていない。
一度こちらを向いたとき、少しだけ殺気が薄らいだ。しかし、目は未だに冷めた色をしていた。
「……ユキアには関係ない」
「ま、まあいいよ。それより、アスタが戻ってきたんだよ。昨日の夜の話だったから、知らなくても無理ないけど」
「……そうか。まあ、それでも遅すぎるけどな」
何の不満があるのかわからない。無事に帰ってきたからそれでいいじゃないか。
私から目を離した途端、メアの殺気は勢いを取り戻す。顔には影が落ち、心なしかすみれ色の髪が逆立っているように見えた。
「アスタ。お前はあの後、何をしていた。あれだけユキアに付きまとっておいて、ユキアが倒れている間そばにいなかったのはなぜだ?」
「そ、それはちゃんとユキに話したよ。メアたちにもあとで────」
「それで私が許せるとでも思ったか!?」
大通りの真ん中で、メアの怒号がこだました。通りかかる神たちの目が、一斉に私たちを捉えた。
街中なのにもかかわらず、彼女は再びアスタに掴みかかり、叫び続ける。
「眠っている間、ユキアがどれだけお前を探していたか……目覚めたときにお前がいないと知ってどれだけ絶望したか!! 何もわかっていない!! だから平気でいなくなったりできるんだろう!?」
「……それ、は……」
「何度も信じようと努力したが、無理だ。お前は所詮、私たちとは違う。人間でもない、化け物と共にいることなんて、できるわけがないだろう!?」
アスタの目がみるみる見開かれ、身体が小刻みに震え始める。明らかに取り乱しており、様子がおかしい。
居ても立っても居られず、私は二人の間に割り込んでメアの両肩を掴んでアスタから引き離した。
「メア、そこまで言わなくたっていいじゃない! 私はなんとも思ってないよ」
「どうして……! ユキアが我慢する理由なんてない!! これ以上こんな奴に振り回されるな!!」
「振り回されてなんかないよ! どうしちゃったの!? こんなに取り乱すなんて、メアらしくないよ!!」
理性を失った彼女は、当初は反抗的な目を向けていた。しかし、感情的になりつつも諭すと、勢いがしぼんでいき、ついには顔を俯かせてブツブツと何かを呟いていた。
「……昔から、そうだ。お前は優しすぎる。この世界は優しい者ばかりが傷つくのに……!」
「メア……?」
「お前にさえ理解されないなら……私が生きる意味なんて……!!」
かろうじて聞き取れたその言葉を最後に、私の手を振り切って背中を向け走り去っていった。アスタを連れたままメアを追おうとすると、目の前から人が空気から溶け出るように躍り出た。
「待ちなさい、ユキア」
地面に降り立ったヴィータは、私の前に両手を上げて立ち塞がった。あまりにも突然のことで、危うくぶつかりそうになった。
「ヴィータ!? どうしてここに……」
「実は、朝にあなたたちがデウスプリズンを訪れたときから、ずっと後を追っていました。魔法で気配と姿を消しながらですが」
つまり、先程までの出来事をすべて見ているのだろう。心なしか、ヴィータの目が怖い。
辺りは騒然として、民衆に軽く取り囲まれていた。私よりも、どちらかというと彼ら兄妹の方に目が向いていた。
そんな中、アスタは頬を押さえたまま俯いている。前髪で目が見えない。
「……ユキ、行ってあげて。ボク、邪魔みたいだから」
「何を言ってるんですか。お兄様も来るんですよ」
ヴィータが無理やりアスタの手を掴んだところで、とりあえず二人を連れて、雑踏をかき分けながらその場から離れた。
背中は既に見えなくなっていたが、必死に追いかけた。メアは何かを誤解している。早めに誤解を解かないと気が済まなかった。
だが……意外にもすぐに見つかった。
彼は、繁華街の大通りの端にある建物の路地裏でうずくまっていた。身体を小刻みに震わせており、声がかけづらい。
「…………ユキ」
私の存在に気づいたのか、慌てて顔を上げて立ち上がった。すぐにごしごしと目を擦り、笑顔を向けてきた。
「ちょっと、大丈夫?」
「うん……平気」
若干声がおかしくなっている。強がっているようにしか見えなくて、痛々しかった。
って、今はそれよりもあの態度は何だったのかが問題か。
「いくら人違いとはいえ、あれは失礼すぎるでしょ。アイリス怒ってたわよ」
「だって、気に食わなかったんだもん」
頬を膨らませながら言い放つ。本当に子供みたいで、呆れた理由だった。
ほんの数分しか言葉を交わしていないというのに、あれだけで彼女の何を知ったというのだろう。
「友達に似てる人でもいた?」
「まあ、そんなところ。あまりにも似てたから」
アイリスに似ている友達って、どんな人なんだ……あいつみたいなロリババアじゃないよね? いや、容姿が似てるって意味か? どっちにしろあまり想像がつかない。
「ユキは、アイリスと仲良いの?」
「別に仲良くないよ。どっちかというと悪い」
上手な言い方を見つけられず、言葉を濁らせてしまう。アスタは不安そうに私を見上げていた。
「アイリスが定めた掟って、知ってる?」
「知らないよ」
ここには初めて来たようだし、無理もないと思った。
神はあくまで「箱庭の観測者」であり、箱庭の中にある他の生命の世界に干渉してはいけない────現代の神なら誰もが知っている掟を伝えると、表情が渋いものになった。
「……まるで、かつての世界とは真逆だね」
古代がどのような世界だったのかは少ししか知らないが、少なくとも今のように閉ざされた場所ではなかったと思う。現代をこのような世界にしてしまった要因の一つであるアイリスが、私は嫌いだった。
この掟が神隠し事件の解決を難航させた足枷ともなったわけだが、アイリスは特に気にしている様子もなかった。これも、アスタの気に障った原因なのだろうか。
「そういえば、エンゲルはあんたのことを『観測者』って呼んでたよね。あれと何か関係が会ったりするの?」
「あ……えっとね────」
言葉の途中で、宮殿とは反対方向を向いて黙ってしまった。肝心なところでやめないでほしいと思いつつ、アスタと同じ方を向いてみる。
それからすぐに、誰かがアスタを強く突き放し、もう片方の手で頬を激しく引っぱたいた。
「────今更、どの面を下げてユキアの前に現れた?」
聞き慣れた声が冷え切り、身震いする。気づけば、メアのマゼンタの瞳が、戸惑う私たちを鋭く睨みつけていた。
「メア? どこに行ってたの?」
頬をさするアスタを睨みつけるメアに、恐る恐る問いかけた。最近はあまり一緒にいる時間が少なかったし、行動をほとんど把握できていない。
一度こちらを向いたとき、少しだけ殺気が薄らいだ。しかし、目は未だに冷めた色をしていた。
「……ユキアには関係ない」
「ま、まあいいよ。それより、アスタが戻ってきたんだよ。昨日の夜の話だったから、知らなくても無理ないけど」
「……そうか。まあ、それでも遅すぎるけどな」
何の不満があるのかわからない。無事に帰ってきたからそれでいいじゃないか。
私から目を離した途端、メアの殺気は勢いを取り戻す。顔には影が落ち、心なしかすみれ色の髪が逆立っているように見えた。
「アスタ。お前はあの後、何をしていた。あれだけユキアに付きまとっておいて、ユキアが倒れている間そばにいなかったのはなぜだ?」
「そ、それはちゃんとユキに話したよ。メアたちにもあとで────」
「それで私が許せるとでも思ったか!?」
大通りの真ん中で、メアの怒号がこだました。通りかかる神たちの目が、一斉に私たちを捉えた。
街中なのにもかかわらず、彼女は再びアスタに掴みかかり、叫び続ける。
「眠っている間、ユキアがどれだけお前を探していたか……目覚めたときにお前がいないと知ってどれだけ絶望したか!! 何もわかっていない!! だから平気でいなくなったりできるんだろう!?」
「……それ、は……」
「何度も信じようと努力したが、無理だ。お前は所詮、私たちとは違う。人間でもない、化け物と共にいることなんて、できるわけがないだろう!?」
アスタの目がみるみる見開かれ、身体が小刻みに震え始める。明らかに取り乱しており、様子がおかしい。
居ても立っても居られず、私は二人の間に割り込んでメアの両肩を掴んでアスタから引き離した。
「メア、そこまで言わなくたっていいじゃない! 私はなんとも思ってないよ」
「どうして……! ユキアが我慢する理由なんてない!! これ以上こんな奴に振り回されるな!!」
「振り回されてなんかないよ! どうしちゃったの!? こんなに取り乱すなんて、メアらしくないよ!!」
理性を失った彼女は、当初は反抗的な目を向けていた。しかし、感情的になりつつも諭すと、勢いがしぼんでいき、ついには顔を俯かせてブツブツと何かを呟いていた。
「……昔から、そうだ。お前は優しすぎる。この世界は優しい者ばかりが傷つくのに……!」
「メア……?」
「お前にさえ理解されないなら……私が生きる意味なんて……!!」
かろうじて聞き取れたその言葉を最後に、私の手を振り切って背中を向け走り去っていった。アスタを連れたままメアを追おうとすると、目の前から人が空気から溶け出るように躍り出た。
「待ちなさい、ユキア」
地面に降り立ったヴィータは、私の前に両手を上げて立ち塞がった。あまりにも突然のことで、危うくぶつかりそうになった。
「ヴィータ!? どうしてここに……」
「実は、朝にあなたたちがデウスプリズンを訪れたときから、ずっと後を追っていました。魔法で気配と姿を消しながらですが」
つまり、先程までの出来事をすべて見ているのだろう。心なしか、ヴィータの目が怖い。
辺りは騒然として、民衆に軽く取り囲まれていた。私よりも、どちらかというと彼ら兄妹の方に目が向いていた。
そんな中、アスタは頬を押さえたまま俯いている。前髪で目が見えない。
「……ユキ、行ってあげて。ボク、邪魔みたいだから」
「何を言ってるんですか。お兄様も来るんですよ」
ヴィータが無理やりアスタの手を掴んだところで、とりあえず二人を連れて、雑踏をかき分けながらその場から離れた。
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