87 / 276
【神間陰謀編】第4章「懐かしき故郷と黒い影」
86話 影を塗られた親友(2)
しおりを挟む
「〈風よ、我が敵を斬り裂け〉!!」
影の一つに向かって風の刃を放ち、胴体を真っ二つにする。しかしそれも一瞬で治ってしまい、光線が襲いかかってくる。
生まれた影もメアと同じく、魔銃と闇の魔法を行使してくる。光線をひたすら回避し、魔法が発動したら防壁を使えばなんとか防げる。隙を見て攻撃を叩き込むも、本物ではない影にはそもそも攻撃が効いていないようだ。
おまけに、なんとなくだが……メアが妙な術を使ってからというもの、身体がだるくて重いのだ。戦っている時間が経てば経つほど、身体の重さが増していく。二人で一体の影を相手にしているシオンとソルも、どこか体調が悪そうだ。
本体である影となったメアは、アスタただ一人へと狙いを定めていた。
『まずは一番厄介な貴様から排除してくれる!! 虫けらはその後だ!!』
「しつこーい! 『〈Argo Navis〉』!」
ただひたすらアスタを追いかけ回してくる影に向かって、金色の小型の船を何度も放つ。大半は銃で壊されるも、避けきれなかった船がいくつか掠る。
少し気の毒だが、メアはアスタに任せることにした。僕とシオンたちで影を片づけなければいけない。
「くそっ……強すぎるだろこいつら……!!」
「援護するよ。〈風よ、我が敵を刹那の檻に閉じ込めよ〉!」
魔力を収束させ、風で影を包み込むように剣を素早く振りかざす。渦となった風は影を飲み込み、何度も斬り裂く。魔法が解けるまでは影は出てこられない、いわばこれは風の牢だ。
この短い間に何か作戦を考えるべく、シオンとソルを影から離れたところに呼び寄せる。
「クリム、メアに取りついてる影のこと知ってるの?」
「ああ、君たちがいない間にキャッセリアに現れた、特級の魔物だよ。倒したはずなのに復活したらしい」
「うわ、マジかよ……そんなこと滅多になかったのによぉ」
闇雲に戦い続けていてはキリがないし、こちらの体力が尽きてしまう。復活した原因を探るのはまた今度にするとして、生み出された影を倒してメアに集中する方法を考えるとしよう。
シオンはふと、扉付近に倒れたままのミラージュに近づいていく。何かと思えば、彼女の身体を勢いよく揺らし始めた。
「おいっ、オバサン! あんたが育てた子だろ、手伝え!」
「うぅっ……あいつの話をしないでちょうだい!」
怒鳴り声とともに、むくりと起き上がり立ち上がる。頭を抱えてだるそうにしているが、思ったよりも怪我は軽そうだ。
「ミラージュ、だっけ。あなたにも今回の事件の責任はあるよ。手伝ってもらわないと困る」
「っ、あたしが悪いって言うつもり!? 確かに、放置してしまったのは悪かったと思うけど……」
「そうだぞ! カルデルトにも言われてただろ、ちっとは協力しろや!」
怪我人に戦わせるのは気が引けたが、人手は多い方がいいかもしれない。何せ、今の敵は三人。しかも個体ごとの強さが高い。
「そういえば、撃たれたんじゃなかったの?」
「あらかじめ備えていた小さい鏡で防いでいましたの。ドレスの内側に入れていましてよ」
どうやら、変幻自在な薄い鏡を入れていたらしい。自分の武器である鏡から作ったとかなんとか。ミラージュが背後に鏡を出現させたのを見たソルが、「ねぇ」と話しかける。
「神幻術でメアを押さえられる? 恐らく、僕たちの神幻術じゃろくにダメージは通せない」
「はぁ!? あたしに命令しないでくれる!?」
「オレからも頼むよ、オバ……じゃね、オネエサン」
ミラージュの神幻術は見たことがなく、僕には何とも言えない。だが、少なくとも僕の神幻術では屋敷自体が無事では済まない。
シオンに手を合わせて懇願されたタイミングで、ミラージュははぁ、と深くため息をついた。
「……では、時間を稼いでください。詠唱に時間がかかりますの」
それは百も承知だ。
再び影が襲いかかる。ガラスの剣を再び握りしめ、影に斬りかかる。とにかく、ミラージュの神幻術の発動準備が終わるまで耐える。
「魔に堕ちし鏡よ、我が命に従い砕け散れ。我が渇望を塞ぐ悪しき者に融解せし罰を与えよ」
ミラージュの背後に浮かぶ鏡が輝き、影と同じようにもう二つ鏡を作る。鏡面が詠唱とともに眩しく輝き、何筋もの亀裂を生み出す。
詠唱が終わり、片手を影たちへと突き出す。そのタイミングで、僕たちは影から一気に距離を置いた。
「────『鏡蝋壊幻燈』!!」
分裂した鏡面が大きな音を立てて破裂する。鏡片が空中に散らばるも、地面に落ちることなく影たちへと素早く飛んでいく。
影が欠片を避けようとするも、ソルが影たちを〈ヴェントゥス・チェインバインド〉で魔力の鎖を作り拘束する。追尾する欠片たちは容赦なく影へと突き刺さった。声にならない絶叫を上げるも、欠片は自ずと溶け出して固着する。
シオンが戦斧で二つの胴体を真っ二つにする。「クリム!」という声が合図だった。僕はガラスの剣を振りかざし、影を一刀両断する。
影は声を枯らし、闇の中へと崩れ消え去った。残りは、黒く染まったメアだけになった。
「は、はぁ……これで片付いたかしら……」
「まだメアを止められてないだろ!」
一度神幻術を使えば、しばらくは魔力を多く消費する攻撃は行えない。ミラージュには休んでもらうとして、僕とシオンたちでメアを止めにかかる。
が、その必要はなさそうだった。
『くっ……影が……!?』
身体から黒が剥がれ落ち、メアの姿が元に戻っていく。俄然意識は魔物に乗っ取られているようで、瞳の黒ずみは戻っていない。
表情から余裕が消えてきている隙に、アスタが攻撃を畳みかけていく。何度も斬りつけ、魔力のような何かでできた斬撃を飛ばすも、すべて銃身で防がれる。それでもアスタは警戒を崩さぬまま、徐々に距離を詰めながら攻撃を続ける。
やがて、メアの顔に疲弊の表情が浮かぶ。魔物の方は血の気が多くても、身体自体に限界が近づいているようだった。
「さっさと出ていけっ! 『〈Remotio〉』!!」
一瞬の隙に身体を翻して肉薄し、うっすらとした光をまとう金色の短剣を腹へ突き刺した。
その瞬間────血が流れだすはずの腹から、真っ黒な霧のようなものが噴き出す。
『くそっ、またしても────ああああああぁぁぁぁぁ!!』
断末魔は、僕とヴィータで対峙した特級の魔物そのものだった。既にメアから切り離されたようだ。黒い霧が霧散していき、天井へと昇っていく。
どうも、アスタが使った術では魔物を消滅させることはできないみたいだ。
「待って、あのままじゃまた逃げられちゃう! 誰か倒して!」
「よっしゃ、オレに任せろっ! 煉獄より現れし裁定の炎よ────!」
「あ、シオン……」
戦斧をしまい、魔力を足元に集中させて飛び上がったシオン。彼の身体は薄っすらとした炎と電撃の魔力で包まれており、黒い霧と館全体を強く照らした。まとった魔力は、雷火でできた龍へと姿を変えていき、部屋いっぱいに巨大化していく。
「今こそ、我が命に応じ顕現せよ! 『変幻律雷炎』!!」
龍が雄叫びを上げ、空気が震える。そして霧を一気に飲み込む勢いで迫り、ついには壁ごと突き破った。心なしか、穴が開いた壁の向こうの夜空が、火花と黒煙で濁って見える。
シオンが床に降り立つのと同時に、甲高い悲鳴が耳をつんざいた。
「きゃあああああぁぁ!!! あたしの館がああああぁぁぁ!!!」
「えーと……シオン、これはちょっとやりすぎだよ……?」
「あ……」
アスタでさえ引くのも当然だ。僕もドン引きとしか言いようがない。元々住めたものじゃない状態だったが、これで住む機能が失われたようなものだ。そもそも、燃えやすい屋内で火炎の神幻術を使うものじゃない。
「えーっと、あー……オバサン、ユキアを出してくれ!」
「オバサンはやめなさい!! まったく、覚えておきなさいよ……!」
プリプリ怒りながらも、ミラージュはユキアが眠る姿が映し出される鏡の収納ケースへ歩いていき、鏡面に触れた。その瞬間に輝きを放ち、人型の光となる。
鏡像が消えるのと同時に、光が床に横たわった状態になり、ユキアそのものとなっていく。
「ユキ! 大丈夫!?」
「う、うう……」
鏡の中に幽閉されていたにもかかわらず、目を覚ますのは早かった。目をこすりながら身体を起こし、僕らをぼんやりと眺めていた。
「あれ、私何してたんだっけ……」
「一応無事っぽいな。ったく、油断したから捕まったんだぞ、もうちょっと警戒しろ」
「なんですって!? あ、あれは仕方なかったじゃない!」
シオンの売った喧嘩をすぐ買うくらいには回復したようだ。命に関わるような怪我もないようだし、本当に無事でよかった。
目の前の危機が去ったのはいいものの、メアはアスタに刺されたっきり、倒れたままだ。ユキアが親友の異変に気づかないはずもなかった。
「あれ……メア? どうし────」
「近づいちゃダメ!」
素早い勢いでユキアを引き止めたのはアスタだった。メアの身体が僅かに動き出し、やがてゆっくりと身体を起こす。髪が乱れ、顔はひどく疲れ切っていたが、瞳の異様な黒ずみは消えていた。
「え……アスタ……? 私は……ううっ、あああああああああッ!!!」
突然、声が枯れる勢いで叫びだす。目を極限まで見開き、何かを抑えつけるように自分の身体を抱きしめていた。叫びに呼応するように、辺りに黒ずんだ波動が立て続けに放たれる。
メアに近づけるわけもなく、僕らは彼女を取り囲むようにして立ち尽くすしかなかった。
「ど、どうしたの!? しっかりして!!」
「なんで……? クリム、みんな! メアから離れて!!」
血相を変えたアスタによって、出口の扉付近へと押し戻される。ユキアはメアに向かって必死に手を伸ばそうとしていたが、シオンとソルに捕まり遠ざけられていく。
身体を絞るような勢いで抱きしめたと思ったら、今度は頭を両手で押し潰すように抱えだし、天井を仰いで絶叫する。黒ずんだ闇が空間を満たしていく。
言葉にならない叫びばかりを上げていると思ったら、だんだんと何を叫んでいるのかわかるようになってきた。
「う、ううぅッ……死に、たく、ない……死にたくない死にたくない死にたくないッ────!!!」
「メア、落ち着いて!! メアあぁ!!!」
狂ったように叫び、喚き、泣いている。こちらが声をかけても無駄みたいだ。
ユキアたち幼なじみは、ひたすらメアの名を呼ぶだけだった。
影の一つに向かって風の刃を放ち、胴体を真っ二つにする。しかしそれも一瞬で治ってしまい、光線が襲いかかってくる。
生まれた影もメアと同じく、魔銃と闇の魔法を行使してくる。光線をひたすら回避し、魔法が発動したら防壁を使えばなんとか防げる。隙を見て攻撃を叩き込むも、本物ではない影にはそもそも攻撃が効いていないようだ。
おまけに、なんとなくだが……メアが妙な術を使ってからというもの、身体がだるくて重いのだ。戦っている時間が経てば経つほど、身体の重さが増していく。二人で一体の影を相手にしているシオンとソルも、どこか体調が悪そうだ。
本体である影となったメアは、アスタただ一人へと狙いを定めていた。
『まずは一番厄介な貴様から排除してくれる!! 虫けらはその後だ!!』
「しつこーい! 『〈Argo Navis〉』!」
ただひたすらアスタを追いかけ回してくる影に向かって、金色の小型の船を何度も放つ。大半は銃で壊されるも、避けきれなかった船がいくつか掠る。
少し気の毒だが、メアはアスタに任せることにした。僕とシオンたちで影を片づけなければいけない。
「くそっ……強すぎるだろこいつら……!!」
「援護するよ。〈風よ、我が敵を刹那の檻に閉じ込めよ〉!」
魔力を収束させ、風で影を包み込むように剣を素早く振りかざす。渦となった風は影を飲み込み、何度も斬り裂く。魔法が解けるまでは影は出てこられない、いわばこれは風の牢だ。
この短い間に何か作戦を考えるべく、シオンとソルを影から離れたところに呼び寄せる。
「クリム、メアに取りついてる影のこと知ってるの?」
「ああ、君たちがいない間にキャッセリアに現れた、特級の魔物だよ。倒したはずなのに復活したらしい」
「うわ、マジかよ……そんなこと滅多になかったのによぉ」
闇雲に戦い続けていてはキリがないし、こちらの体力が尽きてしまう。復活した原因を探るのはまた今度にするとして、生み出された影を倒してメアに集中する方法を考えるとしよう。
シオンはふと、扉付近に倒れたままのミラージュに近づいていく。何かと思えば、彼女の身体を勢いよく揺らし始めた。
「おいっ、オバサン! あんたが育てた子だろ、手伝え!」
「うぅっ……あいつの話をしないでちょうだい!」
怒鳴り声とともに、むくりと起き上がり立ち上がる。頭を抱えてだるそうにしているが、思ったよりも怪我は軽そうだ。
「ミラージュ、だっけ。あなたにも今回の事件の責任はあるよ。手伝ってもらわないと困る」
「っ、あたしが悪いって言うつもり!? 確かに、放置してしまったのは悪かったと思うけど……」
「そうだぞ! カルデルトにも言われてただろ、ちっとは協力しろや!」
怪我人に戦わせるのは気が引けたが、人手は多い方がいいかもしれない。何せ、今の敵は三人。しかも個体ごとの強さが高い。
「そういえば、撃たれたんじゃなかったの?」
「あらかじめ備えていた小さい鏡で防いでいましたの。ドレスの内側に入れていましてよ」
どうやら、変幻自在な薄い鏡を入れていたらしい。自分の武器である鏡から作ったとかなんとか。ミラージュが背後に鏡を出現させたのを見たソルが、「ねぇ」と話しかける。
「神幻術でメアを押さえられる? 恐らく、僕たちの神幻術じゃろくにダメージは通せない」
「はぁ!? あたしに命令しないでくれる!?」
「オレからも頼むよ、オバ……じゃね、オネエサン」
ミラージュの神幻術は見たことがなく、僕には何とも言えない。だが、少なくとも僕の神幻術では屋敷自体が無事では済まない。
シオンに手を合わせて懇願されたタイミングで、ミラージュははぁ、と深くため息をついた。
「……では、時間を稼いでください。詠唱に時間がかかりますの」
それは百も承知だ。
再び影が襲いかかる。ガラスの剣を再び握りしめ、影に斬りかかる。とにかく、ミラージュの神幻術の発動準備が終わるまで耐える。
「魔に堕ちし鏡よ、我が命に従い砕け散れ。我が渇望を塞ぐ悪しき者に融解せし罰を与えよ」
ミラージュの背後に浮かぶ鏡が輝き、影と同じようにもう二つ鏡を作る。鏡面が詠唱とともに眩しく輝き、何筋もの亀裂を生み出す。
詠唱が終わり、片手を影たちへと突き出す。そのタイミングで、僕たちは影から一気に距離を置いた。
「────『鏡蝋壊幻燈』!!」
分裂した鏡面が大きな音を立てて破裂する。鏡片が空中に散らばるも、地面に落ちることなく影たちへと素早く飛んでいく。
影が欠片を避けようとするも、ソルが影たちを〈ヴェントゥス・チェインバインド〉で魔力の鎖を作り拘束する。追尾する欠片たちは容赦なく影へと突き刺さった。声にならない絶叫を上げるも、欠片は自ずと溶け出して固着する。
シオンが戦斧で二つの胴体を真っ二つにする。「クリム!」という声が合図だった。僕はガラスの剣を振りかざし、影を一刀両断する。
影は声を枯らし、闇の中へと崩れ消え去った。残りは、黒く染まったメアだけになった。
「は、はぁ……これで片付いたかしら……」
「まだメアを止められてないだろ!」
一度神幻術を使えば、しばらくは魔力を多く消費する攻撃は行えない。ミラージュには休んでもらうとして、僕とシオンたちでメアを止めにかかる。
が、その必要はなさそうだった。
『くっ……影が……!?』
身体から黒が剥がれ落ち、メアの姿が元に戻っていく。俄然意識は魔物に乗っ取られているようで、瞳の黒ずみは戻っていない。
表情から余裕が消えてきている隙に、アスタが攻撃を畳みかけていく。何度も斬りつけ、魔力のような何かでできた斬撃を飛ばすも、すべて銃身で防がれる。それでもアスタは警戒を崩さぬまま、徐々に距離を詰めながら攻撃を続ける。
やがて、メアの顔に疲弊の表情が浮かぶ。魔物の方は血の気が多くても、身体自体に限界が近づいているようだった。
「さっさと出ていけっ! 『〈Remotio〉』!!」
一瞬の隙に身体を翻して肉薄し、うっすらとした光をまとう金色の短剣を腹へ突き刺した。
その瞬間────血が流れだすはずの腹から、真っ黒な霧のようなものが噴き出す。
『くそっ、またしても────ああああああぁぁぁぁぁ!!』
断末魔は、僕とヴィータで対峙した特級の魔物そのものだった。既にメアから切り離されたようだ。黒い霧が霧散していき、天井へと昇っていく。
どうも、アスタが使った術では魔物を消滅させることはできないみたいだ。
「待って、あのままじゃまた逃げられちゃう! 誰か倒して!」
「よっしゃ、オレに任せろっ! 煉獄より現れし裁定の炎よ────!」
「あ、シオン……」
戦斧をしまい、魔力を足元に集中させて飛び上がったシオン。彼の身体は薄っすらとした炎と電撃の魔力で包まれており、黒い霧と館全体を強く照らした。まとった魔力は、雷火でできた龍へと姿を変えていき、部屋いっぱいに巨大化していく。
「今こそ、我が命に応じ顕現せよ! 『変幻律雷炎』!!」
龍が雄叫びを上げ、空気が震える。そして霧を一気に飲み込む勢いで迫り、ついには壁ごと突き破った。心なしか、穴が開いた壁の向こうの夜空が、火花と黒煙で濁って見える。
シオンが床に降り立つのと同時に、甲高い悲鳴が耳をつんざいた。
「きゃあああああぁぁ!!! あたしの館がああああぁぁぁ!!!」
「えーと……シオン、これはちょっとやりすぎだよ……?」
「あ……」
アスタでさえ引くのも当然だ。僕もドン引きとしか言いようがない。元々住めたものじゃない状態だったが、これで住む機能が失われたようなものだ。そもそも、燃えやすい屋内で火炎の神幻術を使うものじゃない。
「えーっと、あー……オバサン、ユキアを出してくれ!」
「オバサンはやめなさい!! まったく、覚えておきなさいよ……!」
プリプリ怒りながらも、ミラージュはユキアが眠る姿が映し出される鏡の収納ケースへ歩いていき、鏡面に触れた。その瞬間に輝きを放ち、人型の光となる。
鏡像が消えるのと同時に、光が床に横たわった状態になり、ユキアそのものとなっていく。
「ユキ! 大丈夫!?」
「う、うう……」
鏡の中に幽閉されていたにもかかわらず、目を覚ますのは早かった。目をこすりながら身体を起こし、僕らをぼんやりと眺めていた。
「あれ、私何してたんだっけ……」
「一応無事っぽいな。ったく、油断したから捕まったんだぞ、もうちょっと警戒しろ」
「なんですって!? あ、あれは仕方なかったじゃない!」
シオンの売った喧嘩をすぐ買うくらいには回復したようだ。命に関わるような怪我もないようだし、本当に無事でよかった。
目の前の危機が去ったのはいいものの、メアはアスタに刺されたっきり、倒れたままだ。ユキアが親友の異変に気づかないはずもなかった。
「あれ……メア? どうし────」
「近づいちゃダメ!」
素早い勢いでユキアを引き止めたのはアスタだった。メアの身体が僅かに動き出し、やがてゆっくりと身体を起こす。髪が乱れ、顔はひどく疲れ切っていたが、瞳の異様な黒ずみは消えていた。
「え……アスタ……? 私は……ううっ、あああああああああッ!!!」
突然、声が枯れる勢いで叫びだす。目を極限まで見開き、何かを抑えつけるように自分の身体を抱きしめていた。叫びに呼応するように、辺りに黒ずんだ波動が立て続けに放たれる。
メアに近づけるわけもなく、僕らは彼女を取り囲むようにして立ち尽くすしかなかった。
「ど、どうしたの!? しっかりして!!」
「なんで……? クリム、みんな! メアから離れて!!」
血相を変えたアスタによって、出口の扉付近へと押し戻される。ユキアはメアに向かって必死に手を伸ばそうとしていたが、シオンとソルに捕まり遠ざけられていく。
身体を絞るような勢いで抱きしめたと思ったら、今度は頭を両手で押し潰すように抱えだし、天井を仰いで絶叫する。黒ずんだ闇が空間を満たしていく。
言葉にならない叫びばかりを上げていると思ったら、だんだんと何を叫んでいるのかわかるようになってきた。
「う、ううぅッ……死に、たく、ない……死にたくない死にたくない死にたくないッ────!!!」
「メア、落ち着いて!! メアあぁ!!!」
狂ったように叫び、喚き、泣いている。こちらが声をかけても無駄みたいだ。
ユキアたち幼なじみは、ひたすらメアの名を呼ぶだけだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
愚者による愚行と愚策の結果……《完結》
アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。
それが転落の始まり……ではなかった。
本当の愚者は誰だったのか。
誰を相手にしていたのか。
後悔は……してもし足りない。
全13話
☆他社でも公開します
勝手にダンジョンを創られ魔法のある生活が始まりました
久遠 れんり
ファンタジー
別の世界からの侵略を機に地球にばらまかれた魔素、元々なかった魔素の影響を受け徐々に人間は進化をする。
魔法が使えるようになった人類。
侵略者の想像を超え人類は魔改造されていく。
カクヨム公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる