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【巨大聖戦編】第7章「誰がための選定」
156話 狗と裏切り者
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「……エンゲル。オマエ、オレを見て何か気づかねぇか?」
ジュリオは、鬱陶しそうに眉をひそめる。
「いきなりそんなこと言われる筋合いなんてないんですけど。何様なんですか」
「いや、オレを見たら驚くだろ。オレを殺したのオマエだろうが」
「え? そう言われると……あれ? クロ……ウリー……?」
最初は首を傾げていたが、クロウをまじまじと見つめていると、状況を把握し始めたのか大げさに目を見開き始めた。
「────ああああぁぁ!! なんで生きてるんだよ!? しっかり始末したはずなのに!?」
「うるっせぇな! ていうか、しばらく見ねぇうちに随分でけぇ態度になったなぁ!?」
「そっちこそ、相変わらず口が悪いな!」
ジュリオがクロウの存在をはっきり認識した途端、言い合いに発展する。すぐに気づかなかったあたり、相当やつれているのは間違いない。
「クロウ、ジュリオのこと知ってたの?」
「知ってるも何も、コイツはミストリューダのメンバーの一人、エンゲルだ!」
「やっぱり……君、神隠し事件のときに僕と会った?」
「……はぁ、そうですよ。確かぼくがクロウリー様を回収したときでしたね」
ジュリオを見ていたときから感じていた既視感とは、このことだったのか。
戦闘があった現場の証拠品から、単独犯ではなかったことは確実だった。それに加え、昨日のセルジュの話を聞いて、アイリス様を殺害しようとしたのはジュリオだということはなんとなく予想がついていた。
生誕祭の途中から姿を消していた彼がどうしていたのかなんて、聞かなくてもある程度わかってしまう。僕たちキャッセリアの神を裏切っていた、ということも。
「ジュリオ、君のことを探してたんだよ。セルジュと離れたきりいなくなっていたみたいだから」
「クリム様こそ、なんでこいつと一緒なんです? こいつが死に損ないになっているのと何か関係が?」
「テメェぶっ殺すぞ」
クロウがジュリオにガンを飛ばしているが、話が進まないので無視。
僕を前にするとすぐに態度が軟化した……と思ったが、表面上穏やかそうに見えるだけで目は全然笑っていない。昨日も感じたけれど、素を見せずに常に取り繕おうとしている気がする。
「それより、どうしてここに戻ってきたの? ここは放棄されたって話じゃなかったの」
僕が尋ねると、ジュリオは少し肩をすくめてため息をついた。
「……クリム様なら察しがついているんじゃないですか。ぼくが何に失敗したのかくらい」
「念入りに調べたからね。君がアイリス様を殺そうとしたことはわかっている。だけど、今はセルジュたちを探しているから、君への罰は後回しだよ」
「セルジュ!? 一体どうして────」
目の色が変わったジュリオに対し、僕たちは事情を説明した。クロウよりも僕が話す割合が多かったものの、ジュリオはある程度理解を示してくれた。
それでもやはり、冷静に事実を受け止めることは難しいようで、ただでさえ具合が悪そうなのに余計に青ざめてしまっていた。
「神々が行方不明になっている理由は、なんとなくわかりますが……スイーツを食べていない神まで行方不明になるなんて。それにさっきも聞きましたけど、どうしてクロウリー様と行動しているんですか」
「オレはユキアが襲われて誘拐される場面に出くわしたんだよ。一緒にいたクソガキは重傷を負ってたから、デウスプリズンに運んで合流した。オレもちょうどミストリューダの奴らに会いたかったから、利害の一致ってところだ」
「……そうですか」
ジュリオは唇を噛み締めながら、足元を見つめている。
セルジュやユキアも一緒に狙われる理由が掴めない。キャッセリアを壊すだけに留まらず、特定の神を狙うことで何を得られるというのだろう。組織と現在進行形で関わりがあるはずのジュリオでさえわからないとなれば、他の構成員が深く関わっているのかもしれない。
「……まあ、細かいことはどうでもいいです。そういう話なら、セルジュだけでも助け出さないと────」
「ち、ちょっと待ってジュリオ!」
僕が考えている間に、ジュリオは身を翻して部屋の出口まで歩いていこうとした。慌てて呼び止めると、少しだけ鬱陶しそうにこちらを振り返る。
「さらわれた神を探し出すのも、ミストリューダに対処するのも、全部僕の役目だ。僕たちも一緒に行く」
「あなたたちは何もしなくて結構です。元々、アーケンシェンには少しも期待していませんから」
軽い嘲笑とともに吐き捨てた言葉は、氷のように冷たいものだった。
僅かな胸の痛みとともに、気づいたことがある。これこそが、最高神生誕祭のとき、アイリス様が感じ取った違和感と冷酷さの正体だ。
「所詮、あなたはアイリスの狗でしょう。他のアーケンシェンも同じで、クロウリー様のようにアイリスの命令には逆らえない。そういう意味では、クロウリー様のことはほんのちょっとだけ尊敬できるのですけどね」
僕は、彼と目を合わせることができなかった。
アイリス様を敬わない神が存在するのと同じように、すべての神が無条件にアーケンシェンを信じているわけではない。彼はアイリス様だけじゃない、僕たちのことすら微塵も信用していないのだ。
「……テメェ、前にオレのこと頭悪いとかぬかしやがったけどよ。テメェもひとのこと言えねぇぞ」
「そうですか? まあ、動きたいならどうぞご勝手に。ぼくはぼくで行動するだけですから」
「ちっ、そういうところがいけ好かねぇってんだよ。クリム、コイツ放っといた方がいいんじゃねーの?」
クロウはそもそも単独行動が好きだから、こういう局面に立ち会う前に相手のことは放置するだろう。現にジュリオの説得に早くも匙を投げた。
もはやジュリオは神の味方ではない、むしろ神の敵だ。そうわかってはいるものの、僕はジュリオを放っておくことが正しい選択肢には思えない。
「ジュリオ。神隠し事件のとき、君は『彼女の翼をもらい受ける』って言っていたよね」
「覚えていたんですね。随分と前の話なのに」
「キャッセリアにいる翼を持つ女神は今、アリアしか生き残っていない……君はアリアも狙っているんじゃないの?」
当時、エンゲルと名乗ったジュリオが口にした「彼女」とは誰かを知ることはできなかった。だが、翼を持つ神は本当に数が少なく、僕が知る限りアリアくらいしか思い当たる節はなかった。そう考えたら、最高神生誕祭でもアリアを狙っていた可能性もあるだろうが、それは後々追及すればいい話だ。
「このことはアイリス様には報告していない。他にもあるんだよ。アイリス様に話さないで、個人的に残した記録がね」
「……それとぼくに、何の関係があるんですか?」
「罪を裁くことは今の僕の役目だ。だけど、僕はアイリス様の狗じゃない。他でもない僕の意思で、君を助けるつもりなんだよ」
そう言ったとき、彼の身体が激しく揺らめいたことに気づく。端正な顔立ちが負の感情で歪み、歯を食いしばりながら白い狙撃銃で僕を殴り飛ばした。カビ臭い床に叩きつけられ、顔を上げたところに銃口を突きつけられた。
「綺麗事ばっかり言いやがって鬱陶しいんだよ、クリム・クラウツ!! お前はデミ・ドゥームズデイで死んだ神たちの存在を忘れたのかッ!?」
セルジュと同じ金色の瞳を見開いて、怒りと憎悪をたっぷり込めた怒声を浴びせてくる。取り繕う余裕すらなくなっているようで、言葉をこれでもかというほど荒げていた。
あの日、死んでしまった神たちのこと。地面に倒れた神たちも、僕を庇って死んだあの運び神のことも。忘れないわけがない。忘れるなんて許されない。
そして、その後に残された者の悲しみの計り知れなさを、僕は知っている。
「あの戦争で死んだすべての神を、お前は覚えているのか!? 全部を救っていないくせに、偉そうに『助ける』なんてほざくな!!」
「────よく言うよ。セルジュを置いてミストリューダなんかに加担したくせに」
思わず冷たい声が出た。一瞬だけ、ジュリオが怯んだ。僕はその隙にガラスペンを握り、魔力を込める。
「彼がどれだけ君を待ち続けていたか、わかってるの? 君もあの戦争を経験しているなら、残された者の苦しみを知っているんじゃないのか?」
彼が怯んだのはその一瞬のことで、またすぐに怒りをさらけ出すのだった。
「っ、おれにはそうするしかなかったんだよ!! それに、セルジュをあんな組織に巻き込みたくはなかった!!」
「結局巻き込んでるじゃないか! セルジュだけじゃない、ユキアや他の神たちだってミストリューダの手に落ちた! そんな強大な相手に、君一人でどうにかできると思っているなら思い上がりもいいところだ!!」
ガラスの剣で銃を弾き飛ばし、その勢いのまま立ち上がった。今度は、僕がジュリオに剣の切っ先を突きつける。
ジュリオに見下ろされているのは変わらないけれど、僕は怯むことなく口を開いた。
「君が罪人であろうが、僕をどう思っていようが関係ない。君を死なせないって、救うって約束したひとがいる。僕はそのひとのために最善を尽くすだけだ」
剣を動かすことなく、僕はただ彼の目を見据える。ごくり、と喉仏が動くのが見えたが、明らかに僕を嘲笑っていた。
「……笑わせるなよ。お前はただの甘ったれじゃないか」
「なんとでも言えばいい。手段を選ばず命を奪い続けるより、よほどマシだ」
僕はもう迷わないと決めた。誰も殺したくない、その本心をもう隠したくない。
それに、ユキアならきっとこうしただろう。
「あーもう、この生真面目バカがよぉ。そんな物騒な顔すんなって、いつからそんな風になったんだ」
クロウが横からニヤニヤしつつ、僕の頭に片手を乗せてくる。大きく固い手に押し潰されそうな勢いで、力が込められた。
僕は剣を下げて、クロウの腕を振り払った。何も答えたくなかったので黙っていると、深くため息をつかれる。
「ほんっとーに真面目クンだよな。ジュリオだってそう思うだろ?」
「……さあ。どうでもいい」
呆れたように目を閉じて、僕たちに背を向ける。天井を仰ぎ見たと思ったら、その場でふらりと倒れてしまった。
クロウがおいおい、と呆れる中、僕はジュリオを抱き起こした。血の気がみるみるなくなって、目も虚ろだ。
「ジュリオ! もしかして君、ここに来てから何も食べてないんじゃないのかい?」
「なんで、そんなことわかるんだ……?」
「食事を疎かにするとどうなるか、僕もよく経験してるからね。栄養バランスが崩れても問題ないとはいえ、何も食べないと最低限のエネルギーすら得られないんだから」
僕は日頃から適当な食事ばかりしているけれど、デミ・ドゥームズデイが起きてしばらくの頃は何も食べずに過ごした日もあった。食欲が一切湧かなかったのは恐らくあの時代くらいだったが、何度も気絶しかけたことがある。
あいにく、今は食べ物も飲み水も持ってきていない。地上に戻って探すのも手だが、この二人を連れてむやみやたらと歩き回れるとは思えない。
「クロウ、この隠れ家に食糧庫とかないの?」
「あー、どうだったかな。この調子だとちょっとは残ってるかもしれな……って、何しれっとオレをこき使おうとしてんだ!?」
「ジュリオを放っておくわけにはいかない。急いでるんだから、とにかく何か探してきて」
「~っ……覚えとけよ!?」
なんだかんだ言いつつも、大広間の外に走り出ていった。意外と素直にお願いを聞いてくれるんだな、と思った。
ジュリオはクロウが走り去った方向をぼんやりと眺めた後、僕へ視線を戻して口を開いた。
「おれはアイリスを殺そうとした罪人だ……なのに、どうしてお前までおれに構う?」
「言ったでしょ。僕は君を助けたいんだ。君が死んだら、セルジュはずっと悲しむことになるんだよ」
「……アーケンシェンって、お人好しばっかりだな。ははは……」
僕を銃身で殴ったくせに、とても弱々しく笑っていた。僕は何も言葉を返せず、目を閉じて力ない笑い声を耳に入れる。
その後すぐ、クロウが固形物と飲み水らしいものを持ってきてくれたので、ジュリオにゆっくり食べさせた。
ジュリオは、鬱陶しそうに眉をひそめる。
「いきなりそんなこと言われる筋合いなんてないんですけど。何様なんですか」
「いや、オレを見たら驚くだろ。オレを殺したのオマエだろうが」
「え? そう言われると……あれ? クロ……ウリー……?」
最初は首を傾げていたが、クロウをまじまじと見つめていると、状況を把握し始めたのか大げさに目を見開き始めた。
「────ああああぁぁ!! なんで生きてるんだよ!? しっかり始末したはずなのに!?」
「うるっせぇな! ていうか、しばらく見ねぇうちに随分でけぇ態度になったなぁ!?」
「そっちこそ、相変わらず口が悪いな!」
ジュリオがクロウの存在をはっきり認識した途端、言い合いに発展する。すぐに気づかなかったあたり、相当やつれているのは間違いない。
「クロウ、ジュリオのこと知ってたの?」
「知ってるも何も、コイツはミストリューダのメンバーの一人、エンゲルだ!」
「やっぱり……君、神隠し事件のときに僕と会った?」
「……はぁ、そうですよ。確かぼくがクロウリー様を回収したときでしたね」
ジュリオを見ていたときから感じていた既視感とは、このことだったのか。
戦闘があった現場の証拠品から、単独犯ではなかったことは確実だった。それに加え、昨日のセルジュの話を聞いて、アイリス様を殺害しようとしたのはジュリオだということはなんとなく予想がついていた。
生誕祭の途中から姿を消していた彼がどうしていたのかなんて、聞かなくてもある程度わかってしまう。僕たちキャッセリアの神を裏切っていた、ということも。
「ジュリオ、君のことを探してたんだよ。セルジュと離れたきりいなくなっていたみたいだから」
「クリム様こそ、なんでこいつと一緒なんです? こいつが死に損ないになっているのと何か関係が?」
「テメェぶっ殺すぞ」
クロウがジュリオにガンを飛ばしているが、話が進まないので無視。
僕を前にするとすぐに態度が軟化した……と思ったが、表面上穏やかそうに見えるだけで目は全然笑っていない。昨日も感じたけれど、素を見せずに常に取り繕おうとしている気がする。
「それより、どうしてここに戻ってきたの? ここは放棄されたって話じゃなかったの」
僕が尋ねると、ジュリオは少し肩をすくめてため息をついた。
「……クリム様なら察しがついているんじゃないですか。ぼくが何に失敗したのかくらい」
「念入りに調べたからね。君がアイリス様を殺そうとしたことはわかっている。だけど、今はセルジュたちを探しているから、君への罰は後回しだよ」
「セルジュ!? 一体どうして────」
目の色が変わったジュリオに対し、僕たちは事情を説明した。クロウよりも僕が話す割合が多かったものの、ジュリオはある程度理解を示してくれた。
それでもやはり、冷静に事実を受け止めることは難しいようで、ただでさえ具合が悪そうなのに余計に青ざめてしまっていた。
「神々が行方不明になっている理由は、なんとなくわかりますが……スイーツを食べていない神まで行方不明になるなんて。それにさっきも聞きましたけど、どうしてクロウリー様と行動しているんですか」
「オレはユキアが襲われて誘拐される場面に出くわしたんだよ。一緒にいたクソガキは重傷を負ってたから、デウスプリズンに運んで合流した。オレもちょうどミストリューダの奴らに会いたかったから、利害の一致ってところだ」
「……そうですか」
ジュリオは唇を噛み締めながら、足元を見つめている。
セルジュやユキアも一緒に狙われる理由が掴めない。キャッセリアを壊すだけに留まらず、特定の神を狙うことで何を得られるというのだろう。組織と現在進行形で関わりがあるはずのジュリオでさえわからないとなれば、他の構成員が深く関わっているのかもしれない。
「……まあ、細かいことはどうでもいいです。そういう話なら、セルジュだけでも助け出さないと────」
「ち、ちょっと待ってジュリオ!」
僕が考えている間に、ジュリオは身を翻して部屋の出口まで歩いていこうとした。慌てて呼び止めると、少しだけ鬱陶しそうにこちらを振り返る。
「さらわれた神を探し出すのも、ミストリューダに対処するのも、全部僕の役目だ。僕たちも一緒に行く」
「あなたたちは何もしなくて結構です。元々、アーケンシェンには少しも期待していませんから」
軽い嘲笑とともに吐き捨てた言葉は、氷のように冷たいものだった。
僅かな胸の痛みとともに、気づいたことがある。これこそが、最高神生誕祭のとき、アイリス様が感じ取った違和感と冷酷さの正体だ。
「所詮、あなたはアイリスの狗でしょう。他のアーケンシェンも同じで、クロウリー様のようにアイリスの命令には逆らえない。そういう意味では、クロウリー様のことはほんのちょっとだけ尊敬できるのですけどね」
僕は、彼と目を合わせることができなかった。
アイリス様を敬わない神が存在するのと同じように、すべての神が無条件にアーケンシェンを信じているわけではない。彼はアイリス様だけじゃない、僕たちのことすら微塵も信用していないのだ。
「……テメェ、前にオレのこと頭悪いとかぬかしやがったけどよ。テメェもひとのこと言えねぇぞ」
「そうですか? まあ、動きたいならどうぞご勝手に。ぼくはぼくで行動するだけですから」
「ちっ、そういうところがいけ好かねぇってんだよ。クリム、コイツ放っといた方がいいんじゃねーの?」
クロウはそもそも単独行動が好きだから、こういう局面に立ち会う前に相手のことは放置するだろう。現にジュリオの説得に早くも匙を投げた。
もはやジュリオは神の味方ではない、むしろ神の敵だ。そうわかってはいるものの、僕はジュリオを放っておくことが正しい選択肢には思えない。
「ジュリオ。神隠し事件のとき、君は『彼女の翼をもらい受ける』って言っていたよね」
「覚えていたんですね。随分と前の話なのに」
「キャッセリアにいる翼を持つ女神は今、アリアしか生き残っていない……君はアリアも狙っているんじゃないの?」
当時、エンゲルと名乗ったジュリオが口にした「彼女」とは誰かを知ることはできなかった。だが、翼を持つ神は本当に数が少なく、僕が知る限りアリアくらいしか思い当たる節はなかった。そう考えたら、最高神生誕祭でもアリアを狙っていた可能性もあるだろうが、それは後々追及すればいい話だ。
「このことはアイリス様には報告していない。他にもあるんだよ。アイリス様に話さないで、個人的に残した記録がね」
「……それとぼくに、何の関係があるんですか?」
「罪を裁くことは今の僕の役目だ。だけど、僕はアイリス様の狗じゃない。他でもない僕の意思で、君を助けるつもりなんだよ」
そう言ったとき、彼の身体が激しく揺らめいたことに気づく。端正な顔立ちが負の感情で歪み、歯を食いしばりながら白い狙撃銃で僕を殴り飛ばした。カビ臭い床に叩きつけられ、顔を上げたところに銃口を突きつけられた。
「綺麗事ばっかり言いやがって鬱陶しいんだよ、クリム・クラウツ!! お前はデミ・ドゥームズデイで死んだ神たちの存在を忘れたのかッ!?」
セルジュと同じ金色の瞳を見開いて、怒りと憎悪をたっぷり込めた怒声を浴びせてくる。取り繕う余裕すらなくなっているようで、言葉をこれでもかというほど荒げていた。
あの日、死んでしまった神たちのこと。地面に倒れた神たちも、僕を庇って死んだあの運び神のことも。忘れないわけがない。忘れるなんて許されない。
そして、その後に残された者の悲しみの計り知れなさを、僕は知っている。
「あの戦争で死んだすべての神を、お前は覚えているのか!? 全部を救っていないくせに、偉そうに『助ける』なんてほざくな!!」
「────よく言うよ。セルジュを置いてミストリューダなんかに加担したくせに」
思わず冷たい声が出た。一瞬だけ、ジュリオが怯んだ。僕はその隙にガラスペンを握り、魔力を込める。
「彼がどれだけ君を待ち続けていたか、わかってるの? 君もあの戦争を経験しているなら、残された者の苦しみを知っているんじゃないのか?」
彼が怯んだのはその一瞬のことで、またすぐに怒りをさらけ出すのだった。
「っ、おれにはそうするしかなかったんだよ!! それに、セルジュをあんな組織に巻き込みたくはなかった!!」
「結局巻き込んでるじゃないか! セルジュだけじゃない、ユキアや他の神たちだってミストリューダの手に落ちた! そんな強大な相手に、君一人でどうにかできると思っているなら思い上がりもいいところだ!!」
ガラスの剣で銃を弾き飛ばし、その勢いのまま立ち上がった。今度は、僕がジュリオに剣の切っ先を突きつける。
ジュリオに見下ろされているのは変わらないけれど、僕は怯むことなく口を開いた。
「君が罪人であろうが、僕をどう思っていようが関係ない。君を死なせないって、救うって約束したひとがいる。僕はそのひとのために最善を尽くすだけだ」
剣を動かすことなく、僕はただ彼の目を見据える。ごくり、と喉仏が動くのが見えたが、明らかに僕を嘲笑っていた。
「……笑わせるなよ。お前はただの甘ったれじゃないか」
「なんとでも言えばいい。手段を選ばず命を奪い続けるより、よほどマシだ」
僕はもう迷わないと決めた。誰も殺したくない、その本心をもう隠したくない。
それに、ユキアならきっとこうしただろう。
「あーもう、この生真面目バカがよぉ。そんな物騒な顔すんなって、いつからそんな風になったんだ」
クロウが横からニヤニヤしつつ、僕の頭に片手を乗せてくる。大きく固い手に押し潰されそうな勢いで、力が込められた。
僕は剣を下げて、クロウの腕を振り払った。何も答えたくなかったので黙っていると、深くため息をつかれる。
「ほんっとーに真面目クンだよな。ジュリオだってそう思うだろ?」
「……さあ。どうでもいい」
呆れたように目を閉じて、僕たちに背を向ける。天井を仰ぎ見たと思ったら、その場でふらりと倒れてしまった。
クロウがおいおい、と呆れる中、僕はジュリオを抱き起こした。血の気がみるみるなくなって、目も虚ろだ。
「ジュリオ! もしかして君、ここに来てから何も食べてないんじゃないのかい?」
「なんで、そんなことわかるんだ……?」
「食事を疎かにするとどうなるか、僕もよく経験してるからね。栄養バランスが崩れても問題ないとはいえ、何も食べないと最低限のエネルギーすら得られないんだから」
僕は日頃から適当な食事ばかりしているけれど、デミ・ドゥームズデイが起きてしばらくの頃は何も食べずに過ごした日もあった。食欲が一切湧かなかったのは恐らくあの時代くらいだったが、何度も気絶しかけたことがある。
あいにく、今は食べ物も飲み水も持ってきていない。地上に戻って探すのも手だが、この二人を連れてむやみやたらと歩き回れるとは思えない。
「クロウ、この隠れ家に食糧庫とかないの?」
「あー、どうだったかな。この調子だとちょっとは残ってるかもしれな……って、何しれっとオレをこき使おうとしてんだ!?」
「ジュリオを放っておくわけにはいかない。急いでるんだから、とにかく何か探してきて」
「~っ……覚えとけよ!?」
なんだかんだ言いつつも、大広間の外に走り出ていった。意外と素直にお願いを聞いてくれるんだな、と思った。
ジュリオはクロウが走り去った方向をぼんやりと眺めた後、僕へ視線を戻して口を開いた。
「おれはアイリスを殺そうとした罪人だ……なのに、どうしてお前までおれに構う?」
「言ったでしょ。僕は君を助けたいんだ。君が死んだら、セルジュはずっと悲しむことになるんだよ」
「……アーケンシェンって、お人好しばっかりだな。ははは……」
僕を銃身で殴ったくせに、とても弱々しく笑っていた。僕は何も言葉を返せず、目を閉じて力ない笑い声を耳に入れる。
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