ディバイン・レガシィー -箱庭の観測者-

月詠来夏

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【巨大聖戦編】第7章「誰がための選定」

160話 最高神代替候補

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 やがて、森の奥から誰かが歩いてきた。遠目でも右肩から生える翼が見えたので、歩いてくるのはジュリオだとすぐにわかった。

「随分と遅かったですね。何かあったんです?」
「いや別に。途中で魔物に襲われただけだ」
「ぼくに用心しろと言ったとは思えない体たらくですね。まったく」

 ため息をつきつつ、「ついてきてください」と背を向けて歩き出した。僕の後ろにクロウがついてくる形で、こちらも後を追う。

「近くに隠れ家の一つがあるので、情報をもらってきました。ミストリューダの状況は大体わかりましたよ」
「攻撃されたりしなかった?」
「いえ、先んじて銃で脅して聞き出しました」

 礼儀正しそうな見た目とは裏腹に、随分と野蛮な行動をとったな。そこまでいくと、クロウといい勝負だ。
 ジュリオは少し深刻そうに眉をひそめながらも、情報共有を続ける。

「一部の構成員の動きがおかしいという話を聞きました。指定とは違う場所に神を運んだり、単独行動をしたりする構成員がいるらしいのです」
「指定とは違う場所?」
「今のミストリューダの隠れ家は、複数の箱庭に散らばって配置されているのです。キャッセリアの神には、生まれた頃から与えられた『役割』があるでしょう? その役割ごとに、どの隠れ家に運ぶかが決められていたのですが、それをまるっきり無視している者がいるそうです」

 つまり、例えるなら魔特隊に所属するような戦闘特化の神が特定の隠れ家に運ばれなきゃいけないのに、指定とは別の隠れ家に運ぶような構成員がいる……ということみたいだ。
 今回のように大胆な計画において、予定外の行動は不確定要素となって失敗を招く因子となる。そんなリスクを向こうが犯すだろうか?

「要は計画外の動きをしている奴がいるんだろ。ソイツらがユキアらを誘拐したんだろうな」
「恐らくは。問題は、一部の神がどこに連れ去られたのかがわからないということです。ぼくの予想が正しければ、セルジュとユキア、そしてつい先ほど誘拐されたというルナステラ……恐らくは、アイリスも同じ場所に運ばれた可能性が高いと見ています」
「どうしてアイリス様まで? ジュリオ、そこまで予想できている根拠は何?」

 僕の問いに、ジュリオが立ち止まってこちらを振り向く。そのときの彼の顔には陰が落ちていて、冷然としたものだった。

「同じ場所に運ばれたかもしれない神には共通点があります。それは────いずれアイリスの『代わり』となるであろう神たちだということです」
「代わり?」
「ごく限られた神の間では、『最高神代替候補プラエパラトゥス』なんて呼ばれています。アイリスの次の最高神となる候補は複数いるんですが、それがさっき言った神たちです」

 アイリス様の次……よく考えたら、アイリス様が万が一亡くなることがあれば、また別の誰かが最高神の座を引き継がねばならない。統治そのものはアーケンシェンが行っていることだが、アイリス様のようなすべての神を束ねる立場の者は必要なのだ。

「セルジュ、ユキア、ステラ……あの三人がアイリス様の代わりになれるというのかい?」
「信じられねーな。あの片翼の天使はともかく、ユキアなんて第五世代のよわよわ現代神だろ」

 僕たちキャッセリアの神は、生まれた時期によって「世代」というものが定められている。僕やアリアといったアーケンシェンは、現代の初期に生まれたので第一世代である。後に生まれたセルジュは第三世代、それよりもさらに後のユキアやステラは第五世代といった風に分けられている。
 一般的に、世代が後になるにつれて神としての力が弱まっている。僕とユキアの間で戦力に差があるのはそれが原因だし、ステラはそもそもグレイスガーデンを修了していない子供だ。

「そうでしょうね。最高神になれるとは到底思えないくらい、一般神に溶け込むことができてしまっている。その時点で、アイリスにとっては『失敗作』なんですよ」

 失敗作、という言葉ではっと息をのんだ。生誕祭のとき、何度も耳にしたからだ。
 固有魔法すら発現できなかった失敗作。反乱分子。アイリス様の役に立たないもの────そんな心ない言葉を浴び続けていたユキアの顔は、普段僕をからかってくる彼女のものとは思えないくらい絶望的だった。
 今思えば、ステラがカフェで襲われていたのも、言い方は悪いが運命づけられていたことだったのだろう。ステラとユキアは「同じ」だったのだから。

「ていうか、やけに詳しいな。もしかして、オマエも当事者か?」
「……答えたくありません」

 頑な顔でそう言ったジュリオだったが、答えてもらわなくても僕はわかっていた。
 本人は構成員から「二番目」と呼ばれていた。ステラは「六番目」と言われていたし、何か関係があるのだろうと思っていたけど────

「君も『最高神代替候補プラエパラトゥス』なんだね。どうして君がアイリス様を激しく憎んでいるのか、やっとわかった」
「はぁ!? そうならそうと最初から言えよ! わかりにくいだろうが!」
「死んでも自分からは言いたくないですよ……ぼくの人生最大の汚点なんですから」
「そういう問題かよ!?」

 間に挟まれながら言い合いを聞かされる身にもなってほしいが、僕は考える。
 本人の心積もりがわかった今、僕にジュリオの憎悪を止めることはできないとわかる。生みの親から否定されることの苦しみは、実際に受けたそのひとにしかわからないのだから。

「長くなりましたが、ここまでが前提です。誘拐した犯人の狙いは、最高神候補を全員抹殺することでしょう。時間はあまり残されていませんし、さっさと他の隠れ家を特定しましょう」

 話が一段落したところで、僕たち以外の気配を感じた。ジュリオとクロウも何やら気づいた様子である。
 辺りを見回し、気配の正体を探した。緑で満たされた森の中で、何かが揺れている。緋色の長髪がとても目立っていたため、人物の正体に気づくのは早かった。
 僕は思わず、そのひとの元へ駆け寄った。

「ティアル!? どうしてここに!?」
「クリム! ようやく合流できたぜ、助かったー……」

 ティアルはユキアやアスタと一緒に街で行動していたのではなかったのか? 彼女には箱庭の端を通る力なんてないはずだ。
 僕が頭の中でぐるぐる思考を巡らせている間、ティアルはこの場を見渡していた。その末でぎょっと目を見開いたのだ。

「は……クロウリー!? どうして……」
「大体百年ぶりくらいか? 久しぶりだなー、『星々の守護騎士スターリィ・ディフェンダー』サマ」
「テメェッ、どの面下げて戻ってきやがった!?」

 自力でクロウに詰め寄り、拳で思いっきりぶん殴った。クロウとティアルでは体格差があるから、彼が吹っ飛ばされることはなかったが。

「おいおい、再会早々殴るとかひでぇな!」
「百年前にテメェがやったことを考えたら妥当だろ! っつーか、今の現状も加味したらもう十発は殴りたいわ!!」

 クロウは殴られた頬をさすりながら、ティアルに向かって怒鳴る。元々熱血漢な彼女は怯むわけもなく、険しい顔のまま怒鳴り返した。

「いくらなんでもキレすぎだろ……なんかあったのか」
「うるっせぇ!! 死刑になったくせに、のこのこ生きてるなんて腹立つ!! もう一回死ねよ!!」

 烈火のごとく怒り狂う様に、クロウだけでなく僕たちも圧倒されていた。何しろ、ティアルと付き合いの長い僕でさえ、ここまで暴言を繰り返す場面は滅多に見ない。ティアルを止めるだけで、誰かの命が奪われそうな勢いだ。

「満身創痍でしょうに、血気盛んですね。暑苦しいことこの上ないです」
「よく落ち着いていられるね!? ティアル、ちょっと落ち着いて────!」

 ジュリオは呆れているだけで、止める気がなさそうだ。ティアルを羽交い絞めにしてでも落ち着かせようとしたとき、僕は彼女の腰当てが一部赤い光を放っていることに気づく。

「ティアル。鎧が光ってるけど……?」
「あぁ!? ……あ、そうだった」

 ティアルが落ち着きを取り戻して、腰当てから何かを取り出した。
 それは、手のひらサイズの金色のバイクだ。照明部分についた赤い宝石が、自身の存在をアピールするようにチカチカと点滅している。
 あまりにも小さくて誰も乗れない大きさになってしまっているが、僕はこのバイクを見たことがある。

「このバイク、もしかして……」
「ああ、ルマンだよ。私の固有魔法で小さくしたんだ」
「なんでこんな姿になってるんだい?」

 ティアルがミニチュアサイズのルマンさんを地面に置いた。赤い宝石の点滅が止まる。

「ちょいと訳ありでな……とりあえず、元に戻す。『マテリアル・ウィールダー』〈マキシマイズ〉」

 詠唱とともに、ティアルの手のひらから赤い光が放たれる。眩しくも暗くもない光がルマンさんを包み込み、機械の身体を元の大きさに戻していく。
 光が解かれ、ルマンさんの金色のボディが僕たちの前に顕現した。

『やれやれ……ティアル、ボクの存在を忘れるなんてあんまりだぞ』
「し、仕方ないだろ! まさかクロウリーに出くわすなんて思ってなかったし……」

 喋るたびに宝石が光るだけで、表情はわかるわけもない。声から焦りを感じられる。
 そういえば、オルフ君の姿が見当たらない。ルマンさんが小さくなってティアルの腰当ての中にいたわけと関係がありそうだ。

「ティアル、ユキアたちと行動してたんでしょ? 何があったのか教えて」
「……そうだな。私一人じゃどうにもできない。素直に話すよ」

 僕たちは一旦隠れ家から離れる形で歩き出した。ティアルはさっきの怒りの反動か、とてもしぼんだ顔つきで事情を話し始める。
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