ディバイン・レガシィー -箱庭の観測者-

月詠来夏

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【巨大聖戦編】第7章「誰がための選定」

169話 狂った愛(2)

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「あれを受けたらまずいよ! ボクが動きを止めるから、みんなは防御を固めて!」
「私はセルジュを守ってるぜ! 多分、私の力じゃあいつに敵わん!」

 アスタが短剣を片手に、ナターシャへと突撃する。
 どうやら、〈AstroArtsアストロアーツ〉という魔法を発動させると、相手の攻撃がアストラルを使ったものに変わるみたいだ。神幻術や固有魔法にも、アストラルが含まれるようになるらしい。
 ティアルとセルジュは、石で作られた壁で身を守っている。だが、当たり所が悪ければ極めて危ない状態だ。

「〈AstroArtsアストロアーツ〉! クリム、ティアルの壁を守れ!!」
「ジュリオは!?」
「おれに構うな! いいか、セルジュだけは何がなんでも守り抜け! さもなくばお前を殺すからな!!」
 
 鬼の形相で僕を脅しに来ているけれど、僕は元より全員守るつもりである。
 とにかく、自分とティアルの作った壁を大きな魔法陣型の防壁で守る。ジュリオは焦った様子で防壁の前に走り出て、ナターシャへ狙撃銃の狙いを定め、引き金を引く。
 銃声が何度も響き、そのたびにナターシャの身体から血が噴き出す。

「邪魔……しないで!! 『オブリビアス・ストリング』!!」

 神幻術が発動している中なのに、さらに数本のワイヤーをジュリオに放つ。狙撃銃で適確に糸を狙い断ち切ったので、徒労に終わったが。
 ナターシャの意識がジュリオに向いている間、アスタはワイヤーを掻い潜り、ナターシャへ肉薄した。向こうもアスタの存在に気づき、キッと目を鋭くさせて真っ黒な凶器を取り出した。

「観測者、これでもくらえ!!」
「キミも持ってるの!? それやだ!!」

 アスタが慌てて短剣を前に出し、ナターシャの握る漆黒の短剣を防ぐ。ナターシャは血走った目でアスタの腹を蹴り飛ばし、小さな身体が体勢を崩した隙に短剣を突き立てようとした。

「ちっ、手間を増やすな!」

 ジュリオが悪態をつきながら銃を発砲する。短剣は勢いよく弾き飛ばされ、どこかに飛んでいった。アスタは体制を崩された勢いで尻餅をついたが、すぐに立ち上がらずにジュリオを見る。

「キミ、ボクを助けていいの?」
「あれはお前たち観測者の再生能力を一時的に無効化させる刃だ。お前は今この場で一番性能がいい盾だからな、働いてもらわないとこっちが死ぬ」
「は、はぁ!? ボクはキミなんかの盾になるつもりないから!!」

 勢いをつけて立ち上がったアスタがジュリオに詰め寄り、なぜか口喧嘩が勃発する。喧嘩と言っても、ほぼアスタの方が反応してばかりの一方的なものだったが。

「清らかなる死人花……我が愛を喰らい黒赫狼となれ……」
「っ、喧嘩してる場合じゃない! アスタ、どうにかしろ!」
「ボクに命令しないで! 『〈Uranometriaウラノメトリア〉』!」

 アスタの叫びとともに、塔全体が明るい星空に包まれる。世界が不思議な雰囲気に飲まれ、ナターシャの動きだけが鈍くなる。同時に神幻術のワイヤーも、次々と霧散していった。
 両手を突き出したアスタに、星の光が集まっていく。エネルギーが両手に収束していく中で、ナターシャは動きが鈍くなった状態で笑う。何か詠唱していたようだけど、アスタの星幽術のおかげで中断できたようだ。

「あは……あははは……? あれぇ、おかしいですよお母様? 力が使えません、でも大丈夫です、今助けに行きますからね。今から邪魔な失敗作を全員潰すので待っていてください。この力も身体もお母様にすべて捧げます」
「うるさい! 消し飛んじゃえ!!」

 鈍くなった動きが活発になっていく前に、収束したエネルギーを光線として解き放つ。ナターシャの胸を一瞬にして貫き、塔を包んでいた星空が元に戻っていく。
 胸を貫かれたことで、黒い装束が赤くなっていく。肩で呼吸を繰り返すくらい満身創痍で、汗をだらだら流して、今にも倒れそうなのに。

「あはは、あはははは! 痛い、痛いけど嬉しいですよお母様! 痛みを感じるということは生きている者の特権だとお母様は言いましたよね? だから私は幸せです! お母様から生まれた私は生きているだけで幸せです!! 愛していますお母様、お母様お母様お母様お母様お母様ぁ!!!」

 再び、ナターシャから無数のワイヤーが放出される。何の詠唱もなく、魔法を発動する際のモーションすらなかった。
 精神がおかしくなっているからなのか、狂った愛の言葉を呟き続けている。ナターシャは僕が見てきた中でも最狂と言っていいかもしれない。死刑寸前のクロウでもあそこまで狂ってはいなかった。

「あーもう、完全に狂ってるじゃん! あれで致命傷にならないの!?」
「はぁ……仕方ない、おれもそろそろ〈AstroArtsアストロアーツ〉の効果が切れるし、星幽術を使う。引き続き気を引け」
「だーかーらぁ、ボクに命令するなぁ!!」

 文句を垂れつつ短剣を構え直し、再びナターシャの元へ突っ込む。やはり、不老不死であるアスタが一番躊躇なく動ける。ジュリオもまた、狙撃銃のマガジンを装填して構え直す。
 僕が維持し続けている防壁に、何度かワイヤーが掠る。まだひび割れていないが、ずっと維持し続けられるわけじゃない。
 それに……なぜだかわからないが、右目がやけに痛む。

「あはははははははッ!! 壊れろ壊れろ全部壊れろ!! お母様のために死ねええぇぇッ!!!」
「うるさい! お前を見ると吐き気がする!! さっさと失せろマザコンババア!!」
「キミ、結構口悪くない!?」

 ナターシャはずっと狂い続けたまま、無数のワイヤーを考えなしに放っていく。壁どころか周囲の環境に異常が現れようとしていた。一部の空間が歪み、空中にひび割れができている。
 幸い、僕たちの行動範囲にそのような異常は出ていないが……空間のゆがみやひび割れに触れたら、無事じゃ済まされないだろう。
 それとは別に、僕が展開した防壁の前で異様な力の流れを感じた。ジュリオがアストラルを一点に集めようとしているみたいだ。

「穢れし罪咎……我が赫怒の前に砕け散れ……!」

 ジュリオに何度もワイヤーが当たって、身体が切り裂かれる。時が経てば経つほど、彼はあっという間に血まみれになっていく。
 それでも、立ち続けていた。倒れかけてもしっかり踏ん張っていた。

「『《Fatal Kanonフェイタル・カノン》』!!」

 怒鳴るような詠唱とともに、銃声が一回響き渡る。異様な力が詰め込まれた弾丸が飛んでいき、ナターシャの腹部に命中する。
 彼女の身体が激しく揺れたのと同時に、飛び交っていたすべてのワイヤーが消滅していく。辺り一帯を漂っていた力の奔流の勢いが、どんどん弱まっていった。

「がはっ……!? あは……ははは……死にそう、死にそうなくらい痛い!! でも私生きてる!? なんで? あはははははは……?」

 ナターシャの狂気がさらに悪化する。瀕死になればなるほどおかしくなっているような……だが、さすがに身体が限界なのか、傷だらけの床に崩れ落ちた。
 それからまもなく、ジュリオもその場に倒れてしまう。彼の顔から血の気が失せており、僕はとっさにジュリオの元へ駆け寄る。彼を抱き起こそうと手を伸ばした。

「ジュリオ! ────っ!?」
「クリム!?」

 指先が彼に触れた瞬間、右目に一際強い激痛が走る。触れた指が痛んだのではない。何にも触れていないはずの右目が痛むのだ。
 めまいがするほどの激痛に、視界が揺れた。内側から湧き出るような痛み。身体の疼きと、猛烈な熱。この感覚は……シファの攻撃を受けたときと同じ。

「なん、で……僕、アストラルの攻撃は受けていないはずなのに……」
「クー! どうしたの!?」

 危機が去ったことで、アスタが駆け寄ってきた。ジュリオも、僕の異変に驚きを隠せていない。
 ティアルたちの無事も確かめないといけないのに、肝心の僕の意識が薄れていく。でも、身体の自由は利いている。

「っ、〈光よ、我が友の傷を癒せ〉……!」

 せめてジュリオの傷だけでも治さなくては。その一心で、彼の身体を温かな光で包み込む。
 傷が塞がり、血が止まっていくのを見ただけで安心してしまい、ふっと視界が揺らぐ。
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