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三十話 伯爵家
しおりを挟む伯爵家の令嬢、ミリアを連れ走り二時間と少々、ようやく令嬢の目指していた町に辿り着いた。
まさか俺がのっとった町の近くだとは考えもしなかったが、俺が入っても大丈夫だろうか?
恐らく俺の町から逃げた元町民達は、この町に逃げ込んでいる可能性が高いのだが……まあなるようになるだろう。
「あ、あの……リュー様……」
町の門前まで着くと、抱き上げていたミリアが顔を赤らめながら俺の名を呼ぶ。
馬車での移動では遅すぎるので、恥ずかしがるミリアを半ば無理矢理に抱き上げて移動していたのだが、どうやら我慢限界のようだ。
門前には、百メートル近くはありそうな行列が出来ていて、そこに並ぶ民衆のほぼ全員が、女を抱き上げてかなりの速度で走ってきた俺に注目している。
つまり、俺に抱き上げられているミリアも注目されているというわけで……
「は、は、はやく下ろしてくださいーー!!」
そんなに大声を出したら、より注目されると思うのだが……案の定、先ほどよりも注目を集めてしまった。
ミリアはとうとう耐えられなくなり、顔から湯気を出して、気絶してしまった。
「これでは下ろせないな……」
気絶したミリアを下ろす訳にもいかなくなり、仕方なく俺はミリアを抱き上げながら行列に並ぶことにした。
並ぶこと暫し、前にはあと残り数人といったところで丁度よくミリアが目覚めた。
「既にもう周りの視線には慣れたが……まあ、そろそろ下りた方が君のためだろうな」
「へっ? は? あっ……は、はい! おりますおります! おろさせていただきます!」
俺が周りに視線を向け、周囲からいまだ注目されていることを暗に告げると、ミリアはすぐに俺の腕の中からおりて、身だしなみを整え、あたかも何事もなかったかのように振る舞いだす。
「お嬢様? 馬車はどうされたので……というか、何故平民達が並ぶ門から? いや、というよりほかの者達はどうされたのですか?」
やっとのことで俺達の番がやってくると、門番がミリアの知り合いだったのか、矢継ぎ早に次々とミリアに質問を投げかけ始める。
ついでに、一緒にいた俺に厳しい視線……というより睨むように俺のことを観察していた。まったく、俺はミリアの命の恩人だと言うのに、失礼なやつだ。
まあ、俺が彼女のことを助けたという事実をまだ知らないからここは、大目に見てやるが、もしもそれを伝えられた後にも同じような視線を向けてきた時は……容赦はしない。
そんなことを考えているうちに、ミリアが門番に質問の返答と先程の出来事の詳細を伝え終えていた。
「リュー殿、先程は失礼な視線を浴びせて申し訳ございませんでした。そして、お嬢様を助けて下さりありがとうございました。死んでしまった者達の遺体は領館の方までお運びいただけるとありがたいのですが、いかがでしょうか?」
全てを知った門番は、先程とは打って変わって、俺に敬意を持って応対を始めた。
伯爵家の門番とあのゴミクズ野郎の町の門番とでは、ここまで教育が違うのかと驚愕したが、顔には出さずに受け答える。
「気にしてくれるな。ただ通りかかっただけだからな。それと、運ぶ場所については心得た。もう町に入ってもいいのか?」
「もちろんでございます。ようこそ、シャルナの町へ、恩人よ」
門番が善人だと、町の中に入るという行動だけで、ここまで心持ちが違うのか。
最初に訪れる町を間違ったな……と思いつつも、あの町に最初に訪れなければラティア達を救うことも、町ひとつを手にすることも出来なかったのだから結果オーライ? というやつだろう。
「領館までは私が案内致しますね、リュー様」
「頼む、ミリア」
伯爵家の令嬢であるミリアが俺に敬語で敬称付け。対する俺は呼び捨てで敬語すら使っていないのだが、当の本人はまったく気にしている様子はないからこのままでいいのだろう。
仮にも俺は命の恩人であるし、恐らく俺の身だしなみからどこかの高貴な身分の人間だと勘違いしているのだろうから、その勘違いを有難く利用させてもらい続けよう。
「着きました、リュー様。」
「ここが領館……ミリアの家か?」
「はい、そうですよ」
今、俺の目の前にある領館と呼ばれる建物は、控えめに言っても、俺の町にあった元領館とは、比べ物にならないほどの大きさと豪華さを誇っていた。
爵位が違えば、やはり格も圧倒的に違うのだろう。が、俺の創造した城と比べれば、この領館ですらちゃちな物であると言えよう。
「我が家を見てもなんの驚きも見せない……? やはり、リュー様は、どこかの王族か皇族の身分の方なのかな……?」
小声でミリアがまたも見当違いなことを呟いていたが、俺にとっては都合の良い勘違いだから聞こえなかったふりで通す。
「お、お嬢様ー! お嬢様ー!」
ミリアが領館の守兵に先程の門番の時同様、盗賊達に襲われた出来事の報告をしていると、領館の中から物凄いスピードで走り寄ってくる人影が見えてくる。
声は女性のものだったから、おそらくメイドであろう。
そして、そんな大声に釣られて、領館の最上階にあるバルコニーから四十代くらいの強そうな風格を持った男がこちらに目を向けてきた。
恐らくあれがミリアの父。現伯爵家当主の男だろう。
男はこちらに目をやると、先に帰ってきた愛娘であるミリアに視線をやった後、俺に視線を向け、そして俺から視線を外せなくなっていた。
なるほど、この世界にもそれなりに出来るやつはいるという事だな。
この男ならば、先程ミリアを襲った殺し屋すらも容易く屠れるだろう。
それほどの実力者だと俺は、遠目から神眼を使うことなく理解した。
さて、あの男は圧倒的な俺に対してどのような対応を見せるのだろうか?
楽しみだ。
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