魔法の使えない無能と呼ばれた私は実は歴代最強でした。

こずえ

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勇ましい者の目覚め

8話

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地面は露出してひび割れた岩肌に周りは断崖絶壁。

「何より…この場所は魔素プラムが濃い…これはとんでもない土地だね…」

ノワールは少しだけ苦しそうに言う。

こころなしか、レティナも苦しそうな顔をしている。

私は平気だったので気にした事が無かったが、本来魔法に用いられる魔力プリマは魔素が精霊の力で浄化されて弱まったものを指すんだが、魔素の濃度が濃い過ぎると魔物や悪魔等の魔性の生き物以外は魔素中毒に陥り、死に至る危険があるのだ。

私は身体に悪魔レーヴァテインに加えて、妖精シルフを宿している為、魔素を力に変えたり、魔素を弱めたりする事が出来るが、普通はその様なことは精霊術に長けた者でないと出来ないとされている為、今の状態だと一瞬で壊滅する事は間違いない。

『アリスちゃん、聞こえる?』

私は声に気づき当たりを見回す。

当然の事ながら周りには私たち以外は居らず、2人は反応が無いことから声が聞こえていないようだ。

『あ、俺だよ。シルフだよ。多分お二人さんには聞こえてないと思う!今から、君に魔素阻害アンチプラムを教えるね。』

シルフが私の脳にある術式を送る。

『今送ったのは魔素阻害の精術回路フェアリアルだよ。フェアリアルは文字通り精霊術を扱う為の回路だよ。まずは俺の力を意識して』

私は言われるがままに右腕のシルフの力を意識する。

ちゃんとしての自分を意識して』

アリスリリスの鼓動を感じる。

『さっきのフェアリアルの様に精霊力を意識して』

はっきりと脳内に残っているあの回路を意識する。

力が漲るような感覚を覚える。

『後は技能を使う時と同じだよ!使いたい力を意識して発動だよ!』

私は魔素阻害を意識する。

「精霊術!魔素阻害アンチプラム!」

私を中心におおよそ半径10m程の空間の魔素が和らぐ感覚を感じる。

「グラディオスから、話には聞いていたけど…アリスちゃん、とんでもない精霊力を持ってるわね…」

ノワールはいつもの眠そうな雰囲気で言う。

レティナは私の右腕を見ながら言う。

「シルルンとアリーちゃんのおかげだね!正直、さっきのままだとDランクの魔物にも苦戦しそうなくらい力が出なかったからね。」

私の腕の中でシルフが驚いたような感覚を感じる。

レティナは「あっ…」としまったと言う様な表情をする。

なのは内緒にしなくちゃいけなかったのに…」

レティナは少しだけ考えると首を振る。

「ううん。今は隠してる場合じゃないわ。この状況で隠すのはフェアじゃないもんね。」

ノワールはクスクスと笑う。

「そうね。私たち、隠し事が多いものね。」

「それじゃあ…」とレティナが喋ろうとした瞬間だった。

「グオオオオオオオオオ!!!!!!!!!」

とてつもない重圧と咆哮の衝撃が私たちを吹き飛ばそうと荒れ狂う。

私は直感でと感じた。

私は2人に言う。

「話は後!今はここから逃げるよ!」

ノワールもレティナも頷き、同意を示す。

「簡易術式!脚力強化スピードアップ!」

ノワールの術式で私たちの脚力が強化される。

「じゃあ、私はこれ!煙幕スモーク!」

アサシンの使う煙幕には消臭効果もある為、消臭目的で使用するアサシンも多いそう。

私もいつか魔素阻害以外も使えるようになれたらいいな…

2人のおかげでほんの数秒で500m程は移動する事に成功し、後は物陰に隠れてやり過ごす事にした。

「グルルルルル…」

唸りながら、先程まで私たちが居たところに巨大な黒龍が現れる。

ノワールは小さな声で言う。

「あれは…魔素で染まっているけど、間違いなくモンスターのゴールドドラゴンだわ。魔素で強化されている上にユニークだから、通常のゴールドドラゴンなんか比じゃないくらいに凶悪なモンスターになってるわね。」

レティナが小さな声で補足する。

「確か、準災害級は今は災害級と統合されている昔の規格ね。本で読んだ事があるわ。災害級とは言えないが、生息場所や能力でそれに匹敵する力を持っているモンスターをそう呼ぶそうよ。本来、ゴールドドラゴンは生息場所は至って危険度は低いが、恐るべきその特殊能力が厄介すぎるのよね。」

私は神速鑑定でゴールドドラゴンを調べる。

ゴールドドラゴン:メス
Lv.97
状態:魔素強化プラムアップ魔素探知プラムロード魔法反射リフレクション魔法無効マジックキャンセル怒りバーサーク

【魔素強化】
周囲の濃厚な魔素の力で身体能力を著しく底上げした状態。
通常時よりランクが3つ分上ほどの強化率の為、かなり危険な個体。
モンスターと悪魔のみに適用される極めて特殊な状態。

モンスターの逆襲。

【魔素探知】
魔素を用いて様々な知覚情報を得ている状態。
基本的に全てのモンスターがもつ、探知の強化状態。
魔素が弱いと効力が著しく低下するが、魔素が強いと壁の向こうにいても知覚可能。

我々は常に見ているぞ。

【魔法反射】
種族能力:メタルボディ、強化魔法のリフレクによって、全ての魔法を反射している状態。
ただし、魔法で受けたダメージは蓄積される為、基本的には相手から受けた魔法で相手にもダメージを与える際に利用される事が多い。

【魔法無効】
種族能力:メタルボディ、強化魔法の魔法無効マジックキャンセルによって、全ての魔法のダメージを無力化している状態。
ただし、相手の魔法を反射する事は出来ないため、弱体化魔法の効果は適応されてしまう。

【怒り】
魔法:怒りバーサーク、怒りの咆哮などの怒り状態になるスキルによって怒っている状態。
自我が弱まっている為、敵味方自他問わず攻撃してしまう可能性があるが、怒りによって身体能力が著しく強化された状態。
基本能力値がランク2つ分上になる。

つまり、この個体を暴れさせたら、世界すらも破壊し尽くす恐れがあると言うわけだ。

こんな化け物とそうそうに出くわすなんて思いもよらなかった。

ノワールが小さな声で言う。

「私が囮になるわ。だから、貴方たちは逃げなさい。」

私はそれを止める。

「やめてください!あいつは強過ぎます!基本能力値が少なくとも5段階は上ですし、そんなやつを相手にするのはいくらなんでも無謀過ぎます!私の魔素阻害もどこまで通用するのかわかりませんし、ここは上手く隠れてやり過ごすしかないと思います!」

『そうじゃな。ワシの逆鱗に触れるようなマネはやめたほうがよかろう。』

聞きなれない声が頭上から降ってくる。

恐る恐る、レティナが上を見て言う。

「見つかっちゃった…」

私たちは戦闘態勢を取りつつも逃げる準備をする。

ドラゴンは身長3mほどの長い黒髪と真っ黒な瞳の黒い服を着た巨大な男性の姿になる。

「この姿なら、ヒトの言葉も扱えようか…ワシはこの地の主、ドラグラと言う。小さき猫の子…そなた、名を教えよ。」

ドラグラが私を指さして言う。

私はでこの人は私たちに向けた害意は無いと感じ、構えをとく。

「私はアリス・アルフェノーツです!」

ドラグラはどこか懐かしげに言う。

「ほう…あの小さき小娘がのぅ…時の流れは早いものだ。」

ドラグラが私に近づく事でノワールとレティナが私の前に出ようとする。

私は2人に言う。

「大丈夫。彼は敵じゃない。」

ノワールは意味を理解した様子で構えを解いて眠そうな雰囲気に戻る。

レティナは目の前の大男をチラチラと見ながら、しきりに辺りを見回していた。

まるでみたいな素振りだった。

ドラグラが言う。

「そいつらは俺の部下だ。お前らが俺に攻撃しなければ、何もしないようにしつけてあるから大丈夫だ。」

ドラグラがそう言うと全長2mほどのゴールドドラゴンが4匹現れる。

ノワールは眠そうな声で言う。

「不思議ね。私たち、いつ殺されてもおかしくないのに、貴方の傍に居れば大丈夫だと思えてしまう。操縦者テイマーのそれとよく似ているわね。」

ドラグラは少しだけ意外そうな表情をする。

「ほぅ…人間にも俺らの文化が知られてんのはちょっと意外だったな。だが、お前らの隷属テイムと俺たちの下僕テイムは似ている様で全く異なるものだぜ。」

ドラグラは楽しげにテイマーの仕組みを語り始める。

ドラグラの一族のテイムは自身の配下として魔力を通じて、共生関係になる事で力を得たり、指示を出したり出来るそうだ。
そしてその力が強ければ強いほど、配下との魔力の繋がりが濃くなり、それが最大限にまで繋がると隷属融合テイムインパクトが発生して、1つの身体になるんだそう。
そうして、ドラグラは一匹の巨大な龍になったらしい。
なので、今の人型の方が実は本来の姿なんだそう。

ノワールは終始眠そうに聞いていたが、思い出したように言う。

「隷属融合…確か、私もテイマーがモンスターになったって言う話を聞いた事があるわ。龍人や獣人じゃないモンスターが人になったって言うのも聞いた事がある。でも、そういうやつって、どちらにせよ、魔人が現れたとして討伐依頼が出されちゃうのよね…ルティナも暗殺者なら、知ってるでしょ?」

ルティナからはいつものような能天気さは感じられず、まさに暗殺者に相応しい気配を発していた。

「そうね…彼らには気の毒だけど、秘密裏に殺してくれとか、そう言った汚れ仕事もあったわ。ギルド長もわかってはいるが、周囲の理解や立場がそうはさせてくれない事もあるって言ってたわね。」

そう言い終えたルティナはいつものような楽しげな雰囲気で言う。

「ま、そんな暗い仕事も多かったから、仕事外では明るく生きないとって思ってるんだけどね。それでも悪夢を見たりしちゃうよね。仕事とは言え、人を殺すんだもんね。そりゃ、良い気もしないわよ。」

彼女は壊れているのだろう。
だけど、それでも彼女が暗殺者を辞められないのは、自分以外がこんな目に会わなくてもいいようにと考えての事なんだろうな。

まあ、単純に生きる為のお金を稼ぐのもあるだろうけどね。

「やっぱり、守るにも力が必要なのね…」

私は不意に口から出た言葉に少し驚く。

それと同時に私の中にある1つの思いが湧き出る。
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