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最高の部隊

19話

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「「お疲れ様です!カレン隊長!」」

中に居た男女2人が一糸乱れぬ動きでカレンに敬礼する。

「彼らは私の部隊の隊員だ。」

カレンが説明する。

そのままカレンが右手を軽く上げると男女2人は再び一糸乱れぬ動きで直立の姿勢になる。

通り過ぎる際に私は彼らに軽く会釈する。

リリアはいつものように私の後ろに隠れながらついてきて、茉莉は辺りをキョロキョロと見回していた。

そのまま、12人の隊員候補の元へ行く。

その中の如何にもプライドが高そうな短い金髪の少年が私たちに気がつく。

「おや?カレンさんから聞いていない私たち以外の候補者の方がいらっしゃるとは…」

おそらく、私たち全員の事をさしているのだろう。

茉莉が小さな声で少し不満げに言う。

「私は国防騎士隊なんて興味無いけど…」

リリアもうんうんと頷いていた。

私は金髪の少年に言う。

「私たちは貴方たちの教官を依頼された冒険者です。冒険者カードもきちんとS級以上の者ばかりですよ。」

私はSS級、茉莉もSS級、リリアはS級のカードをそれぞれ見せる。

冒険者の階級はS級までは基本的に実力に応じて上がるが、SS級ともなると一部の例外を除いて、災害級モンスターを最低でも100体、S級依頼を15回以上成功、その後の試験の合格の3点が必須となっている。

これに関しては国防騎士隊もよく知っている事なので、階級の開示は実力の証明とも言えるのだ。

ただし、私はグラディオスの推薦でなっているので、例外の中でも特に例外なのだ。

だが、今回に限ってはこれを大いに活用させていただくことにする。

「これは…失礼…しました…」

金髪の少年はあまり納得はしていなさそうであったが、素直に謝罪をする。

「はぁ?こんな弱そうなガキがSS級冒険者なわけねぇだろ!本当なら、もっとごつくて強そうな覇気を纏ってるだろ!」

少年の後ろから、真っ赤なリーゼントの少年が私に掴みかかりそうな勢いで来る。

その後ろから、白いツインテールの少女が言う。

「アレクス、言い過ぎだよ。でも、彼の言う通り、私たちとしては自分より小さな子供が私たちの憧れでもある騎士隊隊長よりも強いとは信じ難いです。なので、手合わせを願いたいのですが…」

カレンがパンパンと手を叩く。

「その前に!お前たち、まだ自己紹介もしてないよな?」

カレンがそう言うと金髪の少年が「私とした事が…」と零す。

金髪の少年が礼儀正しく自己紹介する。

「先程は失礼しました。私は誇り高きプレティース家の長男、ルフェルシアです。どうぞお見知りおきを…」

続いて、リーゼントの少年が粗暴な態度のまま言う。

「オレはアレクスだ!力なら誰にも負けねぇ自信があるぜ!」

ツインテールの少女が「ふわぁ」と欠伸して言う。

「私はアスティア・ノイマンよ。アレクスとは幼馴染なの。よろしくね。」

そして、残りのメンバーの自己紹介も終え、次は私たちの番だ。

私はニコニコと笑って自己紹介する。

「私はアリス・アルフェノーツです。職業クラスは魔闘士です。」

リリアは私の後ろに隠れながら自己紹介する。

「リリア…です…職業は…戦乙女です…」

茉莉はまるで貴族の様にスカートの裾を持って可愛らしくお辞儀をする。

「私は姓を本間、名を茉莉と申しますわ。私の居た場所では職業なんてものはありませんでしたが、妖術と武術の心得がありますの。」

妖術は産まれ持った血筋の力だ。
その中には封印術や結界術等の多彩な術式が含まれている。

と言うのが一般的な妖術だが、もちろん例外も存在するわけで…

アレクスがドヤ顔で言う。

「ほれみたことか!やっぱり、弱っちぃじゃねぇか!」

彼のように勘違いする奴もいる訳だ。

茉莉はニコニコと微笑みながら、アレクスの前に出て言う。

「なら、その私に負けたら、貴方はですわね♪」

茉莉は雰囲気も優しく顔も笑っているが、目が完全に獲物を狩る目をしていた。

よく見てないと気がつかないほどに気配を隠すのが上手いようだ。

アレクスはまんまと茉莉の挑発に乗ったようで怒り心頭と言いたげに茉莉を睨みつける。

「上等だコラ!ぶっ殺してやる!」

アレクスが武器の大斧を大きく振りかぶって茉莉に攻撃する。

茉莉はそれを紙一重で避ける。

いや、わざと紙一重で避けたと言うべきだろうか。

そして、茉莉はさらに挑発する。

「おやおや…残念でしたね。皆さんと協力すればこんな無様な姿を晒さなくても済んだはずなのですがねぇ…」

「はっ!よく言うぜ!テメェだって、ギリギリで避けるのに精一杯だったじゃねぇか!」

「うふふっ…それはどうでしょうか…」

その後のアレクスの攻撃は全て最小の動きと紙一重で避けられ、アレクスは疲労と茉莉の巧みな誘いで出来た自傷の傷で戦闘続行は出来ないだろうと誰がどう見ても明らかだった。

茉莉は「やれやれ」と露骨に呆れてみせた。

「この程度で国防騎士隊になろうなど、片腹痛いですわ。国防騎士隊どころか、Fランク冒険者になる事さえ怪しいですわね。相手の挑発に乗り、怒りに任せて大振りな攻撃ばかりしていては疲れてしまうのも当然です。その結果、消耗した身体は攻撃の勢いに耐えられずに自傷、挙句にはその傷で戦闘不能になるときました!カレンさんの顔に泥を塗るつもりなのでしょうか。私が手を出すまでもなく、アレクスさんは戦闘不能になり、私がわざわざ姿と言ったにも関わらず後ろで見守るだけの腰抜け具合、即刻この場で全員不合格でも問題無いですね。」

茉莉がそう言って踵を返してこちらに戻って来ようとした瞬間だった。

カレンはこのままではマズいと言いたげな表情をしていた。

白く長い髪と黒目が特徴的な国防騎士隊候補の少女が大声で言う。

「待ってください!」

茉莉がピタッと立ち止まる。

少女が続けて言う。

「サーシャに…いや、サーシャ達にもう一度チャンスをください!」

茉莉はサーシャと名乗る少女に向き直る。

「人生にやり直しなんて無いのですが…」

茉莉が候補者達の顔を見る。

皆、真剣な目で茉莉を見ていた。

茉莉は「ふぅ…」とため息を吐いて言う。

「…私にも情はあります。良いでしょう!もう一度だけ貴方たちの思いのほどを見せてもらうことにします。準備が出来次第、闘技場に来てください。」

茉莉はとても楽しそうに笑っていた。

そうして私たちは闘技場へと移動をする。

国防騎士隊の候補たちはそれぞれのチームで作戦会議を始める。

ルフェルシア率いる第一部隊、サーシャ率いる第二部隊、そのどちらもが真剣に議論していた。

初めにルフェルシア率いる第一部隊が闘技場に来る。

ルフェルシアが一歩前に出る。

「茉莉さん、今度こそ貴方に私たちの思いをぶつけます!」

メンバーは以下の通りだ。

ルフェルシア(職業:盾騎士パラディン)
アレクス(職業:蛮族ウォーリア)
アスティア(職業:魔剣士マジカルソードマン)
ルミェル(職業:星詠フォーリナー)
アリフェス(職業:狙撃手ガンナー)
ウィル(職業:魔法使いメイジ)

アレクスは余程、治療者の腕がたつのか、先程の傷はほぼ完全に回復していた。

それぞれがバランスよく3人1組になって前衛と後衛のバランスを上手く保っていた。

茉莉は中心でただ立っているだけだが、全く隙のない雰囲気を漂わせる。

「良いですね。なかなかバランスの取れた陣形ですよ。」

茉莉は彼らにもわかる様に構える。

「少しだけSS級冒険者の実力を見せてさしあげます。殺すつもりでかかってきなさい!」

茉莉がそう言った瞬間、ルフェルシアとアレクスが突っ込み、アスティアとウィルが魔法の詠唱を始める。

ルミェルがカードを引く。

「星の輝き…正位置!」

ルミェルの星詠術フォリアーノでルフェルシアたちの能力が大幅に強化される。

星詠術は特徴としてカードを引く動作が必要となる。

そして、出たカードによって効果が異なると言う特徴を持っている。

基本的には星詠術で引くカードはランダムだが、魔力を消費する事で好きなカードを引く事が出来るそうだ。

茉莉は静かに目を閉じ、深く息を吸う。

目の前にルフェルシアの盾が迫り、ルフェルシアが言う。

「これでどうだ!シールドバッシュ!」

「はっけい!」

茉莉のてのひらがルフェルシアの盾に触れた瞬間、「パァン!」と大きな音が響きわたり、ルフェルシアが盾ごと吹っ飛ばされる。

ルフェルシアはなんとかギリギリ前線で持ち堪えて、次の行動に移る。

間髪入れずにアレクスが大斧を振り上げて言う。

「くらえ!アックススラッシュ!」

ただの大斧の振り下ろし技だが、先程より格段に隙の少ない動きになっている。

「甘い!」

茉莉はそのまま振り下ろしきる前のアレクスの銅を突き飛ばす。

アレクスは空中でなんとか体勢を整えつつ、次の行動に移ろうとしていた。

「そこだ!爆裂弾ブラストバレット!」

アリフェスの放った弾丸が茉莉を狙う。

「面白いスキルを持っていますね。鍛えれば最強クラスの弾丸になりそうです。」

茉莉は自身の目の前まで迫った弾丸を魔力を纏った手で握って効果を打ち消す。

「さすがです。見事な連携攻撃ですね。そこいらの魔物の群れ程度なら容易く殲滅させる事が出来るでしょう。」

アスティアがニヤリと笑う。

「まだまだこれからですよ!ウィル!」
「わかってる!」

アスティアとウィルが呼吸を合わせて魔法を発動する。

「「二重魔法ダブルプリア光の流星シャイニングノヴァ!」」

文字通り、息ピッタリの波長で魔法の質が極限まで上がった無数の光のレーザーがありとあらゆる方向から茉莉を狙う。

「なら、とっておきを見せてあげますよ。」

茉莉は手で印を結ぶ。

「忍法!影喰らい!」

茉莉の影が伸びて光のレーザーを次々に呑み込み、完全に無力化する。

「でやぁ!アックスバースト!」

アレクスが影が消えた瞬間を狙って強力ななぎ払いを叩きつけようとする。

茉莉はそれを片手で受け止めるとそのままアレクスを弾き飛ばして言う。

茉莉はとても楽しそうに言う。

「いいですね!血が滾ります!」

茉莉の目の色が朱色に変わる。

ルフェルシアが茉莉の背後から突進をしかける。

「シールドバッシュ!」

茉莉はそれを尻尾で軽く流す。

「私の妖術、しっかりと見てくださいね!」

茉莉が尻尾を地面に突き刺す。

「術式展開!千針平原!」

茉莉の尻尾が地面のありとあらゆる場所から突き出してくる。

だが、私たちの事はちゃんと認識して当たらないようにしている様だ。

ルフェルシアは咄嗟に盾で防ぎ、アレクスは大斧で受け止めていた。

ルミェルは避けながら、カードを引く。

「太陽の刻印!反転!」

ルミェルの星詠術で茉莉の術式を無効化する。

アスティアが茉莉のすぐ真後ろまで来ていた。

「ここに賭ける!魔法剣サンガ!」

アスティアの剣が雷の魔法で加速する。

茉莉はすんでのところで魔力を纏わせた掌で受け止める。

「なかなか連携が様になってるじゃないですか!」

茉莉はとても楽しそうに笑っていた。

ウィルとアリフェスが魔力を合わせる。

「「新装!魔法弾バレッドアーツ!ライトニングブラスター!」」


極太の光のレーザーが茉莉に向かう。

茉莉はニヤリと笑って目の前に迫るレーザーを見る。

「…」

私は茉莉が何かを言ったように感じた。

「魔装顕現!反逆の魔境!」

茉莉の身体に魔力を反射する光を纏う。

ウィルとアリフェスのライトニングブラスターを吸収し、圧縮して真上に解き放つ。

茉莉の周囲が熱によって蒸発する。

立ち込める水蒸気の中で茉莉が言う。

「うんうん。これならA級モンスターくらい朝飯前で倒せますね。」

茉莉は楽しそうに微笑んでいた。

ルフェルシアがポツリと言う。

「これがSS級冒険者の力…たった一人で国家を相手に出来るとされる者たちの力…」

アレクスが吠えるように言う。

「あー!クソッタレ!あいつは弱っちぃどころか馬鹿みてぇに強ぇし、俺たちの方がじゃねぇか!畜生!ちくしょー!」

茉莉はアレクスの肩にそっと手を乗せる。

「貴方たちは圧倒的な力の差を知った。なら、負けず嫌いな貴方たちはもっと強くなる為に努力するでしょう。そして、いつの日か私を越える日が来ます。今は遠く届かない星のように見えても、必ず貴方たちは夜空に輝く星のように輝く人になれます。」

茉莉はアレクスの肩から手を離す。

「私は故郷を守れませんでした。そして、それが私の弱さが招いた惨劇だと知りました。だから、私はただひたすらに強さを求めました。通常なら8年はかかると言われているSS級までの道を2年で登りきりました。そうして手に入れた強さは酷く寂しいものでした。」

茉莉は私を見る。

私が小さく手を振ると茉莉もそれに応えるように小さく手を振る。

「私はアリスの契約龍の方と会った時には既に何年も一人で過ごしていました。」

契約龍、それは龍が力を認め、契約した状態をさす。
龍にとって契約するという事は生涯を捧げる事と同意義なのだ。

もっとも、クレアはかなり自由奔放に暮らしているのだけれど…

「…元々仲間と呼べる存在が居なかった。そんな私が言える事は仲間が居るのは良い事です。互いの弱点をカバーできますし、互いに頼る事が出来ます。そして、時に語らい、時に喧嘩し、時にまた笑い合う。そのかけがえのない日常は何よりも大事なものです。」

茉莉は今までに見せた事も無いような儚げな表情で言う。

「貴方たちは絶対にを無くさないようにしてくださいね…」

茉莉は少し疲れた様子で私の元へ戻ってくる。

「私は自分が思っていたより、ずっと疲れていたようです。アリスさん…少し膝をお借りしますね。それとリリアさん…サーシャさんたちの…覚悟を見て…あげ……て………く…………」

茉莉はそれだけを言うと私の膝の上ですやすやと寝息を立て始める。

「…ブレイブ」

リリアは自身の心を奮い立たせる魔法を使う。

「アリス、茉莉…リリア、行ってくるね。」

そう言うとリリアは今の姿が恥ずかしいからと羽織っていた上着を脱いでサーシャ率いる第二部隊の元へ行く。
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