魔法の使えない無能と呼ばれた私は実は歴代最強でした。

こずえ

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反骨の意志

47話

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私はその爪を精霊力で強化した右腕で受け止める。

「へへっ!オレの速度に着いてくるなんてやるじゃねぇか!」

ド派手に燃え盛る炎の様な真っ赤な毛並みの黄色い眼をした虎族の人獣が言う。

声の感じからすると男勝りな女の子って感じだった。

その見た目は虎と人間を足して2で割った様な顔、そしてしなやかな虎の尾があり、両手には肉球と立派な爪がある。

身体はスラッとしており、胸部装甲は無いが筋肉による凹凸があり、背が高い身体だった。

「貴方こそ、なかなかの速度をお持ちのようですね。本気を出されれば、私もついていけるか怪しいですわ。」

虎族が豪快に笑いながら言う。

「おうおう!おめぇもまだまだ力隠してんだろ?オレとタイマンしようじゃねぇか!」

後ろではリリアが聖剣カリヴァンをぶん回しながら、周囲のパーティーを殲滅し、パリスは情けない声を出しながら傍から見たら隙だらけの逃げ方をしつつも的確に魔力ナイフを投げて応戦していた。

「それはいいのですが、貴方のお名前は?」

虎族がニッと笑って言う。

「オレはライオネル!てめぇをぶっ倒すやつだ!」

「ライオネル…伝説の獅子の大英雄と同じ名前ですか…とてもいい名前ですね!私はアリスです。そうね…私も貴方を倒す者ですわ!」

ライオネルは楽しげに笑う。

「なら、オレの力…とくとみやがれ!制限解除・獣化リミットブレイク・タイガー!」

ライオネルの身体がより大きくなり、爪も虎らしく荒々しい爪になる。

さらに筋肉が膨張し、鍛え上げられた筋肉がはちきれんばかりに存在を誇張する。

私はを左手に宿す。

「黒神弓フェイルノート…久しぶりの出番ですよ。」

ライオネルが獣化によって巨大化した身体を活かした力強い爪の連撃を繰り出す。

私はそれをなんとか避けつつ、ライオネルの足元を狙ってフェイルノートの矢を撃ち込んでいく。

「ちょこまかと動きやがって…これでどうだ!」

ライオネルが距離を取って魔力を高める。

私は咄嗟に後ろを振り返る。

後ろではパリスが戦っていた。

「よそ見してんじゃねぇ!王虎の咆哮キングレオバーストォ!」

ライオネルの口からから超高出力の無属性の白い極太ビームが放たれる。

これをくらえばタダでは済まないのは誰が見ても明白だった。

私は目を閉じて精神統一をし、魔力の純度を高める。

ライオネルのビームが目の前に迫る。

「アリス!」

リリアが私の危機を察知して咄嗟に駆け出すが、間に合わない。

「大丈夫…」

私は静かに言って左手を前に出す。

「全部黒く塗り潰すから…」

私は力を解放する感じで勢いよく目を開ける。

その瞬間、私の左手から一筋の黒い矢が放たれ、ライオネルの身体を貫く。

ビームがアリスの目の前で止まる。

「黒天…フェイルノート!」

その瞬間、「ピシピシ」とまるでガラスが割れて粒子となるかの如く崩壊して消え、ライオネルの体の中から黒属性の魔力が飛び出し、ライオネルは倒れて戦闘不能になる。

周囲に居た他のパーティーも巻き込まれて倒れる。

私以外の全員が静まり返る。

「解放…」

私が左手に宿した黒神弓フェイルノートを解除すると黒属性の魔力が消えて、全員の身体を解放する。

『オオォー!』

観客席と共に他グループのパーティーも勝者も敗者も敵味方すらも関係なく、この結末を見た者全てが盛り上がる。

私たちのみがこの場に立っていた。

私が声援に応えるように手を上げるとさらに盛り上がりは加速する。

「勝者!炎の女神!リーダーのアリスが圧倒的なパワーで会場の全てを魅了し、勝利しましたぁ!我々の心も勝利の女神の心も貴方のものです!」

実況の言葉を皮切りに「当たり前だー!」とか「審判しっかりしろー!」とか「アリスちゃん、結婚してくれー!」とか様々な声が飛び交う。

私はリリアとパリスの元に行きながら、ポツリと言う。

「なんだか、盛り上がり過ぎちゃったわね…」

そして、私たちが控え室に戻ると何故か凄い数の人が並んでいた。

「…これは?」

私がそう言った瞬間、近くにいた人が気がついて、あっという間に私たちは囲まれてしまう。

「さっきの試合凄かったっす!」
「アリスちゃん、握手して!」
「私もよアリスちゃん!」
「アリスちゃん、サインください!」
「俺も俺も!」
「ずるい!私もよ!」
「アリスちゃん、ボクと結婚してくれ!」

口々に私に思いの丈をぶつける人々に私は驚いていた。

ついでに最後の人にはリリアが凄い顔していた。

パリスが怖がって私の背中にしがみついていた。

「静かにして!」

リリアがここ数日で何度か聞いた大声を出す。

リリアの声に驚いたのか集まっていた人たちが一瞬で静かになる。

「皆で寄って集って身動きが取れなくてアリスが困ってるでしょ!アリスを応援してくれるのは嬉しいけど、困らせたらダメだよ!」

リリアが肩で息をしながら言うと集まってた人たちがそれぞれ謝罪する。

「い、良いんですよ…ただ次からは一人ずつ並んでいただけると対応しやすいので、その様にしていただければ私に出来る事はお応えさせていただきますよ。」

私が優しく言うと「女神様…」とか「天使だ…」とか「結婚したい…」とか口々に持ち上げる言葉を投げかける。

リリアがパリスの頭を撫でながら言う。

「パリス…怖くないよ…」

パリスが震えながらゆっくりと私から降りる。

集まっていた人たちがそれぞれパリスの元に行き「怖がらせてごめんね」と謝る。

「ヒェッ…あ、いえ…大丈夫です…大丈夫ですから…」

パリスが涙目になりながら震えた声で言う。

「離れて…パリス…怖がってる…」

リリアがパリスと集まった人たちを離す。

そんなこんなをしていると第8グループの試合時間が迫る。

私は一人一人に丁寧にサインを書いたり、握手して観客席へと移動を始める。

途中で「ゲヒャゲヒャ」と聞き覚えのある下品な声がしたが、そっちの方を向かないようにして遠ざかりながら観客席に座る。

「それでは!第8試合…開始ぃ!」

ゴングがなった瞬間、ある5人パーティー以外の全てのパーティーの周囲に闇属性の魔弾が浮かび上がる。

そして、長く黒い前髪で目が隠れた青年が不敵に微笑みながら言う。

「闇の力の前に跪け…ダークネス!」

ほぼ全てのパーティーが青年の闇魔法によって戦闘不能になる。

「天上天下唯我独尊!我が力の前に闇など脆いわ!」

王様のような風貌の黒い目の白くモサモサの髪と長く太い白い髭の大男が青年に一瞬で近づいて拳を叩き込む。

「ぐほぁ?!」

青年が一撃で倒される。

「次はお前たちじゃ!圧政圧制!」

そう言うと残った4人もあっという間に倒し、他の生き残ったパーティーすらも次々に戦闘不能にしていく。

「させねぇよ!」

空手家のような見た目のコバルトブルーのボーイッシュな髪型の紫の瞳の少女が男の拳を綺麗にいなしてダメージをゼロにする。

「ほぅ?お主、なかなかやりおるのぅ…このワシの圧政に牙を剥こうとは命知らずな女子おなごよ!」

「へっ!こっちは生活かけてんだ!こんなところでどこの馬の骨ともわからねぇおっさんに負けてたまるかよ!」

「ハッハッハッ!天下無双の圧政者であるこのエルデモンドをおっさん呼ばわりとな?面白い…ワシを楽しませてみせよ!」

少女と男の激しい攻防が繰り広げられる。

拳同士がぶつかる事に強烈な衝撃波が発生し、観客席にいてもその衝撃波の強さが分かる。

「おぉ…あのおっさんすげぇぞ!」とか「あの女の子も負けてねぇ!」とか観客席も大盛り上がりだ。

私は二人を簡易鑑定する。


アストロッテ

種族:人族(女性)

等級:A級冒険者

エルデモンド・グリフィアス

種族:人族(男性)

等級:SS級冒険者


私はエルデモンドが本気を出したと仮定して、アストロッテとどちらが勝ちそうかは明白だと思っていた。

私の予想通りにアストロッテが徐々に押され始める。

「ハッハッハッ!圧政圧制!ワシの圧政は絶対じゃ!逆らう者は力ずくで黙らせればよい!」

アストロッテが弾き飛ばされ、壁に叩きつけられる。

アストロッテの身体は血まみれで、血を吐いて膝をつく。

誰が見てももうアストロッテは戦えないと思われた。

「舐めんなよ…」

私はアストロッテの力が膨大に膨れ上がる感覚を感じる。

アストロッテが闘志を剥き出しにして言う。

「根性のねぇ、てめぇの拳如きで倒れる様なやわな鍛え方はしてねぇー!」

アストロッテは一瞬にして、エルデモンドの目の前に移動する。

「その大層などてっぱらにぶちこんでやるぜ!正拳突き!」

アストロッテの綺麗な正拳突きがエルデモンドの腹を突き刺し、エルデモンドを吹っ飛ばす。

エルデモンドは少し吹っ飛ばされて膝をつく。

「このワシに膝をつかせるか…小娘と思うて、油断しておったわい…」

「これで終わりじゃねぇぞ!」

エルデモンドが体勢を立て直す隙も与えないと言いたげにアストロッテが追い打ちをしかける。

「だが!圧制!」

エルデモンドが左腕でアストロッテの右の拳を受け止める。

「しまった!」

エルデモンドはそのままアストロッテを勢いよく投げ飛ばし、壁に叩きつける。

アストロッテは血まみれで力なく倒れ…
「不屈の闘志は何度でも牙を剥くぞ…」

アストロッテは倒れる寸前で持ち直し、起死回生の一撃をエルデモンドに叩きつける。

先程よりも格段に威力の上がった一撃はエルデモンドを戦闘不能に追いこむには容易かった。

「勝った…ぜ…」

アストロッテが左の拳をあげると勝利宣言をする。

「勝者!アルティアスピラ!リーダー、アストロッテが力の差をものともせずに勝利への執着を見せつけ、勝利致しましたぁ!」

会場が盛り上がると同時にアストロッテが血を吐いて倒れる。

すぐに緊急医療班が駆けつけ、アストロッテを医務室に運び込むもアストロッテの戦いぶりに会場の熱は上がる一方だった。

私たちはそっと観客席から抜け出る。

「い、今の戦いは凄かったですね…」

パリスが試合後の感想を興奮気味に言う。

「アストロッテ…凄い力…」

リリアもいつもよりテンションが高めな声音で言う。

初日の予選突破パーティーは以下の通り。


第1試合:英雄達の剣ヒーローブレイダーズ

第2試合:悪魔の書簡グリモワール

第3試合:スライム同好会

第4試合:グランディーテ

第5試合:天使たちの協奏曲

第6試合:クリスタルフレア

第7試合:炎の女神フレイアード

第8試合:アルティアスピラ


私は興奮する二人に同意しながらも言う。

「明日は誰が来ても戦える様にしなくちゃね…例の英雄達の剣も勝ち上がってきてるし…」

二人も気を引き締めたように背筋を伸ばす。

私たちはそのまま指定の宿に泊まることとなるのであった。
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