魔法の使えない無能と呼ばれた私は実は歴代最強でした。

こずえ

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反骨の意志

48話

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その日の深夜頃…

『アリスお姉様…聞こえますか?』

頭の中にリリーフィルの声が響く。

『えぇ…聞こえているわ。』

『良かった…作戦は今のところ順調に進んでるみたいです。奴隷商に関わった全ての呪術師と魔術師と貴族の捕縛及び遺体の回収、東側にあった奴隷商の拠点の破壊と奴隷商の捕縛及び奴隷にされた少女達の保護、南側に実験施設の様なものの存在を確認、そして西側と北側の奴隷商の拠点の破壊と奴隷商の捕縛、西側には奴隷となったものがおらず、北側の奴隷にされた少女達の保護、最後に屋敷へのA~S級程度の実力者数名での襲撃がありましたが、アイフェットとアルの二人で完全防衛をし、屋敷に被害はありません。また襲撃者は一人を覗いて全て捕らえて国防騎士隊に引き渡しています。以上が本日の報告となります。』

私は妙な胸騒ぎを感じる。

『リリーフィル、私、凄く嫌な予感がするから南側と英雄達の剣の討伐隊に伝えておいて。想定外の事が起きるかもしれないから、必要以上に注意する事をおすすめするって…』

『了解しました!アリスお姉様の感の良さは信用に値しますからね。必ずお伝えしておきます。では、おやすみなさい。』

そんな声が聞こえた後、何かが切れたような感覚がする。

「ふぅ…一段落ついたわね…」

私は部屋に念の為に空間魔法で収納していた特別な結界を貼る魔導具をセットして、安全な環境にする。

リリアとパリスが部屋に戻ってくると私たちは眠りにつく。



翌日早朝

私は結界に異変を感じて起きる。

「何者かが侵入を試みている?」

私はなるべく広範囲に探知を使う。

「…まだ居るわね。」

私はリリアを起こす。

「…アリス?」

「しっ…外に誰かいる。」

私はリリアにパリスを任せて扉を開ける。

「ガン!」と音を立ててフードを被った猫族が壁際に転がる。

私はすぐにその猫族を捕らえて、部屋に引き込んで腕を後ろに組ませて縄で縛る。

「捕まっちまったっす…」

猫族がそう言って首を項垂れていた。

「単刀直入に聞くわよ。目的は何?」

私がそう言うと猫族はヘラヘラとおどけた調子で言う。

「いやぁ…部屋を間違えちまったみたいで…」

私の目には別の目的があるのは見えていた。

「あくまで隠すつもりね。」

「い、いやだなぁ…ジブンはほんとに間違えただk「ずっとつけていたクセに?」

私は猫族が言い終わる前に言う。

「…バレてたんすか。」

「当然よ。伊達に冒険者やってるわけじゃないわ。とは言っても、隠す気もなかったでしょうし、見つかる事は想定内だったんじゃないかしら?」

猫族は黙って目を閉じる。

「負けたっす…」

猫族は名を名乗る。

「ジブン、カルシャと言うっす。アンタたちも奴隷商が横行してるのは知っての通りの奴隷っすね。誰に雇われてるかは言えないっすけど、アンタのところのメイドならもう知ってるかもしれないっす。」

カルシャは先程のヘラヘラした調子から変わって、真剣な眼差しで言う。

「…今は信じてあげるわ。続けなさい。」

「感謝するっす。ジブンが受けた指示は主に2つっす。」

いつの間にか縄を解いたカルシャが服を捲りあげて腹部に描かれた魔法陣を指差す。

「1つ目はこいつを使って、パリスちゃんの回収っすね。こいつは奴隷収納どれいボックスと言って、魔法陣に直接触れた対象を一度に一人だけ収納する事が出来るっす。その際にアンタたちも知ってる通り、逆らえないようにする為の奴隷呪が刻まれる様にもなってるっすね。自分より格下の相手を奴隷にする時か不意打ちで封印するのによく使われるんすけど、パリスちゃんだけならともかく今のアンタたちを敵に回してまでして回収するつもりはないっすよ。命の方が大事っす。」

カルシャは服を元に戻しながら言う。

「二つ目はアリスさん、アンタの殺害かこの奴隷収納による封印っす。要するにアリスさんの足止めをしろって事っすね。これはバレてしまったので失敗っす。自らの手を汚さずに殺すには奴隷であるジブンたちを使えばいい、ジブンたち奴隷は失っても替えが利くっすからね。」

カルシャは私に縄を渡す。

「さてと…これでようやくジブンもお役御免っす。後は煮るなり焼くなり好きにするといいっすよ。」

私は縄をしまう。

「しかし、寝込みを襲おうだなんて、気が抜けないわね…だが、警戒している相手を葬るにはいい方法ではあるわね。」

私は右手でカルシャの服の下から魔法陣に触れる。

「それと私にこの魔法は通用しないわ。私も似た様な魔法を使えるからね。」

私はそのままその魔法陣を破壊すると同時に彼女の身体にしかけられていた盗聴の魔導具を破壊する。

「…何もかも、お見通しってわけっすね。本当に隙のない人っす。こんな相手を敵に回そうだなんて、本気で考えられないっす。」

リリアがため息をついて言う。

「リリア…魔力…つけた…だから…皆…奴隷収納…効かない…」

「ハハッ…初めから、炎の女神の手の平の上で転がされていたわけっすか…これは結界が無くてもボクに勝ち目なんてなかったわけっすね。」

私はカルシャの奴隷呪の呪印に触れる。

「ほんとはパリスが危なくなった時ように借りたものだけど…」

私はデュークの力を使って、カルシャの呪印を破壊する。

「…!?奴隷呪が消えたっす!」

カルシャが明らかに嬉しそうな表情をする。

「貴方には借りがある。例えそれが偽りであったとしても…ね…」

私はカルシャのフードをとると脅えた目をした猿轡をつけられた猫族の少女が現れる。

「ハハッ…やはり、ジブンがだって気がついてたっすか…」

尾が2つに分かれた猫が少女の身体から出てくる。

少女は苦しそうに呻き倒れる。

リリアが急いで拘束具を解いて治療を始める。

猫が諦めたように言う。

「止めた方がいいと思うっすよ。この子は元々死にかけていた奴隷っす。どれだけ強力な薬を使えどもその子の病は治らなかったんすよ。それでその子はせめて身体が綺麗なうちにと親に奴隷として売られたっす。そして、そんな子を奴らはジブンと言う他者の身体を乗っ取る能力を持った猫を利用して、無理矢理彼女を操り、アンタたちを安全に処理しようとしたっす。元々ジブンは奴隷呪のせいでその子の中に強制的に詰め込まれ、操る事を強制されたっすからね。本来なら奴隷呪で死ぬ様な事態もその子を介さなければ、ある程度は自由に出来たっす。だから、ジブンはアンタたちの味方が出来たんすよ。」

猫が淡々と言っている間にもリリアは懸命に治療を続けていた。

「…聞こえなかったっすか?その子は助からないんっすよ。なんたって、その子は不治の病とされるグラットン症を発症してるんすよ、」


グラットン症はこの世界でも稀な症状で何らかの要因で身体の内部から組織が壊れていく謎の病気だ。

一度組織が壊れ始めると何をやっても止める事が出来ず、せいぜい回復魔法で延命する事しか出来ないのだそう。

もちろん、その間に患者は全身に耐え難い苦痛を感じ続けながら、死を待つだけになるのだが…


「うるさい!」

リリアが大声で猫に怒鳴る。

「助からない?そんなのお前の決める事じゃない!例え、不治の病だとしても、どんなに厄介な難病でも、リリアの魔法で治してみせる!それがリリアがアリスの隣に居続ける為に考えた最上の答えだ!リリアはこんなものに負けない!リリアはアリスがどんなに危険な目にあっても、助けられる為の力を望んだんだ!だから、この程度で終われないんだ!」

リリアが思いのたけを叫ぶ。

まるでその思いに呼応するかのようにリリアの魔力が白く輝きを放つ。

少女の中にリリアの魔力が吸い込まれる。

少女はみるみるうちに回復していく。

「奇跡っす…」

猫が少女が健康な状態に戻る様を見て言う。

リリアは治療を終えると言う。

「ふぅ…ちょっと…疲れた…でも…治った…もう大丈夫…」

少女の「すぅ…すぅ…」という安らかな寝息が聞こえる。

「リリア、恩にきるっすよ。無理矢理とは言え、身体を共にした相手を救ってもらえたのは嬉しい限りっす。」

猫はそう言うとアリスの肩に乗って言う。

『アリス、あの娘をどうかよろしくお願いするっす。それと奴らには気をつけるっすよ。奴らは悪魔の子であるアンタの事を執拗に狙ってる節があるっすから…』

肩に重さを感じなくなったと思ったら、猫の姿が無くなっていた。

どうやら、猫は成仏したと言う事らしい。

リリアが考え事をするように首を傾げながら言う。

「アリス…悪魔の子…関係…まさか…!」

「リリア?」

リリアが何かに気づいた様子で部屋を飛び出す。

「ちょっと!」

私はパリスと倒れている少女を放ってはおけないので部屋から出られなかった。

「リリア…今までに見た事が無いくらい焦ってる?」

突如、頭が割れそうなくらい痛くなる。

「あ…ぐっ…」

私は思わずその場に蹲って、頭を押さえる。

(リリス、お前はだ…その素質は絶対的な………にも絶対的な………にもなれる素質だ。だから…君は…)

「なんだこれ…」

(お母様聞いてよ!リリスね。すっごい魔法を使えるようになったんだよ!………にも自慢したいな~)

過去の記憶らしきものが湧き出てくる。

「んう…?」

パリスが目覚める。

「…!?アリスさん?!」

パリスが驚いた様子で私を見る。

「だい…じょう…ぶ…」

アリスが気を失って倒れる。

「アリスさん!アリスさん!」



はアリスの身体を揺らす。

「そうだ!リリアなら治せますよね!」

私は朝焼けの街に飛び出す。

「リリアの気配を辿れば…!気配を感じない?なら、グラディオスさんの方を…」

私はリリアの気配が察知出来なかったので、ギルドの方へと向かう。

受付の女性が眠そうに欠伸をしていた。

「受付嬢さん!グラディオスさんを呼んで貰えますか!急ぎの用なんです!」

「ん?君、ギルマスは今忙しいんだから、そう簡単には会わせられないよ。どんな用か言ってもらわないと…」

「アリスさんが倒れてしまって大変なんです!」

受付の女性は気だるげに言う。

「あー、はいはい。なら、気付け薬を出すから待ってて…」


ダメだ…まるで話にならないや…


私は扉の奥に居るであろうギルマスの元にダッシュする。

「あ、こら~!」

私はそのまま勢いよく扉を開ける。

「おわっ!パリス?!」

グラディオスが驚いた様子で私を見る。

「アリスさんが倒れてるのです!」

「なんだと!」

グラディオスを連れてアリスが居るはずの部屋に向かう。

「おい!アリス!」

グラディオスが勢いよく開けると見知らぬ女性が驚いた様子でグラディオスを見ていた。

パリスが隣の部屋の扉の前で申し訳なさそうに待っていた。

「…失礼。部屋を間違えた。」

グラディオスはそう言って扉を閉める。

そして、アリスのいる部屋に入ると倒れているアリスと眠っている猫族の少女がいた。

「くそっ…次から次へと…!回復ヒール!」

グラディオスがアリスに回復魔法を何度かかける。

「う、う~ん…」

「アリス!」



頭が痛い…

は目を開ける。

「ここは…」

目の前には瞳を潤ませて心配そうにこちらを見る兎族の少女と白い髭の男性が居た。

私は頭をフル回転させる。

私は思い出した。

「パリスちゃん、グラディオスさん…ご心配をおかけしてごめんなさい…」

私はまだ痛む頭を押さえながら立ち上がる。

猫族の少女が音もなくムクリと起き上がってこちらを見る。

グラディオスが猫族の少女に何かを言おうとするが私が左手で止める。

「この子と私が倒れた事に関係はありませんよ。」

少女は無気力なコバルトブルーの瞳でこちらを見る。

「私はアリスよ。貴方のお名前は?」

少女はグレーの長い髪を揺らしながら首を傾げる。

103いちぜろさん…103…名前…?」

少女はよく分からないと言いたげに言う。

「それはなにかの番号だとは思うけど、貴方にも名前があるんじゃないの?私だとアリスって名前があるみたいにさ…」

私が説明すると少女はまるで感情を感じさせない瞳で私を見て言う。

「じゃあ…アリス?」

「それは私の名前でしょ?」

「う~ん…わからない…緑の世界、たくさんの世界、よくわからない…」

「困ったなぁ…」

私がそう言っているとグラディオスが言う。

「ギルドで調べてやろうか?」

私は首を振る。

「いいえ…この子は調べても情報がないと思うわ。」

私はとりあえず部屋の扉を閉めて、結界の魔導具で外に音が漏れないように結界を貼りなおす。

私は少女に言う。

「じゃあ、貴方の名前はヴァティアね。遠い異国の豊穣の神と同じ名前よ。」

「ヴァティア…ヴァティア…名前…ヴァティア…覚えた…」

ヴァティアの無気力な瞳が少しだけ嬉しそうに笑う。
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