魔法の使えない無能と呼ばれた私は実は歴代最強でした。

こずえ

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反骨の意志

50話

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「これは…」

そうこぼした少女の前に現れたのは大量の緑の液体で満たされたカプセルの中に入れられた様々な種族の少女たちだ。

001~120までの札が見える。

「被検体…001103…ここは…壊れてる…みたいね…」

「コツコツ」と足音が聞こえたので、咄嗟に気配を消して隠れる。

その足音は002と書かれた札の少女のカプセルの前で止まる。

002ゼロツー、もう少しで君のパーツも揃いそうだ。」

少女は14歳前後の身体つきの黒く長い髪の猫族のようだった。

声の主はそれなりに歳をとった男の様だった。

「君は最後までこの私から離れないで居てくれたまえよ…001ゼロワンや103の様な出来損ないと違って、君は優秀だと信じているからね。」

男は不気味に微笑んで言う。

「ここまで本当に長かった…君を創り始めて苦節15年、ようやく私の悲願が叶う時が来たと思ったら、001と103が脱走してしまったからね。後は憎き悪魔王の娘の血を採取出来れば…私はこの世界の王になれる…フッフフッ…フハハハハハ!」

男は高らかに笑いながら、部屋を出る。

「悪魔王の娘…アリスの事…?」

はポツリとそう呟いて、002の前に立つ。

「…」

002は見れば見るほど、アリスを彷彿とさせるような見た目をしていた。

アリスと違うのは、背中に深紅の龍の翼がある事、頬が片方だけ龍の鱗に覆われている事、龍の尻尾がある事、髪が黒く長い事、胸部に大きな丸い塊がある事だ。

002が目を開ける。


しまった!


002は綺麗に輝いているコバルトブルーの瞳を私に向ける。

私は咄嗟に身構えたが、002は小さく微笑んだだけで、そのまま目を閉じてしまった。


見えてなかったのかな?

でも、今、完全に見られたはず…


私は不安を拭い去るように姿を消す情報隠蔽魔法を使って、その部屋を出る。

「守らなきゃ…」

私は足音を立てないように、迅速に行動する。

途中の部屋にモンスターとの研究所みたいなところもあった。

思わず目を覆いたくなるような禍々しい生物が沢山いた。



出口まで来た瞬間だった。

「おやおや?こんなところにネズミが一匹…」

私は驚いて後ろを振り返るとそこには深紅の瞳の魔人がいた。

声から推測出来るのは女性である事くらいだった。

私は咄嗟に武器を構えるが、魔人は面白そうに微笑んで穏やかな表情のまま言う。

「ふむ。余の顔を見ても狂わないのは素晴らしい精神力を持っていると言えますね。君はあの猫族の少女より弱いですが、面白い力を持っていますね。」

魔人はいつの間にか道化の仮面をつけて私の隣に立ち、私の左肩に右手を置いていた。

やはり、女性のような白く華奢な手だ。

「ここは余の施設では無いので逃がしてあげますよ。余の目的は貴方ではありませんので…」

魔人はそう言って出口の扉を破壊する。

警報が鳴り響き、辺りが騒がしくなる。

「早くお行きなさい。そして、悪魔の子に伝えるのです!」

「ありがとう…」

私は魔人にお礼を言ってすぐに出口から出て、森の中へと走る。

背後では魔人が施設の人間と交戦しているのが見えた。

「あの人なら…大丈夫…急ごう…」

私は左肩から溢れる魔力を抑えながら、ただひたすらに森の中を走る。

「こっちの方が早い…」

私は街がある方向へ走る。



かなり街に近くなったところで突然目の前に無気力な瞳でこちらを見る猫族の少女が現れる。

少女は一瞬で私の後ろに回りこみ、そのまま私の身体を抱きしめると感情の無い声で言う。

「こっち…」

少女が天使の様な翼を広げて、そのまま私の身体ごと自分の身体を浮かせる。

「探す…した…」

少女のそんな言葉が聞こえると身体を勢いよく引っ張られる感覚がした。




邪神教団の王都襲撃事件から8日が経過していた。

私は街の修復の傍らでドワーフの職人と共に屋敷の破損箇所の修繕もしていた。

「はい。ドレイクさん、今日の差し入れです。」

私は全身真っ黒な毛で覆われている強面のドワーフの男性に自作弁当を差し出す。

「おう。いつも悪ぃな!嬢ちゃんのメシは美味いから、気合いが入るぜ!」

ドワーフの男性が人懐っこい笑みを浮かべる。

「いえいえ、こちらこそドレイクさんの丁寧な仕事で助かっております。私だけでは屋敷もここまで綺麗に修繕する事は出来なかったと思いますからね。」

「ガッハッハッ!俺はプロだからな!プロである以上、妥協はしないのが俺の信条だぜ!」

私たちがそんな会話をしていると南側から高速で接近する魔力を感じる。

「何か来てる?!」

私が言うとドレイクが険しい顔になる。

あの事件から8日しか経ってないのだ、警戒するのは当然というわけだ。

私は魔力を頼りに見ていると見覚えのある影を発見する。

「ヴァティアかぁ…」

私がそう言うとドレイクも安心した様子でホッとため息をついていた。

「探す…見つけた…」

ヴァティアはそう言ってとある人物を連れて帰ってきていた。

「…!リリア!」

私はヴァティアが無気力に下ろした青い顔をしている少女を抱きしめる。

「アリス…?」

少女が驚いた様子で言う。

「リリア…リリア…!う、うぅ…」

私の中の溢れる思いが雫となって落ちる。

「アリス…」

リリアが申し訳なさそうに見ている。

「心配…したんだよ…ずっと…連絡も…取れなくて…うぅ…無事でよがっだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…」

私はリリアを強く抱き締めて大声で泣く。



しばらくして私の心もようやく落ち着いてきたところでリリアが言う。

「心配かけてごめん…」

「ほんとだよ!急に飛び出したかと思ったら、何日も連絡なくて…ほんとに心配したよぅ!」

「ごめん…」

リリアが申し訳ないと頭を下げる。

「いいよ…とにもかくにもリリアが無事だったんだから、それだけで十分だよ!ヴァティアもリリアを連れて来てくれてありがとう!」

「うん…」

ヴァティアは相変わらず無表情だったが、ほんの少しだけ嬉しそうな声で言う。

「ところで、リリアは今まで何してたの?」

「実は…」

リリアが今まで見てきた情報を話す。

「ふむふむ…つまり、邪神教団の目的は私の血であり、それによって002と呼ばれている猫族を完成させようとしていたのね。さらにモンスターとヒトのキメラのようなものもあったと…」

私は思考を巡らせる。

「まさか…そんな事をしてたとは…ね…」

私はそのまま一緒に聞いていたドワーフのドレイクに言う。

「ドレイクさん、この事は私からセガール王子に伝えますので、王宮から情報が出るまでは黙っていてもらえませんか?」

「あ、あぁ…俺にはついていけねぇ話だし、嬢ちゃんには恩もあるから構わねぇが…」

「すみません…」

リリアがあった、私を襲ったであろう魔人の話も気になるところだ。

私はリリアとともに王宮へ向かう。



私が謁見の間の扉の前で待っていると…

「アリスさん、遅くなってすみません…」

セガールは私の後ろに居るリリアを見て驚いていたが、そのまま謁見の間の扉を開けて中に入る。

私たちが入ると後ろで兵士が扉を閉める。

「まずはリリアさん、おかえりなさい。」

「ただいま…」

セガールとリリアが軽く挨拶をする。

「それでアリスさん、今日はどのようなご用件でしょうか?」

「実は…」

私はリリアから聞いた邪神教団の情報を話す。

「なんと…!そんな事を彼らはやっていたのですか?!」

「リリアの情報によれば、そうなりますね。おそらく、禁術も使われているでしょうから、奴らはとてつもなく危険なものを持っている事になりますし、私の血を欲しているようですので、またいつ襲撃してくるかもわからないですね。」

「禁術に違法な人体実験にキメラの生成…ほんとに命をなんだと思っているのでしょうか…」

セガールが怒りを露わにして言う。

「…私は…ここに居ても良いのでしょうか…」

私の口から溢れ出た言葉の真意は二人ともわかっていた。

「リリア…アリス…一緒…絶対…離れない…」

「私もリリアさんと同意見です。私は冒険者の事はあまりよくわかりませんでしたが、アリスさんの人柄はわかってきたつもりです。そして、私はより貴方に恋焦がれるようになっていきました。私の人生に貴方と言う存在は不可欠です。だから、私も貴方がこの国を出ようと言うなら、私も貴方の行き着く先の果てまでついて行きますとも!」

「二人はここに居てもらわないと困ります…特にセガールさんは王子様なのですからこの国にとって必要不可欠な人物ではありませんか…ですが、私が居なければこの国はもう壊される心配もありませんし…」

私がそう呟くと「バンッ!」と扉が開けられる。

そこには炎の女神、国防騎士隊、アルカノイド、元冒険者の4人も居た。

パリスが言う。

「アリスさん!パリスたちも貴方の事が必要なんです!だから…一人で行こうとしないで…ください…リリアさんの時みたいに寂しい思いはもうしたくないです!その事はアリスさんが一番よく知ってますよね!」

他の集まった人たちも頷く。

茉莉が「クルクル」と楽しげに微笑みながら言う。

「襲ってくるものなら、返り討ちにしてしまえば良いのです…反撃として、完膚なきまでに徹底的にぶっ潰しましょう。そうすれば、野望は阻止出来て襲ってくる愚か者も居なくなりますわ。」

「茉莉よ。そこまではしなくてもいいと思うぞ。だが、向かってくるものに反撃をしてやるのは賛成なのじゃ!私も縄張りの中の罪なき民を傷つけられて黙ってるほど堕ちて無いのじゃ!」

クレアも言うと他の人たちも静かにそれぞれの武器を掲げる。

冒険者の流儀として最上位の敬意を示しているとされているこの行為はこの世界に住むものなら、誰であっても知っている行為であり、国防騎士隊ですら、この流儀を利用するほど、この世界では礼儀正しい行為なのである。

「みんな…」

私は静かに左の拳をあげて言う。

「ありがとう!私たち全員の力を合わせて、邪神教団を打ち倒そう!」

『おう!』『はい!』

私達はそれぞれの場所でリリーフィルによって作戦会議をする事になった。

「…とその前に、リリアから皆に言いたい事があるそうです!」

リリアが驚いた表情をする。

皆が黙ってリリアを見ていた。

リリアは恥ずかしそうにしながらも大きな声で言う。

「急にいなくなってごめんなさい!」

それを聞いた数人が愉快に笑う。

「な、何故…」

リリアが困惑していると笑っていた数人のうちの一人のクレアがリリアの前まで来て言う。

「真面目じゃのう…じゃが、そこがお主のいいところじゃな!」

マリアが笑い過ぎて目に涙を浮かべながら、リリアの元まで来てリリアの頭を撫でる。

「おかえり。」

「ただいま…」




《7/16修正内容》

アリスの「連絡するなくて」を「連絡なくて」に修正しました。

他の変更点はございません。
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