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魔王都市とルネリス

64話

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「…ッ!皆、止まって!」

前方に何かの気配を感じて部隊の仲間を止める。

そして、その何かはすぐに私たちの前に現れた。



「やっと出口まで来られましたね。」

パリスが少し疲れた様子で言う。

「そうだね…誰かさんのせいで道に迷ったから、凄く疲れた…」

私の目線の先に居たクレアが肩で息をしながら言う。

「し、しょうが…ない…じゃろ…まさか…あんなところが…あるなんて…思わなかったんじゃから…」

「クレア…周り…確認…しないから…」

リリアがそう言うと龍の翼のある少女が小さく頷く。

クレアが反論しようとした瞬間だった。

「漆黒の火炎よ!我が前に立ち塞がる敵を焼き尽くせ!ダークブレイズ!」

「では、こちらはこれで対処しましょう。アクア!」

『ドゴオオオオオオ!!!』と爆発音と衝撃がやってくる。

私は音のした方を見て言う。

「な、なんなの?!」

パリスが涙目になりながら、声を震わせる。

「す、凄い音がしましたね…」

龍の翼がある少女が静かに言う。

「誰かが戦ってる。」

「モンスター…?」

「う~ん…多分、人と人…一方はほぼ全滅の隊列だと思う…もう一方は一人だけど…う~ん…傷一つ無いね…」

龍の翼のある少女がリリアの問いに答える。

「アリス!」とクレアが言う。

「もちろんよ!皆、ついてきて!」

私はそう言って皆と一緒に出口から飛び出す。

それと同時に目の前にボロボロの鎧を身につけた赤く長い髪の羊族シーパが落ちてくる。

「ぐっ…なんて威力なの…」

リリアはボロボロの羊族を見ると駆け寄って治療魔法をかけ始める。

「お前は…」

「話は後!傷が開くから動かないで!」

羊族が何かを言う前にリリアが止める。

私たちはリリアの前に出ると金色に輝く長い髪の中性的な見た目の人族が現れる。

「おや。こんなところにが居るではありませんか。」

そいつは私を見ながら歩みを進める。

「貴方がこれをやったの?」

私が問うと人族は微笑んだまま言う。

「その通りですよ…と言えば、貴方はどうされますか?」

「どうしてこんな事をした?」

「ふむ。そんな事ですか。」

人族は立ち止まって、不敵に笑う。

「フフッ♪簡単なお話ですよ。その者が自分に対し、偉そうに指図するものですから、躾を行っていたまでです。」

私は羊族の方を見ると「ペッ」と血を吐いて羊族が言う。

「我々は魔王都市プレスティースの国境警備隊なのだが、その者が正式な手続きを行わずに都市へ向かおうとしていた為、それ以上進むなら不法入国罪で連行すると警告をしたのだ。にもかかわらず、その者は止まらなかった為、それ以上進むなと警告した瞬間に襲われたのだ。」

人族がそれを嘲笑うかのように言う。

「なので、躾ても聞かない愚か者たちには死んでいただく事にしたのです。貴方がたも邪魔をするなら、容赦はしませんよ。」

「なんて身勝手な人なんですか!」

パリスが怒ったように睨みつけながら言う。

「お主、自分が何を言っておるのかわかっておるのか?」

クレアが怒りで口から火を出しながら言う。

「おやおや…身の程知らずの愚か者が増えてしまいましたか…仕方ありませんね…」

人族は異空間から白く輝く剣を取り出して構える。

「このケラノウスのいしずえとして差しあげましょう!」

私はを感じた。

「カリバーン!」

私は咄嗟にエクスカリバーを召喚し、やつの右から流れてくる剣を受け止める。

「おや?完全に不意をついたはずだったのですが…失敗しましたね。」

人族の背後で驚いた表情でクレアとパリスが振り返っていた。

人族はわざと私の剣に押し返された振りをしながら後退する。

「貴方、思ったよりやりますね。衰えたとは言え、自分の剣を受けきった者は何百年ぶりでしょう…」

人族はそのままケラノウスを軽く振って鞘に戻す。

「妖魔の娘さん、貴方を強者と見込んでお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

私はエクスカリバーを構えたまま切先を向けて言う。

「私はアリス。お前を倒す者だ!」

人族はそれを見て楽しげに笑う。

「自分はミラです。貴方を返り討ちにする者ですよ。」

ミラはそう言うと鞘に戻したケラノウスの柄を持って、真剣な顔をする。

「お連れの方も一緒に来てもいいですよ。一瞬で立ち上がる事すら出来なくなると思いますけど。」

クレアが私の顔をチラッと見るとそのままミラに突撃する。

「ならば、望み通りに殺してやるのじゃ!炎撃剛閃花えんげきごうせんか!」

燃え盛る爪を発動させたクレアがミラの間合いに入った瞬間だった。

「せいっ!」

『ギャリャン!』

金属が硬い何かに叩き付けられたかのような音がしたと思ったら、クレアの右腕にミラのケラノウスの刃が握られていた。

「バカな?!ごときに自分の剣が受け止められるだと?!」

クレアはニヤリと不気味に笑いながら、さらに炎の温度をあげる。

「誰が…だって?」

クレアの口から炎が溢れる。

「我は誇り高き龍族ぞ!人間ごときが我に勝てると思うな!」

クレアが燃え盛る爪を突き刺そうと左の拳を構えた瞬間だった。

完全反射オールリフレクト

クレアがミラの身体を引き裂いた…はずだった。

「グッ!?」

突然、クレアの身体から血が飛び散り、口から血が溢れる。

「何を…した…」

クレアが片膝をついて睨みつけながら言う。

ミラは特に気にする様子も無く言う。

「貴方の攻撃を全てそっくりそのまま貴方に受けてもらっただけですよ。幸いにも貴方は自身の属性に耐性があるようですので、致命傷とまでは行かなかったようですけどね。」

ミラがそう言って、ケラノウスでクレアを斬ってトドメをさそうとした瞬間だった。

『願いは叶った。』

人形ゴーレム!救いなさい!」

突然現れたゴーレムによってクレアは間一髪で逃れる事ができ、リリアの目の前に運ばれた。

「おやおや…貴方は怠惰フェニースの…」

ミラがゴーレムに乗った赤い瞳の長く銀に輝く髪の少女を見て言う。

原罪セブリールの力を感じたから来てみれば…何で大罪セブルスの名を関する貴方が原罪と敵対しているんですか…」

少女がゴーレムの上から怒ったようにミラを睨みつける。

「こうでもしなければ、原罪様が力を発揮しないと感じたからですよ。もっとも自分が原罪様だと気づいたのは先程の剣を原罪様が受けきった時ですが…」

ミラが剣をしまう。

「アリス様、先程は失礼いたしました。」

私の目の前でミラが片膝をついて言う。

「…え?」

私はミラが何をしているのか理解出来なかった。

そこにゴーレムに乗った少女が眠そうに言う。

「初めまして、原罪の力を持つヒト…私は怠惰フェニースの力を持つ者、ヴェルドール・アレイシア…そして、今、の目の前で跪いて居るのが、強欲ゴーヴェルの力を持つ者、ミラ…またの名を…」

ミラが顔を上げるとヴェルドールと同時に言う。

「「マーリン・グレイスです。」」

ミラ…改め、マーリンは私の顔を見たまま言う。

「アリス様は原罪セブリールの力を持っておられます。故に自分たちは貴方の忠実な下僕でなければなりません。」

私がヴェルドールを見るとヴェルドールは面倒くさそうに言う。

「私たちは大罪セブルスの名を冠する者なのよ。そして、その大罪の名を冠する者は原罪に仕える言わば、部下のような存在ね。だから、本来は私たちは原罪である貴方に刃を向けるなんて行為は死んでもやってはダメな行為なの。それが私たちと原罪の契約なの。本来なら、マーリンは契約違反で死んでいるか全てが終わる事の無い無限空間に送られるのだけれど、貴方がまだ原罪として完全に覚醒していない状態だから、マーリンは生きてる状態ね。」

リリアに治療されて完治した羊族が恨めしそうに私と大罪の二人を見て言う。

「お前ら…グルだったのか?」

ヴェルドールは「めんどくせぇ…」と全身で表しながら言う。

「答えはよ。羊族のお嬢さん…貴方達を襲ったのはそこのバカマーリンの単独行動よ。その証拠に原罪の力で蘇った貴方の仲間に関する記憶には本来は死んでいるはずの仲間が生きている記憶もあるはずだわ。」

羊族は思い出すように首を捻る。

「確かにあいつらが死んだ記憶とあいつらが生きていて、私だけが襲われてここにいると言う記憶があるな。結果としては同じだが、途中の物事が変わっているのか?」

龍の翼を持った少女がぽつりと言う。

「原罪の力…過去を書き換える…?」

クレアがリリアに治療されながら言う。

「違うと思うのじゃ…ある程度の制約はあるが、アリスの望む未来に辻褄が合うように結果が変わる能力じゃ…ゲホッ!ゲホッ!」

「クレア、黙って…傷…開く…」

吐血するクレアにリリアが言う。

ヴェルドールは面白いものを見たと言いたげに言う。

「龍人が人に仕えてるとな?しかも、そなたは原初の龍の力を持っておるようだな。実に興味深い…」

そこにとある二人が遅れてやってくる。

「アリスちゃん、おまた~…って、なんで大罪のやつらがここに居るのよ!?」

ヴァルディースが戦闘態勢をとろうとする。

「はぁ…はぁ…力が…出ねぇ…」

ウルカの顔色が悪くなり、苦しそうに膝を着く。

「すまないね。それは私の怠惰の力だ。」

ヴェルドールが「ほれ」と言うとウルカの顔色が少し良くなった。

「はぁ…はぁ…さっきよりはマシになったが、なんなんだこの感覚は…」

ウルカはまだ少し苦しそうな表情で言う。

「それは貴方の能力が私とかけ離れ過ぎているが故の弊害よ。怠惰の能力の一つである、力圧パワーロックと呼ばれるものね。こればかりは貴方がもっと強くなるしか解決方法がな…いや、私が力を抑えればいいのか…」

ヴェルドールはそう言って力の流れを変化させ、ゴーレムも小さく作り直していた。

「これなら貴方も大丈夫じゃないかしら?」

「あ、あぁ…おかげさまでな…」

ようやくウルカがしっかりと立てるようになったので、マーリンが事の経緯をヴァルディースに話し始める。

「つまり、アリスちゃんが原罪であるから、貴方たち大罪はアリスちゃんに逆らう事は出来ない…と言う認識で間違いないかしら?」

「その通りよ。だから、貴方がアリス様の味方である限り、私たちが貴方を傷つけることはないわ。ただし、アリス様を裏切る様な事があれば…後は想像通りだと思うけど…」

ヴェルドールが威圧する様にヴァルディースを見る。

「私にとっては大罪の貴方たちに敵対する理由はあっても、アリスちゃんに敵対する理由は無いから、その点は安心しなさい。」

ヴァルディースは臆する事もなく堂々と言う。

「なら、良いわ。」

ヴェルドールはそう言うと元の面倒くさそうな表情に戻る。

「あの…」

いつの間にか私の後ろにいたパリスがヴェルドールに恐る恐るながらも確信を持った表情で言う。

「今まではただの悪夢だと思っていたんですけど、少なくとも7は本来起こりえた最悪の未来がありますよね?」

ヴェルドールは少し驚いた様に目を見開いて言う。

「その通りだけど…貴方…一体何者なの…少なくともただの兎族じゃないわね…失礼…」

ヴェルドールはパリスを鑑定する。

マーリンがヴェルドールの肩に手を置いたところを見るにヴェルドールだけではパリスの鑑定が出来なかったと感じた。

通常は相手がどうであれ、相手のスキルに鑑定妨害系能力アンチサーチが無い限りは鑑定が可能であるのだが…

「パリス…兎族…スキルにも大罪のスキルは見当たらなかった…いや、見つけられなかったが正しいのか?しかし…そうなると…」

ヴェルドールの肩から手を離したマーリンが言う。

「ならば、戦えば良いのです。大罪の力は大罪によって覚醒する場合があります。もし彼女が自分たちと同じならば、戦えばわかります。それに…」

マーリンが私を見る。

「原罪のアリス様の覚醒も行わなくてはなりません。自分たち大罪の名を冠する者も異界の者ですが、異界から来る異形と戦う為には原罪の力が必要不可欠です。もしアリス様が覚醒出来ないのであれば、ここで殺す必要もあります。まあ、世界樹が認めたほどのお方ですので、その様な自体になる事はないとは思いますが…」

マーリンがケラノウスを構える。

「原罪様、今一度、このマーリンとお手合わせ願います!お連れの方も来ていただいて結構ですが、自分は手加減は出来ませんので、死なないようにお気をつけくださいませ。」

ヴェルドールがめんどくさそうに言う。

「かったるいわねぇ…アリス様、どうかあの脳筋バカを黙らせてやってくださいませ。私もアリス様の邪魔をしない程度に援護は致しますので…」

前衛にアリスとパリス、そして後衛にリリア、ヴァルディース、ウルカ、クレアで陣形を組む。

「リリア、後ろはしっかり任せたわよ!」

「ばっちこいなの…」

ヴェルドールが魔法陣を展開する。

「怠惰なる者よ…我が血に従い、力を解放せよ…怠惰の領域ヴェルフェグール・ラヴァンス!」

ヴェルドールの特殊魔法によって私たちの能力が大幅にアップする。

「では…いきますよ!」

マーリンが一瞬で私の目の前に現れ、ケラノウスを振るう。

「カリバーン!」

私もエクスカリバーで応戦する。

「そこです!ラピットレイヴン!」

パリスのナイフがマーリンに向かって投げられる。

「甘い!」

マーリンが無理やり私を吹き飛ばしながら、パリスのナイフを弾き飛ばす。

「そこじゃ!龍撃爆炎華りゅうげきばくえんか!」

クレアの能力でマーリンの足元から龍をも焼き尽くす爆炎が吹き上がる。

「追撃するわよ!グラヴィトンメテオ!」

巨大な隕石がマーリンに向かって落とされる。

凄まじい土煙が視界を覆い、何かが私たちの横を通り過ぎる。

マーリンがそれを見ながら言うと同時にそれは言う。

「完全反射!」
虚無の瞳デリートアイ…」

それはマーリンに爪を振りかざすとマーリンの体を引き裂いて、鮮血を撒き散らす。

だが、すぐにマーリンの未知の手段による反撃によって私の近くまで吹き飛ばされる。

「ソル!」

「大丈夫!」

ソルは頭から血を流していたが、持ち前の回復力とリリアの回復魔法で即座に傷を治していた。

マーリンが頭と腹から血を流しながら言う。

「さすがに邪神と龍王の攻撃は効きますねぇ…」

マーリンがケラノウス構えた瞬間だった。

『望んだ未来を望んだように…』

私の脳裏にがよぎった。

『ここでおまえわたし達は死ぬ。だが、わたしおまえが望むなら…』

私は力を感じた。

そして、

「パリスちゃん!」

「わかりました!」

私はパリスと呼吸を合わせる。

『願いは叶った。』

「これで決めてみせる!」

私とパリスは同時に飛び出し、マーリンに向かって、それぞれ拳と足を構える。

その瞬間、私の胸の中央とパリスの左足の太ももに見た事もない紋章が浮かび上がり、輝きを放つ。

「罪深き者よ!我に魂に応え、敵を屠れ!」
「嗚呼、なんて妬ましいほどに可憐なんでしょう!」

私の拳とパリスの左足の蹴りが同時にマーリンに突き刺さる。

原罪セブリール…」
嫉妬レヴィアテン…」

「「双攻撃ツインストライク!」」

マーリンの身体が吹き飛んで、爆散する。

「や、やりすぎちゃいました!?」

パリスが少し焦った様子で言う。

「いえ、マーリンは完全に不死身ですよ。今は昔ほどの力が無いかわりに完全不死性フェルエントを得ていますから、時間が経てば元に戻ります。」

ヴェルドールがめんどくさそうに言う。

「凄い…凄いよ!ほんとに凄い!」

声が聞こえたかと思えば、マーリンの砕けた身体が一瞬で元に戻って、何事も無かったかのように無傷の状態で復活する。

「ヴェルドール!原罪様の力と嫉妬の力って合わさるとほんとに凄いんだよ!弱くなったとは言え、このボクの身体を簡単にバラバラにしちゃうなんて、ほんとに凄いよ!ボク、感動しちゃった!原罪様の力の強さとか、原罪様と嫉妬のコンビネーションとか凄いんだ!一撃でやられちゃったからね!ほんとに凄いんだよ!」

マーリンが子供のように大はしゃぎしながら、ヴェルドールに言う。

「あ~…はいはい。良かったですねぇ…」

ヴェルドールはめんどくせぇ~と全面に押し出した表情で適当にあしらおうとする。

「ヴェルドールも一度戦ってみてよ!ボクのこの高揚感も君ならわかってくれるからさ!」

マーリンが楽しそうに言うのをヴェルドールがめんどくさいと言いたげに私を見る。

「マーリン、ヴェルドールさんが困ってるよ。落ち着きなさい。」

私がそう言うとマーリンが「ハッ」とした様子で姿勢を正す。

「…コホン。失礼しました。自分、気持ちが高まると自分を抑えられなくなる節がありまして…」

ヴェルドールがめんどくさそうに言う。

「全くだよ。もう戦う必要なんて無いのに、戦わせようとするんだから…私が怠惰じゃなかったら、戦闘態勢に入ってたじゃないのさ。」

「うっ…それは…その…ごめんなさい…」

まるでマーリンがイタズラをして叱られた子供のように素直に謝る。

「次は気をつけなさいよね。」

ヴェルドールはそう言うとダラッとした体勢でマーリンを見る。

「はい。気をつけさせていただきます。」

マーリンが丁寧にそう言うのを見て、ヴェルドールが言う。

「アリス様、パリスさん、原罪と嫉妬の能力覚醒、おめでとうございます。さっそくですが、私たち大罪の名を冠する者と契約を結んでいただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

ヴェルドールはそう言うと魔物が人と契約する時の様に魔力を纏わせた拳をゴーレムを器用に操って、私の目の前に差し出す。

「あの…その契約の結び方って…」

私が気になっていた事を恐る恐るパリスが言う。

「…ん?ああ、元々この契約のやり方は私たち大罪の名を冠する者たちが原罪様と契約する時や召喚者あるじと契約する時に使うものだ。それを魔物や人間が真似をし始めただけだから、オリジナルは私たちの方だよ。」

ヴェルドールはやる気のない感じでパリスの質問に答える。

私は同じ様に魔力を纏わせた拳を構える。

「…何をしているのです?」

ヴェルドールが変なものを見たと言わんがばかりに私を見る。

「私は…」

私は拳をそのまま合わせる。

「私は貴方たちと対等な関係を築きたい。だから、これは対価よ。一方的な支配に良いことなんて無いわ。」

ヴェルドールは「バカだなぁ…」と呟きながらも楽しげに微笑む。

「アリス様、これからよろしくね。」

ヴェルドールがそう言って微笑むとマーリンが羨ましそうに見ていた。

「マーリンもやっとく?」

「はい!よろこんで!…と言いたいところですが、今は御遠慮させてもらいます。自分にはまだやる事がございますので…」

マーリンはとても嫌そうに言う。

「なら、仕方ないね。」

私がそう言うとマーリンはとても残念そうにガックリと肩を落とす。

「ククク…アリス様の命令には逆らえないってやろうとしたのが見え見えだったけど。」

ヴェルドールがからかうように言うとマーリンが勢いよく否定する。

「そ、そんなわけないじゃないか!ボクはそんなに意地が悪いやつじゃないよう!契約感知にかかるとバレちゃうんだよう!」

「へぇ~…契約感知ねぇ…」

ヴェルドールが気だるげに微笑みながら言うとマーリンは焦った様子で呟く。

「やべ…」

ヴェルドールはニヤリとイタズラな笑みを浮かべる。

「マーリン、それが何を意味するのか…わかってるわよね?」

「はい…でも、これにはわけがあるんです。」

「それは今は話せない…と?」

「はい…ですが、これだけは言えます。これはこの世界を守る為の行動であります。」

「ふ~ん?」

ヴェルドールは楽しそうに微笑む。

「今は信じてあげるわ。後はアリス様の判断次第ね。私が許しても原罪の力を持つアリス様が許さなければ、原罪の下僕しもべの私たちは生きる事さえ出来ないからね。」

「えぇ…めっちゃ重いじゃん…」

ウルカがめんどくさそうに言うとヴェルドールが真剣な顔をして言う。

「本来、私たち大罪と原罪様は君たち亜人族を含むの様な普通の関係では無いからね。今まではアリス様の様な対等関係を望む者は居なかったんだ。対等でなければ、それだけで絶対服従の最強のコマになるからね。それ故に原罪の存在は世界中の国にとって共通の敵だった。原罪自身は弱くても私たち大罪の力があれば国の一つや二つくらいは数分もあれば滅ぼせるからね。」

「じゃあ、パリスにもそんな危ない力があるって事ですか?」

パリスが自分の左足の紋章を見ながら言う。

「その通りだよ。ただし、君の場合はどういう訳か、アリス様の魔力が無ければ嫉妬の能力が扱えない様だけどね。だから、君単体なら、そこまでの能力は発揮出来ないはずだから、今まで通り気楽に構えていればいいさ。契約を結べばアリス様の近くに居なくてもアリス様と魔力のやり取りを行うから君一人でも嫉妬の能力が扱える様になる。私の場合はアリス様と能力の共有も出来るな。これにはそれぞれの大罪の力によって違うが、私の場合は怠惰なので、それに応じた能力という訳だが…」

ヴェルドールがマーリンと私の顔を見て言う。

「詳しい事は後で話そうか、話が脱線し過ぎたからね。」

「えっと…何の話だっけ…」

私がそう言うとヴェルドールが真剣な顔で言う。

「簡単に言えば、アリス様はマーリンが隠し事をする事を許可するかどうかと言う事ですね。」

「それくらいなら、私は気にしないよ。似た様な事は前にもあったからね。」

一瞬だけ、リリアをチラッと見るとリリアが少しだけ申し訳なさそうにしていた。

「ありがとうございます!このご恩は忘れません!」

マーリンはそう言うと土下座する。

「待って!土下座はしなくても良いよ?!」

「いえ、命の恩人様に頭を下げないのは無礼であります!そのうえ、アリス様は自分たちの王様でもあります!こればかりは強欲の名を持つ者として譲る事は出来ませぬ!」

「そこまで言うなら…」

私は胸の紋章が出た辺りの力を意識する。

「原罪の名に置いて命じます。強欲よ、我と対等に接しなさい。」

原罪としての力が行使され、マーリンの身体が立ち上がる。

「アリス様…」

「マーリン、貴方が私を王であると認めるならば、対等な仲間として接してください。それが私に対する最大限の敬意と心得るのです。わかりましたね?」

「アリス様がそこまで仰られるなら、自分…いえ、ボクも対等な相手として扱わせてもらいます。強欲にもほどがありますが、どうかよろしくお願いします。」

マーリンはそう言って微笑むと「では…」と言って何処かへと去って行く。

それと同時に羊族が隊を引き連れて戻って来る。

「…あれ?もう一人の人族は?」

「…ミラなら、何処かへと行っちゃいましたよ。」

私がそう言うと羊族は頭を押えて言う。

「そうか…まあ、アレだ。お前たちには魔王様からお呼びがかかっているから、一緒に来てもらいたかったのだがな…」

ヴァルディースが真剣な顔で言う。

「私、邪神なんだけど…会っても問題無いのかしら?」

羊族は少しだけ驚いた様に目を見開いたが、すぐに元の表情に戻して続ける。

「魔王様もその事は存じているはずだ。だから、安心してくれて良いと思う。そこの猫族…えっと…アリス?の仲間なんだろ?」

「その様になってますね。一応、冒険者のパーティとしてはメンバーでは無いのですが、公的扱いとしても仲間で大丈夫なのでしょうか?」

私がそう聞くと羊族は難しい顔をしながら言う。

「その辺は魔王様の判断に委ねるしか無いな。ただアリスのパーティでは無く、この場にいる全員と会いたいって言ってたから、そこは対して問題にはならないんじゃないか?」

「そうですか…なら、私からは特に拒否する理由はありませんので、ご招待に応じましょう。他に何か聞きたい事や不安な点がある方はいらっしゃいますか?」

私が皆を見ると大丈夫だと言いたげに真っ直ぐな視線が返ってきた。

「大丈夫みたいです。では、ご案内よろしくお願いしますね。」

「ああ、我々に任せておけ!客人を護衛するのも仕事だからな!」

羊族は少し前を歩こうとして思い出した様に手を叩く。

「そうだった!客人に自己紹介するのがまだだったな!」

羊族は姿勢よく敬礼して言う。

「オレは魔王都市プレスティース国境警備隊隊長のエルルだ!よろしくな!」

エルルはそう言うとニカッと笑って歩き始める。

「皆、行くよ」

こうして、私たちはエルルたちの案内で魔王都市プレスティースへと向かうのであった。





修正情報
2023/02/25 パリスの一人称の訂正

後書き(と言う名のいつものやつ)

あ、新年明けましておめでとうございます。
…という事でですね。

2023年一発目の超長スペシャルと共に新年の挨拶もしましたよっと。

いやぁ、年明けちゃいましたね~
皆さんは年明けは何をしましたか?

私はですね…
食って寝て出かけて食って帰って食ってと食いまくりましたねw
体重計が凶器になりそうな感覚を感じておりますが、果たしてどうなる事やら…

では、今年もアリスちゃんたちの冒険を楽しみにしてやってくださいね!

アディオス!


…本文だけで1万文字近く書いたの何年ぶりだろ。
てか、どんどんカオスになってね…大丈夫かこれ…
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