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魔王都市とルネリス
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「どうしましょう…」
青色の長い髪の少女が困った表情で言う。
「リリーフィルよ。どうしたのじゃ?」
私の目の前にいた天使族の少女がが言う。
「ミーティアさんですか…実は先程、アリスお姉様との通信が突然切れてしまったので、原因を探っていたのですが…魔力干渉以外の原因が分からなくて…」
「それなら、おそらく魔族領…魔王都市にアリスさん達が入ったのでは無いでしょうか?あの辺は魔力濃度がとても高いので魔力干渉も通常より大きいですし…」
鍵のついた本を解読しながら、眼鏡をかけた5本の尻尾の狐族の少女が言う。
「いえ、あの段階ではお姉様は移動しておりませんでした。おそらく、私の波魔法に干渉したヴァルディースと言う方が原因なのではないかと思ってます。私の波魔法に干渉出来るほどの魔力量を持ち、お姉様を経由しているとは言え、会話が出来るほどの魔力ですので、魔術回路に負荷がかかって…あ!」
リリーフィルが思いついたように手をポンと叩く。
「茉莉さんのおかげで原因がわかりました!ありがとうございます!」
リリーフィルはそう言うと魔術回路の修復の為に別室に向かう。
茉莉は何も言う事はなく、ただ静かに本の解読を進めていた。
私はやけに静かな窓の外を見ていた。
『罪深き王は目覚めた。忠義を誓いし者たちよ…王の元にカイせよ。』
やけに鮮明な声が頭の中に響く。
気がつけば、私の足は玄関へと向かっていた。
「ヴァティアさん?何処に行くのかしら?」
茉莉が本を閉じて玄関扉の前で立ち塞がる。
「…分からない…私も…貴方も…目指す場所はきっと同じ…なのに…」
私がそう言うと茉莉が意味ありげに小さく笑う。
「そうね。私も今の立場が無ければ、貴方と全く同じ事を考えたと思うわ。」
茉莉はそう言うと小さな箱を放り投げた。
周囲の時が止まり、破壊不可な結界が張られる。
「茉莉さん…私…」
私がそう言うと茉莉は白と黒の二振りの剣を出して、そのうちの白い方をヴァティアに差し出して言う。
「ヴァティアさん、これは貴方にあげるわ。」
茉莉の真っ直ぐな目に私は覚悟を決めて、白い剣を受け取る。
白い剣は私が触れると輝きを強めて、私が握るとさらなる姿へと変化する。
「双星剣と呼ばれるその剣は…ううん…この剣たちは二つで1つなの。でも、それぞれ違う持ち主を求める剣なの。何故だかわかるかしら?」
私は茉莉の黒く輝く剣を見て言う。
「互い…対立…決着…つける為?」
茉莉はフッと笑うと優しげな声で言う。
「当たらずとも遠からずと言ったところね。互いに力を合わせる相手がいて初めてこの剣は真の姿を解放出来るのよ。でもね、それと同時に殺し合う剣でもあるの。だから…」
茉莉は黒い剣を構えて真剣な表情で言う。
「戦いましょう。最善の答えを掴み取る為に…!」
私は静かに目を閉じる。
「私…」
小さく深呼吸をして白い剣を構える。
「私…貴方…倒すます!アリスさん…場所…行くます!」
茉莉はそれを聞いて嬉しそうに微笑む。
「私は貴方を止めるわ!全力で行くわよ!」
茉莉とヴァティアの姿が同時に消える。
『キィーン!』と金属がぶつかる音がして、2人の剣が交わる。
「なかなかやるじゃない!」
「これから…!」
ヴァティアが茉莉から距離をとった直後に茉莉の尻尾がヴァティアのいた場所から突き出す。
「あら残念。上手く隠せたと思ったのだけれど…」
尻尾を戻しながら茉莉が言うが、その言葉とは裏腹にあまり残念そうな感じはしなかった。
だが、それだけで茉莉もまた本気で来てると確信出来た。
「不意打ち…私…得意…よくわかる…」
私は魔力を高める。
「今度は遠距離勝負かしら?」
茉莉も妖力と魔力を高める。
「龍の炎よ…我が声に呼応し、降り注げ!ドラゴニックブレイズレイン!」
私が展開した無数の魔法陣からドラゴンの炎の玉がマシンガンのように発射される。
茉莉はそれを見ると瞬時に手で印を結んで剣を振り上げる。
「忍法:海龍刃!」
振り上げた剣の先から龍を思わせるような水が生成され、私の炎の玉と魔法陣を次々と破壊していき、辺りにはどんどんと水蒸気が発生し始める。
私はさらに魔法陣を増やして茉莉が妖力を乗せて飛ばす斬撃を避けながら、茉莉の周囲の全方向から炎の玉を発射し続ける。
水蒸気が茉莉の身体を包み込み姿が見えなくなり始める。
「そこだ!サンダーレイン!」
私の振り上げた剣の剣先から真上に雷が打ち上げられ、その雷が消えた場所からどんどんと黒い雷雲が発生する。
「一斉射撃!」
雷雲から無数に雷が落とされる。
『ドガァァァァァン!』
水蒸気に雷が当たると大爆発を起こして爆風が吹き荒れる。
茉莉の姿は無かった。
「…」
私は自分の魔力を抑えて目を閉じる。
「そこだぁ!」
私はある方向に突撃する。
「おっと…」
茉莉が姿を現しながら、ヴァティアの剣を避ける。
「うっ…」
そして、ヴァティアの振り下ろされた左腕を掴んで、魔力回路を妨害しながら、握力で剣を落とさせようとする。
「さあ…ヴァティアさん…早く手を離さないとこのまま腕をへし折ってしまいますよ。」
魔力によって、徐々に茉莉の握りしめる力が強くなり、茉莉の能力で魔術回路を乱されて魔法が使えないヴァティアの腕はミシミシと悲鳴を上げ始めていた。
「くぅ…」
ヴァティアは苦しそうに表情を歪める。
その間にも茉莉の握りしめる力はどんどん強くなっていく。
「ほらほら。さっさと剣を捨てなさいな。」
「ぐぁっ…!?」
ベキッと嫌な音がした気がした。
「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
完全に折れた。
そう感じれるほどの痛みが私の左腕を襲う。
『捧げよ…』
私の脳内に声が響く。
「おや?もう貴方の腕は限界のようですね。このまま一気に握り潰してあげましょうか…」
茉莉の力がさらに強まり、声も出なくなるほどの痛みが襲う。
『汝、力が欲しくば…その手を斬れ!』
私は声とともに右手に双星剣を握りしめて、そのまま自分の左腕を斬り落とす。
「ああああああああぁぁぁ!!!!」
激しい痛みが、耐え難い苦痛が、圧倒的な痛みが意識を奪おうと脳内を覆い尽くす。
『汝の覚悟しかと見届けた』
私の身体中から燃え上がる激情が…
怒りが!
力が溢れ出る!
「ヴァティアさん…」
茉莉がニヤリと笑い、離した斬り落とされた左腕が燃えて消える。
私は失った左腕を湧き上がる膨大な魔力で補って、圧倒的な「怒」の力を解放する。
「怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒…怒ォ!」
ヴァティアの身体から「怒」の炎が吹き上がる。
茉莉はそれを見て優越な笑みを浮かべていた。
「ヴァティアさん、よく出来ました。褒めてさしあげますよ。」
茉莉の背中に神々しさを感じるほどの絢爛豪華な黒い翼が広がる。
『ウガァァァァァァアアアアアアア!コロス…コロスコロスコロスコロス…コロスゥ!』
ヴァティアが力強く吼えると大地が大きく揺れ、凄まじいほどの衝撃波が茉莉に放たれる。
「ですが、制御も出来ないなんて未熟ですねぇ!私の足元にも及ばない脆弱な力です!」
茉莉は宙に浮いて見下す様に笑う。
『アァ…ワキアガルコノイカリ…ワガコドウ…キサマヲホロボスニタヤスイ…ワレヲミクダシタサバキヲウケルガヨイ!』
ヴァティアが顔に黒い仮面のようなものを生成する。
「貴方のように暴走した者が仮面の力を十分に扱えるとでも?」
茉莉が手を振り上げると無数の魔法陣が展開される。
「せっかくです。こちらで一撃で仕留めて差し上げましょう!傲慢なる破滅の鎖!」
魔法陣から次々に銀に輝く鎖が放たれる。
『モロイ…モロイゾ!ワレヲナメタダイショウヲウケルガヨイ!憤怒怒号!』
ヴァティアのただただ怒りに任せた怒号が鎖を弾き飛ばす。
「くっ…大罪の名を持つだけあって、強いわね…」
茉莉が何かをしようと動こうとした瞬間だった。
『クハハハハハ!ワガイカリ、ワガコエ、ソノスベテヲ…ウケルガヨイ!』
私の顔を覆っていた仮面の上半分が割れる。
「まさか…!暴走したフリをしていたと言うの?!」
茉莉が驚いた表情でそれを見る。
「茉莉さん…貴方を…倒すます!怒怒怒怒怒怒怒怒怒…」
私は心の底から「怒り」を解き放ち、茉莉を地に叩きつける。
「怒号!憤怒の魂は地を這う荒ぶる獣の様に障壁を破壊する!」
私を燃え上がる様な紅い特殊なオーラを全身を覆い、自身の身体能力を超強化しながら発した雄叫びによって周囲に破壊の波動が発生し、拡散する。
「禁忌よ!力を貸して!」
茉莉がそう叫ぶと茉莉から6本目の尻尾が現れる。
『コロセ…コロセ…ホフレ…ホフレ…』
悪魔の様な「何か」が茉莉のネクロノミコンから召喚される。
「禁忌の王、契約に従い力を貸しなさい!」
『承知シタ…』
禁忌の王と呼ばれた「何か」が茉莉の身体を包み込む。
「黒の衝動!」
黒いオーラが茉莉を守る。
「本気…出した…です…?」
「そうね。ここからが本番よ。」
私と茉莉は同時に剣を構えて言う。
「「制限解除!!」」
制限解除によって、私は自身の身体能力を大幅に強化し、茉莉は妖力を大幅に強化する。
「さぁ…準備は良いですか?」
茉莉が剣を構えて、剣に妖力を纏わせる。
『ワガイカリ、ワガウラミ、ワガコドウ…オマエノオモウママニ…』
私は左手で剣を構える。
「声…聞こえる…」
私は右手に燃える魔剣を召喚する。
「茉莉…この剣…わかるます?」
茉莉はニヤリと笑う。
「えぇ!よく知ってますよ!私は大罪武具を使えませんが…」
茉莉は傲慢な態度で見下す様に言う。
「ですが、私の力にかかれば、所詮はミジンコですわ!アッサリと潰してさしあげますよ~」
茉莉が「傲慢な心境」をとる事で能力値がさらに高まり、空間に揺らぎが発生しそうなほどの圧倒的な力がそこにあった。
そして、一瞬でヴァティアの目の前から姿を消す。
いや、正確には光すらも追い抜くほどの速度での移動だった。
「怒…感じる…力…」
力の移動、波長を読み取る。
「怒…感じる…声…」
迫る殺気、意志を聞き取る。
「怒…感じる…心…」
すぐ後ろ、殺意を感じ取る。
「これで終わりです!」
ヴァティアの背後で茉莉が剣を振り下ろす。
私は「怒り」を爆発させる!
「そこだぁ!」
『バキィーン!』
私の左手の白い剣で茉莉の黒い剣を吹き飛ばす。
そして、天高く飛んだ剣は回転しながら重力に身を任せて、茉莉の背後の地面に突き刺さる。
私は右手の燃え上がる魔剣を茉莉の首元に突きつける。
「私の…勝ち…です?」
茉莉はいつもの様な雰囲気に戻ると「アハハハハ!」と楽しそうに笑う。
「…?」
私はわけもわからず首を傾げていると茉莉が言う。
「いやぁ…負けた負けた!」
私は茉莉の様子を見て魔剣と制限解除状態を解除する。
その様子を見て、背後に刺さっている黒い双星剣を拾いながら、茉莉は嬉しそうに言う。
「ヴァティアさん、以前と比べてもの凄く強くなりましたね!それに目覚めたばかりなのに大罪の力もちゃんと使いこなせてるみたいだし、凄いですよ!」
茉莉はそのまま黒い双星剣をしまう。
「そう…かな…?でも、茉莉が言うます…だから、信じるです?」
そう言いながら、私が白い双星剣を茉莉に返そうとすると茉莉は首を振りながら言う。
「その剣は貴方が持ってて!貴方が持ってる方が本当の力を発揮出来るからね。」
私は茉莉の言う通りに剣をしまう。
「ヴァティアさん、改めて聞くわ。」
茉莉は真剣な表情で言う。
「どうしても行くのね?」
私は元通りに戻った左腕を見ながら言う。
「うん…私は…何も無い…から…」
茉莉はそれを聞くと「アハハハハ!」と楽しそうに笑う。
「は~…貴方、本当に面白いわ。何も考えてないかと思えば、すごく考えていたり、感情が無いのかと思えば、とても豊かな感情に溢れてたり…本当に…何にも無くて、なんでもあるわね!」
茉莉が結界を解除して、小さな箱を拾い上げると時空が元に戻る。
「ヴァティアさん、気をつけて行ってくるのよ。」
茉莉は扉の前から元の場所に戻って、本を読み始める。
「行ってきます」
ヴァティアは扉を開けて屋敷から出て行く。
「茉莉、あやつ一人で大丈夫なのか?」
「…大丈夫よ。一人じゃないもの…」
茉莉はミーティアにニヤリと笑ってみせる。
「…食えない狐じゃ。」
ミーティアは呆れた様に茉莉に言う。
青色の長い髪の少女が困った表情で言う。
「リリーフィルよ。どうしたのじゃ?」
私の目の前にいた天使族の少女がが言う。
「ミーティアさんですか…実は先程、アリスお姉様との通信が突然切れてしまったので、原因を探っていたのですが…魔力干渉以外の原因が分からなくて…」
「それなら、おそらく魔族領…魔王都市にアリスさん達が入ったのでは無いでしょうか?あの辺は魔力濃度がとても高いので魔力干渉も通常より大きいですし…」
鍵のついた本を解読しながら、眼鏡をかけた5本の尻尾の狐族の少女が言う。
「いえ、あの段階ではお姉様は移動しておりませんでした。おそらく、私の波魔法に干渉したヴァルディースと言う方が原因なのではないかと思ってます。私の波魔法に干渉出来るほどの魔力量を持ち、お姉様を経由しているとは言え、会話が出来るほどの魔力ですので、魔術回路に負荷がかかって…あ!」
リリーフィルが思いついたように手をポンと叩く。
「茉莉さんのおかげで原因がわかりました!ありがとうございます!」
リリーフィルはそう言うと魔術回路の修復の為に別室に向かう。
茉莉は何も言う事はなく、ただ静かに本の解読を進めていた。
私はやけに静かな窓の外を見ていた。
『罪深き王は目覚めた。忠義を誓いし者たちよ…王の元にカイせよ。』
やけに鮮明な声が頭の中に響く。
気がつけば、私の足は玄関へと向かっていた。
「ヴァティアさん?何処に行くのかしら?」
茉莉が本を閉じて玄関扉の前で立ち塞がる。
「…分からない…私も…貴方も…目指す場所はきっと同じ…なのに…」
私がそう言うと茉莉が意味ありげに小さく笑う。
「そうね。私も今の立場が無ければ、貴方と全く同じ事を考えたと思うわ。」
茉莉はそう言うと小さな箱を放り投げた。
周囲の時が止まり、破壊不可な結界が張られる。
「茉莉さん…私…」
私がそう言うと茉莉は白と黒の二振りの剣を出して、そのうちの白い方をヴァティアに差し出して言う。
「ヴァティアさん、これは貴方にあげるわ。」
茉莉の真っ直ぐな目に私は覚悟を決めて、白い剣を受け取る。
白い剣は私が触れると輝きを強めて、私が握るとさらなる姿へと変化する。
「双星剣と呼ばれるその剣は…ううん…この剣たちは二つで1つなの。でも、それぞれ違う持ち主を求める剣なの。何故だかわかるかしら?」
私は茉莉の黒く輝く剣を見て言う。
「互い…対立…決着…つける為?」
茉莉はフッと笑うと優しげな声で言う。
「当たらずとも遠からずと言ったところね。互いに力を合わせる相手がいて初めてこの剣は真の姿を解放出来るのよ。でもね、それと同時に殺し合う剣でもあるの。だから…」
茉莉は黒い剣を構えて真剣な表情で言う。
「戦いましょう。最善の答えを掴み取る為に…!」
私は静かに目を閉じる。
「私…」
小さく深呼吸をして白い剣を構える。
「私…貴方…倒すます!アリスさん…場所…行くます!」
茉莉はそれを聞いて嬉しそうに微笑む。
「私は貴方を止めるわ!全力で行くわよ!」
茉莉とヴァティアの姿が同時に消える。
『キィーン!』と金属がぶつかる音がして、2人の剣が交わる。
「なかなかやるじゃない!」
「これから…!」
ヴァティアが茉莉から距離をとった直後に茉莉の尻尾がヴァティアのいた場所から突き出す。
「あら残念。上手く隠せたと思ったのだけれど…」
尻尾を戻しながら茉莉が言うが、その言葉とは裏腹にあまり残念そうな感じはしなかった。
だが、それだけで茉莉もまた本気で来てると確信出来た。
「不意打ち…私…得意…よくわかる…」
私は魔力を高める。
「今度は遠距離勝負かしら?」
茉莉も妖力と魔力を高める。
「龍の炎よ…我が声に呼応し、降り注げ!ドラゴニックブレイズレイン!」
私が展開した無数の魔法陣からドラゴンの炎の玉がマシンガンのように発射される。
茉莉はそれを見ると瞬時に手で印を結んで剣を振り上げる。
「忍法:海龍刃!」
振り上げた剣の先から龍を思わせるような水が生成され、私の炎の玉と魔法陣を次々と破壊していき、辺りにはどんどんと水蒸気が発生し始める。
私はさらに魔法陣を増やして茉莉が妖力を乗せて飛ばす斬撃を避けながら、茉莉の周囲の全方向から炎の玉を発射し続ける。
水蒸気が茉莉の身体を包み込み姿が見えなくなり始める。
「そこだ!サンダーレイン!」
私の振り上げた剣の剣先から真上に雷が打ち上げられ、その雷が消えた場所からどんどんと黒い雷雲が発生する。
「一斉射撃!」
雷雲から無数に雷が落とされる。
『ドガァァァァァン!』
水蒸気に雷が当たると大爆発を起こして爆風が吹き荒れる。
茉莉の姿は無かった。
「…」
私は自分の魔力を抑えて目を閉じる。
「そこだぁ!」
私はある方向に突撃する。
「おっと…」
茉莉が姿を現しながら、ヴァティアの剣を避ける。
「うっ…」
そして、ヴァティアの振り下ろされた左腕を掴んで、魔力回路を妨害しながら、握力で剣を落とさせようとする。
「さあ…ヴァティアさん…早く手を離さないとこのまま腕をへし折ってしまいますよ。」
魔力によって、徐々に茉莉の握りしめる力が強くなり、茉莉の能力で魔術回路を乱されて魔法が使えないヴァティアの腕はミシミシと悲鳴を上げ始めていた。
「くぅ…」
ヴァティアは苦しそうに表情を歪める。
その間にも茉莉の握りしめる力はどんどん強くなっていく。
「ほらほら。さっさと剣を捨てなさいな。」
「ぐぁっ…!?」
ベキッと嫌な音がした気がした。
「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
完全に折れた。
そう感じれるほどの痛みが私の左腕を襲う。
『捧げよ…』
私の脳内に声が響く。
「おや?もう貴方の腕は限界のようですね。このまま一気に握り潰してあげましょうか…」
茉莉の力がさらに強まり、声も出なくなるほどの痛みが襲う。
『汝、力が欲しくば…その手を斬れ!』
私は声とともに右手に双星剣を握りしめて、そのまま自分の左腕を斬り落とす。
「ああああああああぁぁぁ!!!!」
激しい痛みが、耐え難い苦痛が、圧倒的な痛みが意識を奪おうと脳内を覆い尽くす。
『汝の覚悟しかと見届けた』
私の身体中から燃え上がる激情が…
怒りが!
力が溢れ出る!
「ヴァティアさん…」
茉莉がニヤリと笑い、離した斬り落とされた左腕が燃えて消える。
私は失った左腕を湧き上がる膨大な魔力で補って、圧倒的な「怒」の力を解放する。
「怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒…怒ォ!」
ヴァティアの身体から「怒」の炎が吹き上がる。
茉莉はそれを見て優越な笑みを浮かべていた。
「ヴァティアさん、よく出来ました。褒めてさしあげますよ。」
茉莉の背中に神々しさを感じるほどの絢爛豪華な黒い翼が広がる。
『ウガァァァァァァアアアアアアア!コロス…コロスコロスコロスコロス…コロスゥ!』
ヴァティアが力強く吼えると大地が大きく揺れ、凄まじいほどの衝撃波が茉莉に放たれる。
「ですが、制御も出来ないなんて未熟ですねぇ!私の足元にも及ばない脆弱な力です!」
茉莉は宙に浮いて見下す様に笑う。
『アァ…ワキアガルコノイカリ…ワガコドウ…キサマヲホロボスニタヤスイ…ワレヲミクダシタサバキヲウケルガヨイ!』
ヴァティアが顔に黒い仮面のようなものを生成する。
「貴方のように暴走した者が仮面の力を十分に扱えるとでも?」
茉莉が手を振り上げると無数の魔法陣が展開される。
「せっかくです。こちらで一撃で仕留めて差し上げましょう!傲慢なる破滅の鎖!」
魔法陣から次々に銀に輝く鎖が放たれる。
『モロイ…モロイゾ!ワレヲナメタダイショウヲウケルガヨイ!憤怒怒号!』
ヴァティアのただただ怒りに任せた怒号が鎖を弾き飛ばす。
「くっ…大罪の名を持つだけあって、強いわね…」
茉莉が何かをしようと動こうとした瞬間だった。
『クハハハハハ!ワガイカリ、ワガコエ、ソノスベテヲ…ウケルガヨイ!』
私の顔を覆っていた仮面の上半分が割れる。
「まさか…!暴走したフリをしていたと言うの?!」
茉莉が驚いた表情でそれを見る。
「茉莉さん…貴方を…倒すます!怒怒怒怒怒怒怒怒怒…」
私は心の底から「怒り」を解き放ち、茉莉を地に叩きつける。
「怒号!憤怒の魂は地を這う荒ぶる獣の様に障壁を破壊する!」
私を燃え上がる様な紅い特殊なオーラを全身を覆い、自身の身体能力を超強化しながら発した雄叫びによって周囲に破壊の波動が発生し、拡散する。
「禁忌よ!力を貸して!」
茉莉がそう叫ぶと茉莉から6本目の尻尾が現れる。
『コロセ…コロセ…ホフレ…ホフレ…』
悪魔の様な「何か」が茉莉のネクロノミコンから召喚される。
「禁忌の王、契約に従い力を貸しなさい!」
『承知シタ…』
禁忌の王と呼ばれた「何か」が茉莉の身体を包み込む。
「黒の衝動!」
黒いオーラが茉莉を守る。
「本気…出した…です…?」
「そうね。ここからが本番よ。」
私と茉莉は同時に剣を構えて言う。
「「制限解除!!」」
制限解除によって、私は自身の身体能力を大幅に強化し、茉莉は妖力を大幅に強化する。
「さぁ…準備は良いですか?」
茉莉が剣を構えて、剣に妖力を纏わせる。
『ワガイカリ、ワガウラミ、ワガコドウ…オマエノオモウママニ…』
私は左手で剣を構える。
「声…聞こえる…」
私は右手に燃える魔剣を召喚する。
「茉莉…この剣…わかるます?」
茉莉はニヤリと笑う。
「えぇ!よく知ってますよ!私は大罪武具を使えませんが…」
茉莉は傲慢な態度で見下す様に言う。
「ですが、私の力にかかれば、所詮はミジンコですわ!アッサリと潰してさしあげますよ~」
茉莉が「傲慢な心境」をとる事で能力値がさらに高まり、空間に揺らぎが発生しそうなほどの圧倒的な力がそこにあった。
そして、一瞬でヴァティアの目の前から姿を消す。
いや、正確には光すらも追い抜くほどの速度での移動だった。
「怒…感じる…力…」
力の移動、波長を読み取る。
「怒…感じる…声…」
迫る殺気、意志を聞き取る。
「怒…感じる…心…」
すぐ後ろ、殺意を感じ取る。
「これで終わりです!」
ヴァティアの背後で茉莉が剣を振り下ろす。
私は「怒り」を爆発させる!
「そこだぁ!」
『バキィーン!』
私の左手の白い剣で茉莉の黒い剣を吹き飛ばす。
そして、天高く飛んだ剣は回転しながら重力に身を任せて、茉莉の背後の地面に突き刺さる。
私は右手の燃え上がる魔剣を茉莉の首元に突きつける。
「私の…勝ち…です?」
茉莉はいつもの様な雰囲気に戻ると「アハハハハ!」と楽しそうに笑う。
「…?」
私はわけもわからず首を傾げていると茉莉が言う。
「いやぁ…負けた負けた!」
私は茉莉の様子を見て魔剣と制限解除状態を解除する。
その様子を見て、背後に刺さっている黒い双星剣を拾いながら、茉莉は嬉しそうに言う。
「ヴァティアさん、以前と比べてもの凄く強くなりましたね!それに目覚めたばかりなのに大罪の力もちゃんと使いこなせてるみたいだし、凄いですよ!」
茉莉はそのまま黒い双星剣をしまう。
「そう…かな…?でも、茉莉が言うます…だから、信じるです?」
そう言いながら、私が白い双星剣を茉莉に返そうとすると茉莉は首を振りながら言う。
「その剣は貴方が持ってて!貴方が持ってる方が本当の力を発揮出来るからね。」
私は茉莉の言う通りに剣をしまう。
「ヴァティアさん、改めて聞くわ。」
茉莉は真剣な表情で言う。
「どうしても行くのね?」
私は元通りに戻った左腕を見ながら言う。
「うん…私は…何も無い…から…」
茉莉はそれを聞くと「アハハハハ!」と楽しそうに笑う。
「は~…貴方、本当に面白いわ。何も考えてないかと思えば、すごく考えていたり、感情が無いのかと思えば、とても豊かな感情に溢れてたり…本当に…何にも無くて、なんでもあるわね!」
茉莉が結界を解除して、小さな箱を拾い上げると時空が元に戻る。
「ヴァティアさん、気をつけて行ってくるのよ。」
茉莉は扉の前から元の場所に戻って、本を読み始める。
「行ってきます」
ヴァティアは扉を開けて屋敷から出て行く。
「茉莉、あやつ一人で大丈夫なのか?」
「…大丈夫よ。一人じゃないもの…」
茉莉はミーティアにニヤリと笑ってみせる。
「…食えない狐じゃ。」
ミーティアは呆れた様に茉莉に言う。
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途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。
しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。
「ミストルティン。アブソープション!」
『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』
「やった! これでまた便利になるな」
これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。
~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
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転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
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