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魔王都市とルネリス
65話
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エルルに連れられて魔王都市の門の前に来る。
「止まれ!ここから先は魔王様が支配する土地だぞ!」
ウルカと同じ狼族の門番が私たちを見て槍を構える。
「無礼者!この者たちは魔王様のお客人であるぞ!」
エルルが威圧する様に門番に言うと門番は槍を構えるのをすぐさまやめて敬礼をする。
「も、申し訳ございませんでしたっ!魔王様のお客人様でしたら、何時でもお通りください!」
エルルが歩き始めるのを見て、私たちもついて行く。
門をくぐるとそこにはエルルと同じ羊族を初めとする大小様々な魚人族や多種多様な姿の夢魔族、様々な特徴のある魔虫の様な姿の虫人族や魔人を含む魔族が生活していた。
「ようこそ!魔王都市へ!」
そう言って話しかけてきたのは上半身が人、下半身が蜘蛛の蜘蛛族の眼鏡をかけた赤い瞳の白く長い髪のナイスバディな女性だ。
「あれ?アネさんは秘書だから、魔王様の傍にいないといけないんじゃないっけ?」
エルルがそう言うとアネさんと呼ばれた蜘蛛族の女性は眼鏡をクイッと動かして言う。
「その点については大丈夫よ。魔王様に許可は取ってアルワ!それよりも…」
女性が虫人族の特徴的な目…フクガンで私を見る。
「貴方の事が気になッテ仕方ないから、魔王様との謁見が終わったラ、ちょっと手合わせをしたいんだケド…」
「えぇ…」
私が困惑してるとリリアが庇う様に出てきて言う。
「リリア…勝負…アリス…勝負…それから…」
「えっと…リリアさんはリリアと勝負してからアリスさんと勝負してと言ってます。」
パリスが私の後ろに隠れながら通訳をする。
「アラ?私は弱い者イジめをする趣味は無いのだけレド…でも、せっかくだカラ、貴方とも戦ってアゲルワ!」
女性は楽しげに笑いながら言う。
「リリア…貴方…弱くない…」
リリアがムスッとした顔で不満げに頬を膨らませていた。
「えっと…リリアさんは貴方が思うほどは弱くないと言ってます。」
パリスがアネさんに通訳する。
確かにリリアも私と同じくらい強いし、弱くは無いのだ。
それでもリリアは弱い者扱いと言う事は単純にリリアの力を見誤っているか、本当にリリアより強い可能性もある。
このアネさんはどっちなのだろうか…
私は少しだけ考えて、考えるのをやめた。
「…アネさん、あんまりお客さんをイジメないでくれよな。魔王様のご機嫌を損ねてしまったら、めんどくさい事になるんだからさぁ…」
「ほう?子羊ごときが我をめんどくさいやつとな?」
「ヒェッ…」
エルルの背後に魔王を思わせる黒く曲がった角が頭から生えてる少女が現れる。
少女は深い海の底の様な青く地面につきそうなほどの長い髪を後ろで結んでおり、左右で違う色の眼をしており、右は深い紅の瞳、左は吸い込まれそうなアメジスト色の瞳、背丈はアリスのパーティの中で1番小さなパリスよりも小さいくらい、胸部は当然のように断崖絶壁だ。
少女がエルルの後ろから歩いて私たちの目の前に移動する。
「よく来たな冒険者!我はこの魔王都市を治める魔王のアスティア・プレスティースだ!」
アスティアは堂々と胸を張ってそう名乗るとドヤ顔でこっちを見る。
「貴方が魔王様なんですね。私はアリス・アルフェノーツです。」
私がそう名乗るとアスティアは目を輝かせながら言う。
「おおー!そなたがかの有名なフィレスタの大英雄様なのだな!もっとゴリゴリのむさいオッサンを想像していたが、こんなにも可愛らしい女子であったのだな!」
「あはは…それほどでも無いですよ…」
私がそんな風に笑っているとアスティアが急に真剣な表情で言う。
「それほどの力を持っておるくせに、それを誇らぬのは魔王に対する無礼であるぞ!この我が直々に叩き潰してくれる!」
アスティアは透明な箱を投げる。
それは地に落ちると同時に弾け、特殊なフィールドを形成する。
ヴァルディース、ウルカ、クレア、エルル、アネさんは結界外でこちらを見ていた。
「これは…フィールド結界?!」
フィールド結界とは、決闘を行うさいに使用される専用の結界である。
結界の効能は使用者によって少し違う事があるが、おおまかな内容は同じで結界外からの攻撃や破壊行為は不可、結界内から結界外への攻撃や破壊行為も不可、決着がつけば結界は解除され、結界内の破壊箇所は補修される。
この3点は必ず全てのフィールド結界に共通しているのである。
アスティアは堂々と胸を張って吠えるように言う。
「お前ら全員、死ぬ気でくるのじゃ!でなければ…ここで死ねい!」
アスティアから莫大な魔力が発せられる。
「はわわ…なんとかしないと…!」
パリスがあたふたと手をパタパタさせながら、あらぬ方向にナイフを投げる。
「クハハハハ!弱者は眠るが良い!カオステンペスト!」
アスティアを中心とした闇の竜巻が斬撃を発生させながら広がる。
「はぁ…めんどくさいわねぇ…」
ヴェルドールが露骨に面倒くさがると能力が桁違いに跳ね上がる。
「双翼の協奏曲…この鼓動、この声、この翼…それは邪を退けし力の一端を担いし者…」
ソルが激しく歌うように翼を羽ばたかせると闇の竜巻を打ち消す。
「怠惰の領域!」
私たちのパーティの全員の全ステータスが超強化される。
「一気に行きます!」
私は妖精の力を解放し、妖精の翼を使って全力でアスティアに突撃する。
「フェアリーブロウ!」
私は拳に精霊力を纏わせて、勢いよくアスティアの腹に突き刺す!
『どごぉ!』と強烈な衝撃音と共に衝撃波が発生する。
アスティアはニヤリと笑って平気な顔して受け止めていた。
「クハハ!我も久々に力を出せそうだ!」
アスティアがそう言うと同時に身体が浮いた様な感覚と腹部への強烈な痛みを感じ、後ろに吹き飛ばされる。
「アリス!」
リリアが駆け寄ろうとするがアスティアの魔法で発生した闇の槍によって阻まれる。
「ゴホッゴホッ…」
私は身体の底から湧き出たかのような血を吐く。
「今のは…痛いわね…」
だが、不思議と『優越感』があった。
私は絶対に負けない。
根拠は無いし、冷静に考えたら、勝ち目が無いほどに力の差があるはずだった。
それでも私は思った。
「これでこそ魔王だ…満ちたるものを持ち、脆くも儚く立ち塞がる強敵…」
私は『優越』になり、身体の傷が少しだけ回復する。
「面白い!面白いですよ!魔王アスティアさん!私はお前を倒す方法を思いつきました!私の勝ちは揺らぎないですよ!これは決してハッタリでも、希望的観測でもない…」
私たちのパーティの体力以外の能力値が上昇する。
「確定事項です!」
パリスが私の魔力を受けて『嫉妬』の力を解放する。
「あぁ…なんて妬ましいのでしょう…アリスさんの身体を傷つけてしまうなんて…妬ましくて妬ましくて…胸が張り裂けてしまいそうですわ…この思い晴らすにはこうするしかないのでしょう…来なさい…嫉妬の妖魔剣!」
パリスの両手に短くも6個の短剣が握られる。
「アハハハハハ!妬けて妬けて妬けて妬けて妬けて妬けて妬けて妬けて妬けて妬けて妬けて妬けて妬けて妬けて妬けて妬けて…焼けちゃいなさい!嫉妬の獄炎!」
パリスがそう言うと同時にアスティアの周囲に無造作に投げられたはずのナイフが共鳴する。
「しまっ?!」
アスティアが回避行動を取る前にナイフが黒い炎となってアスティアを焼く。
「ぐぬぬ…我の身体を焼く…だと?」
アスティアは身体こそ元気そのものに見えるが、パリスの炎によって身体を焼かれている最中だ。
アスティアが振り払おうとするが、炎は勢いを落とすどころか、ますます勢いが増していく。
そこにヴェルドールがめんどくさそうに手を上げる。
「しぶといねぇ…あんまりしぶとくあばれられるのも面倒だし…じっとしちゃってよ…怠惰の鎖!」
ヴェルドールがそう言って手を振り下ろすと銀の鎖がアスティアの身体を縛る。
「ぐぬぬ…ぐっ…」
アスティアが抵抗するが、ヴェルドールの銀の鎖はそれを締め上げる様にどんどんきつくなっていく。
「トドメですわ!」
私は悪魔の腕に変化した右の拳を構える。
「シャドウブレイク!」
私の拳がアスティアの身体に突き刺さる寸前、一瞬だけアスティアがニヤリと笑ったような気がした。
『どごぉ!』と凄まじい衝撃と共にアスティアが力無く顔を落とす。
一国の王がまるで磔にされた罪人のようにさえ感じてしまうほどの光景は見る人を惹きつけていた。
だが、私はアスティアの顔から目が離せなかった。
「薄々勘づいてはいましたが…」
アスティアはニヤリと笑って顔をあげる。
「やるではないか…フィレスタの英雄…」
アスティアはそう言うと魔力を解き放ち、私の身体とともに銀の鎖を弾き飛ばす。
「私の鎖が弾かれた?!」
ヴェルドールが驚いた様子でその光景を見る。
「アハハハハハ!実に…実に面白い!」
アスティアの背中に悪魔の様な翼が生え、大きく羽ばたく。
羽ばたきの強さで斬撃が発生するが、パリスの魔法でなんとか凌ぎきる。
「この魔王に第二の姿を取らせたこと…光栄に思うが良いぞ!」
アスティアが堂々と胸を張って言う。
それと同時に闇の魔力を乗せた衝撃波による攻撃が飛んでくる。
「しまっ?!」
私とリリア以外の全員が一瞬で戦闘不能になった。
「痛い…」
リリアが頭から血を流しながら言う。
「我が必殺のオーラを受けても立っておるか…さすがフィレスタの大英雄と呼ばれるだけはあるな。」
アスティアが静かに着地すると同時に倒れた仲間たちが完全回復されて結界の外に転送される。
私はアスティアの背後に揺らめくものを感じた。
アスティアがゆっくりと私たちの方へ寄ってくる。
「じゃが、これで最後じゃ!」
アスティアがそう言って左手を突き出した瞬間。
「そうですね。これで最後になりますね。」
パリスがアスティアの背後に現れて、右の翼を斬り落としながら、アスティアの背中を斬り裂く。
「ぐあああああああぁぁぁぁぁあ!」
鮮血を撒き散らしながら、アスティアの形態変化が解かれる。
アスティアは片膝をついた状態で言う。
「まさか、あの一瞬で我の弱点を見切るとは…フィレスタの英雄…侮っておったわ。」
リリアが魔法で全員の身体を治す。
それと同時に結界が解除される。
「ふむ…お主、戦闘中に力を発揮する事こそなかったが魔王である我を癒せる魔力量、そしてその技術力…お主は英雄の癒し手として申し分ない力を持っておるのう。我が軍の軍医長にしたいくらいじゃ。」
リリアは首を振りながら言う。
「リリアは弱い…だから…これくらい普通…」
アスティアはリリアの頬を両手で包み込むと王の威厳を感じさせる真っ直ぐな瞳で言う。
「お主は強い。間違いなく、我が相手で無ければお主の一撃は耐えられぬだろう。だが、戦いとはそれだけではない。お主はフィレスタの…いや、アリスのパーティにとって、かけがえのない存在じゃ。それはお主が強力な回復魔法を扱えるからではない。お主が居るから、アリスは安心して戦える。アリスが安心して戦えるから、アリスを信じて戦える。その安心にはお主が回復魔法を使えるところもあるかも知れぬが、お主の強さを誰よりも知っておるのはアリスだけじゃ。じゃから、自信を持ってアリスの右腕であるがよいぞ!」
リリアは静かに目を閉じる。
「リリアは弱い…でも、貴方のおかげで少し強くなれた気がする…」
アスティアがリリアの頬から手を離し、リリアが再び静かに目を開ける。
「それなら良かったのじゃ!」
アスティアは眩しい程の笑顔で言う。
「なあ…」
「ところで…」
ウルカとクレアが同時に言う。
互いに顔を見合わせた後にウルカが言う。
「魔王って、俺たちに用があって城に呼んだんだろ?」
「うむ。そうじゃな。」
アスティアはニヤリと不敵に笑ってとんでもない事を言ったんだ。
「止まれ!ここから先は魔王様が支配する土地だぞ!」
ウルカと同じ狼族の門番が私たちを見て槍を構える。
「無礼者!この者たちは魔王様のお客人であるぞ!」
エルルが威圧する様に門番に言うと門番は槍を構えるのをすぐさまやめて敬礼をする。
「も、申し訳ございませんでしたっ!魔王様のお客人様でしたら、何時でもお通りください!」
エルルが歩き始めるのを見て、私たちもついて行く。
門をくぐるとそこにはエルルと同じ羊族を初めとする大小様々な魚人族や多種多様な姿の夢魔族、様々な特徴のある魔虫の様な姿の虫人族や魔人を含む魔族が生活していた。
「ようこそ!魔王都市へ!」
そう言って話しかけてきたのは上半身が人、下半身が蜘蛛の蜘蛛族の眼鏡をかけた赤い瞳の白く長い髪のナイスバディな女性だ。
「あれ?アネさんは秘書だから、魔王様の傍にいないといけないんじゃないっけ?」
エルルがそう言うとアネさんと呼ばれた蜘蛛族の女性は眼鏡をクイッと動かして言う。
「その点については大丈夫よ。魔王様に許可は取ってアルワ!それよりも…」
女性が虫人族の特徴的な目…フクガンで私を見る。
「貴方の事が気になッテ仕方ないから、魔王様との謁見が終わったラ、ちょっと手合わせをしたいんだケド…」
「えぇ…」
私が困惑してるとリリアが庇う様に出てきて言う。
「リリア…勝負…アリス…勝負…それから…」
「えっと…リリアさんはリリアと勝負してからアリスさんと勝負してと言ってます。」
パリスが私の後ろに隠れながら通訳をする。
「アラ?私は弱い者イジめをする趣味は無いのだけレド…でも、せっかくだカラ、貴方とも戦ってアゲルワ!」
女性は楽しげに笑いながら言う。
「リリア…貴方…弱くない…」
リリアがムスッとした顔で不満げに頬を膨らませていた。
「えっと…リリアさんは貴方が思うほどは弱くないと言ってます。」
パリスがアネさんに通訳する。
確かにリリアも私と同じくらい強いし、弱くは無いのだ。
それでもリリアは弱い者扱いと言う事は単純にリリアの力を見誤っているか、本当にリリアより強い可能性もある。
このアネさんはどっちなのだろうか…
私は少しだけ考えて、考えるのをやめた。
「…アネさん、あんまりお客さんをイジメないでくれよな。魔王様のご機嫌を損ねてしまったら、めんどくさい事になるんだからさぁ…」
「ほう?子羊ごときが我をめんどくさいやつとな?」
「ヒェッ…」
エルルの背後に魔王を思わせる黒く曲がった角が頭から生えてる少女が現れる。
少女は深い海の底の様な青く地面につきそうなほどの長い髪を後ろで結んでおり、左右で違う色の眼をしており、右は深い紅の瞳、左は吸い込まれそうなアメジスト色の瞳、背丈はアリスのパーティの中で1番小さなパリスよりも小さいくらい、胸部は当然のように断崖絶壁だ。
少女がエルルの後ろから歩いて私たちの目の前に移動する。
「よく来たな冒険者!我はこの魔王都市を治める魔王のアスティア・プレスティースだ!」
アスティアは堂々と胸を張ってそう名乗るとドヤ顔でこっちを見る。
「貴方が魔王様なんですね。私はアリス・アルフェノーツです。」
私がそう名乗るとアスティアは目を輝かせながら言う。
「おおー!そなたがかの有名なフィレスタの大英雄様なのだな!もっとゴリゴリのむさいオッサンを想像していたが、こんなにも可愛らしい女子であったのだな!」
「あはは…それほどでも無いですよ…」
私がそんな風に笑っているとアスティアが急に真剣な表情で言う。
「それほどの力を持っておるくせに、それを誇らぬのは魔王に対する無礼であるぞ!この我が直々に叩き潰してくれる!」
アスティアは透明な箱を投げる。
それは地に落ちると同時に弾け、特殊なフィールドを形成する。
ヴァルディース、ウルカ、クレア、エルル、アネさんは結界外でこちらを見ていた。
「これは…フィールド結界?!」
フィールド結界とは、決闘を行うさいに使用される専用の結界である。
結界の効能は使用者によって少し違う事があるが、おおまかな内容は同じで結界外からの攻撃や破壊行為は不可、結界内から結界外への攻撃や破壊行為も不可、決着がつけば結界は解除され、結界内の破壊箇所は補修される。
この3点は必ず全てのフィールド結界に共通しているのである。
アスティアは堂々と胸を張って吠えるように言う。
「お前ら全員、死ぬ気でくるのじゃ!でなければ…ここで死ねい!」
アスティアから莫大な魔力が発せられる。
「はわわ…なんとかしないと…!」
パリスがあたふたと手をパタパタさせながら、あらぬ方向にナイフを投げる。
「クハハハハ!弱者は眠るが良い!カオステンペスト!」
アスティアを中心とした闇の竜巻が斬撃を発生させながら広がる。
「はぁ…めんどくさいわねぇ…」
ヴェルドールが露骨に面倒くさがると能力が桁違いに跳ね上がる。
「双翼の協奏曲…この鼓動、この声、この翼…それは邪を退けし力の一端を担いし者…」
ソルが激しく歌うように翼を羽ばたかせると闇の竜巻を打ち消す。
「怠惰の領域!」
私たちのパーティの全員の全ステータスが超強化される。
「一気に行きます!」
私は妖精の力を解放し、妖精の翼を使って全力でアスティアに突撃する。
「フェアリーブロウ!」
私は拳に精霊力を纏わせて、勢いよくアスティアの腹に突き刺す!
『どごぉ!』と強烈な衝撃音と共に衝撃波が発生する。
アスティアはニヤリと笑って平気な顔して受け止めていた。
「クハハ!我も久々に力を出せそうだ!」
アスティアがそう言うと同時に身体が浮いた様な感覚と腹部への強烈な痛みを感じ、後ろに吹き飛ばされる。
「アリス!」
リリアが駆け寄ろうとするがアスティアの魔法で発生した闇の槍によって阻まれる。
「ゴホッゴホッ…」
私は身体の底から湧き出たかのような血を吐く。
「今のは…痛いわね…」
だが、不思議と『優越感』があった。
私は絶対に負けない。
根拠は無いし、冷静に考えたら、勝ち目が無いほどに力の差があるはずだった。
それでも私は思った。
「これでこそ魔王だ…満ちたるものを持ち、脆くも儚く立ち塞がる強敵…」
私は『優越』になり、身体の傷が少しだけ回復する。
「面白い!面白いですよ!魔王アスティアさん!私はお前を倒す方法を思いつきました!私の勝ちは揺らぎないですよ!これは決してハッタリでも、希望的観測でもない…」
私たちのパーティの体力以外の能力値が上昇する。
「確定事項です!」
パリスが私の魔力を受けて『嫉妬』の力を解放する。
「あぁ…なんて妬ましいのでしょう…アリスさんの身体を傷つけてしまうなんて…妬ましくて妬ましくて…胸が張り裂けてしまいそうですわ…この思い晴らすにはこうするしかないのでしょう…来なさい…嫉妬の妖魔剣!」
パリスの両手に短くも6個の短剣が握られる。
「アハハハハハ!妬けて妬けて妬けて妬けて妬けて妬けて妬けて妬けて妬けて妬けて妬けて妬けて妬けて妬けて妬けて妬けて…焼けちゃいなさい!嫉妬の獄炎!」
パリスがそう言うと同時にアスティアの周囲に無造作に投げられたはずのナイフが共鳴する。
「しまっ?!」
アスティアが回避行動を取る前にナイフが黒い炎となってアスティアを焼く。
「ぐぬぬ…我の身体を焼く…だと?」
アスティアは身体こそ元気そのものに見えるが、パリスの炎によって身体を焼かれている最中だ。
アスティアが振り払おうとするが、炎は勢いを落とすどころか、ますます勢いが増していく。
そこにヴェルドールがめんどくさそうに手を上げる。
「しぶといねぇ…あんまりしぶとくあばれられるのも面倒だし…じっとしちゃってよ…怠惰の鎖!」
ヴェルドールがそう言って手を振り下ろすと銀の鎖がアスティアの身体を縛る。
「ぐぬぬ…ぐっ…」
アスティアが抵抗するが、ヴェルドールの銀の鎖はそれを締め上げる様にどんどんきつくなっていく。
「トドメですわ!」
私は悪魔の腕に変化した右の拳を構える。
「シャドウブレイク!」
私の拳がアスティアの身体に突き刺さる寸前、一瞬だけアスティアがニヤリと笑ったような気がした。
『どごぉ!』と凄まじい衝撃と共にアスティアが力無く顔を落とす。
一国の王がまるで磔にされた罪人のようにさえ感じてしまうほどの光景は見る人を惹きつけていた。
だが、私はアスティアの顔から目が離せなかった。
「薄々勘づいてはいましたが…」
アスティアはニヤリと笑って顔をあげる。
「やるではないか…フィレスタの英雄…」
アスティアはそう言うと魔力を解き放ち、私の身体とともに銀の鎖を弾き飛ばす。
「私の鎖が弾かれた?!」
ヴェルドールが驚いた様子でその光景を見る。
「アハハハハハ!実に…実に面白い!」
アスティアの背中に悪魔の様な翼が生え、大きく羽ばたく。
羽ばたきの強さで斬撃が発生するが、パリスの魔法でなんとか凌ぎきる。
「この魔王に第二の姿を取らせたこと…光栄に思うが良いぞ!」
アスティアが堂々と胸を張って言う。
それと同時に闇の魔力を乗せた衝撃波による攻撃が飛んでくる。
「しまっ?!」
私とリリア以外の全員が一瞬で戦闘不能になった。
「痛い…」
リリアが頭から血を流しながら言う。
「我が必殺のオーラを受けても立っておるか…さすがフィレスタの大英雄と呼ばれるだけはあるな。」
アスティアが静かに着地すると同時に倒れた仲間たちが完全回復されて結界の外に転送される。
私はアスティアの背後に揺らめくものを感じた。
アスティアがゆっくりと私たちの方へ寄ってくる。
「じゃが、これで最後じゃ!」
アスティアがそう言って左手を突き出した瞬間。
「そうですね。これで最後になりますね。」
パリスがアスティアの背後に現れて、右の翼を斬り落としながら、アスティアの背中を斬り裂く。
「ぐあああああああぁぁぁぁぁあ!」
鮮血を撒き散らしながら、アスティアの形態変化が解かれる。
アスティアは片膝をついた状態で言う。
「まさか、あの一瞬で我の弱点を見切るとは…フィレスタの英雄…侮っておったわ。」
リリアが魔法で全員の身体を治す。
それと同時に結界が解除される。
「ふむ…お主、戦闘中に力を発揮する事こそなかったが魔王である我を癒せる魔力量、そしてその技術力…お主は英雄の癒し手として申し分ない力を持っておるのう。我が軍の軍医長にしたいくらいじゃ。」
リリアは首を振りながら言う。
「リリアは弱い…だから…これくらい普通…」
アスティアはリリアの頬を両手で包み込むと王の威厳を感じさせる真っ直ぐな瞳で言う。
「お主は強い。間違いなく、我が相手で無ければお主の一撃は耐えられぬだろう。だが、戦いとはそれだけではない。お主はフィレスタの…いや、アリスのパーティにとって、かけがえのない存在じゃ。それはお主が強力な回復魔法を扱えるからではない。お主が居るから、アリスは安心して戦える。アリスが安心して戦えるから、アリスを信じて戦える。その安心にはお主が回復魔法を使えるところもあるかも知れぬが、お主の強さを誰よりも知っておるのはアリスだけじゃ。じゃから、自信を持ってアリスの右腕であるがよいぞ!」
リリアは静かに目を閉じる。
「リリアは弱い…でも、貴方のおかげで少し強くなれた気がする…」
アスティアがリリアの頬から手を離し、リリアが再び静かに目を開ける。
「それなら良かったのじゃ!」
アスティアは眩しい程の笑顔で言う。
「なあ…」
「ところで…」
ウルカとクレアが同時に言う。
互いに顔を見合わせた後にウルカが言う。
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全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。
ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。
これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。
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