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魔王都市とルネリス
魔王と秘書
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とある宿屋にて…
「のう…アーティー…」
「なんでショウ?」
我の呼びかけに蜘蛛女族の女性が応える。
「お主、何故あの時に真なる姿を見せなかったのじゃ?」
「…なんの事でショウ?」
蜘蛛女族の女性は静かに微笑んでいた。
「お主は間違いなく、あの娘が覚醒した程度では越えられない力があるはずじゃ。それを何故隠す必要があるのかと聞いておる。」
我は蜘蛛女族の女性の目を見る。
「…いいえ、私は…イエ、アスティーには本当の事を話しておきマス…」
蜘蛛女族の女性が深く息を吸って静かに息を吐く。
「私は魔王である貴方の秘書デスよネ?」
「そうじゃな。我らの関係もあの頃の様にはいかぬ事も増えたのう…」
…
私が彼女とあったのは、まだ先代魔王…
私の母上が生きていた頃だった…
私は父上は早々に亡くしている為、全く顔も知らないが母上はそれはそれは美しい人だったのだ。
誰よりも武を尊び、誰よりも美しく、誰よりも前に居る。
そんな、仕事熱心で誰もが尊敬し、崇め讃える魔王だった。
だが、私は仕事ばかりで家に全く居ない母上に対して不満を持っていた。
その時、家には雇われたメイドが何人も居て、たまたまメイドの連れ子の中に蜘蛛女族が居た。
それが私と彼女の出会いだった。
…
少しだけ懐かしい記憶に浸っていると蜘蛛女族の女性がイタズラっぽくニヤリと笑う。
「今、昔の事を思い出してましたネ?」
「うむ。お主もそうなのじゃろう?」
「ウフフ…秘密デス♪」
蜘蛛女族の女性は少しだけ楽しげに笑った後、真剣な表情で話し始める。
「確かに私はこの魔王都市の中で魔王サマを除いて、唯一の複数形態持ちデスし、形態によっては魔王サマよりも強い事も自覚してマス。デスが、この都市の王は貴方デス。実力主義であるこの都市では貴方より強い者は居てはならないのデス。そう…だから、私は常に貴方の下に居なくてはなりマセン。それが実力主義のこの都市の掟デスよネ。」
「そうじゃな…昔からの古臭い掟じゃな…誰かさんが変えてくれないか期待してたがのぅ…」
「そういう事はアスティーの役目デスヨ。私は魔王サマではありまセン。」
蜘蛛女族の女性は「ふぅ…」と小さく息を吐いて話を続ける。
「そんな実力主義の都市で魔王サマよりも強いヒトがいたら、どうなると思いマスカ?」
我は考える。
「難儀なものよのぅ…」
我の脳裏にある言葉が過ぎった。
そして、女性も同じ事を考えていた様で静かに微笑んでいた。
「それト…」
蜘蛛女族の女性が部屋の扉を開ける。
「あっ…」
開けられた扉の前に白く整えられた短い髪の青眼の背の低い兎族の女性が申し訳なさそうに立っていた。
兎族の女性はオドオドとしながら頭を下げる。
「ご、ごめんなさい!あの…アネラーゼさんにお聞きしたい事があって来たのですが…その…たまたまお話していらしたみたいで…」
「…一応聞くのじゃが、どこから聞いておったのじゃ?」
「アスティアさんがアネラーゼさんは真の姿を現してないと仰られていたところです…」
申し訳なさそうに目を逸らしながら兎族の女性は言う。
「ほぼ全部じゃないか…」
我がそう言うと蜘蛛女族の女性が楽しげに言う。
「せっかくなので、貴方にも教えておきまショウ。貴方が知りたいのは私の事でしょうカラ、ついでデス。」
兎族の女性はなんとなく納得した様子で頷く。
「アネラーゼさん、パリスは貴方の正体がわかったかもしれません。」
アネラーゼが少し驚いた様に口を開けると眼鏡をクイッと持ち上げて「なるホド…そう言う事デスカ…」と呟く。
「パリスサンはルネリア現象をご存知デスカ?」
ルネリア現象、それは人間で言う下克上の様なものでその土地の領主より強い魔物が発生する現象であり、本来はその土地の領主より強い魔物が発生する事はないと言われている。
ちなみにここで言うその土地の領主とは国王の様なヒトの決めるものではなく、自然の中で誕生したヌシの様な存在であり、そのヌシの強さや領域(生息地)によって土地の危険度が大きく変わると言われている。
呼称はヌシで統一されている事の方が多い。
ヌシの中にはヒトに対して友好的なものもいるが、ほとんどはヒトに対して敵対しており、ヒトを嫌う傾向にあるとされている。
当然だが、魔王都市の近辺は魔王がヌシであり、ヒトに対して友好的な存在である。
その為、比較的に他よりも魔物に襲われる危険は少ないとされているが、ヌシがヒトに対して敵対していると逆に襲われやすくなったり、場合によってはテリトリーを示す為にヌシによる特殊な状態が付与されている事がある。
パリスはわからないと言いたげに首を傾げる。
「簡単に説明しマスと本来はヌシより強い魔物が発生する事はナイのデスガ、それが発生してヌシが入れ替わってシマウ現象ですネ。私たちは基本的に実力主義なノデ、人間で言う下克上の様な現象デス。」
「あ、前にアリスさんの部屋で見た本にもあったやつですね。エルフや小人族を含む人族とパリスやアリスさんみたいな人型獣人や妖精を除いて、ほぼ全ての獣型獣人を含む人獣や魔人の様な亜人族や魔物などの魔生成物に共通する特殊な現象ですよね?」
「その通りデスヨ。パリスサンはとても賢いデスネ。」
アネラーゼがそう言うとパリスは少し嬉しそうにぎこちなく微笑んでいた。
「そうじゃな。それゆえにアネラーゼは正確にはルーネリアと呼ばれる特殊な種族で蜘蛛女族とは別の種族なのじゃ。ルーネリアについては基本的には生まれた種族と同一の特徴…アネラーゼは蜘蛛女族として生まれたルーネリアじゃから、蜘蛛女族の特徴を持っておるが、ルーネリアには通常の個体よりも圧倒的に強い以外に様々な形態変化能力があるのじゃ。」
特殊個体ルーネリア、それは生まれた瞬間から言語能力があったり、身体能力が高かったり、知能が優れていたり等の全体的な能力が同種と比べて高い傾向にあるが、個体差が大きく出るのだが、必ずと言っていいほど形態変化能力を備えている。
そして、アネラーゼも例に漏れずに形態変化能力や能力の高さに加えて固有能力や未知の能力が使えるのだそう。
このルーネルテに関しては確認された限りではアネラーゼとアスティアの母親にあたる先代魔王のヴィティーアと龍雅之里の長のみとなっている様だ。
「つまり、アネラーゼさんは本来なら魔王であるべくして誕生した存在と言うわけですね。」
パリスがそう言うとアネラーゼが「クスクス」と怪しく微笑みながら言う。
「言われてマスヨ、アスティアサマ」
「じゃから、我はお主に魔王の座を渡そうとしたでは無いか…お主は断固として受けぬが、戦闘面においても生活においてもお主の方が民をわかっておるし、我が立場的にお主の上に立ってる状況事態が異常なのじゃよ。」
我がため息をつきながら言うとアネラーゼは自慢げに胸を張って言う。
「当然デスヨ!アスティアサマは産まれながらにして魔王なのデス!秘書として私がアスティアサマに仕えてる限り、この事実は揺らぎませんトモ!」
我が「はぁ~あ…」と露骨に大きくため息を着くとアネラーゼがイタズラっ子の様にウィンクして言う。
「後、魔王サマの業務ってめんどくさそうだから、やりたくないんデスヨネ♪」
「お主ってやつは…」
我が呆れた様子を見せるとパリスは「なるほど」と言いたげに頷いていた。
「パリスサンも誰かに仕える時は仕事を適当にする事を覚えておくといいデスヨ。もちろん、限度はありマスが、少なくとも貴方の仕える人なら言わなくてもわかってそうですケドネ♪」
アネラーゼが楽しげに言うとパリスも嬉しそうに言う。
「はい…その通りだと思います。」
我には誰の事かはわからないが、きっと心寄せる相手が居るのだろうと思う事にした。
パリスも大人の女性だろうしな…と…
「ちなみに魔王サマ、パリスサンはまだ子供ですよ。」
アネラーゼがそう言うとパリスは少しだけ驚いた表情をしていた。
「嘘じゃろ?!そんな立派なモノをつけておきながら子供は無理があるじゃろうて…」
「あはは…普通はそう思いますよね…」
パリスは慣れてると言いたげに苦笑いしていた。
「のう…アーティー…」
「なんでショウ?」
我の呼びかけに蜘蛛女族の女性が応える。
「お主、何故あの時に真なる姿を見せなかったのじゃ?」
「…なんの事でショウ?」
蜘蛛女族の女性は静かに微笑んでいた。
「お主は間違いなく、あの娘が覚醒した程度では越えられない力があるはずじゃ。それを何故隠す必要があるのかと聞いておる。」
我は蜘蛛女族の女性の目を見る。
「…いいえ、私は…イエ、アスティーには本当の事を話しておきマス…」
蜘蛛女族の女性が深く息を吸って静かに息を吐く。
「私は魔王である貴方の秘書デスよネ?」
「そうじゃな。我らの関係もあの頃の様にはいかぬ事も増えたのう…」
…
私が彼女とあったのは、まだ先代魔王…
私の母上が生きていた頃だった…
私は父上は早々に亡くしている為、全く顔も知らないが母上はそれはそれは美しい人だったのだ。
誰よりも武を尊び、誰よりも美しく、誰よりも前に居る。
そんな、仕事熱心で誰もが尊敬し、崇め讃える魔王だった。
だが、私は仕事ばかりで家に全く居ない母上に対して不満を持っていた。
その時、家には雇われたメイドが何人も居て、たまたまメイドの連れ子の中に蜘蛛女族が居た。
それが私と彼女の出会いだった。
…
少しだけ懐かしい記憶に浸っていると蜘蛛女族の女性がイタズラっぽくニヤリと笑う。
「今、昔の事を思い出してましたネ?」
「うむ。お主もそうなのじゃろう?」
「ウフフ…秘密デス♪」
蜘蛛女族の女性は少しだけ楽しげに笑った後、真剣な表情で話し始める。
「確かに私はこの魔王都市の中で魔王サマを除いて、唯一の複数形態持ちデスし、形態によっては魔王サマよりも強い事も自覚してマス。デスが、この都市の王は貴方デス。実力主義であるこの都市では貴方より強い者は居てはならないのデス。そう…だから、私は常に貴方の下に居なくてはなりマセン。それが実力主義のこの都市の掟デスよネ。」
「そうじゃな…昔からの古臭い掟じゃな…誰かさんが変えてくれないか期待してたがのぅ…」
「そういう事はアスティーの役目デスヨ。私は魔王サマではありまセン。」
蜘蛛女族の女性は「ふぅ…」と小さく息を吐いて話を続ける。
「そんな実力主義の都市で魔王サマよりも強いヒトがいたら、どうなると思いマスカ?」
我は考える。
「難儀なものよのぅ…」
我の脳裏にある言葉が過ぎった。
そして、女性も同じ事を考えていた様で静かに微笑んでいた。
「それト…」
蜘蛛女族の女性が部屋の扉を開ける。
「あっ…」
開けられた扉の前に白く整えられた短い髪の青眼の背の低い兎族の女性が申し訳なさそうに立っていた。
兎族の女性はオドオドとしながら頭を下げる。
「ご、ごめんなさい!あの…アネラーゼさんにお聞きしたい事があって来たのですが…その…たまたまお話していらしたみたいで…」
「…一応聞くのじゃが、どこから聞いておったのじゃ?」
「アスティアさんがアネラーゼさんは真の姿を現してないと仰られていたところです…」
申し訳なさそうに目を逸らしながら兎族の女性は言う。
「ほぼ全部じゃないか…」
我がそう言うと蜘蛛女族の女性が楽しげに言う。
「せっかくなので、貴方にも教えておきまショウ。貴方が知りたいのは私の事でしょうカラ、ついでデス。」
兎族の女性はなんとなく納得した様子で頷く。
「アネラーゼさん、パリスは貴方の正体がわかったかもしれません。」
アネラーゼが少し驚いた様に口を開けると眼鏡をクイッと持ち上げて「なるホド…そう言う事デスカ…」と呟く。
「パリスサンはルネリア現象をご存知デスカ?」
ルネリア現象、それは人間で言う下克上の様なものでその土地の領主より強い魔物が発生する現象であり、本来はその土地の領主より強い魔物が発生する事はないと言われている。
ちなみにここで言うその土地の領主とは国王の様なヒトの決めるものではなく、自然の中で誕生したヌシの様な存在であり、そのヌシの強さや領域(生息地)によって土地の危険度が大きく変わると言われている。
呼称はヌシで統一されている事の方が多い。
ヌシの中にはヒトに対して友好的なものもいるが、ほとんどはヒトに対して敵対しており、ヒトを嫌う傾向にあるとされている。
当然だが、魔王都市の近辺は魔王がヌシであり、ヒトに対して友好的な存在である。
その為、比較的に他よりも魔物に襲われる危険は少ないとされているが、ヌシがヒトに対して敵対していると逆に襲われやすくなったり、場合によってはテリトリーを示す為にヌシによる特殊な状態が付与されている事がある。
パリスはわからないと言いたげに首を傾げる。
「簡単に説明しマスと本来はヌシより強い魔物が発生する事はナイのデスガ、それが発生してヌシが入れ替わってシマウ現象ですネ。私たちは基本的に実力主義なノデ、人間で言う下克上の様な現象デス。」
「あ、前にアリスさんの部屋で見た本にもあったやつですね。エルフや小人族を含む人族とパリスやアリスさんみたいな人型獣人や妖精を除いて、ほぼ全ての獣型獣人を含む人獣や魔人の様な亜人族や魔物などの魔生成物に共通する特殊な現象ですよね?」
「その通りデスヨ。パリスサンはとても賢いデスネ。」
アネラーゼがそう言うとパリスは少し嬉しそうにぎこちなく微笑んでいた。
「そうじゃな。それゆえにアネラーゼは正確にはルーネリアと呼ばれる特殊な種族で蜘蛛女族とは別の種族なのじゃ。ルーネリアについては基本的には生まれた種族と同一の特徴…アネラーゼは蜘蛛女族として生まれたルーネリアじゃから、蜘蛛女族の特徴を持っておるが、ルーネリアには通常の個体よりも圧倒的に強い以外に様々な形態変化能力があるのじゃ。」
特殊個体ルーネリア、それは生まれた瞬間から言語能力があったり、身体能力が高かったり、知能が優れていたり等の全体的な能力が同種と比べて高い傾向にあるが、個体差が大きく出るのだが、必ずと言っていいほど形態変化能力を備えている。
そして、アネラーゼも例に漏れずに形態変化能力や能力の高さに加えて固有能力や未知の能力が使えるのだそう。
このルーネルテに関しては確認された限りではアネラーゼとアスティアの母親にあたる先代魔王のヴィティーアと龍雅之里の長のみとなっている様だ。
「つまり、アネラーゼさんは本来なら魔王であるべくして誕生した存在と言うわけですね。」
パリスがそう言うとアネラーゼが「クスクス」と怪しく微笑みながら言う。
「言われてマスヨ、アスティアサマ」
「じゃから、我はお主に魔王の座を渡そうとしたでは無いか…お主は断固として受けぬが、戦闘面においても生活においてもお主の方が民をわかっておるし、我が立場的にお主の上に立ってる状況事態が異常なのじゃよ。」
我がため息をつきながら言うとアネラーゼは自慢げに胸を張って言う。
「当然デスヨ!アスティアサマは産まれながらにして魔王なのデス!秘書として私がアスティアサマに仕えてる限り、この事実は揺らぎませんトモ!」
我が「はぁ~あ…」と露骨に大きくため息を着くとアネラーゼがイタズラっ子の様にウィンクして言う。
「後、魔王サマの業務ってめんどくさそうだから、やりたくないんデスヨネ♪」
「お主ってやつは…」
我が呆れた様子を見せるとパリスは「なるほど」と言いたげに頷いていた。
「パリスサンも誰かに仕える時は仕事を適当にする事を覚えておくといいデスヨ。もちろん、限度はありマスが、少なくとも貴方の仕える人なら言わなくてもわかってそうですケドネ♪」
アネラーゼが楽しげに言うとパリスも嬉しそうに言う。
「はい…その通りだと思います。」
我には誰の事かはわからないが、きっと心寄せる相手が居るのだろうと思う事にした。
パリスも大人の女性だろうしな…と…
「ちなみに魔王サマ、パリスサンはまだ子供ですよ。」
アネラーゼがそう言うとパリスは少しだけ驚いた表情をしていた。
「嘘じゃろ?!そんな立派なモノをつけておきながら子供は無理があるじゃろうて…」
「あはは…普通はそう思いますよね…」
パリスは慣れてると言いたげに苦笑いしていた。
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